異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~
Ex8-3 ようこそ、愛に満ちた素晴らしき世界へ
つまり、私は父にとって母の代用品であり。
そして、母にとっては父との関係を終焉に導いた忌むべき存在なのです。
自分を産んだ両親から疎まれて、子供が歪まないわけがありません。
全ての責任を彼女たちに押し付けるつもりはありませんが、そのうちの何割かに関与していることは否定しようが無いはずなのです。
「それでも、悪いのはあんたよ。良太郎を殺した、私と良太郎をひきさいた、あんたさえ産まれなければこんなことにはならなかったのよ!」
ベッドの上で四肢を拘束された彼女は、悪意に満ちた顔で私にそう言い捨てました。
それでも否定し、私を拒む母。
川底に溜まったヘドロのような言葉は、かつての私なら心を折るに十分すぎるほどの醜悪さを有しているのでしょう。
しかし、愛と力と勇気と仲間と――そんな少年漫画を想起させる後ろ盾を得た私には、ただの強がりとしか思えませんでした。
父の死を知らされ、加えて娘に唇を奪われ動揺した彼女が、それをごまかすための虚勢。
「な……なによ、なに笑ってんのよ……」
「いえ、昔はあれほど大きく見えた母親が、今はとても矮小なものに見えたので」
成長したと言うより、変貌したと言うべきなのでしょう。
脅威だった存在も、今や私の前ではか弱い1人の女性に過ぎないのですね。
そう思うと、急に彼女のことが、今まで以上に愛おしく思えてきました。
人の身であれば憎しみばかりに捕らわれていたはずです、しかし半吸血鬼となった私なら、こんな親すら愛することが出来る。
私はその素晴らしさを母にもわかって欲しくて、首を指先で撫でながら言いました。
「ほんの少し爪を立てるだけで、私はお母さんを殺すことができる」
「っ……」
薄い肌の下に指を潜り込ませ、肉をくちゅくちゅと穿孔して、動脈をぷつりと切断する。
私が母の命を奪うのに必要なのは、たったそれだけの、簡易な動作。
「でも、そうはしないんです。私は生まれ変わって、以前の自分よりずっと優しくなれました。あなたのようなクズみたいな親でも慈しむほどに」
「生まれ、変わった?」
「ええ、吸血鬼になりました」
そう言って、私は人差し指で口の端を持ち上げ、鋭く尖った牙を見せつけました。
吸血鬼イコール空想の怪物というイメージしかない母は、ぽかんとした顔をしています。
「頭おかしいんじゃないの?」
「お母さんがこの事実を受け入れようが受け入れまいがどちらでも構いません、結果は変わりませんから。これから、私はお母さんを魔法の力を使って魅了します。お父さんのことなんて忘れて、私のことだけを愛するようになるんです」
「そ、そんなこと……」
出来るわけがない、この世界の人間はみなそう決めつける。
自分の両手足を拘束する影を見てもなお、非現実的な力の存在を認めようとはしないんです。
その身をもって体感して、初めて認識して、けれどその時にはもう手遅れで。
母とて例外ではないのでしょう。
こうして触れ合っている間にも、私の魔力は母に注がれ、少しずつ心は私の方へと手繰り寄せられているというのに。
「最初はほんの小さな違和感です。こうして私に触れられていて、お母さんは何かを感じませんか?」
私が母の頬を撫でると、彼女は少し間を空けてから、私を睨みつけました。
「……気持ち悪さ、だけよ」
「くすくすくす。そうですね、だけ、ですね」
本当に彼女は気づいていないのでしょう。
ですが、返答に若干のタイムラグが生じたことこそが、心理の変化を表しているんです。
反射的に私を拒絶していた母はもう居ません。
私の魂は、表面のほんの数ミリだけとはいえ、すでに彼女の魂の内側へと侵入しつつあります。
