異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~

kiki

5  フォーリング

 




 ライルさんと合流し3人になった私たちは、そのまま柵沿いに道を進んでいき、ある場所で足を止めました。
 そこにだけ、柵の一部に穴が空いています。
 なるほど、何をするつもりなのかようやくわかりました。
 ゴミ捨て場で残飯を探すより、直接市街の方に行って探した方が効率は良いはずですから。
 おそらく、この柵は、廃棄街の人々のそういった行動を防ぐために作られたものなのでしょう。

「あんた、確かチグサだったよな」

 穴を抜ける直前、ライルさんが私に話しかけてきました。

「廃棄街の人間じゃないあんたはともかく、エリスは服で廃棄街の人間だってすぐにバレちまう。もし警備の兵士に見つかったら、絶対に逃げろよ?」
「倒せる相手でも、でしょうか」
「あんまり自分の力を過信すんなよ、いくらあんたが強いって言っても武装した兵士に勝てるわけねえだろ」

 負ける気はしないのですが、今はまあ、大人しく首を縦に振っておきましょう。
 変に怪しまれても面倒ですから。
 あとエリス、あまりライルさんを睨まないであげてください。
 私との関係がバレたら、食料探しどころではなくなってしまうではないですか。

 話を終えた私たちは、四つん這いになって穴をくぐり、市街へと出ました。
 そこは見事な路地裏で、近くに飲食店でもあるのでしょうか、いくつかのゴミの入った袋が置かれていました。
 ライルさんは早速それに手を伸ばし、結びを解いて中を物色し始めました。
 ほぼ未使用の野菜なんかも入っていますので、彼らにとっては十分なご馳走になりうるものなのでしょう。
 ゴミあさりに夢中になるライルさんをよそに、エリスは私の耳に唇を寄せて、こっそりと囁きました。

「あっち、いこ」

 どうしてもふたりきりにならないと気がすまないエリスは、私の手を引き、足音を殺してその場から離れていきます。
 ライルさんは気づきません、本当に、とことん鈍い人のようです。
 そしてまんまとその場から離れた私たちは、角を曲がり、さらに複雑に入り組んだ路地を進み――誰もいない場所へとたどり着きました。
 もはやエリスは自らの空腹すら忘れているらしく、発情した雌猫のように私に体を押し付けてきます。
 戯れに顎の下を撫でてみると、ノリの良い彼女は「にゃあん」と主の甘えるように鳴きます。
 そのまま続けていくと、鳴き声はやがて嬌声となり、笑顔が色づき、視線が絡み、いい具合で盛り上がってきた所で。
 なんとなく予想はしていたわけですが、水を差す不快な輩が現れます。

「誰かと思えば、廃棄街の蛆虫どもがまた潜り込んできたのか」

 初対面の相手を見下す失礼な声。
 その主は、2mほどの槍を持ち、鉄の鎧を全身にまとった……声から察するに、男でした。
 あれがライルさんが言っていた、警備の兵士というやつですか。

「身の程を知れ、生きる価値もないゴミクズどもがッ!」

 そのまま槍を持って近づいてきます。
 もはや確認するまでもありません、彼は容赦なく私たちを殺すつもりのようです。
 思い切りの良さから察するに、廃棄街の人々は最低限の人権すら認められていないのでしょう。
 ゆえに、殺したところで罪には問われない。

「チグサ……」
「平気です、すぐにケリは付けますから」

 戦い方は体が覚えていることは、昨日のチンピラで証明済みです。
 兵士に敵意を向けると、私の爪は自然と長く、鋭く伸びていました。
 さすがに普段からこんなに長いと、体に触るのに支障をきたしますからね、伸び縮みできる方が色々と便利なのです。

「な、なんだその爪は……そんなもので、この槍に対抗できると思うなッ!」

 威勢のいい言葉をあげながら近づいてくる兵に、私はあえて自ら突っ込んでいきました。
 槍の尖端をふわりと避け、腕を振るい、すれ違う瞬間に鎧ごと爪で首を切り落とします。
 切断時の抵抗すら感じません。
 兵士の後方に着地した私は、自分の爪を眺めながら、その切れ味に驚いていました。
 そうこうしているうちに、その首は落ち、体は倒れ――濁々と、とろみのある赤い血液が、切断面から流れ出しました。
 地面に流れる真っ赤な血液を見ているというのに、半吸血鬼の私はこれっぽっちもそそられません。
 やはり男だとダメなようです、むしろ吐き気すら覚えます。

