最強になって異世界を楽しむ!
神殺しとレクシア
「ハラルちゃんー。まだー?」
「そうですね。ここまで離れればいいでしょう」
ハラルとレクシアは、王都の近くの森の奥に来ていた。
人気のないそこは、目立ちたくない2人にとってはちょうど良い場所だった。
「それで、私は全力でいけばいいんだよね」
「そうですね。私は防御に徹するので、遠慮せずに来てください」
「言ったからね。手加減しないよー!」
レクシアはそう言うなり、地面を蹴ってハラルへと接近する。
瞳は既に黄金色から青色へと変化しており、振りかぶる右腕には青色の電撃を纏っている。
その右腕を、ハラルの腹部を狙い、真っ直ぐに突き出す。
普通ならかすることも避ける攻撃だが、ハラルは気にする素振りもなく、左腕だけでレクシアの拳を防ぐ。
「やっぱり、まだ弱いですね」
ハラルはレクシアの拳を受けると、何か納得したのか小さく呟く。
レクシアの電撃はハラルに効いているようで、ハラルは硬直する。
が、すぐにレクシアの腕を振り払うと、横腹に向けて蹴りを繰り出す。
「甘いよ!」
たが、一瞬の硬直はレクシアにとっては長い時間だった。
レクシアの瞳の色が青色から茶色へと瞬時に切り変わると、土が盛り上がり、ハラルが狙う横腹の前に土の柱が現れる。
柱はハラルの蹴りを防ぎきる。
「別の神の力ですか。でも、同時には使えないみたいですね」
ハラルの言う通り、瞳の色が切り替わった途端、レクシアの腕に纏っていた電撃は消えている。
「と、思うでしょ。見て驚けー!」
レクシアはハラルのその言葉を待っていたかのように、得意げに胸を張ると右の瞳が青色に切り替わり、再び電撃がレクシアの腕に纏う。
「んっ」
電撃を受けることは防ぎたいため、ハラルは大きく後ろへ飛び退く。
しかしそれは、レクシアの予想通りの動きだった。
「読んでたよ!」
レクシアが左腕を上げると、土の柱が砕け礫となり、レクシアの周囲を漂う。
礫は先端が鋭くなっており、それは全てハラルの方を向いていた。
そして、左腕を振り下ろすと同時に、礫がレクシアへと殺到する。
「硬化」
レクシアは後ろへ飛び退いたことで体勢も崩れており、防ぎきれないと判断する。
両腕を硬化させると、最低限の急所を守るようにして両腕で土の礫をやり過ごす。
生身の部分にも礫が当たるが、服は破れるものの、ハラルについたのはかすり傷程度だった。
「レクシア、ストップです」
「問答無用!」
ハラルはレクシアを止めようとするが、レクシアは止まる様子がなく、右腕を剣に変化させ、電撃を纏わせてハラルに向けて走ってくる。
その周囲には石の礫が漂っており、今にも放たれそうだ。
「まったく……仕方ないですね」
ハラルは手袋を付けた両手をメガホンのようにして口に当て、すーっと大きく息を吸う。
「わっ!」
ハラル声という音が、レクシアへ叩きつけられる。
音魔法によって考えられないほど大音量となった声は、空気を震わせるほどで、それをまともに受けたレクシアは視界が霞んで、体がふらつく。
レクシアの意識が朦朧となったことで瞳の色は元に戻り、電撃は消え石の礫は土へと戻る。
「手合わせは終わりです。やることはわかりましたから」
ハラルは前のめりに倒れそうになるレクシアを抱きとめると、ゆっくりと座らせ頬をぺちぺちと叩く。
「あれ? あっ、手合わせは?」
「私の勝ちですね。さて、レクシア、魔剣になってもらえますか?」
「あ、うん」
レクシアは負けた自覚があるのか、悔しがっていたが、ハラルにそう言われると素直に魔剣の状態になる。
ハラルは魔剣となったレクシアを持とうとするが、まるで見えない壁がそこにあるように、触れることすらできない。