揉みしだいて、かき混ぜて、すぐに喘がせてあげますから。
それから私は数十分間、母の頬に触れたまま、至近距離で見つめ合いました。
指先と手のひらに感じる体温と、不規則な生活からかさついた肌の感触に、私は一切の懐かしさを感じません。
幼いころに母に抱かれた子供は、みなそのぬくもりに幼い頃を思い出すと聞いたような気がするのですが。
やはり愛情を注がれずに育つと他人から聞いた話はあてになりませんね。
私の方を睨みつけていた彼女でしたが、無言の時間が続くに連れて少しずつ憎悪の勢いは衰え、下火になっていきます。
すると、次に浮上してくるのは”不安”です。
全く感情の読めない私に対し、母の強がりの仮面は剥がれ始め、次第に恐怖が顔を見せ始めていました。
魔法の力は本当に存在するのではないか、自分の心から良太郎の存在が薄れつつあるような気がするのは考えすぎだろうか。
そんな考えが頭の中をぐるぐると回って、負のスパイラルが色とりどりの感情を撹拌し、黒に染めていくのです。
さらに時間は経過します。
怯え、少し色味の失せた顔色していた母。
私はそんな彼女を慈しむように、頬と頬を触れ合わせてみたり、触れるだけのキスを何度も落としました。
始めの頃は口づけの度に顔をしかめていた母も、慣れてきたのか、はたまたまんざらでもないと思うようになったのか、浮かぶ感情が嫌悪的な物ばかりでは無くなってきました。
そういったスキンシップを繰り返すうちに、母の頬が血色の良さを取り戻していきます。
さらには肌色を通り過ぎ、微かに桃色に染まることも――
肌に触れる手のひらが、体温の上昇と、血の巡りが活発になっていくのを、わずかながら、はっきりと感じ取っていました。
「お母さん、好きです。大好きです」
久しぶりに発した私の言葉は、果たして母の心に染み込んでくれたでしょうか。
面と向かってぶつけられる好意に、彼女は目をそらしました。
恥じらったのです。
娘の愛の告白に対して、諌めるでもなければ忌避するでもなく、羞恥したというのです。
「もっとお母さんと触れ合いたい。ねえお母さん、キス、してもいいですか?」
「さっきまで、さんざんしてたじゃない……」
「お母さんから”いいよ”と言って欲しいんです、わがままが過ぎるでしょうか」
可愛い娘からのおねだりに、思わず母は破顔し、”仕方ないわね”と言わんばかりに苦笑して――次の瞬間、何かを思い出したかのように目を見開きました。
十中八九、父のことでしょう。
惜しかったですね、さっきのでキスまで言っていれば、そのまま虜にできそうだったのに。
「千草、本気なのね。本気で……私の中から、良太郎を奪おうとしてるのね?」
「そう言いましたよ、大好きなお母さん」
髪に触れる私を、またもやふりだしに戻ったように睨みつける母。
ですが言うまでもなく、その目には、最初の頃ほどの力は宿っていません。
もう彼女は、私を完全に憎むことは出来ない。
私がクラスメイトや両親のせいで完全なる幸福を得ることが出来なかったように、いかなる憎悪にも甘い愛情がつきまとう。
中途半端な状態では、それが不愉快な存在に思えてならないはずです。
そんな状況から母を救うためにも、私は魅了を完遂せねばならない。
「化物め、やっぱりあんたなんて産むんじゃなかったわ」
「そうは言っても、知らない男の前で股を開いて体液を注ぎ込まれて喘いでよがって、身勝手に私をこの腐った世界に産み落としたのはお母さんじゃないですか」
「子供を作るつもりなんて無かった! 産みたくなかったのよ、私だって!」
似たような言葉を繰り返すことになりますが、勝手に股を開いておいて本当に無責任ですね。
