ガチャって召喚士!~神引きからはじめる異世界ハーレム紀行~
第四十八話 望郷の念
「はい、予選通過おめでとう! オーブは後日教会でプレゼントするわ」
表彰式にはアリサが代表として前に出ている。俺はそれをチラっと見てからレイチェルを連れてその場を離れた。さやかとの約束があるからだ。
「ユートよ。わたしもついて行って大丈夫なのであるか? 二人で会いたいと言っていたと思うのだが……」
レイチェルは不安そうな顔をして聞いてきた。
「うーん、そうだな。さやかと話すのは俺一人にさせてもらえるか? 遠くからヴルトゥームだけ使ってもらえると助かる」
「わかったのである」
ヴルトゥームの持続時間は表彰式まで持たないと思っていたが、最終予選が思いのほか短い勝負だったのでなんとかユー子のままさやかと会うことが出来そうだ。本当の正体を言うかどうかはまだ決めかねている。
「お、一本杉が見えたな。それじゃあレイチェルはこの辺で待機していてくれ。あとでお菓子を買ってあげるから頼んだぞ」
「ふむ、それでは高級ウィル・オ・ウィスプ饅頭でも買ってもらうのである」
うっ……。あれ結構高いんだよな。でも今回レイチェルにはかなり助けてもらってるからそのくらいの出費は仕方ないか。俺は、よろしくとレイチェルの肩を叩いてから一本杉に向かった。
一本杉の下には先にさやかが本を読んで待っていた。俺が来たのに気付いたようで本を鞄にしまい、
「早いのね。表彰式はまだ途中なんじゃない?」
さやかは相変わらずの無機質な表情で俺に声をかけてきた。
「まあそうだけどな、さやかの話ってのが気になってさ」
「……確認だけど、他には誰もいないわね?」
レイチェルのことを思い出す。しかしヴルトゥームを使っているだけだし声の届く位置じゃないから問題はないだろう。
「ああ……。俺一人で来た」
「そう、よかった。……何から話そうかしら。そうね、今は表彰式の最中で人が少ないから危ない話からしておくわ」
危ない話ね。俺には予想がついている。彼女が使ったAランク召喚のアトラスは最終開放されていた、そんなことができるのは……。
「わたしは犯罪組織ヘルヘイムに所属しているの。それも幹部なのよ」
俺は黙ってさやかの顔を見つめる。さやかは表情こそ変えていないが、額にはうっすらと汗が見えた。
「何か言ってよ? わたしに失望した?」
「……なにか理由があるんだろ?」
俺とさやかの間に緊張が走る。そんなに悪いことをするような子には見えないし、事情があるに違いない。
「ねえ、故郷に帰りたいとは思わない?」
さやかは俺の質問には答えずに目を伏せて言った。
「何だよ急に。帰れるなら帰りたいよ、まあこっちの世界にも戻ってこれる前提ならだけど」
「……方法があるかもしれないの」
「――なんだって!?」
今となってはもう元の世界へ戻れることなんて考えてもいなかった。俺はさやかの目をはっきりと見て次の言葉を待った。
「虹のオーブからのみ出現すると伝えられている創造神『アトゥム』。この召喚の加護を使えば別の世界への移動もできるらしいの」
「……らしいってことは確実な情報ではないのか?」
「わたしの前に異世界からこの世界に飛んできたヒッポという人がいたんだけどね。その人が最初の十連召喚の儀でアトゥムを引いたのよ」
「……そいつは今どうしてるんだ?」
「儀式の後にすぐにこの世界から消えて、二度と戻ってこなかったそうよ」
さやかは手で髪をなびかせる。一緒に話してはいるが、彼女の眼はどこか遠くの方を見ているようだった。
「そうか、無事に自分の世界に戻れたってことだろうな」
「……そうだといいわね」
そうか、帰ってきてないからその答えは誰にもわからないってことだな。場合によっては何処の世界にも帰れなくなったっていうことも有り得るわけだ。
「虹のオーブを手に入れるのは普通なら難しいというのはもう知っているわね? わたしはどんな手を使ってでも元の世界に戻りたい。だから虹のオーブを手に入れる確率を少しでも高くするためにヘルヘイムに入ったの」
「そうまでして元の世界に戻りたい理由ってのはなんだ?」