「みんなと試したんだけど、ワタルくん以外は、今の私には触れなかったよ」
「でしょうね。私の呪いが発動してますし」
「……え?」
レクシアは言っている意味がわからない、ということが伝わる間の抜けた声を出した。
「私がこの世界の住人には触れないようにしたんですよ。神殺しなんて、使われたら怖いですし」
「ちょっと! 今すぐ解いてよ!」
「わかってますって。後ろ向いてください」
思わず人の姿に戻ったレクシアがハラルに掴みかかるが、ハラルはそれを冷静に流してレクシアに後ろを向かせる。
「うなじに刻印があってですね。私しか解けないんです」
「ってことは、ハラルちゃんが私を封印してた神様?」
「そうですよ。雷帝は私の部下です」
「ふーん」
ハラルはレクシアのうなじに刻まれた刻印に触れながら、レクシアと雑談をする。
「そういえば、ワタルくんはこの世界の人間じゃないの?」
「あれ、聞いてないんですね。ワタルは異世界人ですよ。信じるかは任せますけど」
「信じるよ! 仲間の言うことだもん!」
「……いいから前を向いててください」
くるりと体を反転させ、真っ直ぐにハラルを見てそう言うレクシアだったが、ハラルに無理矢理前を向かせられる。
「それじゃあ、ワタルくんをこの世界に送ったのがハラルちゃんなんだね」
「なんでそう思うんですか?」
「だって仲良さそうだったし。違うの?」
「いや、合ってますよ……はい、終わりです」
話しているうちにレクシアの呪いを解き終わったのか、刻印は消え去っていた。
「これで他の人たちも、魔剣の状態のレクシアを使えますよ」
「わーい」
「もう1つやることがありますから、上を脱いでもらえますか?」
「えっ……ハラルちゃん、もしかして女の子が好きなの?」
「やることがあるって言いましたよね?」
「わかった! わかったから!」
ギリギリとアイアンクローをキメられ、レクシアは上の服を脱ぐ。
「そのまま動かないでくださいね」
「ひゃうっ!?」
そこへ、ハラルがレクシアの下腹部に指を当てる。
すると、そこにじわりとうなじにあったものより複雑な刻印が浮かび上がる。
「なにこれ?」
「レクシアに施した封印です。これはレクシアの力を制限するものですね」
ハラルがその刻印に手を当て、何やら言葉をぶつぶつと呟くと、程なくして刻印が消えていく。
「これで準備は出来ましたね。さ、神の力の使い方を教えてあげますよ」
「ちょっと待って!」
「どうかしましたか?」
至って普通に立ち上がるハラルを、レクシアが呼び止める。
「いいの? 私は神殺し。ハラルちゃんにとって天敵みたいなものだよ」
「……はあ」
「な、なんなの?」
レクシアの言葉に対し、ハラルは疲れたように大きくため息をつく。
その反応の意味がわからず、レクシアは困惑する。
「私が嫌いなのは神殺しであって、レクシアじゃないです。人格を持たない神殺しは警戒しますけど」
そう言うと、レクシアは最後に顔を背け、少しだけ恥ずかしそうに、
「今のあなたは、大切な仲間のレクシアですから」
「……ハラルちゃん! 大好き!」
レクシアはその言葉を聞くと、ふるふると体を震わせ、レクシアへと飛びつく。
「わっ、やめてください」
「照れちゃってー。可愛いなー」
「調子に乗りすぎです」
「あいたっ!?」
ビシッとハラルの手刀がレクシアの頭に命中し、レクシアが離れる。
「浮かれるのは構いませんけど、私の教え方はスパルタですからね。泣き言は許しませんよ」
「ドンと来い、だよ!」
「いい返事です。なら今日は力の使い方を覚えるまで帰りませんからね」
「えっ」
その夜、日付けも変わろうかという頃に限界を迎えたレクシアが倒れ、ハラルが家に連れて帰ることになるのだった。
