部活の後輩と付き合ってみた

きりんのつばさ

俺には無理







「い、いや……そこまで凛子は太ってないと思うが……」
とりあえず宥めてみることにしてみたが
「“そこまで”って事は先輩も私が太っているって
思ってるんですね……はぁ……そうですよね……」
「あっ、すまん……」
言葉のチョイスを間違えてしまった様だ。
こういう時、国木田先輩や織田なら上手い言い方を
思いついて言えるのだろうけど元々コミュ障の俺には
中々辛いものがある。
「七海が羨ましいな……なんなのあのスタイル……
反則的でしょ……それに与謝野先輩や樋口先輩は
高身長でモデルみたいだし……それに比べて私は……
チビでデブで根暗で……はぁ……嫌だなぁ……」
と言うと凛子はふと立ち上がり歩き始めた。
「あ、あの凛子さん〜?」
「……」
俺が彼女に呼びかけても彼女は返事をしなかった。
そしてそのままリビングを出て行き
パタン
この家のどこかのドアが閉まる音がした。
どうやら凛子はどこかの部屋に入ったみたいだ。
1人でポツンと取り残される俺。
「……
……
……いやいや!? 待てい!!」
俺は慌てて彼女を追いかける事にした。
と言っても彼女がどこに入ったのか見ていないから
分からない。だがその時、ドアプレートに“凛子”という
書いている部屋を見つけた。
「これか……?  とりあえず開けてみるか」
悩んでいても仕方ないと思いドアノブに手をかけて
開けてみるとそこにはまたまた布団に包まった
凛子だろうと思われる物体があった。
……布団の端から彼女が着ていた怪獣の着ぐるみの
尻尾が見えているからそう推測した。
「あ、あの……凛子さん?」
「はい、なんですか?」
「何をしてらっしゃるのかな……?」
「見て分かりませんか? 布団に包まっているんですよ。
先輩に見せられない身体なので」
「いやいやそこまで気にしなくていいと思うけど……」
凛子は平塚や与謝野とは違う魅力があるため
簡単には比べられない。
……俺個人的には凛子に思っ切り軍配を上げるが。
「すみません先輩、チビでデブで……」
「とりあえず布団から出てこないか?
俺は凛子と顔を合わして話したい」
「先輩が良くても私が出たくないんです……
なんか先輩に合わす顔が無くて……」
「凛子……」
「今日なんてデートに寝坊して……その挙句
勝手に自爆して今に至りますし……」
「自爆はいつもでは……?」
大体凛子と会うと一回以上は暴走している気がする。
「ですよね……私って何してるんだろ……」
とさっきよりも明らかに声のトーンが下がった。
「あっ、しまった」
俺って本当にこういうのを苦手なんだなと感じた。
「先輩の彼女ですみません……」
と布団に包まったまんま頭をペコリと下げる凛子。
布団が頭を下げるって結構奇妙な光景だなぁ……
なんて思っていた。
「俺こそ上手く言えなくてすまん……
国木田先輩なら上手い風に言えるんだろうけどな……」
あの先輩は殆ど失言をしない。
その人が余程嫌いでなければ傷つける様な発言を
あの先輩はしないからだ。
それに比べて俺はしょっちゅう失言をする。
「いや結城先輩にはいいところありますよ……
それに比べて私は……はぁ……」
「い、いやだな……」
……もしかしてこの状態は俺が何言っても
凛子は落ち込むのでは?
なんていう考えが頭をよぎった。

ーーでは、どうしたらいいのか?

俺は頭の中で必死に考えてみた。
普段はあまり使わない様な神経までフル動員して
この場合の一番いい解決策を考えてみた。
そしてとある結論に至った。
「なぁ凛子」
「なんですか……?」
「ちょっと失礼」
俺はそう言うと凛子が包まっている布団に手をかけて……
「どりゃぁーー!!」
思っ切り力を込めて凛子から剥がした。
「えっ!? えっ!? 」
いきなりの出来事に鳩が豆鉄砲を食らった様な顔を
している凛子を尻目に、俺は剥がした布団を掴んだまま
彼女の隣に座り、その上から布団を凛子にも
かかるように被った。
こうすると布団にの中には俺と凛子の空間が出来上がる。
「よいしょっと」
「な、な、な、何をしているんですか!?」
「何って布団を被っているだけだが」
(やべぇ……凛子の匂いが布団からめっちゃする……
しかもなかなか良い匂いだし……)
さらに今は隣には凛子本人がいるもんだから
匂いの強さを強く感じる。
「今さ、俺考えたんだよ」
「何をですか……?」
「どうやったら凛子を励ませるかって」
「余計な気をまわしてしまいすみません」
「いいや、いいって。それで普段は使わない様な
ところまでフルに動員して考えたんだよ。
そしてとある結論に至った」
「結論ですか……?」
「そう、結論。そしてその結論なんだけどな
ーー俺に考えるのは無理、という結論だった」
「……
……
……
……はい?」
「いや、だから俺は考えるのは向いてないみたいだ。
どう考えても思いつかなかった。
うん、俺やっぱ頭使うの無理だわ!!」
俺はそうあっけらかんに言い放った。
「いやいや先輩!?
その結論ってダメな結論ですよね!?」
さっきまで落ち込んでいた凛子の声のトーンが
一気に上がり始めた。
「いや〜やっぱ頭使うのは国木田先輩や織田に
任せた方が一番いいみたいだな!!
今の考えだけで頭がパンクしそうだわ!!」
既に今、若干だが頭痛がきている。
「先輩もちょっとは考えましょうよ!!
というかあっけらかんに言い過ぎですよ!!」
「ハハッ、すまん!!これが性分なもんでな!! 」
「そんなにはっきりと言わないでくださいよ……
先輩も良いところあるんですから……」
「ーーならそれって凛子にも言えないか?」
「はい?」
「いや、だからな。凛子は俺が頭を使えないけど
良いところがあるって知ってんだろ?」
「え、えぇ……まぁ」
「なら俺が凛子にそう思っていても不思議じゃないよな?
例えば……暴走するけど可愛いとか」
「か、可愛い……!?」
布団の中なので凛子が今どんな顔をしているか
分からないが多分顔が真っ赤だと思う。
「まぁ……俺が言いたいのはその人が相手の事を
どう思うかはその相手しか分からないってことだ」
相手がどう思っているかはどう頑張っても分からない。
ならある程度は無視しないとやっていけないだろう。
……というかそうじゃないと俺なんか他人から
ロクな印象持たれていない気がするからな!!
「結城先輩……」
「そういう事だ。少なからず俺は凛子の事を
可愛いって思っているからな」
「そ、それはありがとうございます……」
「どうしたしまして……?」
「……」
「……」
急に黙る俺達。
「クスッ」
「あっ、笑った」
「結城先輩ありがとうございますね」
「いや、俺は礼を言われる事はしてないぞ」
「私がお礼を言いたいから言うだけですよ。
ダメですか?」
「いや、悪い気分じゃない」
人に礼を言われて嬉しくない人がいるだろうか?
あまりいない気がする。
「というか先輩って頭使ってますよね?」
「そりゃ最低限は」
「そう言う意味で言ったわけじゃないんですけどね……
まぁいいです。そして先輩」
「ん? なんだ?」
俺は凛子が言う次の言葉に驚くのであった。

「ーー私を抱いてくれませんか?」





次回でこの2人の話はおしまいです。



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