まともに避妊もしてないくせに、それで子供を作るつもりが無かったなどと――盲目的に母を愛していた父ですら納得できませんよ、そんな言い訳。
「私だって生まれたくありませんでしたよ」
言った直後に、あの辛かった人間だった頃の記憶が蘇り、つい下唇を噛んでしまいました。
本気で消えてしまいたいと思っていたんです。
「まあ、それも今は過去の話ですが」
けれど今は、何があっても生きていなければならないと思っています。
エリスやみゃー姉、その他にも沢山の、私を愛してくれる愛しい仲間たちのためにも。
「千草が何を思ってようがどうでもいい。私と良太郎を引き裂いたあんたなんかに、大切な想いを奪われてたまるもんですか!」
まるで私を悪役扱いしているようなセリフに苦笑いし、私はまた彼女の頬に手を伸ばしました。
一見して、今の母は強い覚悟を持っているかのような表情をしていますが、そんなものは無駄です。
衣服越しではありますが、乳房と乳房を重ねて、互いの心音を絡ませました。
足も絡めて、太ももの敏感な肌同士を触れ合わせると、こそばゆさに母の喉が動きます。
”もう甘い声だけは出さない”、そう心に決めたのか、口は一文字に結ばれたままです。
開かれる様子のないそこに、2、3度口づけし、さらに軽く舐め”また後でね”と挨拶すると、私は耳へのキスを始めました。
フチを舐めると、微かに母の体が震え、体温が上昇します。
反応は悪くありません。
私はさらに耳への愛撫を続けつつ、「愛しています」「大好きです」などとストレートな好意をぶつけました。
紅潮した母の顔は、年相応に肌の衰えは見えるものの、それでも素直に”可愛らしい”と思えるほどに可憐です。
率直に、早く抱いて、めちゃくちゃに気持ちよくしてあげたい。
「ふー……ふー……」
母も私の愛撫に感じずにはいられないようで、大きく鼻で呼吸しています。
耳ではこれ以上の反応は得られないと判断。
顔の輪郭を降下し、首に口づけ、さらには服の胸元をはだけさせて、鎖骨や谷間に口付けます。
唇に当たる胸の柔らかの感触が心地よくて、私は思わずそこに吸い付き、キスマークを付けてしまいました。
「っ……ん、ふ……っ」
ふふふ。声、我慢できなくなってきたみたいですね。
「ぅ、うぅ……ん、く……」
鎖骨を舐めると、さらに目をきゅっと強くつむります。
そんなことしたって、耐えられるわけ無いのに。
「りょ……たろ……」
とっくに死んだ父の名を呼び続ける彼女はあまりに哀れで、醜くて、だからこそ私の庇護欲を掻き立てるのです。
私は胸から顔を離し、そこに刻まれた赤い跡に満足気に微笑むと、今度は彼女の右手を取りました。
もちろん拘束は解除して、なのですが――人差し指に口付けられても、母は腕に力を込める様子がありません。
どうやら、”力づくで抵抗する”という選択肢が頭からすっぽりと消えてしまっているようで。
「はぷ……むちゅ、れる……じゅ、ちゅぱっ……ぷちゅう……っ」
「ぁ、んっ!? ふっ、ふうぅっ……!」
私がおもむろに、指や、指同士の間を舐めしゃぶると、母は驚愕のあまり思わず口を開いてしまいました。
そこから漏れた喘ぎ声を、私は聴き逃しません。
「んちゅぅ……ふ、お母さん、さっきの声……ちゅぱっ、んぇ……もっろ、きかひぇてくらさい……っ」
母は必死に首を横に振って拒みます。
きっと、頭の中では繰り返し『良太郎、良太郎、良太郎っ』と念仏のように唱えているのでしょう。
けれど必死になっているということは、追い詰められている証でもあります。
「おか、ひゃん、はぷじゅぷっ、ちゅ、ぱ……ぺちゃ、ちゅ、ぱ……しゅき、れひゅっ……あらひとぉ、あいひあいま……しょ?」
「いやぁっ、いやよっ、いやなのぉっ! ん、く、あ……はぁ、良太郎……たすけて、りょうたろ……んぁっ!」
