最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

魔女殺し

「リナ!」
「わかってる」

 エリヤがリナの名前を呼ぶと、リナはすぐに駆け寄ってきてレイを3人から離すように運んでいく。

「だめ……セレナーデは強いから」
「大丈夫、エリヤとアルマも強いから」

 レイが心配そうにエリヤとアルマを見ていたが、リナはそんなレイにそう強く言う。
 リナとエリヤは元々同じ冒険者で、パーティを組んでいた。
 今でこそお互い鍛冶師と受付嬢という仕事をやっているが、腕は鈍ってないはずだ。
 それに、兵士長であるアルマもいる。
 エリヤのことだから、勝ち目のない戦いなどするわけないだろうと、リナは2人を信じる。

「ふーん」

 リナがレイを運んで行っても、セレナーデはまったく慌てていなかった。
 レイよりもまずは、目の前の邪魔をした虫けら2匹を殺すべきだと判断したからだ。

「雑魚が2匹で何ができる?」

 セレナーデは2人を見下ろし、そう問いかける。
 実際その通りだ。
 宙に浮いているセレナーデに対して、アルマとエリヤの主攻撃は武器によるものだ。
 レイのように魔法攻撃を主体にすれば届くだろうが、近接武器ではどう考えても届かない。
 故に、セレナーデは余裕の表情を見せる。

「雑魚かどうか、やってみないとわからないだろ?」
「なら、やってみろ!」

 アルマが笑いながら言ったその言葉に、ピクリと反応したセレナーデは、魔方陣を展開する。
 魔法陣は妨害を許す暇もなく完成し、業火が地上の2人に向けて放たれた。

「アルマさん、予定通りお願いしますよ」
「わかってるって。俺たちであの怪物を倒すぞ」

 2人は迫る業火にもまったく臆することなく、そんなことを話し合う。

「俺の最高傑作のお披露目だ」

 エリヤが手に持つ剣にそう呼びかける。
 すると、次の瞬間2人の目の前にまで迫っていた業火が消え去った。

「防いだ? いや、消したのか?」

 空中からその様子を観察するセレナーデだったが、直後にその余裕はなくなることになる。
 セレナーデを包んでいた風魔法が消失し、地面へと落下したのだ。

「なっ!?」

 突然の落下に困惑するセレナーデだったが、どうにか受け身を取り、転がりながら立ち上がって2人を睨む。

「……何をした」
「魔法を消したんだよ。お前なら見てわかるだろ?」

 アルマはそう言うが、セレナーデが知りたいのはそんなことではない。
 魔法を消すなど、それこそ禁忌の技術でもなければ不可能な芸当だ。
 と、そこでセレナーデはエリヤの持つ剣に気付く。

 エリヤが右手に持つ剣は、その柄から茨が伸びており、腕に絡みついている。
 明らかに異常な剣、つまりは、

「魔剣か」
「ご名答。魔剣“エント”だ」

 ロンドの持つ風の魔剣“ストルム”や“神殺し”レクシアは古代の人々が鍛えたもので、魔剣と呼ばれるものはそのほとんどがそのような古いものだ。
 だが、“エント”は違う。
 この魔剣はエリヤが自らの知恵を技術を集結した正真正銘の最高傑作であり、その効果は一定の範囲から魔力を消し去る、という凶悪なものだ。
 付けた名が、

