最強になって異世界を楽しむ!
装飾曲1
「ハァ……ハァ……」
エレナは要塞へと続く道を、全力で走っていた。
王都を出発して3時間、まだ1度も休憩はとっていない。
疲労も蓄積し、息も荒くなっている。
全ては一族の仇である、要塞の魔族を殺すためだ。
「撒いたか」
走り始めた時に、後ろからつけてくる人物がいるのはわかった。
エレナの全速力にはついてこれなかったようで、その人物は既に引き離せたらしく、少しペースを落とす。
全力で走って休憩を繰り返すより、ペースを落として長く走った方が、効率は良い。
エレナの速度なら、ペースを落としても十分速いため、エレナは焦る心を落ち着かせ、冷静に1番速く移動できる方法を選ぶ。
***
「マリー、ここから要塞まで、どれくらいかかる?」
「普通に行けば、3日といったところじゃな」
「なら2日で行くよ。休憩は最低限に、でも無理はしないようにね」
エレナとの出発の時間差は、約6時間。
エレナの敏捷のステータスも考えると、差は開く一方だろう。
「私ならもう少し短くできるよ?」
「どうする気?」
「見ててね〜」
レクシアはなにか案があるようで、瞳の色を茶色へと変化させる。
そうして土を操る力を使うと、3人の地面が隆起し、そのまま3人を前へと運び始める。
その速度は馬車にも劣らず、動く必要もないので体力も温存できる。
「これほどのことは、魔法陣を使っても難しい。すごいのじゃ」
「でしょー。でも、長く続かないし疲れちゃうから、これが終わったら魔剣の状態になって休むね」
しばらくはレクシアの力で運んでもらい、5時間はたったところで、レクシアに限界が来た。
乗っていた土の勢いがなくなり、地面にゆっくり落ちていく。
「きっつい。これが限界かな」
「お疲れ様。ゆっくり休んでね」
肩で大きく息をするレクシアに、ワタルが労いの言葉をかけ、魔剣の状態になったレクシアを腰に差す
ちなみに鞘はエリヤに頼み、ちょうどいい大きさのものを作ってもらった。
「ここはどの辺?」
「王都と要塞の真ん中ぐらいじゃ。かなり時間を短縮できておるな。全力で走れば、あと1日と少しで着きそうじゃ」
「レクシアには感謝しないとね。よし、行こうか」
「うむ」
魔剣となったレクシアを撫で、マリーと共に走り出す。
適度な休憩を挟みながら、かなり良いペースで進み、日が落ちて3人は野営をして、朝再び走る。
***
「ここか」
ワタルたちが1度目の野営を終えた朝、エレナは目的地の要塞に着いていた。
要塞の外には、守っていた兵士と思われる死体が転がり、血が広がっていた。
警戒しながら中に入ると、そこは血の海になっていた。
その血の量は外の比ではなく、エレナが歩くたびに足の裏を粘ついた血液が付き、糸を引く。
エレナが歩くべちゃべちゃとした音以外には、要塞は何の音もしなかった。
様子をおかしく思いながらも、エレナは要塞の2階へと上がる。
「侵入者か。王都のやつか?」
「お前が……!」
2階に上がったエレナに、男の声がかけられる。
すぐにそちらを向いたエレナが見たのは、リナから聞いた通りの青い髪と赤い瞳で、椅子に座っていた魔族だった。
「殺す!」
エレナは腹からこみ上げる熱いものを、怒りだと自覚する前にその魔族へ突っ込む。
地面が血の海だろうと、エレナの速度は変わらない。
しかし、エレナの攻撃は、魔族に素手で受け止められる。
「魔族か。何の用だ?」
「くっ、このっ!」
エレナは一歩下がり、両手に持った粛清剣を、人の目には到底追えない速度で、魔族へ振る。
魔族はその全てを見切り、避けるとエレナの腕を掴み、要塞の窓へと投げ飛ばす。
エレナは魔族の力に逆らえず、窓を突き破り外へ出る。
どうにか空中で体制を整え着地すると、同じ窓から魔族も降りてくる。
「質問に答えるのが礼儀だろ」
「私を覚えていないのか」