「すごい……すごいよ、チグサっ!」
「これぐらいは造作もありません」

 駆け寄ってくるエリスを両手を広げて迎えると、私は彼女と強く抱き合いました。
 もちろん、爪は元の状態に戻っています。
 それにしても――私は人殺しをしたのですが、それに対して何も感想は無いのですね、エリス。
 私の虜になっているからなのでしょうか、はたまた人の死が当たり前の場所で生きてきたからなのでしょうか。

「かっこよくて、可愛くて、綺麗で、チグサはすごいね。そのつもりがなくても……全部、好きになっちゃう」
「大したことはしていませんよ、私はエリスを守るという約束を果たしたまでです」
「そういうこと、さらっと言っちゃうあたりがかっこいいんだってば」

 そうして抱き合っていると、ふと私の視線に、彼女の首筋が映りました。
 彼女も心なしか、私に首を見せつけるような体勢を取っています。
 今度こそは、と口を開くと……また、誰かが近づいてくる足音が聞こえました。
 ライルさんが置いていかれたことに気づいたようです。

「お、おい……チグサ、あんたがこれやったのか?」
「ええ、襲い掛かってきたので」

 やってきたライルさんは、地面の死体を見るなら顔を青ざめさせました。
 この反応を見るに、エリスが兵士の死に全く動じなかったのは、やはり私の虜になっていたからのようです。

「どうやったんだよ。どんな刃物を使ったら、こんな切り口で鎧が真っ二つになるんだよ!?」
「どう、と言われましても。ただ切断しただけ、としか言いようがありません」
「そんなんで納得するわけないだろうが!」

 ライルさんは声を荒げています。
 そも、納得させようともしていないのですから、出来ないのは当然のことです。

「やめてよライル、チグサは私を守るためにやってくれたんだよ?」
「は? おいエリス、廃棄街の人間が兵士を殺したってわかったら、どうなるか理解してんだろ!? 俺たちはゴミだ、その気になれば簡単に粛清されちまう!」
「そうなのですか? まあ、だとしてもエリスは私が守りますが」
「えへへ……チグサぁ」

 私に甘えながら抱きつくエリスの様子を見て異常に気づいたのか、ライルは私を睨みつけました。
 そして腰からナイフを抜き取り、光る刃をこちらに向けます。

「ライル、何やってるの。冗談でしょ?」
「冗談じゃねえよ、昨日からおかしいと思ってたんだ。仮にチグサがエリスを助けたのが事実だったとしても、廃棄街の人間がそれだけで信用するなんてありえねえ。いくらなんでも無防備すぎるって!」

 私もまったくもって同意見です、治安の悪い場所で暮らす人間なのにうかつですよね。
 だからと言って、エリスを責めないで欲しいものです。
 悪いのは私なのですから。

「てめえ、エリスに何しやがった!?」
「恋をしました」
「ふざけんじゃねえッ!」

 本当のことを言うと怒鳴られてしまう、こんな理不尽なことがあるでしょうか。
 ライルさんのあまりに身勝手な物言いに、私は思わずクスクスと笑っていまいました。

「ふざけてなんていませんよ、私は本気でエリスに恋をしています。そしてエリスも……そうですよね?」
「うん、チグサのことが好き。チグサさえ居たら他にはなんにもいらないの!」
「ライルさんはいいんですか?」

 ちらりと彼の方を見ると、ライルさんは緊張した面持ちでゴクリと生唾を飲み込んでいました。
 しかし、その表情には若干の余裕がまだ残っているような気がします。
 エリスなら必ず自分を選んでくれるはずだ、そんな自信を垣間見た気がしました。
 無駄なのに。

「いらない、ライルもいらないっ、チグサにナイフを向けるあいつなんて消えちゃいば良いんだ!」
「うそだろ……? 何言ってんだよ、エリスッ!」
「急にそんなことを言うから、ライルさんが驚いているではないですか。彼のこと、好きだったんじゃないんですか?」
「違うの、気のせいだったの。あんなの”好き”でもなんでもなかった、本当の”好き”を知ったらどうでもよくなったのぉ!」
「エリス……」
「ふふふ、本当にエリスは可愛いですね。私もあなたと出会ってから本当の”好き”を知りました。愛していますよ、何もかも自分のものにしてしまいたいほどに」
「あぁ、チグサぁ」

