最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

兵士長

「リナさん、依頼終わりました」
「お疲れ様です。無事で何よりです」

 ギルドに入ったワタルたち3人は、早速リナに依頼達成の報告をした。
 いつもならそれで報酬をもらって終わりなのだが、リナはまだなにかあるようで、ワタルたちを見ていた。
 不思議に思ったけワタルが首を傾げると、リナは立ち上がり受付を出てきた。

「ワタルさん、ヨナスさんが呼んでますので、一緒に来てもらえますか?」
「ヨナスさんがですか。全然大丈夫ですけど」

 後ろでエレナとマリーが、ヨナスとは誰だろうという顔をしていたが、その説明もできずにリナは奥の部屋へも向かっていく。
 慌ててワタルはついて行き、エレナとマリーも続く。

「ヨナスさん。ワタルさんたちをお連れしました」

 リナが扉をノックして、中へと入る。
 そこには椅子に座ってこちらを見ているヨナスと、その隣に見慣れない男性がいた。

「呼び出して悪いな、ワタルくん。君に紹介したい人がいてね」
「初めましてだな。俺はアルマ。王都で兵士長をしている」

 ヨナスの隣に座っているアルマは、自分の名前と職業を名乗った。
 年齢はヨナスと同じだろう。
 だが、ヨナスとは違い親しみやすいおじさん、というイメージをワタルは受けた。

「初めまして。ワタルです。兵士長さんが俺に何の用ですか?」
「いや、ちょっと面倒なことになってな……」

 ヨナスが言いにくそうに言葉を濁していると、アルマが突然立ち上がり、ワタルの両手で掴む。
 ワタルはぎょっとして離れようとするが、手はがっちりと捕まれ、簡単には離れない。

「ワタルくん、俺は君が欲しい!」
「えっ」
「ぜひ王都の兵士になってくれ!」

 ワタルは最初の言葉で顔を青ざめさせたが、そのあとに続いた言葉で意味を理解する。
 どうやら、ワタルは今勧誘にあっているらしい。
 しかし、それよりもアルマがホモじゃなくてよかった、という思いでワタルの頭はいっぱいだった。

「そういうことでな。アルマは君に兵士に入ってほしいらしい」
「俺が兵士に入っても、なんの役にも立たないと思いますけど……」
「そんなことはない。君の活躍はヨナスから聞いている」

 ワタルがヨナスに視線を向けると、ヨナスはさっと素早く顔を伏せた。

「いや、すまない。酔った勢いで話してしまってな」

 どうやら、ヨナスは酒に弱いらしい。
 思えば、カレンの時もヨナスは酔って喋ったと言っていた。
 実はヨナスは口が軽いのかもしれない。
 そんなことを思いながら、ワタルはじとっとした目でヨナスを見る。
 が、口を開いたのはマリーだった。

「それはつまり、ワタルとの約束を破ったということかのう?」

 マリーは珍しく怒っているようで、ヨナスにそう問う。
 ワタルはギルドに自分の活躍を伏せてくれ、と頼んだがヨナスは喋ってしまった。
 これでは、信用がなくなっても仕方ない。

「俺が言うのも変だが、ヨナスを責めないでほしい。君たちのような新人が入って、柄にもなくはしゃいでしまったようでな。その時酒の席にいたのは、俺とカレンだけだ。他には伝わっていない」
「本当にすまない」
「う、む……そこまで言われるとわしは何も言えん。許すか決めるのはワタルじゃしな」
「俺なら大丈夫だよ。ヨナスさん、頭を上げてください」

 アルマはヨナスを庇い、そのヨナスはワタルに深く頭を下げる。
 ワタルはヨナスに頭を上げるように言って、マリーに後ろに下がってもらう。
 これが意図的に情報を流した、などなら許せるものではない、
 しかし、ヨナスはワタルたちのことを喜んで話したと言う。
 それを聞いて、悪い気はしない。

「ヨナスさんが信用している人なら、俺たちのことを話してくれても構いません。でも、その人たちにも他言しないように言ってくださいね」
「もちろんだ。ありがとう」

 ワタルはヨナスに笑いかけ、ヨナスは礼を言って再び頭を下げる。
 ちなみにその間、エレナはリナと一緒に傍観を決め込んでいた。

「話が逸れたが、ワタルくんには兵士になってもらいたい。だが、素直にはいとは言ってもらえないだろう」
「俺は冒険者ですからね」
「そこで、だ。俺と勝負をしてもらえないだろうか」

 兵士よりも冒険者の方が自由度が高く、やれることも多い。
 兵士は冒険者よりも安全で給料も高いが、ワタルたち3人には冒険者の方が合っていた。

「勝負ですか」
「そうだ。お互い木刀を使い、参ったと言わせた方が勝ち。俺が勝てば、ワタルくんには兵士になってもらう。もし俺が負ければ、なんでも言うことを1つ聞こう」

 それを聞いて、ワタルは考える。
 兵士長と言うからには腕に自信があるのだろうが、リナが言うにはワタルは人間最強らしい。
 それなら、負ける可能性は低いだろう。
 それに、ここで勝てば兵士長に言うことを1つ聞いてもらえる。
 メリットは大きい。

「わかりました。受けましょう」
「本当か! ありがとう!」
「ワタル、いいのか?」
「大丈夫、俺は負けないよ」

 心配して声をかけてくるエレナへ、自信があるように見せる。
 普通ならここで調子に乗って失敗するのだろうが、ワタルは疑り深い。
 自分の力を過信せず、相手の力は常に自分より上だと考える。
 調子に乗って負けるなど、ワタルにはありえなかった。

「それなら、ギルドの地下を使うといい。人払いはしておこう」

 ヨナスはそう言って、椅子から立ち上がりギルドの地下へと向かう。
 これからすぐに始めるようで、アルマとリナもそれに続く。
 ワタルとしても、カレンに治療してもらったばかりなので体の調子はいい。
 心配した表情のエレナとマリーを連れ、ワタルも地下へも向かった。

***

「広さも十分だな。ワタルくん、準備はいいかな?」
「いつでもどうぞ」

 地下に移動して、お互いに木刀を持ったワタルとアルマは対峙していた。
 そこで木刀を構えたアルマにワタルが感じたのは、ノクターンや雷帝にも引けをとらない威圧感だった。
 ワタルも剣道のように木刀を両手で正面に構え、アルマの攻撃に備える。

「では、いかせてもらうぞ」

 地を蹴り突っ込んでくると思ったワタルの予想は、アルマの次の行動ですぐに外れる。
 アルマは地を蹴ると同じ、木刀をワタルに向けて投擲した。
 不意をつかれたものの、ワタルは問題なく木刀を防ぐ。
 だが、それによって一瞬視界を塞がれ、その間にアルマはワタルの懐に潜り込んでいた。

「もらった!」

 低い姿勢から振るった拳が、アルマは直撃すると直感した。
 そのアルマが次に見たのは、ブレたワタルの足と自分の顎を襲った衝撃だった。
 ワタルはアルマを蹴り、それがカウンターとなってアルマを後ろへ吹き飛ばしていた。

「私が心配してたのは、相手が死なないかということなのだが……」

 顎をピンポイントで蹴られたアルマは、気絶し起き上がることはなかった。

「えっと、大丈夫ですか?」
「はぁ……」

 アルマを心配し、駆け寄っていくワタルを見て、ヨナスが大きな溜息をつく。
 リナもマリーもこの結果がわかっていたのか、あーあ、というような顔をしていた。

「この勝負、ワタルの勝ちだな」

 ヨナスのその宣言で、ワタルとアルマの勝負は、ワタルの圧勝で幕を閉じだ。

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