「さて……面識があったか?」
エレナが魔族を睨みつけるが、魔族は本当に覚えがないのか、首を傾げる。
「お前が殺した人狼の生き残りだ。お前を殺すためにきた!」
「……ああ、そんなこともあったな」
魔族はしばらく腕を組んで、悩む姿勢を見せていると、しばらくしてポンと手を打ち、思い出したようにエレナを見る。
「一族の仇、必ず討つ!」
「鬱陶しいな。だが、向かってくるなら殺してやろう」
魔族は心底面倒くさそうにしていたが、やがてエレナを殺すと決めたのか、見たこともないような冷たい目で、エレナを睨みつける。
エレナはその目と目が合うと、ビクっと体を震わせるが、怒りの方が大きく、両手の粛清剣を構える。
「魔王軍幹部、真祖の吸血鬼アラベスクだ」
「人狼エレナ。お前を殺す魔族だ!」
互いに名を名乗ると、エレナが先に仕掛ける。
今度は途中で加速を使い、消えたように見える速度で、吸血鬼の懐に潜り込む。
確実に当たる、そう確信したエレナは、両手の粛清剣の片方で首、片方で膝を狙い横薙ぎに振る。
「人狼とはスピード自慢だったか。……遅いな」
エレナの攻撃は、アラベスクがため息を吐くと同時に、簡単に防がれる。
首を狙った方を素手で掴まれ、膝を狙った方を足で踏まれる。
動きの止まったところへ、アラベスクが踏んでいるのと反対の足で、蹴りを叩き込む。
「がっ!?」
バキッという骨が折れる音と、口から血を吐きながらエレナは吹き飛ばされる。
地面を何度もバウンドし、ゴロゴロ地面を転がる。
普通なら戦闘不能となる状態だが、エレナはゆっくりと立ち上がる。
「魔族に有効な剣か。ほらよ」
アラベスクはエレナが手放した粛清剣を手に取り、少し眺めたあとエレナの足元へ投げる。
その行動が理解できず固まるエレナへ、アラベスクが笑いながらこう言う。
「俺を殺すんだろう?」
「ぐっ……」
余裕を見せるアラベスクの投げた粛清剣を手に取り、歯を食いしばって構える。
一撃で全身が悲鳴をあげ、勝てないと心のどこかで思ってしまう。
エレナは頭を振り、その考えをなくす。
「はあああ!」
エレナが自分を奮い立たせ、3度目の地を蹴りアラベスクへと突っ込む。
「芸のないやつだ」
アラベスクが面白くなさそうにため息をつき、迎撃の構えをとる。
だが、エレナもバカではない。
突っ込む途中で左腕だけを加速させ、粛清剣の片方を投擲する。
加速により銃弾を超える速度で投擲された剣は、アラベスクの頭部へ真っ直ぐ向かう。
それを防ごうとアラベスクが手を前に出すが、粛清剣はその手を貫く。
それでも軌道は逸らしたようで、粛清剣はアラベスクの頭部へは当たらない。
「はあっ!」
粛清剣を防いだことによって、アラベスクの視界は一瞬塞がれる。
そこへ、懐へ潜り込んだエレナが、右手の粛清剣を心臓部目掛けて突き出す。
アラベスクが気付いた時には既に遅く、防御も間に合わずに心臓部を突き刺される。
驚いた表情をしたアラベスクは、がくりと体の力が抜け、エレナが粛清剣を引き抜くと前へどさりと倒れる。
「ぐっ、無理をしすぎたか」
エレナのスキル加速は、体へ負担がかかる。
万全の状態なら問題ないが、今回のように傷が深ければ、体を激痛が襲う。
遂に復讐を果たせた、そう思うと力が抜け、エレナはその場に尻もちをつく。
「だが、これで」
「終わりだと思ったか?」
エレナが絶望に顔を染め、アラベスクを見る。
すると、アラベスクへ周囲の血が集まり、傷が癒えていく。
少しすると、アラベスクは何事もなかったかのように立ち上がった。
「甘く見ていた。まさか傷を負うとはな」
粛清剣を手に取り立ち上がろうとするエレナへ、アラベスクの蹴りが襲う。
今のエレナに避けることなどできず、エレナは地面を転がり、地に伏せる。
「お前は確実に殺してやる」