 そう言いながらエリスの顎に手を当て少し持ち上げると、顔を近づけました。
 彼女は自然と目をつむり、餌を待つ雛鳥のように、私の唇が降ってくるのを待っています。

「は、ふ……」

 唇を重ね、その感触を少しだけ楽しむと、早速私は舌先で彼女の唇をノックします。
 すると、昨晩何十回も繰り返した成果か、彼女はあっさりと口を開き、私の舌を迎え入れました。
 それは口内の所有権を放棄したも同じ。
 エリスの生温い口の中に舌を差し込むと、彼女は慣れた様子で奉仕を始めます。
 まずは私の舌についた唾液をこそぎ落とすように全体を撫で、飲み込み。
 そして次は、淵をなぞるように滑らせていく。
 彼女から与えられるくすぐったさにも似たゾクゾクとした感触を、私は満喫していました。
 時折ご褒美として私の方から彼女の舌を可愛がってやると、「はふっ、んっ」とエリスは嬉しそうに啼きます。
 さらに唾液を流し込むと、舌の上で転がして十分に味わってから、飲み込み――直後、一瞬だけ体を震わせると、しばし放心状態になってしまいました。
 ふふ、本当に、見ているだけで私のことが好きなのだと伝わってきます。
 もっと可愛がってあげないと、もっと彼女の気持ちに報いてあげないと。

「や、やめろ……やめろよぉおおぉおおっ!」
「はぁ……はぁ……ライル、うるさいよ」
「おかしいだろ、絶対に、そんなのおかしいだろ!? お前ら、昨日会ったばっかりなんだろ!? なのに、なんでそんなことになってんだよ! チグサ……あんた、何者なんだッ!」

 このまま情報を与えないのも可哀想ですし、エリスにも黙っていたくはない。
 ここで私は初めて、自分の正体を明かすことにしました。

半吸血鬼デミヴァンプ

 自然と、自分の口から言葉が出ていました。
 半吸血鬼という言い回しではなく、”デミヴァンプ”という呼び方は――おそらく、カミラの記憶より呼び起こされたものなのでしょう。

「吸血鬼……だと? じゃあ、やっぱりお前がエリスを魅了してッ!」
「わかりませんが、そういうことなのかもしれませんね」

 今までしっくり来る呼び方が思いつきませんでしたが、魅了、ですが。
 なるほど確かにそれはぴったりかもしれません。

「エリスを開放しろ、元に戻せ、化物めッ!」
「違うよぉ、私はチグサの事が本当に好きなの!」
「目を覚ませよ、そいつは人間じゃないんだ!」
「そんなの好きになるのに関係無いッ! それに、チグサだって私のこと好きなんだよね?」
「ええ、それは本当ですよ。愛しています、誰よりも」

 嘘を即答できるほど私は畜生でありません。
 本気で、彼女のことを愛してるんです。

「騙されるなエリスッ! 吸血鬼が獲物を魅了するのは、相手を食うためだ、殺すためなんだ!」

 どうやら、何か勘違いしているようですね。
 私はエリスを殺すつもりなどありませんよ、こんなに愛らしい女の子を食らうなんてもったいない。

「チグサはそんなことしないもん! それに……もし本当に殺すつもりだったとしても、私、チグサなら……平気、だし」
「エリスゥゥッ!」

 もはや説得は不可能だと確信したのか、ライルさんはナイフを私に突き刺すために、ぐっと足に力を込めました。

「……え?」

 しかし――なぜだか、足は動きません。
 まるで、に掴まれているかのように、びくともしないのです。
 そのまま彼の体を引き裂いてしまうこともできたのですが、もっと愉快な余興を思いついたので、そのまま捕縛しておくことにしました。

「くそっ、足を掴んでる? 何がだ!?」
「暗闇は吸血鬼の領地ですから。せめて喧嘩を売るなら陽の光の下にしておけばよかったものを、薄暗い路地裏を選んだのが間違いでしたね」
「お前がやってるのか……? いますぐ離せっ! お前を殺してエリスを取り戻すんだ!」
「あんなこと言ってますが、エリスはどうしたいですか?」

