美少女同級生が新たな家族に!!

藤航希

それぞれの思い 雨宮優

 俺は朱音と別れてから、自分の家に向かって歩いている。
 歩きながら今日のことを振り返ろうとしたが、朱音との別れ際に起きたことのインパクトが大きすぎて、まともに考えられなかった。なので、これからのことを考えることにした。
 明日から四月かぁ……
 てことは、春休みももう終わりだなぁ……
 学園が始まるのはたしか……六日からだったはずだから、もう一週間もないのか。
 もしかして、その間に、引っ越しとかしなきゃいけないのか?というかそれしかないよな。六日になったら、俺たちは学園に行かなきゃならないし、父さんたちも仕事があるだろうし。
 これから数日は忙しい日々になるんだろうなぁ……

「はぁ……」

 未来のことについては考えない方が良かったらしく、俺は少し憂鬱な気分になって、歩き続けた。



 二十分くらい歩いたところで、俺の家に着いた。
 この家は無駄に二階建てで、二人で住むには広すぎる。使われてない部屋もあり、そこは物置になっている状況だ。
 朱音たちが引っ越して来たら、ちょうどいい感じだろう。
 そんな家の玄関の扉を開けて、俺は中に入った。
 リビングのほうから、テレビの音が聞こえてくる。たぶん、そこに父さんがいるのだろう。
 とりあえず、父さんに帰ったことを知らせないとな。
 俺は靴を脱ぎ、玄関の鍵を閉めてからリビングに向かった。
 リビングに行くと、予想通り父さんはいた。

「ただいま」
「おう。おかえり」

 なんか、久しぶりに父さんの声を聞いた気がする。
 その声を聞くと、家に帰ってきたんだという思いがこみ上げてきて、いっきに疲れがやってきた。
 今日のデートは楽しかったが、きっと慣れないことをやったせいだろうな。
 早く風呂に入って早めに寝よっと。
 そう思い、俺はリビングを出て、二階にある自分の部屋にパジャマを取りに行こうとした。

「優、話があるからちょっとこっちに来てくれ」

 だけど、父さんのその言葉で俺の行動は妨げられた。
 このタイミングで話ってのは、今後のことについてだろう。聞いておく必要はありそうだ。
 俺は、自分の欲求を抑えて、しぶしぶ父さんのところに行った。

「まぁ、座れ」

 話が長くなるのか、父さんはそう言ってきた。
 俺の家にはソファーが二つL字型に置いてあり、俺は父さんから見て斜め向かいのソファーに座る。
 俺が座ったのを確認すると、父さんはテレビを消してから話し始めた。

「今日のデートはどうだった?」

 父さんが聞いてきたのは、デートについてだった。
 今後のことじゃないのかい!

「話ってそのこと?」

 当然の疑問を父さんに言った。

「いや、違うぞ。ただ気になっただけだ。別にいいだろう?減るもんじゃないし」
「まぁ、そうだけど……」
「で、どうだった?」

 俺は早く本題に入ってほしかったが、父さんは興味津々な様子だ。
 デートのことを話さないと本題には入らなそうなので、俺はあきらめて話すことにした。

「まぁ、普通に楽しかったけど」
「そうか。ちゃんと朱音ちゃんをリードしたか?」

 あれは…リードしたとは言えないよなぁ……
 最初なんか、完全に頼ってたし。

「いや…デートとか初めてだし……」
「情けねえなぁ」
「まぁ、そうだけど…でも、朱音も楽しんでたみたいだから……」

 今の俺の発言が面白かったようで、父さんはニヤニヤしていた。
 まぁ、大体予想はつくけどな……

「……なに?」
「朱音、ねぇ~」

 ほら、やっぱりな。

「おかしくないだろ。これから家族になるだし、名前くらい……」
「別に、おかしいなんて一言も言ってないし思ってもいないぞ?」
「……」
「でも、優のことだからてっきり、苗字で呼んでるかと思ってた」
「まぁ、最初はそうだったけどね」

 さすが父さんだ。俺のことをよく分かっていらっしゃる。

「どういうことだ?」
「いや、なんか、別れ際に朱音に名前で呼び合うことにしようって言われて……」
「なるほどな。ちゃんと仲良くなってるみたいで良かったよ」
「……まあね」

 はぁ……さらに疲れが溜まった気がする。
 早くこの話、終わんないかなぁ……
 でも、父さんは一人で「そうだなぁ…この感じなら…」とか言いてるからまだ終わりそうにはなかった。

「この感じだとあり得るかもしえないから言っておくけど……」

 父さんはそう切り出した。
 なんだろう?

「朱音ちゃんのことを好きになってもかまわないからな」
「……はぁ?」

 そして、爆弾発言をした。
 いきなりのことで、俺は理解できなかった。

「ああ、もちろんこれは、友人とか家族とかの好きじゃなくて、恋愛の好きだからな。勘違いするなよ?」
「はぁ……」

 俺もそう言われると、父さんが言ってることを嫌でも理解できてくる。なんで、そんな話がでてきたのかはわからなかったけど。
 それでも、俺はこのことについて少しだけ考えてみた。
 俺が朱音を好きになるねぇ……って、それはやばいんじゃないか?
 だって、俺たちこれから家族になるんだから。

「それって、ダメなんじゃない?」
「どういうことだ?」

 父さん、わかってないのかよ。

「いや、だから、俺と朱音って家族になるんだろ?」
「そうだけど?」
「だったら家族で恋愛ってやばいだろ…」
「別に構わないだろう。それに法的にも問題はないしな」

 構わないのかよ!それに、法的って……
 もしかして、わざわざ調べたのか?