第一、私は母の手を舐めているだけだというのに。
何がそんなに、彼女を懸命にさせるのでしょうか。
こんな場所を舐められるだけで喘いでしまうというのはつまり、それだけ私に欲情しているということではないでしょうか。
「ふ、んぅ……おかーさんの手、私の涎でべたべたになっちゃいましたね」
「きたない、わ……」
「なら、お母さんの口できれいきれいしないと」
唾液にまみれた母の手を、彼女の口元まで移動させます。
てらつくそれを見て、母としては本来、いくら娘のものとは言え嫌悪感を感じるべきもののはずです。
しかし鎌首をもたげるのは、想像していたのと全く別の代物。
彼女の目には今、私の体液が甘露のように見えているに違いありません。
その証拠に、ほら、自分の手を見る目がとろんとしてきて、順調に正気を失っているようですから。
ある程度まで口に近づくと、あとは母が自分の意思で唇まで寄せ、赤い舌を伸ばします。
私もその様を、口を歪めながら、自分の体を抱きしめ、酷く興奮した状態で見つめていました。
そしてついに、母の味覚器官が――私の、その手にまとわりついた唾液に、触れたのです。
「ぁ……あぁ……」
開かれた母の口から、感嘆の声が溢れました。
すぐさま味の感想でも聞きたい所ですが、まずは私の体から分泌されたものを、思う存分味わって欲しい。
私の想いが届いたのか、彼女はさらに大胆に自らの手を舐め始めます。
「はぁ……ん、ちゅ、ぱっ……んくっ、ふううぅぅんっ……!」
べっとりと滴る私の涎が、母の淫らな舌に絡め取られ、体内へと入っていく。
その度に、彼女は陶酔して、体が熱くなって、ちらりちらりと私の方に向けられる視線が誘惑しているように見えて、もう、我慢できませんでした。
手のひらを開いて、指と指の間に舌を差し込む母。
私はそこに顔を近づけると、なんと、指越しに――舌と舌を、触れ合わせたのです。
産まれた時以来の、粘膜接触。
「あ、ふ……ぺちゃっ、にちゅ、ぴちゃっ……」
母も自らの意思で舌を絡めてくれて、私は幸せの絶頂にありました。
元は彼女の子宮から生まれ落ちてきた私なわけですから、その時に走った、ぴりりとした肉体全体を覆う落雷じみた快楽は、還るべき場所に還ってくることが出来た、という肉体の悦びを反映したものだったのかもしれません。
これがあるべき姿だった、もっと早くにこうしておくべきだった。
私と母は強烈な繋がりにより共鳴し、きっと同時にそう考えていたはずでした。
親子は、例え離れ離れで仲が悪くて憎み合っていたとしても、愛し合うべきなのです。
それを思い知り、今までの人生の不幸を嘆き、そしてこれからの人生を共に歩むことを誓う。
親子として、恋人のように、夫婦よりも夫婦らしく。
いつの間にか母の手は私たちの間から消え、背中に回されていました。
抱き寄せられて、深く唇を重ねての、愛を確かめ合うキス。
隙間なく、良太郎などという汚らわしい生命が入る余地など最初から無かったのだと主張するかのような、熱烈な交わり。
「ちゅっぷ、は、むちゅぅ……っ、ちゅっ、じゅぱっ、ちゅぷぅ、ぁ、んっ……」
母が私の唇や舌、体液を求めてくれるという、肉体的にも、精神的にもみされた至上の快楽。
これを知ったらもう、手放すことはできません。
微かに唇が離れた瞬間に、母はおそらく今までの人生でもっとも私を愛おしく思いながら、そして人生で初めて私だけのことを想いながら「千草ぁっ」と名前を呼びます。
私も同じように、ようやく娘としてまっとうに――いや、まっとう以上に母を愛しながら呼ぶのです、「おかあさぁんっ」と。
そう、そう、そう、これでいい。
償いが死であるのは、それ以外に何も出来ずに何も価値がないオスだけがやるべきことであって、母は――女は、愛し合って、幸せを分かち合って、不幸を打ち消すことで償わなければ。
