最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

収束と解放

 魔女の1人が魔法陣を展開し、残った2人が前衛に出てくる。
 ワタルとハラルは黙って見ているわけにもいかず、奥の魔女へ接近しようと走り出す。

「魔女が魔法陣だけだと思うなっての!」

 前衛の魔女2人が、それぞれワタルへ炎球ハラルへ水球を放つ。

「わかってるよ。マリーの見てるからね。魔法剣」
「そのぐらいで傷つく体はしてません」

 それをワタルは魔法剣で斬り、ハラルに至っては、腕を交差させ防御の姿勢をとって無理矢理突っ込む。

「ワタル、この2人は任せます」
「わかった」

 ハラルは前衛の魔女2人を無視し、奥の魔女へ走っていく。
 当然、魔女2人は魔法を放って攻撃するが、ハラルはそれをモノともしない。

「なんで魔法が効かないの!」
「もうそっちはいいから。まずはこの男を!」

 魔女2人はハラルへの攻撃を無駄だと判断したのか、ワタルへ標的を変更する。

「狙うのが遅れたね」

 その時には、ワタルは既に魔力を溜め終えていた。
 ワタルが夜想曲の剣を振ると同時に、水でできた刀身が拡大する。
 魔女2人は、それぞれ土魔法で壁を作るが、しっかりと魔力を込めたワタルの魔法剣は、壁ごと魔女2人へと当たる。

「安心しろ。峰打ちだ」

 声も出さずに倒れた2人を見て、ワタルは大きく息を吐く。
 魔法剣での峰打ちなど初めてやったので成功するか不安だったが、どうやら成功したようで、魔女2人は血を流していなかった。
 1度言ってみたかった台詞も言え、満足したワタルは、ハラルと残った魔女に視線を移した。

「消し飛べ!」

 ハラルが残った魔女へ迫った時、既に魔法は完成しており、発動される。
 使った魔法は爆発魔法。
 マリーほどの火力もなく、そのため里への被害もないが、人に致命傷を与えるには十分な火力だ。

「私じゃなかったら死んでますよ」
「は!?」

 爆風の中から、服が焼け焦げ、軽い火傷を体の所々に負ったハラルが魔女へ接近していく。
 まさか生きていて、それもまだ動くなど思ってもいなかった魔女は、驚き硬直する。

「よっ」

 ハラルは黒色の手袋をした右手の人差し指で、魔女のおでこを軽く突く。
 すると、魔女はすぐに白目を剥き、ドサリと倒れた。

「なにしたの?」
「振動で脳を揺らしたんですよ。加減間違えたら死にますけど」

 注意しようとしたが、ワタルも人のことは言えないため、黙ってレイとマリーの方へ歩いていく。

「強いんだね」
「自慢の仲間じゃ」

 レイは少し驚いた様子だったが、マリーは2人が勝つことがわかっていたようで、ない胸を張ってレイに自慢げに話していた。

「あの人たちはどうするの?」
「ボクが責任を持って運んでおくよ。3人は竹林に行ってもらえる?」
「わかった。あとはよろしくね」

 ワタルはレイに魔女3人の後始末を頼む。
 それから、ハラルの治療をマリーとレイにやってもらうと、ワタルたち3人はほかの魔女の目につかないように、魔女の里を出発した。



 里から歩き始めて2時間が過ぎた。

「ストップじゃ」

 マリーが両隣の2人を手で制し、しゃがみ込む。
 2人もそれに習い、しゃがみ込んで前方の様子を見る。
 まだ遠目にしか見えないが、そこは明らかに森ではなく、多くの竹が生い茂る竹林になっていた。
 たまに、見回りをしているのか、魔女が歩いて通り過ぎていく。

「あそこで確定だね」
「でも、強行突破ぐらいしか思い浮かばないんですけど、なにか方法はありますか?」

 確かに、見てる限りでは、魔女が常に巡回しており、侵入する隙はないように思える。

「わしの禁忌の技術を使う。ただ、それを使うとわしの魔力をほとんど持っていかれるのでな。流星のような、大規模な魔法は使えん」
「戦闘は俺とハラルが中心になるわけか」
「任せてください」

 マリーは2人の返事に満足したのか、笑顔で頷いて作戦を話す。

「まず、わしがあの竹林を焼き尽くす」
「待って」

 その物騒な作戦に、ワタルが反射的にツッコミを入れてしまう。
 マリーはなぜ止められたのかわからず、首を傾げる。
 ハラルも特に異議はなかったのか、同じように首を傾げていた。

「派手すぎない? あと、そんなことしたら魔女が死ぬんじゃ……」
「わしだって全力ではやらんわ。それに、その程度で死ぬ魔女ではない」
「魔女は魔族の血が入っている分、人間より身体能力は上です。それに、洗脳されているとはいえ、戦えるなら壁ぐらい作れるでしょう」
「そうなの? とにかく、殺さないようにね?」

 2人から立て続けに反論され、ワタルは折れた。
 ワタルの不安や心配など知ろうともせず、マリーは右手の先に小さな魔法陣を展開し、魔力を溜めていく。

「大丈夫じゃ。できる限り慎重にやるつもりじゃからな」

 マリーはそう言うと、火魔法を発動する。
 作り出された火は、撃ち出されることはされず、それがゆっくりと小さな球体になっていく。
 それが数分間続き、マリーの右手の先にある火の玉は、見たこともないほど濃い赤色をしていた。

「わしの禁忌の技術は、収束と解放といってな。まあ、言うより見る方が早いじゃろう」

 それで準備を終えたのか、マリーは立ち上がり、歩いて竹林へと向かっていく。
 ワタルとハラルもあとに続こうとするが、マリーはそれを止める。

「わしの近くに来ると、巻き添えを受ける恐れがあるのでな。不用意に近づかん方がよいぞ?」
「どんだけ危ないの、その魔法……」

 いつもよりずっと安全へ配慮しているマリーの様子に、ワタルは不安を隠しきれなかった。
 もしかすると、予想しているよりずっとやばい魔法じゃないんだろうか。
 念のため、すぐに魔法を使えるように準備し、ワタルはマリーを見守る。
 隣では、ハラルが興味津々といった様子で、マリーをじっと見ていた。

「恨みはないが……いや、恨みはあるんじゃが、これもレイのためじゃ」

 マリーの右手の火の玉が、形状を変化させていき、刀身の長い炎の剣となる。
 見回りをしていた魔女たちは、マリーに気付き距離を詰めようと動き出すが、遅すぎる。

「レーヴァテイン」

 その言葉と同時に炎の剣を横薙ぎに振る。
 その瞬間、ワタルの目の前が赤に染まった。

「えー……」
「これ竹林消し飛んでません?」

 そう、竹林はハラルの言った通り、炭すら残さず言葉通り跡形も残らずに消し飛んでいた。
 マリーが炎の剣を振った瞬間、今まで収束されていた火魔法が解放され、炎の剣を振った範囲、つまり竹林に炎の波が襲いかかった。
 あとに残ったのは、更地と衣服が焼き焦げ、倒れ伏す魔女たちだった。
 視線の奥では、まだ消えていない炎がメラメラと燃えている。

「調整を少し誤ったようじゃな」

 マリーはといえば、魔法の威力が予想と違ったのか、首をひねっている。

「まあよい。これであとは、黒幕を探すだけじゃな」

 笑顔でこちらへ駆け寄るマリーに、ワタルは引きつった笑顔を浮かべるしかなかった。

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