 抱き寄せたエリスに問いかけると、彼女は蕩けた表情でこう答えます。

「ライルのことなんてどうだっていいよ。取り返しがつかなくなるぐらい、チグサのものにして?」

 了承も取った所で、私は彼女の首に顔を近づけました。
 そしてしなやかな曲線を描く首筋に口づけ――

「あ、ああぁ……」

 牙を、埋めます。

「っ……う、うぁ……」
「やめろ……やめてくれ! エリスっ、エリスウゥゥッ!」

 ライルさんの悲痛な叫び声は、情感を高めるスパイスにしかなりません。
 傷口から溢れ出る甘い血液を啜ると、私の体は、彼女の唾液を摂取したときと同じぐらい熱を帯びました。
 鉄臭いだけだと思っていた血がこんなにも美味に感じるなんて、改めて、私は人でなしになったのだと痛感しました。

「ぁ、はぁ……もっと……チグサ、もっと、吸ってぇぇ……」

 略奪、占有、支配。
 何も持たなかった私が初めて知った、何かを自分だけのものに変える快感。
 ああ、こんなの――癖になるに、決まってるじゃないですか。

「入ってくる……チグサが、私の中に……はあぁぁ……っ!」

 血を吸い上げ、空っぽになった部分を埋めるように、私はエリサに私を分け与えていくのです。
 それは魂。正真正銘、私自身のひとかけら。
 血のつながりは無くとも、これであなたと私は魂の繋がったツガイ、あるいは同一線上に存在する姉妹。
 ある程度吸血が進むと、エリサの肉体の吸血鬼化が始まります。
 まずは健康的な小麦色だった肌から色素が抜けていき、私と同じ、透き通るような白い肌へと変わっていくのです。
 少しだけ荒れていた肌も、まるで生まれたての赤子のように滑らかに澄んでいく。
 あるいは、これは変化というより浄化ではないかと、彼女の血液を吸い上げながら私は考えます。
 だって、人間なんかより、吸血鬼の方がずっと素晴らしいのですから。

「ぁ……ぁっ……」
「ううぅぅ……エリス、エリスぅ……っ」

 血色を失っていく彼女の肌を見て、ライルさんはそれを命の喪失だと勘違いしているようです。
 情けなくぼろぼろと涙を零しながら、強く握っていたはずのナイフを落としてしまいました。
 もはや、悲劇を前に殺意すら失ってしまったように見えます。
 つまり邪魔者は消えたのです。
 ならばあとは、思うがままに彼女を変えてゆくだけ。
 もはや声すら出さなくなり、目を閉じてしまったエリスの体から、私はさらに血を吸い上げます。
 胃袋と欲望が満たされ幸福感に包まれる中、次の変化は訪れました。
 匂いが、昨晩から今朝にかけてあの部屋に立ち込めていた、エリスのむせ返るような雌の匂いが、強くなっているのです。
 嗅いでいるだけで唇を貪り、体を重ねたくなってしまうような、媚薬めいた香り。
 さらには、十分な食料もなく痩せていた体が、吸血鬼の力を得て少しずつ肉感を得ていくのがわかりました。
 腕の中で、少しずつ、私に抱かれるために存在するような体に変わっていく彼女を前に、興奮を抑えられるわけがありません。
 私はみっともなく、鼻息を荒くしながら必要十分量の血液を吸い上げ――「ぷはっ」と口を離しました。

「やっぱ……殺すんじゃねえか。化物め……それで満足かよ、何もかも奪い取って、満足したのかよッ!」
「はぁ……はぁ……は……ふ、ふふ……ふふふふ……」
「何がおかしいッ!」
「いえ、何もわかっていないのだなあ、と思いまして」

 憤るライルさんに、にへ、と笑いかけると、彼の顔はさあっと青ざめました。
 まるでお仲間のように。
 そんなに恐ろしかったのでしょうか、私はただ、笑っただけだったのに。
 ……まあ、どうでもいいですね、あんな男のことなんて。
 私は腕の中でぐったりとしているエリスの頬に手をかけると、呼びかけます。

「そろそろ目を覚ましてください、私の愛しいエリス」
「何言ってんだよ、もうエリスは死んで――」

 あの何もわかっていない男のことはもう置いといて。
 私の呼びかけに応え、エリスはゆっくりと目を開けました。
 透き通る琥珀色だった瞳は、血のように鮮やかな赤色へと変わり――それこそが、彼女が吸血鬼に成り果てた何よりの証明。
 目を覚ました彼女は、主たる私を見て艶かしく、鋭く尖った牙を見せつけるように笑いました。