それに、私は思うんです。
きっとこれは、『はじめましてお母さん』なんだ、って。
感動のあまり流れている涙は、私はようやくこの世に産まれてきたんだって、私の魂が叫んでるからだ、って。
「あん……は……千草、私……ごめんねぇ、こんなに可愛い娘に、沢山ひどいことをして、沢山ひどいことを言って」
「私を愛してくれるのなら、全部許しちゃいます。ところでお母さん、お父さんのこと……まだ愛してますか?」
最初にベッドに押し倒した時と同じように、私は母の頬を両手で包み込んだ状態で問いかけました。
すると母は、母らしい、慈愛に満ちた優しげな微笑で言うのです。
「そんなわけないじゃない。私が愛しているのは娘である千草、あなただけよ」
それはおそらく、私がこれまでの人生でずっと待ち望んでいた言葉でした。
もし一度でも、人間を辞める前にその言葉を聞けていたのならば、私の――あるいは人類の歴史は変わっていたのかもしれません。
ですが今だったからこそ、私は人の身では得られなかった幸せを得ることが出来た。
だから感謝しましょう。
母が私を初めて愛してくれたのが、今日だったことに。
「日向良太郎という人間を愛していたんじゃなかったんですか?」
嬉しくて、調子に乗った私は、さらに母に聞いてしまいます。
すると彼女は「ふふっ」と笑ってから言いました。
「今になって思えば、なんであんな男を好きになったのかわからないわ。千草の親でもないくせに、ね?」
「そうですよね……ふふふ、そうあるべきですよね。良かった、私の大好きなお母さんは、やっぱり世界で一番素敵なお母さんでした」
「あんまり褒められると照れるわ……何か欲しいものでもあるのかしら」
「はい、ありますよ」
印は体のどこかに浮かび上がっているはず。
服を脱がせればそれを確認することもできましょうが、母の裸を見るのは後のお楽しみにしておきたいのです。
全てを奪い、本当の意味で親子になった後で、改めて肉と肉を絡め合うために。
だから、まずは、ここから初めましょう。
「血を、吸わせてください。そしてお母さんに、私と同じ半吸血鬼になって欲しいんです」
一瞬ぽかんとした表情を浮かべた母でしたが、すぐに何かを思い出したようで。
おそらく、私が自分を”吸血鬼”と名乗ったことを忘れていたのでしょう。
あるいは、これっぽっちも信じていなかったのでしょう。
しかし実際、母は魅了されて、娘を見捨てても何ら罪悪感を抱かないほど盲目的に愛していた父への想いを綺麗さっぱり忘れたわけですから、信じるしかありません。
「よくわからないけど……千草と同じになれるなら、私もそうして欲しいわ。私はどうしたらいいの? 何か準備することはある?」
「いいえ、そのままで。少しだけ首を傾けてくれるだけでいいんです」
「こう?」
「はい、ありがとうございます。ようやくお母さんの血が飲めると思うと、私、ゾクゾクしてきました」
「私も……私の血が千草の中に入ると思うと、ドキドキしてきちゃった」
血を失うという状況に対する恐怖は、全く無い様子でした。
これが母の愛情というやつでしょうか。
私を包み込むような深い思いやりに、また涙が溢れてしまいそうになります。
ですが、せっかくの吸血なんですし、血を美味しく味わうためには楽しい気分で居るべきなんです。
私はぐっと涙をこらえて、母の首に口付けました。
母はそんな私の頭を、優しく抱きしめます。
まるで子宮の中に還ったかのような、優しいぬくもりに包まれながら、私は肌を突き破り――酷く生臭い血液を啜ります。
けれど、母の物だと思うと甘く感じてしまいます。
ごくりごくりと喉を鳴らす度に、肌が白くなり、皺も失せ若さを取り戻し、肉々しい、抱かれるためにあるような肉体に変貌していく母を見て、私は絶頂にも似た愉悦を覚えるのでした。
