最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

決戦

「どうよ!」
「すみません、私の目が節穴でした。私が思っている以上に……みんなとても強くなったんですね」
「うんうん、すごかった!」

 ドヤ顔で見てくる3人に、エレナは笑顔で謝罪と賞賛を、レクシアは興奮を隠せない様子で手をパタパタと振りながら3人を褒めていた。

「そうじゃろうそうじゃろう」
「まあ、今ので倒すのが理想だったんだがな」
「うん。相手も本気になったみたいだね」

 ワタルの言葉通り、ラースは自分の胸に手を置くと、べっとりと真っ赤な血がついた手の平を見つめる。

「ハラル、エレナ、マリー、レクシア……そしてワタル。お前達の名前は覚えた」

 今までのようなワタルたちを舐めきった表情はどこへやら、別人かと思えるほど引き締まった顔をしたラースは、ワタルたち一人一人を見た名前を呼ぶ。

「前座は終わりだ」

 ラースがそう言うと、その全身に白銀の鎧を纏う。
 正真正銘、神と呼ばれる人物がそこには立っていた。

「ここからが本番ですよ」
「もっちろん! 力を合わせてだね!」
「ここなら火力全開でやれるのう」
「間違っても当てるなよ?」
「あはは、うん。5人でやれば倒せるよ」

 こんな時でも通常運転の仲間たちに頼もしさを感じながら、思わずワタルは笑ってしまう。
 たとえ神が相手だろうと、1人では到底敵わない相手だろうと、これだけ信頼出来る仲間がいる。

「さあ、やるよ」

 その一言で5人の表情が引き締まり、緊張感が場を支配していく。
 全員が武器を持って睨み合っていた膠着を真っ先の破ったのは、やはりセリカだった。

「ふッ!」

 先程と同じ、四足歩行の姿勢からの瞬間移動と見間違える速度による攻撃。
 いくらラースが本気を出したとはいえ、これを見切ることは不可能だったのだろう。
 だからこそ、視界には頼らない。

「同じ手は食わん!」

 ラースは目を閉じ、全身の感覚を研ぎ澄ませる。
 そうしてエレナの攻撃が自身に当たった瞬間、異常なまでの反応速度でエレナをモラルタの柄で叩きつける。

「がッ、ゲホッゲホッ!」
「雷槌!」

 地面に強く叩きつけられたセリカは、肺を強く打ち付け、咳き込む。
 そこへラースは追撃としてモラルタを振り下ろそうとするも、レクシアが放った雷の槌が迫る。
 ラースも無視は出来ないようで、エレナへの攻撃を中断してそれを防ぐ。

「助かった」
「お安い御用だよ!」

 セリカはそのスキに立ち上がり、ラースから大きく距離を取る。
 それと同じくレクシアも深追いはせずに、後方へと飛び退いた。

「ニヴルヘイム」

 仲間が退いたことで障害物の亡くなったマリーは、収束させた氷の槍を投擲する。
 槍はラースの足元に突き刺さると、その周囲を凄まじい速度で凍らせた。

「煩わしい!」

 すぐに闇の炎で氷を溶かしたラースは、反撃のためにまずはマリーへと狙いを定めるが、

「流石マリー!」

 ラースの懐へと潜り込んだワタルが、魔法剣・三重奏を発動させたデュランダルを振り上げる。

「いや、狙うべきお前が優先か」

 ラースがモラルタで防いだことで鍔迫り合いとなる2人だが、ラースは至近距離から闇の雷をワタルへ放つ。

「うわおッ!?」

 ワタルは咄嗟に上体を逸らして闇の雷を避ける。
 体勢が不安定となったそこへ、ラースがモラルタを振り下ろす。

「やらせませんよ」

 直撃かと思われた攻撃だったが、側面からハラルの拳がラースの脇腹へめり込み、振り下ろされたモラルタはワタルの僅かに横を通り過ぎる。
 ラースもハラルの攻撃をまともに受けては堪えきれなかったようで、殴られた方向へ吹き飛ばされた。

「レーヴァテイン!」
「神雷!」
「魔法剣、解放! 水よ、貫け!」

 その瞬間にマリー、レクシア、ワタルの最大火力の攻撃が飛び、ラースを襲い派手な土煙を上げる。

「これでダメージを与えられたら楽なんだけど……」

 土煙が晴れた後には、何事もなかったかのように佇んでいるラースの姿があった。
 いや、正確にはハラルとレクシアの攻撃によるダメージは見えるが、それも微々たるものだ。

「頑丈すぎるじゃろう」
「私あれ全力なんだけど」
「私の攻撃も防がれたな」

 全力の攻撃を叩き込み、連携も完璧にできていた。
 だというのに、まだ防御しかしていないラースへのダメージを見て、疲れが湧いてくる。

「勝てるイメージが見えないんだけど」
「あいつ本当に強いですね」

 それはワタルとハラルも同じようで、2人して大きく息を吐き出す。

「よし、プランBでいこう」
「……プランなんてありましたか?」
「大丈夫大丈夫。今から伝えるから」

 幾度もの攻撃を受けたラースは、目の前の5人の敵を静かに見ていた。
 同じ種族など1人もいないというのに、完璧なまでの連携を見せて、邪神である自分を圧倒した。
 その心境は不快感よりも、賞賛が勝っていた。
 しかし

「負ける気はせんな」

 その攻撃のどれもが、ラースにダメージを与えられていなかった。
 唯一ハラルの攻撃が直撃した時は痛みを感じたが、傷といえるものも付かなかった。

「残念だが……ここまでのようだな」

 楽しめたが、これ以上は期待できないだろう。
 ラースはモラルタを肩に担ぎ、5人へとゆっくり歩き距離を詰めていく。

「じゃあ、作戦通りに」

 その行く手を阻むように、ワタルが1人前に出る。
 盾を前面に出した防御寄りの構えだ。

「お前一人で俺を止める気か?」
「もちろん」
「そうか。ならその力を見せてみろ!」

 ここでラースがワタルのことを舐めていれば余裕だったが、そう簡単にはいかない。
 ラースは地面を踏み締め、一瞬で間合いまで踏み込むと、上段からモラルタを振り下ろす。

(ギリギリ見える!)

 踏み込みからの攻撃の速度は速いが、エレナほどではない。
 ワタルは盾を斜めに構えて受け流す。
 それでも衝撃を殺しきれなかったのか、後方へたたらを踏んでしまう。

「どうした!」
「まだまだ!」

 再び踏み込み、今度はモラルタを振り上げるラースに対し、ワタルら全力でデュランダルを振り下ろす。
 2人の剣が衝突し、お互いに大きく弾かれる。
 若干ワタルが当たり負けしたようだが、問題ない。

「今!」

 仰け反ったラースに、待機していたエレナ、マリー、ハラルの3人が攻撃を叩き込む。
 しかし、そのどれもがラースには効いていないのか、その顔は失望しているように見えた。

「効かないのがわからないか」

 3人の追撃で立て直す時間は遅れたが、攻撃されてもダメージはないのだから関係ない。
 落ち着いて体勢を立て直し、4人を殺して……

「いや、そうか。本命はあれか」

 5人全員を等しく警戒していたが故に、ラースはレクシアへの警戒が薄くなっていた。
 それ自体はミスではないが、やはりレクシアには警戒を最も持っておくべきだっただろう。
 彼女は神の天敵、“神殺し”なのだから。

「雷帝・神罰!!!」

 蒼い神の雷が、ラースを貫いた。

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