「そうですね。ここまで離れればいいでしょう」
ハラルとレクシアは、王都の近くの森の奥に来ていた。
人気のないそこは、目立ちたくない2人にとってはちょうど良い場所だった。
「それで、私は全力でいけばいいんだよね」
「そうですね。私は防御に徹するので、遠慮せずに来てください」
「言ったからね。手加減しないよー!」
レクシアはそう言うなり、地面を蹴ってハラルへと接近する。
瞳は既に黄金色から青色へと変化しており、振りかぶる右腕には青色の電撃を纏っている。
その右腕を、ハラルの腹部を狙い、真っ直ぐに突き出す。
普通ならかすることも避ける攻撃だが、ハラルは気にする素振りもなく、左腕だけでレクシアの拳を防ぐ。
「やっぱり、まだ弱いですね」
ハラルはレクシアの拳を受けると、何か納得したのか小さく呟く。
レクシアの電撃はハラルに効いているようで、ハラルは硬直する。
が、すぐにレクシアの腕を振り払うと、横腹に向けて蹴りを繰り出す。
「甘いよ!」
たが、一瞬の硬直はレクシアにとっては長い時間だった。
レクシアの瞳の色が青色から茶色へと瞬時に切り変わると、土が盛り上がり、ハラルが狙う横腹の前に土の柱が現れる。
柱はハラルの蹴りを防ぎきる。
「別の神の力ですか。でも、同時には使えないみたいですね」
ハラルの言う通り、瞳の色が切り替わった途端、レクシアの腕に纏っていた電撃は消えている。
「と、思うでしょ。見て驚けー!」
レクシアはハラルのその言葉を待っていたかのように、得意げに胸を張ると右の瞳が青色に切り替わり、再び電撃がレクシアの腕に纏う。
「んっ」
電撃を受けることは防ぎたいため、ハラルは大きく後ろへ飛び退く。
しかしそれは、レクシアの予想通りの動きだった。
「読んでたよ!」
レクシアが左腕を上げると、土の柱が砕け礫となり、レクシアの周囲を漂う。
礫は先端が鋭くなっており、それは全てハラルの方を向いていた。
そして、左腕を振り下ろすと同時に、礫がレクシアへと殺到する。
「硬化」
レクシアは後ろへ飛び退いたことで体勢も崩れており、防ぎきれないと判断する。
両腕を硬化させると、最低限の急所を守るようにして両腕で土の礫をやり過ごす。
生身の部分にも礫が当たるが、服は破れるものの、ハラルについたのはかすり傷程度だった。
「レクシア、ストップです」
「問答無用!」
ハラルはレクシアを止めようとするが、レクシアは止まる様子がなく、右腕を剣に変化させ、電撃を纏わせてハラルに向けて走ってくる。
その周囲には石の礫が漂っており、今にも放たれそうだ。
「まったく……仕方ないですね」
ハラルは手袋を付けた両手をメガホンのようにして口に当て、すーっと大きく息を吸う。
「わっ!」
ハラル声という音が、レクシアへ叩きつけられる。
音魔法によって考えられないほど大音量となった声は、空気を震わせるほどで、それをまともに受けたレクシアは視界が霞んで、体がふらつく。
レクシアの意識が朦朧となったことで瞳の色は元に戻り、電撃は消え石の礫は土へと戻る。
「手合わせは終わりです。やることはわかりましたから」
ハラルは前のめりに倒れそうになるレクシアを抱きとめると、ゆっくりと座らせ頬をぺちぺちと叩く。
「あれ? あっ、手合わせは?」
「私の勝ちですね。さて、レクシア、魔剣になってもらえますか?」
「あ、うん」
レクシアは負けた自覚があるのか、悔しがっていたが、ハラルにそう言われると素直に魔剣の状態になる。
ハラルは魔剣となったレクシアを持とうとするが、まるで見えない壁がそこにあるように、触れることすらできない。
「みんなと試したんだけど、ワタルくん以外は、今の私には触れなかったよ」
「でしょうね。私の呪いが発動してますし」