「それに、これは唯さんと話し合ったことだからな。俺はもちろんだが唯さんもいいって言ってたぞ?」
「……」

 二人して何を話し合ってるんだか。
 普通そんなことは考えないと思うんだけどなぁ……
 そんなことを考えていると、父さんはまじめな表情で話し始めた。

「俺たちはなぁ…再婚することでお前たちを不幸にはしたくないんだよ。お前たち二人がお互いを好きなのに、俺と唯さんが再婚して、優と朱音ちゃんが家族になったからその恋をあきらめるってのは、おかしいことだと俺たちは思ってる」

 父さんたちの再婚話がなければ、俺と朱音は話すことすらなかったんだけどなぁ……
 でも、それは言わなかった。なかった未来を話しても意味がない。

「だから、何も心配することなく、朱音ちゃんを好きになっていいからな」
「たぶんそんなことにはならないと思うけど……」
「まぁ、出会ってまだ一日なんだし、まだどうなるかはわからないだろうさ。でも、今後一緒に過ごしていくうちに、そうなるかもしれないだろう?その時に、さっきの話を思い出してくれ」
「……わかったよ」

 俺は一応同意したが、今のはそんなに考えてのことではない。
 とりあえず、首を縦に降っただけだった。

「てことで、これからが本題だ。もちろん、今後についての話だ。まぁ、さっきのが優にとっては本題だったかもしれないが」
「はぁ……」

 ようやく本題ですか。
 ここまで来るのに長く険しい道のりだった気がする。

「それでだ、俺と唯さんは、明日にも婚姻届けを出してくる。ついでに、学園に行って色々と手続きを終わらせてくる」

 たしかに、朱音の苗字とか住所が変わるわけだから、そういうことは必要か。

「そして、明後日には引っ越しを完了したい。だから、明日からは掃除やら引っ越しの手伝いやらで忙しくなるから、そう思っていてくれ」

 やっぱり、忙しくなるんだな。
 まぁ、予想通りか……

「わかった」
「それじゃ、明日からよろしく」

 今後についての話はすぐに終わった。
 もしかしたら、俺の話題のほうがメインだったのかもしれない。
 父さんは、言うことは全部言ったという感じで、リビングを出ていった。
 俺もパジャマを取りにいったん二階の自分の部屋に行き、それからもう一度、一階に降りて風呂に入った。
 風呂から上がって、自分の部屋に戻ろうとすると、また父さんに会った。どうやら俺を探していたようだ。

「さっき言うの忘れてたんだけど、ほら、優の使ってるアプリあるだろ?あれ、俺も入れたんだ」
「ああ、あれね」

 それは、個人でチャットをしたり、グループを作ってチャットをしたりするやるだ。
 今まで父さんは入れてなかったが、ようやく入れることにしたみたいだ。

「それで、家族のグループを作ったから、優も入ってくれ」
「わかったよ」

 まず父さんを友達登録してから、そのグループに招待してもらった。
 名前は何のひねりもなく、雨宮家、のようだ。
 そのグループには唯さんは当然だが、朱音も入っていた。
 とりあえず、二人を登録しってと……
 ちなみ、これが初めての女子との友達登録である。
 俺の友達欄に花が増えて少し嬉しかった。まぁ、一人は女性だがな。
 俺は、短いあいさつ文を二人に送りながら、二階にある自分の部屋に向かった。
 部屋に着くと、ちょうど唯さんからは返事が来た。だが、朱音からは来ていない。
 もう、寝ちゃったのかな?まぁ、いつか気付くか……
 スマホを机の上に置いて、電気を消してベットに入った。
 すると、さっきの父さんとの会話が頭の中をぐるぐる回り始め、眠気がどこかに飛んで行ってしまった。
 しょうがないので、眠くなるまでそのことについて考えることにした。

 家族同士で恋愛かぁ……なんか小説みたいな話だな。
 まぁ、俺には関係ないことだと思うけどな。
 俺は朱音のことを好きではないからな。
 だからといって、嫌いというわけもなく、もっと仲良くなりたいと思っている。
 だからだろうか。あの時、朱音のことを名前で呼びたいと思ったのは。
 名前で呼んで、親密度を高める、みたいな……
 う~ん…それは違うような気がしてきた。
 あの時はたしか…自然に、名前で呼びたいって思ったんだよな……
 もしかして、今日のデートを経て、段々と朱音のことを好きになっていってるとか?
 う~ん……考えがぐちゃぐちゃしてきたぞ。
 というか、朱音は俺のことをどのように思ってるのだろうか。
 ……まぁ、それこそ俺が考えてもわからないことだな。 
 結局、出会って一日じゃ、何もわからないってことか。
 父さんの言う通り、これから一緒に過ごしていくうちにわかってくるのだろう。
 俺が朱音のことを好きなのかそうじゃないのか。

 そう結論付けると一気に眠気がやって来て、そのまま夢の世界へと旅立っていった。

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