美少女同級生が新たな家族に!!

藤航希

雨宮朱音です

 家の中に入った俺は、そのまま朱音の後をついていった。すると、一つの扉の前で止まった。位置的に考えても朱音の部屋だろう。
 俺は初めての女子の部屋ということで楽しみでもあり、緊張もしていた。
 朱音は何かを覚悟するように「よし」と小声で言ってから、扉を開ける。

「ど、どうぞ……」
「お邪魔します……」

 朱音は少し恥ずかしがりながらも俺をその部屋へ入れてくれた。
 俺は初めての女子の部屋ということで楽しみでもあったが、それよりも緊張していたのでかしこまった感じでその部屋に入った。すると、とてもいい匂いが俺の鼻を襲う。そして、目にするのは片付けられた部屋と可愛いぬいぐるみである。まさに女子の部屋って感じだった。
 これが女子の部屋かぁ……とうとう俺もこんなところに来れる日が来るなんて……
 俺はそんなことを思いながら、女子の部屋を見るのは初めてということで、俺は無意識にいろんなところを見ていた。

「優君……あんまりじろじろ見ないで……恥ずかしいよ……」
「あ、ああ。ごめん」

 朱音は顔を赤くしながらそう言った。俺もそういわれて自分のしていたことに気付く。
 たしかに、人の部屋をじろじろ見るのは失礼なことだったな。それにこれじゃ、ただの変態だ。よし、気を取り直してここに来た目的を果たそう。

「えっと……まず何から始めればいい?」
「あ、その前に一ついいかな?」
「どうぞ」
「あの……私、部活で汗かいたから、シャワー浴びたいなって思ってね……」
「もちろんいいよ」
「ありがとう。優君はここでくつろいでていいから」
「朱音が来るまでそうさせてもらうよ」
「そのクッション使っていいからね」
「わかった」

 俺はクッションに座ってスマホでもいじりながら朱音を待とうと思っていた時に、朱音は一人でいるときのように着替えをタンスから出していた。そして、俺はなぜかその光景を見ていた。
 最初は、部屋着を取り出していたので良かったのだが、最後は明らかに普通の服とかではない、それはそれは漆黒のものを……まぁ、単なる下着なのだが、それを取り出したところで朱音は俺の存在を思い出したようで、ハッとしながら俺のほうを向いた。
 俺はその光景を見ていて、ああいうの履くんだぁ……とか、ああいうの着けてるんだぁ……などとのんきに考えていた。そんな時にいきなりこっちを向いたのだから、俺は朱音と目が合ってしまった。
 俺と目が合ってから数秒で、朱音は今ままで見たことないくらいに顔を赤くしていた。それを見て俺の思考も現実に戻ってきたようで、事態の深刻さに気付き顔から血の気が引いていく。そして、慌てて俺は朱音から目を背けた。

「……見た?」
「み、見てないよ!」

「見た?」とは下着のことだろうか?それなら、ばっちり見たんだけどこう言うしかないだろう。こういう時に本当のことを言ったらダメな気がするし……

「……本当?」
「ほ、本当だって!」

 必死な口調で俺は言う。

「じゃあ……なんで顔をそらしたの?」
「うっ……」

 朱音のその言葉に、俺は何も言い返せなかった。顔をそらしたということは見てはいけないもの見てしまったというわけで……その見てはいけないものを俺はちゃんと理解しているわけで……つまり、俺が悪いというわけで……

「……うそつき」
「……ごめんなさい」

 朱音は俺の言葉が詰まったことで確信したのだろう。俺を糾弾する一言を言った。
 俺もすぐに自分の罪を認めて謝る。俺たちの間になんとも気まずい空気が流れた。

「じゃ、じゃあ……私シャワー浴びてくるから……」
「あ、ああ……」

 数秒してから朱音は仕切り直すようにそう言って、部屋から出ていった。朱音はさっきのことをなかったことにしたらしい。
 俺もその方がありがたいが、あれは朱音がもっと注意していれば防げたことな気がする。それとも、それほどまでに俺に気を許しているということだろうか?それは考えすぎか。まぁ、何はともあれ見てた俺が悪かったんだし。
 そう思いながらもしっかりと朱音の下着については覚えていたので、俺は心の奥底にしまっておくことにした。それがお互いのためだ。
 そして俺は、スマホに目を移した。暇だからってまた部屋をじろじろ見るのはダメだろうし、どこに地雷が埋まってるかは全くわからないしな。
 スマホをいじりながらしばらくすると、部屋の外から足音が聞こえてきた。

「お待たせ~」

 そう言いながら朱音は戻ってきた。でも、さっきの朱音と雰囲気は違う。服装が違うのはもちろんだが、やはりシャワーを浴びたからだろう、髪は完全には乾ききってなく、さっきはしてなかったシャンプーの香りとかもしてきて、妙に色っぽかった。そんな朱音に俺は見とれてしまう。

「どうしたの優君?もしかして、私どこか変?」
「い、いや、変じゃない、変じゃない」
「そんな慌ててどうしたの?……もしかして、変なこと考えてないよね?」
「考えてないよ」
「本当?」
「うん、うん」

