異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~

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23 憎悪と愛情は等価である

 




「んー……」
「どうしたの、ちーちゃん」

 私はみゃー姉の膝を枕代わりにしながら、顎に人差し指を置いて考え込んでいました。
 ここは教会の奥にある部屋の一室、そこにあるソファで私たちはくつろいでいます。
 脳内会議の議題は、最近仲間が増えて、教会が手狭になってきたということ。

「そろそろ引っ越しを考えないといけなのではないかと思ってまして」
「確かに人数増えてきたもんね、今はまだ、いつもくっついてるから平気だけど」
「……そう言えば、昨晩はエリスと寝たんですよね、どうでしたか?」
「どうって……良かった、としか言えないかな。ナナリーにレリィちゃんやミリィちゃん、あとアイにナナリーにチェルシーちゃん。みんな素敵だったわ」
「それならよかった」

 私は息を吐いて安堵しました。
 どうやらみゃー姉も、ここでの半吸血鬼デミヴァンプとしての生活にすっかり適応したようです。
 ……と、脱線もそこまでにして。

「それで引っ越しの話なんですが」
「ああ、そうそう、そうだったね。で、どうするの? アイの屋敷でも借りる?」
「それなんですが、どうせ仲間はこれからもっと増えていくんですから、盛大に場所を奪ってしまってもいいんじゃないかと思ってまして」
「盛大に……?」

 首を傾げるみゃー姉の目をしっかりと見ながら、私は不敵な笑みを浮かべて言います。

「王城ですよ。国を、世界を変えるなら、その象徴を乗っ取ってしまうのが一番はやいじゃないですか」
「もしかして……私たちと一緒に転移してきた子たちの始末のついでに?」
「それを見極めるという理由もありますし、何より――すでに種は蒔いていますから」

 そう言って私は目を閉じました。
 浮かぶのは、エリスが無茶をしたあの夜、私と対峙した1人の少女の姿。
 親友の名前を付けた人形を介してでしか、他人と会話ができなかった可哀想な女の子。
 思えばあの黒猫人形、リーナという名前はリリーナに似ていますが、その心はリリーナの方がずっと強固。
 レイアの心は砂上の楼閣めいて弱く、ちょっとした刺激で崩れ落ちてしまう。
 今夜もきっと――くすくす、あの夜のことを思い出して、快楽と悔恨のはざまで苦しんでいるのかもしれませんね。



 ◆◆◆



 ――故郷が吸血鬼の手で滅ぼされたのは、いつのことだっけ。

 今でも毎晩のように夢に見る。
 あの日の記憶、私が全てを失った日のこと。

 私には親友が居た。
 名前はリーナ、この黒猫人形の本来の持ち主。
 私は彼女と毎日のように遊んでいて、私は彼女が大好きで、彼女も私が大好きだった。
 私たちは周囲から呆れられるほど中が良くて、毎日のように指を絡めて約束をしていた。

『ボクとレイアは、ずっといっしょだよ』
『うん、私とリーナは、ずっといっしょ』

 私はその誓いを信じて疑わなかった。
 少なくとも私がリーナを嫌うことなどあり得なかったし、また同じくリーナが私を嫌うこともありえないはずだったから。
 つまり――私たちを引き裂く何かは、外からやって来るということだ。

 災厄が村を襲った時、真っ先に気づいたのはリーナだった。
 遠くから聞こえる爆発音、人々の叫び声。
 それらの音は次第に私たちの方に迫りつつあった、そして襲撃者らしき男の影が見えた時――

『レイアはボクが守るから、これを持ってどこかに隠れるんだ』
『リーナは? リーナはどうするの!?』
『ボクはどうにかしてあいつの気を引くよ。大丈夫、絶対にまた会えるから』

 リーナは短い青色の髪を揺らし、歯を見せながら笑った。
 私は当時体が弱く、魔法の才能が多少ある程度でいつも彼女に守ってもらってばかりだった。
 だから――リーナは紛れもなく、私にとってのナイトだったんだ。
 守られる対象である私には、彼女を守る力はない。
 大人しく、託された、リーナの母親の形見である黒猫人形を手に、その場を去るしか無かった。
 それが私と彼女の、最後の会話になるとも知らずに。

 村にはすでに逃げ場などなく、全方向から”奴ら”は私を追い詰めていた。
 結局、幼かった私の逃げられる場所など自宅ぐらいしかなく、息を切らしながら、人形を抱きしめて、私は必死でそこに向かって走った。
 ちょうど両親も家に避難していたらしく、私の帰りを目の端に涙を浮かべながら喜んでいる。
 しかし、感動の再会もつかの間、家のすぐそばから怒号が聞こえてきた。
 襲撃者はもうすぐそこにまで迫っているのだ。
 私は両親によって、台所の地下に掘られた貯蔵庫に押し込められ、狭い暗闇の中で膝を抱えて、ひたすらに悲劇が去るのを待つことしかできなかった。

 それから数時間後外からはまったく音が聞こえなくなり、私は意を決して貯蔵庫をから出た。
 私がそこで目にしたのは――何者かに斬殺され、折り重なるように倒れた両親の姿。
 2人の名前を呼びながら叫び、その体を揺らしたが、それはただ、彼らの死を証明するだけだった。
 泣き疲れ、絶望した私はふらりと外に出る。
 私の見知った村は、もうそこには無かった。
 そこにあったのは、ほとんどの家は焼け落ち、至る場所に死体が転がる、地獄絵図。
 体から力が抜け、膝から崩れ落ちる。
 そのまま――一体どれほどの時間が経ったのかはわからないけど、しばらくしてから王国の兵士が救援にやってきた。
 私はその兵から、この惨劇を引き起こした襲撃者の正体を知ることとなる。

