朝起きたら女の子になってた。
花凛さんは知り合いでした。
花凛さんから感じる雰囲気にゾッとする中、夕食会は始まった。花凛さんが発した男の時の名前はみんなには聞こえていなかったようだ。
そして、執事達が料理を持ってくる。
「モツ煮でございます」
(うんうん、モツ煮、モツ煮!)
モツ煮が出された。
(あぁ、最初はお通しか)
渋々納得して、モツ煮をパクリ。
「もぐもぐ」
(美味い)
全員が食べ終わる頃に、また料理が来る。
「キュウリと大根でございます」
(直訳過ぎるな! 確かオードブルなんだから、キュウリと大根のサラダとかあると思うんだ)
何だかんだ思いながらも食べ終わる。
次だ次。
「里芋のクリームポタージュでございます」
(まともなの来た! どれどれ……)
色は白に近い色で香りも良い。
「ズルズル……」
皿を持ち上げてそのまま飲み込んだ。マナーの『マ』の字もどこにもない食べ方だ。因みに沙雪以外はちゃんとスプーンで食べていた。
(うん、美味しい。とろとろでまろやかだ)
次行ってみよ〜
「魚のムニエルでございます」
(うん、魚名言って欲しかった。でも見た目的には、鮭かな)
箸で身を解してみる。
中は柔らかくて、外はパリパリで美味しそうだ。
「もぐもぐ……」
(鮭の味にレモンが効いてて美味い)
それに、骨も全て取られていてスムーズに食べることができた。
次や。
「パイナップルソルベでございます」
パイナップルのシャーベットアイスだった。
(これは口直しってやつだな)
次。
「A5和牛を使ったステーキでございます」
(あ、高そう。これは金に変換して俺の趣味代に投資したい……)
だが、そんなことは叶わないので食べる。
「もぐもぐ……」
(美味い……特にこのかけられているソースが抜群に合っている。流石、豪華な肉だ!)
肉を食べ終わり満足しているところにデザートが来る。
「ストロベリースペシャルでございます」
そのデザートは、イチゴとイチゴのアイスにクリーム、チョコレートがかけられていた。見るからに美味しそうだ。
「あ〜む……」
消えた。
イチゴが消えた。
ほのかな甘味を残しながら、とろとろ消えていった。
「美味しい!」
「良かったわ」
俺の独り言に花凛さんが反応した。俺は気になって花凛さんに視線を向けると、クリームをぺろぺろと舐めていた。しかも、俺の方を見ながら……。
(えっちぃな……)
花凛さんから視線を外すと、最後の料理が運ばれてきた。
「コーヒーとモンブランでございます」
(なんか甘い物食ってばっかだ。まぁ、嬉しいけど)
コーヒーには砂糖ドーン、クリームもドーンと入れる。それを混ぜてからモンブランの上に乗っている栗を食べた。
(うん、栗だ)
それから本体をパクリ。
「ん〜」
(美味しい〜)
モンブランを食べ終わると甘々になったコーヒーで流し込む。
「はぁ〜……お腹いっぱい……」
僅かに膨れ上がったお腹をポンポン叩く。
(食ったからションベンしたいな)
「麗華、トイレは何処にあるんだ?」
「お手洗いは、沙雪さんから見て左側の隅の方にありますわ」
「ありがと」
俺は席を立ち上がって麗華に教えて貰ったトイレに入る。
「やば……」
トイレの中も豪奢過ぎて言葉を失っていた。
しばらくトイレの中を眺めてから個室に入る。
「便器もやべえな」
ウォシュレットは勿論、便器の蓋まで拘っているからもう何も言えん。
用を足すと鍵を開けて個室から出る。
すると、花凛さんがもう一方の個室の方で俺が出て来るのをスタンバイして待っていた。
そこで俺は先程の件について思い出した。しかし、ここは様子を伺ってみることにした。
「花凛さんもトイレをしに?」
「違うわ。樹君……いいえ、樹先輩と二人きりになれるのを待っていたの」
「……やっぱり、さっきのはって先輩?  俺に後輩なんて変わった奴しかいないぞ。花凛さんみたいな美人は後輩ではない」
「嬉しいこと言ってくれますね。本当に覚えていませんか?」
花凛さんは整っている髪をわざとぼさぼさにして、ポケットから伊達眼鏡をかけた。
「その姿はもしかして、地味っ子ちゃんか?」
「そうです。先輩と同じ図書委員でジミーちゃんと呼ばれていました」
「そうか。というか、どうして俺が樹だと気付いた?」
俺のその問いには先程の美人モードに戻ってから応えた。
「麗華が友達の話をよく自慢してくるの。その時に先輩の妹、上代 紗香さんと友達になったことを聞いたことがあった。でも、そこではあまり気にしてはいなかったわ」
「じゃあ、どうして?」
「ある転校生がやって来たことを麗華から聞いた。その名前は、上代 沙雪。紗香さんの妹と聞いてもピンと来なかったわ。だって、先輩は一人しか妹さんはいないと言っていたのを思い出したから」
「それだけで俺が樹だと?」
「確信したのは先程よ。私がクリームを舐めているところを先輩は見た時、恥ずかしそうにしていたわね」
「あれは……」
「えろいですよね?」
「一々言うな。というか、口調が安定してねぇな」
「分かっています。自分でもそのくらいは。先輩と会えて嬉しい気持ちが収まらないんです。先輩の姉ーー沙耶先輩の件もあってこの気持ちは封じてきました。でも今は、大丈夫ですよね。
私ーー天童院 花凛は上代 沙雪に婚約を前提にお付き合いを申し込みます」
「は?」
この日、俺はトイレの中で女性から初告白を受けた。
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