 たしかに変なことは考えてないぞ。色っぽいなぁと思ってただ見とれていただけだ。全然変なことじゃないだろう。でもこの話題は早く変えるべきだと俺の本能が言っている。

「それで、何すればいい?」
「……」

 朱音はまだ疑いのまなざしを向けていたが、もういいや、とでも思ってくれたのか、本題に入ってくれた。

「私の教科書とかをここにあるダンボールに入れてくれるかな?」
「わかった」

 教科書は机の近くの本棚にあるようなので俺はダンボールを持ってそこに行った。教科書だけでなく、ノートや漫画、アルバムのようなものや文集なども置いてある。

「ねえ、教科書だけじゃなくて個々の本棚にあるの全部入れていいの?」
「うん。おねがい」
「わかった」

 俺はそう言いうと作業に入った。ちらっと見えたが朱音は衣服類を片付けるようだ。気になるが絶対そっちに顔を向けないようにしようと心の中で誓った。
 初めてから数分で俺の作業は終わった。なんせ、言われたのは本棚の片付けだ。時間のかかるものではない。だが朱音はまだ作業をしてるようだったので、ほかのを手伝おうかと思い何かないか聞いてみたが「他は特にないかな」と言われてしまった。たしかに、男子の俺ができそうなのはさっきの仕事くらいだろう。男子の俺がみてはいけないものもありそうだしな。だとしたら、本当に俺は必要だったのかと思えてきた。これなら一人でもできそうな気がするし。
 まぁ、いっか。朱音の部屋に入ることもできたわけだし。
 そう思うことにして自分を納得させた。
 俺は暇になってしまったんで、さっきから気になっていたものを見てみたいなと思い朱音に尋ねた。

「なあ、朱音」
「何?」
「これ見ていい?」

 俺がそう言って朱音に見せたのは中学の卒業アルバムだ。

「えっ……優君それ見たいの?」
「見たいね。中学の朱音とか気になるし」

 自分とは違う学校の人の卒アルとかは気になるものだろう。
 朱音は俺の要望に対して悩んでるようだ。恥ずかしいのか単純に見せたくないのかはわからない。

「……じゃあ、私も見る」

 朱音は検閲的な役割をするのだろうか。一緒に見てくれるのは助かる。その方が聞きたい事とかも聞けるし、一人より二人で見る方が楽しいだろうからな。

「じゃあ一緒に見よっか」

 俺がそう言うと、朱音は俺のすぐ隣に座った。肩はくっついているし朱音の顔は隣を向けばすぐそこにある。俺の心臓は鼓動が聞こえてしまうのではというくらいにドキドキしていた。
 リラックスだリラックス。ただ隣に座っただけだろう。そうしないと朱音には見えないからな。これは仕方ないことだ。
 そう無理やり俺の中で結論付けて、卒アルを見ることにした。
 数ページめくったところで、クラスのみんなの顔写真のページに来た。何人かは俺の学園で見たことあるような顔もあった。

「朱音は何組だったの?」
「D組だよ」

 Dはもう少し後ろか。
 そう思いページをめくろうとすると……

「ちょっと待って」
「な、何?」

 いきなり朱音に止められた。どうしたんだろう?

「もしかして、私の写真見ようとしてる?」
「そりゃ、もちろん」
「絶対にダメ!」

 強めの口調で朱音はそう言った。おそらく恥ずかしいのだろう、顔が赤くなっている。
 だが、俺は止まらない。俺は中学の朱音を見てみたいからな。

「え~。なんで?」
「だって……恥ずかしいし……」

 やっぱりな。それでも俺は退かないぞ。

「別にいいじゃん。減るものでもないし」
「そうだけど……」
「ダメ?」

 俺は優しい口調でそう言と朱音は悩みだした。

「……じゃあ、交換条件」
「交換条件?」

 悩んでたのはそれを考えていたからか。でもなんだろう?見た後は記憶が飛ぶまでラケットで殴らせろとかか?……そりゃないな。そんなバイオレンスな朱音なんて想像できないし。うむ……
 そう悩んでる答えは朱音の口から出た。

「うん。今度、優君のも見せて」
「俺の?」
「そう。優君の卒アルも見せてくれたらいいよ」
「別にいいよ」
「本当!ありがとう」

 朱音はとても嬉しそうにしていた。

「じゃあ、俺からも一個。俺の卒アルを全部見せるから、朱音のもちゃんと全部見せてね」
「それって……」
「これダメ、あれダメってのはなしってこと」
「…………」

 朱音はすごく悩んでいた。今頭の中で、全部見られるのと全部見るのとを天秤にかけているところだろう。

「……わかったよ」
「よし。それじゃ、D組のページはっと……」

 朱音からの許可もでたので俺はページをめくっていった。三ページめくったところで左上に三年D組と書かれたページに来た。すぐ下には担任の顔写真が乗っていたが無視だ。この人には全く興味はないからな。俺の目的は朱音の写真だ。顔写真は五十音順に乗ってるようだった。
 雪村はっと……お、あったぞ。
 俺は朱音の写真を見つけた。その写真と今の朱音の顔を見比べてみた。すぐ隣にいるので顔を横に向けるだけでいい。
 やっぱり近い気がするが、まぁいいだろう。