『犯人は吸血鬼だ』

 何が目的でこんな田舎の辺鄙な場所にやってきたのか、ずっと疑問だったが……考えるだけ無駄だったのだ。
 彼らは人外、人を襲うことに意味など無いのだから。
 その後、私は魔法の才能を買われ、教育を受け、王直属の魔法師として雇われることとなった。
 どうやら私には、王国でも類を見ないほどの高い魔法の才能があったらしい。



 ◇◇◇



 記憶は一気に現代に近づいていく。
 時間を経ると、悪夢はただの夢へと変わっていく。
 王城に配属された私の役目は、魔法の力を使った城を守ることだった。
 しかし、基本的に王国のど真ん中にある城にいきなり攻撃を仕掛ける阿呆はなかなか居ないし、それは割と暇な役目で――空いた時間は全て魔法の研究に費やすことが出来た。
 と言うか、どちらかと言うと研究の方が本業で、警備はついでみたいなものだ。
 研究の中で、私はいくつもの、新たな魔法を生み出した。

 対吸血鬼を意識した、光を操る魔法。
 人形を操り、喋らせる魔法。
 伝承に記された高い魔力を持つと言われる異世界の人間を召喚する魔法。
 他にも色々と。

 特に異世界からの召喚魔法を王に紹介した時の喜びっぷりはすごかった。
 あの出来事が、王の他国への侵攻を決意させる最大の材料だったのかもしれない。
 つまるところ、私が異世界から人間を召喚したのは、王国領土を広げるための戦争に利用するためだ。
 私は戦争自体に興味は無かった。
 だが結局、その魔法の存在が、私と吸血鬼が再び相まみえるきっかけを作ったわけで、どうも因果というのは皮肉がお好きらしい。
 吸血鬼、いや……半吸血鬼デミヴァンプ
 いつもなら過去から記憶を再生していくこの夢は、平穏なまま終わるというのに。
 記憶は上書きされてゆく、常に新しい情報へと入れ替わっていく。
 私の頭に、私の体に刻まれた、今の、最も新鮮な体験は――

『ん、ぁ……あ、は……はあぁっ……』

 急に視界が霞む、まるで霧でもかかったようだ。

『は、はひゃぅ……や、うぅ……ッ!』

 息も苦しくなる、自分の肺がまるで自分のものじゃないような。

『んあっ、ああぁっ、や、やらぁっ、やなのおぉっ……!』

 嫌だった、本当に嫌だったのに。
 でも、与えられる感覚は、痛みや苦しみなんかじゃない。

『はっ、はがっ……お、おおぉおおっ……!』

 全身を影に覆い尽くされ、体の内側まで埋め尽くされて、私はあの時、間違いなく――彼女に、愛されていた。

『おっ、おひっ、ひ、ひゃ……ん、がぁ、ああぁぁぁぁあっ!』

 人の領域を越えた、人外の快楽。
 それは熱が覚めた今だって体の中でくすぶり続けていて、ふとした瞬間に思い出し、私の体を燃え上がらせる――



 ◇◇◇



「っ……!? はぁ、はぁ、はぁ……っ、はぁ……うぅ……」

 悪夢に叩き起こされた私は、勢い良く上半身を起こして荒い呼吸を繰り返した。
 額には――いや、全身に汗がじっとりと吹き出していて、パジャマが張り付いて気持ち悪い。
 あれは夢だ、あれは夢だ、あれは夢だ。
 何度言い聞かせても、納得するのは頭だけで、体は冷静になってくれない。
 体が、気持ちいいのを、求めている。
 嫌なのに、あんなやつ、吸血鬼なんかから与えられた物は何もかも要らないのに、要らないのに、要らないのにぃっ!
 でも、それでも――

「殺してやる……殺してやる……!」

 あれは、私から大事なものを奪った仇と同じモノだ。
 許すものか。
 燃やせ、情欲ではなく復讐の炎を、熱くなるのなら憎しみでそれを消化しろ。

「う、ううぅ……殺す、殺す、殺すっ!」

 そう言いながらも、私の左手は、自然と胸の膨らみに向かっていて。

「んっ……」

 軽く触れ、指に力を込めると、思わず甘い声が漏れた。
 脳裏に浮かぶのはもちろん、あの時の、黒い影。
 半吸血鬼デミヴァンプとなったチグサ・ヒナタから与えられた、逃れようのない、焼印のような悦楽。

「んふうぅ……殺してやる、あんな、のぉっ……私が、絶対、にぃ……!」

 太ももをすり合わせる。
 うつ伏せになって、ベッドにこすり付けるように体をくねらせた。
 けれど、足りない。
 アレに比べれば、全然。
 あの、憎い吸血鬼に与えられた、圧倒的で絶望的な悦びに比べたら、微塵も――

「殺すうぅ、殺す、殺す、殺す殺す殺すううぅぅッ! ん、あぁっ、ああぁぁんっ!」

 もう、頭の中がぐちゃぐちゃで、わけがわからなかった。
 私は何を求めているのか。
 憎んで、怒って、気持ちよくて、欲しくて、殺したくて、死にたくて。
 全部まぜこぜになりながら――私は深夜の城で1人、満たされないまま、孤独にさえずっていた。





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