エレナは要塞へと続く道を、全力で走っていた。
王都を出発して3時間、まだ1度も休憩はとっていない。
疲労も蓄積し、息も荒くなっている。
全ては一族の仇である、要塞の魔族を殺すためだ。
「撒いたか」
走り始めた時に、後ろからつけてくる人物がいるのはわかった。
エレナの全速力にはついてこれなかったようで、その人物は既に引き離せたらしく、少しペースを落とす。
全力で走って休憩を繰り返すより、ペースを落として長く走った方が、効率は良い。
エレナの速度なら、ペースを落としても十分速いため、エレナは焦る心を落ち着かせ、冷静に1番速く移動できる方法を選ぶ。
***
「マリー、ここから要塞まで、どれくらいかかる?」
「普通に行けば、3日といったところじゃな」
「なら2日で行くよ。休憩は最低限に、でも無理はしないようにね」
エレナとの出発の時間差は、約6時間。
エレナの敏捷のステータスも考えると、差は開く一方だろう。
「私ならもう少し短くできるよ?」
「どうする気?」
「見ててね〜」
レクシアはなにか案があるようで、瞳の色を茶色へと変化させる。
そうして土を操る力を使うと、3人の地面が隆起し、そのまま3人を前へと運び始める。
その速度は馬車にも劣らず、動く必要もないので体力も温存できる。
「これほどのことは、魔法陣を使っても難しい。すごいのじゃ」
「でしょー。でも、長く続かないし疲れちゃうから、これが終わったら魔剣の状態になって休むね」
しばらくはレクシアの力で運んでもらい、5時間はたったところで、レクシアに限界が来た。
乗っていた土の勢いがなくなり、地面にゆっくり落ちていく。
「きっつい。これが限界かな」
「お疲れ様。ゆっくり休んでね」
肩で大きく息をするレクシアに、ワタルが労いの言葉をかけ、魔剣の状態になったレクシアを腰に差す
ちなみに鞘はエリヤに頼み、ちょうどいい大きさのものを作ってもらった。
「ここはどの辺?」
「王都と要塞の真ん中ぐらいじゃ。かなり時間を短縮できておるな。全力で走れば、あと1日と少しで着きそうじゃ」
「レクシアには感謝しないとね。よし、行こうか」
「うむ」
魔剣となったレクシアを撫で、マリーと共に走り出す。
適度な休憩を挟みながら、かなり良いペースで進み、日が落ちて3人は野営をして、朝再び走る。
***
「ここか」
ワタルたちが1度目の野営を終えた朝、エレナは目的地の要塞に着いていた。
要塞の外には、守っていた兵士と思われる死体が転がり、血が広がっていた。
警戒しながら中に入ると、そこは血の海になっていた。
その血の量は外の比ではなく、エレナが歩くたびに足の裏を粘ついた血液が付き、糸を引く。
エレナが歩くべちゃべちゃとした音以外には、要塞は何の音もしなかった。
様子をおかしく思いながらも、エレナは要塞の2階へと上がる。
「侵入者か。王都のやつか?」
「お前が……!」
2階に上がったエレナに、男の声がかけられる。
すぐにそちらを向いたエレナが見たのは、リナから聞いた通りの青い髪と赤い瞳で、椅子に座っていた魔族だった。
「殺す!」
エレナは腹からこみ上げる熱いものを、怒りだと自覚する前にその魔族へ突っ込む。
地面が血の海だろうと、エレナの速度は変わらない。
しかし、エレナの攻撃は、魔族に素手で受け止められる。
「魔族か。何の用だ?」
「くっ、このっ!」
エレナは一歩下がり、両手に持った粛清剣を、人の目には到底追えない速度で、魔族へ振る。
魔族はその全てを見切り、避けるとエレナの腕を掴み、要塞の窓へと投げ飛ばす。
エレナは魔族の力に逆らえず、窓を突き破り外へ出る。
どうにか空中で体制を整え着地すると、同じ窓から魔族も降りてくる。
「質問に答えるのが礼儀だろ」
「私を覚えていないのか」
「さて……面識があったか?」
エレナが魔族を睨みつけるが、魔族は本当に覚えがないのか、首を傾げる。