「……わたしには年の離れた弟がいるの。両親は若いときに死んでしまって、わたしと弟はどんな辛いときだって二人で助け合いながら一生懸命生きてきた。でも生活がようやく落ち着いてきたってころに弟は病気にかかってしまって……それからはわたしが弟の面倒をみてきたわ。あの子にとってわたしは心の支えだったはず、そんなわたしが突然目の前から消えてしまったらどうなると思う? つらい思いをしているに違いないわ。すぐにでも戻って助けてあげたいのに、わたしはこの世界から出られない……この思いがあなたに分かる?」
さやかは目に涙をためて懸命に声を振り絞っている。ヘルヘイムに入るほどなんだ、さやかはこの世界にきてから感情を押し殺して生きてきたに違いない。そしていままで押し込めてきた感情がここで堰を切ったように溢れてきたのだろう。
「俺は正直元の世界への未練はそんなに大きくないんだ。だからさやかのその気持ちが分かるとは言えない。……でもさやかの弟を思う気持ちは十分伝わったよ。俺にできることなら何でも手伝うよ」
さやかの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「……ありがとう。もしわたしがアトゥムを得たら……あなたもきっと帰れるようにするから」
「ああ、ただ俺の場合は一方通行じゃ嫌だからな。ちゃんと行って戻ってこれることが確認できてから連れ出してくれよな!」
「ええ、……もちろんわたしが人柱になって確かめてくるわ」
まだ見ぬアトゥムの効果を憶測しながら話し合っているうちに、彼女は落ち着いてきたようで涙は止まった。
「そうだな……これからどうやって協力していくかを話し合う前に、俺からも言っておかなければいけないことが二つある」
俺は彼女が信頼に足る人物だと判断した。だからもう彼女に隠しておく必要はないだろう。
「一つ目は俺が異端審問機関に所属しているってことだ。……どうだ? さすがにこれは驚きだろ? でも心配しなくていい。さやかを機関に差し出したりするつもりはない。ヘルヘイムの人間に協力するなんてもし機関にばれたらどうなるかはわからないけど、さやかだってヘルヘイムにばれたら同じことだろうしな。これから俺たちは一蓮托生ってわけだ」
「ありがとう。それにしても驚きね、わたしは敵対勢力の人間に相談していたっていうんだから。もし相談したのがあなたじゃなくて別の機関の人間だったらと思うと背筋が凍るわね」
「ふふっ、相談したのが俺でよかったな。そしてもう一つ、俺は本当はユー子じゃない。今は遠くから仲間に幻術をかけてもらっているので女の子の見た目だけど本当は男なんだ。名前はユート、押上 優斗だ」
さやかは俺が異端審問機関と告げた時よりもずっと驚いた顔をしている。周りから見るとものすごい美少女らしいから、そんな人が急に男って言いだしたらびっくりするよな。
「お~い! レイチェル~! 幻覚を切ってくれ~!」
俺は大声で叫び遠くで待機しているレイチェルに指示を出すと、たちまち姿は元に戻った……かどうかは自分ではわからないけど多分戻ったのだろう。
「――っ!? 本当に男の子なのね」
「騙しててわるかった。でも一次予選では男のままだと戦うのが難しかったんだ」
「別にいいわ。男と女の違いはあるけど、顔の作りは大して変わってないから違和感ないし」
ふーん、俺ベースの顔だったのか。ますますユー子の見た目が気になるぜ。今度の休みには俺自身にも見た目が変わったことが分かるように幻覚をかけてもらおう。
「ははっ、男ってことも受け入れてくれてうれしいぜ。さて、お互い秘密をばらしたところだしそろそろ本題に入ろうか。結局俺は何をすればいいんだ? 虹のオーブを確実に手に入れるとしたらギルド感謝祭で優勝するくらいしか思い浮かばないんだけど」
「できれば大会優勝のオーブも欲しいところだけど、それはあまり期待してないわ。実はヘルヘイムでは既に虹のオーブを複数個確保しているの。だけど召喚の儀を行えるものがいないから倉庫でほこりをかぶっているわ。……わたしはそれをこっそり使おうと考えているの」
「なるほどな、話が見えてきた。俺にシスターの確保を任せたいってことか」
「そうよ。……無茶な頼みなのはわかってる。でもわたしではどうにもできないの――お願い!」
シスターか……。うちのギルドにはローザもエリーもいるけど、二人とも異端審問機関に属しているのでこの件に巻き込むと彼女たちの人生を狂わせることになりかねない。慎重に考えなくてはいけないな。