「“魔女殺し”とも呼んでいる」

 魔女というのは魔法に特化しすぎており、魔法を無しにすれば一般人にも劣るという。
 魔法を消す“エント”はまさに、魔女の天敵となる代物だ。

「魔王軍幹部セレナーデ。お前はここで終わりってわけだ」

 アルマが盾と槍を構え、セレナーデにジリジリと近付いていく。
 エリヤもそれに続くように、セレナーデに向けて歩を進める。

「エリヤ、最後まで油断するなよ」
「わかってますよ。相手は幹部ですからね」

 2人は油断することなく、セレナーデへ1歩、また1歩と確実に近付いている。
 対するセレナーデはといえば、俯いたまま動かない。

「魔法が使えなくなったから、戦意を失ったか?」

 エリヤがそんなセレナーデの様子に疑問を抱き、気が緩んだその瞬間。

「エリヤ! 避けろ!」
「うおっ!?」

 座り込んでいたセレナーデが突如として地面を蹴り、魔力を失って地面に落ちた剣を両手に取りながら、エリヤに斬りかかったのだ。
 エリヤは咄嗟に横に思い切り飛ぶが、横腹を浅く斬られる。

「大丈夫か?」
「かすり傷です。それより」
「ああ、わかってる」

 低い姿勢でエリヤに斬りかかったセレナーデはゆらりと立ち上がると、その口を歪めて笑いながら、2人に振り返る。

「魔法を使えなくする魔剣。もしかして、それだけで私を殺せると思ったか?」

 セレナーデは両手に持った剣を構え、2人に正面から向き合う。
 その構えを見て、戦い慣れしているアルマは確信した。

「おい、魔女は魔法が使えなけりゃ戦力激減じゃなかったか?」
「そのはずなんですけどね。剣の扱いも心得てるんですかね」
「そんなレベルじゃないな。多分、技術はヨナスより上だ」
「ヨナスさんより!?」

 アルマの言葉にエリヤは驚きを隠せない。
 ヨナスは元冒険者で、筋力や敏捷ならともかく、技術は人間で右に出る者はいないと知っていた。
 それはヨナスに弟子入りしたエレナはもちろん、ワタルだってそうだ。

「お喋りは終わったか? なら、さっさと死ね」
「俺が前に出る。エリヤは援護だ」
「了解」

 余裕の表れなのか、2人の会話中に攻撃してこなかったセレナーデが、ぐっと前傾姿勢になり足に力を込める。
 それを見たアルマは素早くエリヤに指示を出し、盾を前に構え重心を落とす。

「ふっ!」

 セレナーデが地を蹴り、振るった剣がアルマの盾と激突する。
 甲高い音が響き渡り、弾かれたのは……アルマの方だった。

「嘘だろ!?」

 筋力も自分の遥か上をいくセレナーデに目を見張るアルマだが、すぐに左手の槍を薙ぎ払い、距離を取ろうとする。
 しかし、セレナーデはそれを許さない。

「逃げれるとでも?」

 セレナーデは跳躍して槍を回避すると、落下の勢いを乗せた剣を、無防備となったアルマに叩きつける。

「ぐ、おおっ!」

 そこへエリヤが割って入り、エントででその剣を受け止める。
 それでもセレナーデの剣を止めきれなかったのか、エリヤは背後にいたアルマごと吹き飛ばされる。

「くそっ、エリヤ、次が来るぞ!」

 転がりながらも素早く起き上がったアルマも言う通り、セレナーデは2人にトドメを刺そうと追撃をかけてくる。

「右から行きます!」
「わかった。俺は左だな」

 2人は左右に分かれると、挟むようにしてセレナーデを迎え撃つ。

「浅知恵だな」

 セレナーデはそんなこと気にもとめないようで、2本の剣による猛攻を仕掛ける。
 2人もそれぞれの武器で斬り合い、金属同士が音を響かせながら火花を散らし、激しい攻防が続く。
 エリヤとアルマは左右に分かれているため、セレナーデはそれぞれに片手しか使えない。

 というのに、2人は少しづつ押され始め、右足を軸に回転して振ったセレナーデの剣に、とうとう大きく後退させられ、膝をつく。

「はぁ、はぁ……冗談だろ」

 エリヤが青い顔色で肩で息をしながら、セレナーデを見上げる。

「雑魚が私に勝とうなんて、100年早い」

 セレナーデは疲れを感じさせない表情で、2人を見下ろしながらそう言った

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