「ごしゅ、じん、さま?」

 目があった彼女は、私のことをそう呼びました。
 私は「んー」と顎に人差し指を当てながら考えます。
 どうもそれは、エリスに呼ばれるにはしっくり来ない、と。

「それとは違う呼び方の方が嬉しいかもしれません」
「……お姉さま?」

 どくん、と心臓が高鳴りました。
 そうです、私が望んでいたものはそれです。

「お姉さま……私、生まれ変わったんですね」
「言葉遣いも変える必要はないですよ、エリスなら」
「えっと……わかりました。じゃあ、同じ口調で話すね、お姉さま」
「ええ、その方が素敵です。それで、生まれ変わった感想はどうですか?」
「とても、気持ちよくて……頭の中が、さっきよりお姉さまでいっぱいになって、最高の、気分です」

 これで気分が悪いとでも言われたらどうしようか不安でしたが、一安心です。
 そのまま目を覚ましたエリスを抱きしめると、彼女もすぐさまに抱き返してきました。

「どうなってんだよ……」

 呆然と呟く声を聞いて、私は彼の存在を思い出しました。
 ライルさん、そう言えばまだいたんでしたね。

「さっき、死んだはずじゃ……?」
「見ての通り死んでいませんよ、こんなにも――人間だった時・・・・・・よりも・・・元気ではないですか」
「人間……だった?」

 肌や目の色、そして体つきから見たらすぐに分かりそうなものですが。
 頭の悪いライルさんのために、私はエリスに耳打ちして説明するよう促しました。

「私ね、お姉さまのおかげで、人間をやめて吸血鬼になったの!」
「嘘だ……嘘だ、嘘だっ! そんなことありえるわけがッ!」
「あるよ、ほら見てよ」

 エリスの爪が、彼に見せつけるように伸びています。
 先ほど、私が兵士を斬殺したときと同じような形状に。

「この爪ね、すごくよく切れるの。だってお姉さまとおそろいなんだもん。人間ぐらいなら、きっと腕を振るだけですぱっと真っ二つにできちゃうと思うんだ」
「エリス……」

 笑いながら、彼女は私から離れ、ゆっくりとライルさんに歩み寄っていきます。
 そこまで指示した覚えはないのですが、それがエリスの望みというのなら傍観しておきましょう。
 私としても、ライルさんの存在は色々と邪魔ですから。

「見ててね、ライル」
「い、いやだ……やだ、やめてくれ……エリスッ!」
「嫌だよ、なんであんたみたいな男の言うこと聞かなきゃならないの?」

 ザシュッ!
 振り上げた腕を下ろすと、ライルさんの腕は綺麗な断面で切り落とされました。
 さらに続けざまに腕を振るい、もう片方も断ち切ります。

「あ、ああぁぁ、あぁぁぁぁああああああああッ!」

 無様に叫ぶライルさんを、私は冷めた目で見ていました。
 エリスも同じように、全く興味がない様子で見下しています。

「あああぁぁあ……あ、なんで、なんで、なんでっ、あが、が、うぅ……エリス、俺、お前のことが……!」
「エリス」
「はい、お姉さまっ」
「うるさいので、殺しちゃいましょう」
「んふふ、私も同じこと考えたんだ。目障りだから、さくっと殺しちゃうね!」

 笑顔で腕を振りかぶるエリスに、ライルさんは――

「す……き……だ……」

 言えなかった気持ちを言葉にして、しかしその声がエリスに届くことはなく。
 その瞬間、首を落とされ、絶命しました。
 影を解除、拘束を失った彼の体は力なく地面に倒れ、兵と同じように血で地面を濡らします。
 あたりに、不快な雄の血の匂いが充満していきました。

「くさ……」

 気持ち悪そうに口元と鼻を押さえる彼女もまた、私と同じ気持ちのようで。
 これではロマンティックな雰囲気など作れそうにありません。
 私は早く、吸血鬼になった彼女と愛し合いたいというのに。

「早く帰りましょう、エリスの部屋――ふたりきりになれる場所に」
「うん、お姉さま。その……たくさん、可愛がってね」
「もちろん、気絶するまで愛でてあげますよ」

 私たちは腕を絡めながら、その場を後にしました。
 残った死体は2つ。
 特にライルさんの死体が恨めしそうにこちらを見ていたので、私は最後に影で頭を潰しておきます。
 それを見たエリスは、「あは」と楽しそうに笑っていました。





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