「……ど、どうしたの?」

 いきなり朱音の顔を見たので不審に思ったらしく、朱音はそう聞いてきた。

「全然顔変わってないなって思ってね」
「そ、そう?」
「俺はそう思うけどね」

 本当に変わっていない。昔も今と同じくらい可愛かった。違うところといえば髪の長さくらいだろう。
 こりゃ、昔からモテただろうな。
 そんなことを思いながらも、次々と見ていった。運動会や文化祭、修学旅行、卒業式などをだ。全部の行事に朱音が写っていた。まぁ、朱音は誰がどう見ても可愛いと言うだろう顔をしている。だから、写真写りもよかったのだろう。
 それにしても、全部に移っているとはな。カメラマンは朱音によっぽどほれ込んでいたんだろうな。まさに、アイドルだなこれは。
 そして、卒業式のページの次には部活動での写真が載っていた。もちろん朱音は、テニス部のところで写っている。

「テニスは中学から?」
「うん。そうだよ」
「そっか」

 それで、学内でも噂になるくらいの実力があるのだから才能があったんだろう。やはり、何もやっていない俺にはかないそうにない相手だ。学園でもテニスをやっていたらかなうかは……いいところまで行くと信じたい。希望を持っておくのは大切だ。

「優君も中学からだよね?」
「うん。そうだよ」
「そういえばどこっだったの?」
「神奈川県の時岡ときおか中学校ってとこ」
「えっ、神奈川?それに時岡って……」

 まぁ、疑問に思うか。ここ東京だし。朱音には一から説明しておくべきだろうな。

「ええっと、中学が神奈川だったのは俺が小学までこっちにいて、中学に上がると同時に神奈川に引越したからだよ」
「そうなの!?」
「そう。それで、三年後に戻ってきたってわけ。ちなみに今住んでる家は小学の時まで住んでた家で、三年後こっちに戻ってくることがわかってたから、残しておいたってわけ」
「そうなんだ」

 といっても、説明はこれで終わりなんだけどね。

「まぁ、こんなところさ」
「あと、時岡なのは……」
「それは引越した先の中学がたまたまそこだっただけだよ」
「でもあそこって、テニスの強豪じゃ……」

 まぁ、それを疑問に思うよなぁ……初心者の俺がなんでそんなんとこでテニスをやっていたのかってね。

「まぁ、それは軽く事故だったんよ」
「事故?」
「実は……」

 簡単に言うとこうだ。
 中学ではなんとなくスポーツでもやろうかと考えていた俺は、放課後の教室で隣の席のやつにいきなり話しかけられたのだ。
「何か、部活とか決めてるの?」
「いや、決めてないけど……」
「ならテニスやろうぜ」
「いや、俺やったことないけど……」
「もちろん俺が教えてやるよ。じゃあ行こうぜ」
 こんな感じで俺は硬式テニス部のところまでほぼ強制的に連れていかれた。そして、そこえ少し打たせてもらったが、それなりに楽しかったので入部したんだが、俺がここがテニスの強豪と知ったのは入部した後だったというわけだ。初心者は俺だけで途中でやめてしまおうかとも思ったが、俺を勧誘してきたやつがそれそれは親身に教えてくっるので、やめるわけにもいかずに引退すまでやったというわけだ。
 これをもう少し丁寧に朱音に説明した。

「……ということ」
「……なんだか、すごい話だね」
「そうか?」
「うん」
「まぁ、なんだかんだで楽しかったからよかったけどね」

 そう言って俺は、卒アルを閉じた。
 俺は特にやることがなくなったのでもう帰ろうかと思ってる時にスマホが鳴った。二つ同時に。
 通知を見てみると、雨宮家のグループに画像が送られてきた。

「何だろうね?」
「さあ?ま、見てみればわかるさ」

 そう言って俺はそのグループを見てみた。

「……ってこれをわざわざ送り付けてきたのかよ父さん」

 そこにあったのは一つの婚姻届けの写真だ。

「はぁ……」

 でも、これで正式に朱音は俺と家族になったわけで……

「えっと……これからもよろしく?雨宮朱音さん」
「っ~~~」

 俺が三度目の挨拶をすると、今回は返事は来ずなぜか朱音は泣き出した。
 もしかして俺と家族になるのは嫌だったのか?それかなりつらいんだけど……

「ご、ごめんね。いきなり泣き出したりして……」
「い、いや、別に……」
「なんかね、本当に、家族になるんだって、実感してきたら、泣けてきちゃってね……」
「……」

 よかったぁ~~~。別に嫌というわけではないそうだ。というか嬉しそうに見える。朱音はただ涙もろいだけかもしれないな。

「そうか」
「……うん」

 朱音はもうしばらく泣き続けたが、俺は黙って泣き止むのを待ち続けた。

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