表彰式にはアリサが代表として前に出ている。俺はそれをチラっと見てからレイチェルを連れてその場を離れた。さやかとの約束があるからだ。
「ユートよ。わたしもついて行って大丈夫なのであるか? 二人で会いたいと言っていたと思うのだが……」
レイチェルは不安そうな顔をして聞いてきた。
「うーん、そうだな。さやかと話すのは俺一人にさせてもらえるか? 遠くからヴルトゥームだけ使ってもらえると助かる」
「わかったのである」
ヴルトゥームの持続時間は表彰式まで持たないと思っていたが、最終予選が思いのほか短い勝負だったのでなんとかユー子のままさやかと会うことが出来そうだ。本当の正体を言うかどうかはまだ決めかねている。
「お、一本杉が見えたな。それじゃあレイチェルはこの辺で待機していてくれ。あとでお菓子を買ってあげるから頼んだぞ」
「ふむ、それでは高級ウィル・オ・ウィスプ饅頭でも買ってもらうのである」
うっ……。あれ結構高いんだよな。でも今回レイチェルにはかなり助けてもらってるからそのくらいの出費は仕方ないか。俺は、よろしくとレイチェルの肩を叩いてから一本杉に向かった。
一本杉の下には先にさやかが本を読んで待っていた。俺が来たのに気付いたようで本を鞄にしまい、
「早いのね。表彰式はまだ途中なんじゃない?」
さやかは相変わらずの無機質な表情で俺に声をかけてきた。
「まあそうだけどな、さやかの話ってのが気になってさ」
「……確認だけど、他には誰もいないわね?」
レイチェルのことを思い出す。しかしヴルトゥームを使っているだけだし声の届く位置じゃないから問題はないだろう。
「ああ……。俺一人で来た」
「そう、よかった。……何から話そうかしら。そうね、今は表彰式の最中で人が少ないから危ない話からしておくわ」
危ない話ね。俺には予想がついている。彼女が使ったAランク召喚のアトラスは最終開放されていた、そんなことができるのは……。
「わたしは犯罪組織ヘルヘイムに所属しているの。それも幹部なのよ」
俺は黙ってさやかの顔を見つめる。さやかは表情こそ変えていないが、額にはうっすらと汗が見えた。
「何か言ってよ? わたしに失望した?」
「……なにか理由があるんだろ?」
俺とさやかの間に緊張が走る。そんなに悪いことをするような子には見えないし、事情があるに違いない。
「ねえ、故郷に帰りたいとは思わない?」
さやかは俺の質問には答えずに目を伏せて言った。
「何だよ急に。帰れるなら帰りたいよ、まあこっちの世界にも戻ってこれる前提ならだけど」
「……方法があるかもしれないの」
「――なんだって!?」
今となってはもう元の世界へ戻れることなんて考えてもいなかった。俺はさやかの目をはっきりと見て次の言葉を待った。
「虹のオーブからのみ出現すると伝えられている創造神『アトゥム』。この召喚の加護を使えば別の世界への移動もできるらしいの」
「……らしいってことは確実な情報ではないのか?」
「わたしの前に異世界からこの世界に飛んできたヒッポという人がいたんだけどね。その人が最初の十連召喚の儀でアトゥムを引いたのよ」
「……そいつは今どうしてるんだ?」
「儀式の後にすぐにこの世界から消えて、二度と戻ってこなかったそうよ」
さやかは手で髪をなびかせる。一緒に話してはいるが、彼女の眼はどこか遠くの方を見ているようだった。
「そうか、無事に自分の世界に戻れたってことだろうな」
「……そうだといいわね」
そうか、帰ってきてないからその答えは誰にもわからないってことだな。場合によっては何処の世界にも帰れなくなったっていうことも有り得るわけだ。
「虹のオーブを手に入れるのは普通なら難しいというのはもう知っているわね? わたしはどんな手を使ってでも元の世界に戻りたい。だから虹のオーブを手に入れる確率を少しでも高くするためにヘルヘイムに入ったの」
「そうまでして元の世界に戻りたい理由ってのはなんだ?」
「……わたしには年の離れた弟がいるの。両親は若いときに死んでしまって、わたしと弟はどんな辛いときだって二人で助け合いながら一生懸命生きてきた。でも生活がようやく落ち着いてきたってころに弟は病気にかかってしまって……それからはわたしが弟の面倒をみてきたわ。あの子にとってわたしは心の支えだったはず、そんなわたしが突然目の前から消えてしまったらどうなると思う? つらい思いをしているに違いないわ。すぐにでも戻って助けてあげたいのに、わたしはこの世界から出られない……この思いがあなたに分かる?」