「……え?」
レクシアは言っている意味がわからない、ということが伝わる間の抜けた声を出した。
「私がこの世界の住人には触れないようにしたんですよ。神殺しなんて、使われたら怖いですし」
「ちょっと! 今すぐ解いてよ!」
「わかってますって。後ろ向いてください」
思わず人の姿に戻ったレクシアがハラルに掴みかかるが、ハラルはそれを冷静に流してレクシアに後ろを向かせる。
「うなじに刻印があってですね。私しか解けないんです」
「ってことは、ハラルちゃんが私を封印してた神様?」
「そうですよ。雷帝は私の部下です」
「ふーん」
ハラルはレクシアのうなじに刻まれた刻印に触れながら、レクシアと雑談をする。
「そういえば、ワタルくんはこの世界の人間じゃないの?」
「あれ、聞いてないんですね。ワタルは異世界人ですよ。信じるかは任せますけど」
「信じるよ! 仲間の言うことだもん!」
「……いいから前を向いててください」
くるりと体を反転させ、真っ直ぐにハラルを見てそう言うレクシアだったが、ハラルに無理矢理前を向かせられる。
「それじゃあ、ワタルくんをこの世界に送ったのがハラルちゃんなんだね」
「なんでそう思うんですか?」
「だって仲良さそうだったし。違うの?」
「いや、合ってますよ……はい、終わりです」
話しているうちにレクシアの呪いを解き終わったのか、刻印は消え去っていた。
「これで他の人たちも、魔剣の状態のレクシアを使えますよ」
「わーい」
「もう1つやることがありますから、上を脱いでもらえますか?」
「えっ……ハラルちゃん、もしかして女の子が好きなの?」
「やることがあるって言いましたよね?」
「わかった! わかったから!」
ギリギリとアイアンクローをキメられ、レクシアは上の服を脱ぐ。
「そのまま動かないでくださいね」
「ひゃうっ!?」
そこへ、ハラルがレクシアの下腹部に指を当てる。
すると、そこにじわりとうなじにあったものより複雑な刻印が浮かび上がる。
「なにこれ?」
「レクシアに施した封印です。これはレクシアの力を制限するものですね」
ハラルがその刻印に手を当て、何やら言葉をぶつぶつと呟くと、程なくして刻印が消えていく。
「これで準備は出来ましたね。さ、神の力の使い方を教えてあげますよ」
「ちょっと待って!」
「どうかしましたか?」
至って普通に立ち上がるハラルを、レクシアが呼び止める。
「いいの? 私は神殺し。ハラルちゃんにとって天敵みたいなものだよ」
「……はあ」
「な、なんなの?」
レクシアの言葉に対し、ハラルは疲れたように大きくため息をつく。
その反応の意味がわからず、レクシアは困惑する。
「私が嫌いなのは神殺しであって、レクシアじゃないです。人格を持たない神殺しは警戒しますけど」
そう言うと、レクシアは最後に顔を背け、少しだけ恥ずかしそうに、
「今のあなたは、大切な仲間のレクシアですから」
「……ハラルちゃん! 大好き!」
レクシアはその言葉を聞くと、ふるふると体を震わせ、レクシアへと飛びつく。
「わっ、やめてください」
「照れちゃってー。可愛いなー」
「調子に乗りすぎです」
「あいたっ!?」
ビシッとハラルの手刀がレクシアの頭に命中し、レクシアが離れる。
「浮かれるのは構いませんけど、私の教え方はスパルタですからね。泣き言は許しませんよ」
「ドンと来い、だよ!」
「いい返事です。なら今日は力の使い方を覚えるまで帰りませんからね」
「えっ」
その夜、日付けも変わろうかという頃に限界を迎えたレクシアが倒れ、ハラルが家に連れて帰ることになるのだった。
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