◆◆◆
私が日本に戻ってくるにあたって、不安材料がいくつかあって。
例えば、異世界では存在しなかった意外な道具が私たちの弱点になるんじゃないか、とか。
例えば、現代兵器にはさすがに魔法でも太刀打ちできないんじゃないか、とか。
他にも沢山、エリスたちにも伝えていない悩みだって色々あったのですが――
程なくして、半吸血鬼の存在は日本中に認知されるようになっていきました。
人間とほぼ見た目に違いはないモンスターの登場に、国内は大騒ぎ。
非常事態宣言が出され、他国にも協力を要請し、軍まで出てきてどんどん事は大きくなっていったわけですが。
止められるわけが無かったんです。
やけくそ気味に銃を乱射しても、無許可で爆撃しても、最終手段でミサイルを発射しても、影で絡め取って、くしゃりと潰してしまえば全部台無し。
人間と半吸血鬼を判別する術を研究していた機関は優先的に潰され、女性をスパイとして使うことで内部情報もだだ漏れでした。
やがて人類は抵抗を諦め、投降し、『決められた区域から出なければ見逃してあげます』と協定を結び、そして区域ごと残った男を全て殺すことになるのですが――まあどうでもいいですね。
それよりも。
私にとって重要なことは、もう少しで自分が母親になるということでした。
……この場合は父親なんでしょうか。
いや、父親なんて概念、存在するだけ気持ち悪いですね、あれの顔を思い出してしまいますから。
やはり母親で良いでしょう。
というわけで、私が妊娠したわけじゃないのですが、母親ということで。
「この場合、私はどうなるのかしら? お母さん? それともおばあちゃん?」
大きなお腹をさすりながら、母が言いました。
彼女はマタニティ用の半分透けたネグリジェをまとって、ベッドの縁に腰掛けています。
「千秋さんは綺麗だから、おばあちゃんって感じじゃないですよねー」
その横に座る、同じくお腹の膨らんだエリスが言いました。
「もうひっくるめて、ちーちゃんのお嫁さんで良いんじゃないでしょうか。どうせ産まれてきた子供も、ちーちゃんの子供を産むことになるんでしょうし」
さらにエリスの隣で、妊娠したみゃー姉が言いました。
「それもそうねぇ」
「呼び方を決めてもすぐわかんなくなっちゃいそうだもんね」
「6人も相手をするとなると、ちーちゃんの体が持つか心配だけど」
言うまでもなく、3人が孕んでいるのは私の子供で、出産まですでに一ヶ月を切った状況でした。
最初に母を紹介した時は、特にみゃー姉は驚いた様子でしたが、今ではすっかり打ち解けた様子で、妊婦3人で仲良くしています。
私が居ない時は、胎教代わりにと互いに慰めあっているようで。
行為の最中に、私そっちのけで盛り上がられたりすると、こちらが嫉妬してしまうほどです。
「子供を抱くとか、まだ気が早いですよ。まずは赤ちゃんのお世話から考えないと」
気の早い彼女たちに私が軽く苦言を呈すると、母が反論しました。
「赤ちゃんの頃が一番知識の吸収が早いんだから、できるだけ淫乱な子供に育つように、英才教育も必要よ?」
「わざわざそんなことをしなくても、ある程度大きくなってからでも躾ける自信はありますよ。それに、私たちの子供なんですから、そこは心配要らないと思いますが」
「確かにお姉様の言うことにも一理ある……」
「あはは、頭の中、今日はどうやって気持ちよくなるかしか考えて無いもんねぇ、ちーちゃんも私たちも」
今だって実際、メスの匂いをぷんぷんさせていて、こうして顔を合わせて話しているだけなのに、体はとっくに発情しきっています。
「そういえば、産まれたあとと言えば――今度は千草を孕ませるって話だったけど、最初は誰にするか決めた?」