さやかは目に涙をためて懸命に声を振り絞っている。ヘルヘイムに入るほどなんだ、さやかはこの世界にきてから感情を押し殺して生きてきたに違いない。そしていままで押し込めてきた感情がここで堰を切ったように溢れてきたのだろう。
「俺は正直元の世界への未練はそんなに大きくないんだ。だからさやかのその気持ちが分かるとは言えない。……でもさやかの弟を思う気持ちは十分伝わったよ。俺にできることなら何でも手伝うよ」
さやかの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「……ありがとう。もしわたしがアトゥムを得たら……あなたもきっと帰れるようにするから」
「ああ、ただ俺の場合は一方通行じゃ嫌だからな。ちゃんと行って戻ってこれることが確認できてから連れ出してくれよな!」
「ええ、……もちろんわたしが人柱になって確かめてくるわ」
まだ見ぬアトゥムの効果を憶測しながら話し合っているうちに、彼女は落ち着いてきたようで涙は止まった。
「そうだな……これからどうやって協力していくかを話し合う前に、俺からも言っておかなければいけないことが二つある」
俺は彼女が信頼に足る人物だと判断した。だからもう彼女に隠しておく必要はないだろう。
「一つ目は俺が異端審問機関に所属しているってことだ。……どうだ? さすがにこれは驚きだろ? でも心配しなくていい。さやかを機関に差し出したりするつもりはない。ヘルヘイムの人間に協力するなんてもし機関にばれたらどうなるかはわからないけど、さやかだってヘルヘイムにばれたら同じことだろうしな。これから俺たちは一蓮托生ってわけだ」
「ありがとう。それにしても驚きね、わたしは敵対勢力の人間に相談していたっていうんだから。もし相談したのがあなたじゃなくて別の機関の人間だったらと思うと背筋が凍るわね」
「ふふっ、相談したのが俺でよかったな。そしてもう一つ、俺は本当はユー子じゃない。今は遠くから仲間に幻術をかけてもらっているので女の子の見た目だけど本当は男なんだ。名前はユート、押上 優斗だ」
さやかは俺が異端審問機関と告げた時よりもずっと驚いた顔をしている。周りから見るとものすごい美少女らしいから、そんな人が急に男って言いだしたらびっくりするよな。
「お~い! レイチェル~! 幻覚を切ってくれ~!」
俺は大声で叫び遠くで待機しているレイチェルに指示を出すと、たちまち姿は元に戻った……かどうかは自分ではわからないけど多分戻ったのだろう。
「――っ!? 本当に男の子なのね」
「騙しててわるかった。でも一次予選では男のままだと戦うのが難しかったんだ」
「別にいいわ。男と女の違いはあるけど、顔の作りは大して変わってないから違和感ないし」
ふーん、俺ベースの顔だったのか。ますますユー子の見た目が気になるぜ。今度の休みには俺自身にも見た目が変わったことが分かるように幻覚をかけてもらおう。
「ははっ、男ってことも受け入れてくれてうれしいぜ。さて、お互い秘密をばらしたところだしそろそろ本題に入ろうか。結局俺は何をすればいいんだ? 虹のオーブを確実に手に入れるとしたらギルド感謝祭で優勝するくらいしか思い浮かばないんだけど」
「できれば大会優勝のオーブも欲しいところだけど、それはあまり期待してないわ。実はヘルヘイムでは既に虹のオーブを複数個確保しているの。だけど召喚の儀を行えるものがいないから倉庫でほこりをかぶっているわ。……わたしはそれをこっそり使おうと考えているの」
「なるほどな、話が見えてきた。俺にシスターの確保を任せたいってことか」
「そうよ。……無茶な頼みなのはわかってる。でもわたしではどうにもできないの――お願い!」
シスターか……。うちのギルドにはローザもエリーもいるけど、二人とも異端審問機関に属しているのでこの件に巻き込むと彼女たちの人生を狂わせることになりかねない。慎重に考えなくてはいけないな。
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