「お前が殺した人狼の生き残りだ。お前を殺すためにきた!」
「……ああ、そんなこともあったな」
魔族はしばらく腕を組んで、悩む姿勢を見せていると、しばらくしてポンと手を打ち、思い出したようにエレナを見る。
「一族の仇、必ず討つ!」
「鬱陶しいな。だが、向かってくるなら殺してやろう」
魔族は心底面倒くさそうにしていたが、やがてエレナを殺すと決めたのか、見たこともないような冷たい目で、エレナを睨みつける。
エレナはその目と目が合うと、ビクっと体を震わせるが、怒りの方が大きく、両手の粛清剣を構える。
「魔王軍幹部、真祖の吸血鬼アラベスクだ」
「人狼エレナ。お前を殺す魔族だ!」
互いに名を名乗ると、エレナが先に仕掛ける。
今度は途中で加速を使い、消えたように見える速度で、吸血鬼の懐に潜り込む。
確実に当たる、そう確信したエレナは、両手の粛清剣の片方で首、片方で膝を狙い横薙ぎに振る。
「人狼とはスピード自慢だったか。……遅いな」
エレナの攻撃は、アラベスクがため息を吐くと同時に、簡単に防がれる。
首を狙った方を素手で掴まれ、膝を狙った方を足で踏まれる。
動きの止まったところへ、アラベスクが踏んでいるのと反対の足で、蹴りを叩き込む。
「がっ!?」
バキッという骨が折れる音と、口から血を吐きながらエレナは吹き飛ばされる。
地面を何度もバウンドし、ゴロゴロ地面を転がる。
普通なら戦闘不能となる状態だが、エレナはゆっくりと立ち上がる。
「魔族に有効な剣か。ほらよ」
アラベスクはエレナが手放した粛清剣を手に取り、少し眺めたあとエレナの足元へ投げる。
その行動が理解できず固まるエレナへ、アラベスクが笑いながらこう言う。
「俺を殺すんだろう?」
「ぐっ……」
余裕を見せるアラベスクの投げた粛清剣を手に取り、歯を食いしばって構える。
一撃で全身が悲鳴をあげ、勝てないと心のどこかで思ってしまう。
エレナは頭を振り、その考えをなくす。
「はあああ!」
エレナが自分を奮い立たせ、3度目の地を蹴りアラベスクへと突っ込む。
「芸のないやつだ」
アラベスクが面白くなさそうにため息をつき、迎撃の構えをとる。
だが、エレナもバカではない。
突っ込む途中で左腕だけを加速させ、粛清剣の片方を投擲する。
加速により銃弾を超える速度で投擲された剣は、アラベスクの頭部へ真っ直ぐ向かう。
それを防ごうとアラベスクが手を前に出すが、粛清剣はその手を貫く。
それでも軌道は逸らしたようで、粛清剣はアラベスクの頭部へは当たらない。
「はあっ!」
粛清剣を防いだことによって、アラベスクの視界は一瞬塞がれる。
そこへ、懐へ潜り込んだエレナが、右手の粛清剣を心臓部目掛けて突き出す。
アラベスクが気付いた時には既に遅く、防御も間に合わずに心臓部を突き刺される。
驚いた表情をしたアラベスクは、がくりと体の力が抜け、エレナが粛清剣を引き抜くと前へどさりと倒れる。
「ぐっ、無理をしすぎたか」
エレナのスキル加速は、体へ負担がかかる。
万全の状態なら問題ないが、今回のように傷が深ければ、体を激痛が襲う。
遂に復讐を果たせた、そう思うと力が抜け、エレナはその場に尻もちをつく。
「だが、これで」
「終わりだと思ったか?」
エレナが絶望に顔を染め、アラベスクを見る。
すると、アラベスクへ周囲の血が集まり、傷が癒えていく。
少しすると、アラベスクは何事もなかったかのように立ち上がった。
「甘く見ていた。まさか傷を負うとはな」
粛清剣を手に取り立ち上がろうとするエレナへ、アラベスクの蹴りが襲う。
今のエレナに避けることなどできず、エレナは地面を転がり、地に伏せる。
「お前は確実に殺してやる」
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