そう言えば、そんなことも言ってましたね。
3人の子供を妊娠してみたいのは確かですが、しかし……誰かを選べと言われましても。
一番最初に愛し合ったエリスに、小さい頃からずっと好きだったみゃー姉に、ようやく結ばれたお母さん。
優劣なんて付けられるわけがありません。
私は「んー……」と唸りながら悩み、その末に出した答えはやはり――
「誰かなんて選べません」
優柔不断とも取れるものでした。
しかし、3人を平等に愛していることは事実で、私はこうも思うのです。
「ですから、3人に同時に愛してもらって、注いでもらって、産まれた子はみんなの子供ということで良いんじゃないでしょうか。これから何人も産むことになるんですし」
みゃー姉も同じようなこと言ってましたよね。
私たちの時間は永遠に等しく、その間ずっと愛し合うのなら、それこそ学校が作れるぐらい沢山の子供が産まれるはず。
夢なんかじゃありません、それは実現する未来の予想図。
だって、いつか仲違いするとか、性欲が無くなるとか、離別するとか、そんなこと考えないで良いんですから。
人間と違って。
聖職者は子どもたちに救済と快楽を与え続け。
3人になった姉妹は日々互いに立場を変えながら戯れを愉しみ。
魔女と半吸血鬼に救われた少女は、子どもたちに囲まれながら、理想以上の家庭を作り。
優しき母とその娘たちは、毎日欠かさず家族団欒を続け。
過ちを認め、償ったクラスメイトたちは、充実したペットライフを送り。
異世界でも、この日本でも、そして世界でも、一度築き上げられた人を想う気持ちは、二度と崩れ落ちない。
砂上の楼閣なんかじゃない、机上の空論なんかでもない。
”永遠の愛”を、理想だと、夢物語だと切り捨てる時代は終わったんです。
だって、ここはもう、人の世ではないのですから。
「ふふっ、そうね、千草の言う通りだわ」
「じゃあ今日は、私たちがお姉様のことを喘がせていいってこと?」
「ちーちゃんって、毎回文句を言う割には、私たちに好きにされるの、結構気に入ってるよね」
彼女たちの表情が熱を帯び、揃って蠱惑的な笑みを浮かべます。
向けられる肉欲の情動に、私も背筋がぞくりとするような、”求められる悦び”を感じ。
そして纏った衣服を脱ぎ去って、恋人、あるいは伴侶の前に、肉体を晒すのです。
すると植えた肉食獣のように、みなが私の体を貪り――部屋に、嬌声が響きます。
私たちだけではありません。
世界に存在することを許された全ての命は、救済の名の下に同じ形に変わって、砂糖を溶かしたようなドロドロの底なし沼の中で、溺れ続けるのです。
今日も、世界は例外なく幸福で満ちている――
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コメント
屠龍♪
やはりいつ読んでも良い作品です。ドキドキやキュンキュンするストーリーに惚れました。
ノベルバユーザー67056
とてもユニークな作品でとても面白いかったです。お疲れ様でした。
ノベルバユーザー151198
とてもとてもとても楽しく拝読させていただきました。自分は吸血鬼モノが大好きで興味本意で読ませて頂いたのですが、世界観も物語も自分の趣味ど真ん中でとても心地の良い余韻と共に読ませて頂きました。特に正しいとも間違いとも言える吸血鬼の価値観、そして醜い人間の矛盾などがとても印象深く大変面白かったです。こういう感じの作品はあまり知らないのでとても幸せな気持ちになれました。こんなにも素敵な物語と素敵な余韻を感じさせて頂いて本当に有難うございました。
トリュウ♪
いい作品でした。次回の作品待ってます。百合小説は最高ですね。本になったら絶対全巻買っちゃいますね。これからもいい作品待ってます。頑張ってください。