異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第192話 戦争の集結のようです

 女神が帰ってきた。涙で頬を濡らし、いつもと変わらぬ笑顔を見せて、俺の胸の中に。

「ったく。問題を起こすのは今も変わらないな」

「私のせいじゃないもん」

「はいはい」

 この軽口ですら今は幸せに感じる。

 どれだけ望んでも手に入らなかったものが今は俺の胸の中にある。それだけで満ち足りた気持ちになる。

「マスター!!」

「っと。ゼロも相変わらず飛び込んでくるなぁ」

「だってマスターだから!」

「ちょっと良く分からんのだが……」

「いつものことでしょう? マモルくん?」

 ゼロに引き続き、ジュリ達が俺の元に歩いてくる。

「ジュリにマモルくんって呼ばれると背中がゾワっとするわ」

「あら、酷いじゃない。あなたが子供の時に攫われそうになっているのを助けてあげたっていうのに」

「マジか。じゃあジュリって、櫻井さんだったのか?」

「そう言うこと。まぁこの世界でその名を名乗る事はないと思うわ。私はジュリって名前があるしね」

「本当の名前はジュリエットだけどな」

「あえて言わなかったのになんで言うのかしらこの男は……」

 ジュリは落ち込みながらも、少し嬉しそうな顔をしている。

 皆もこの戦いに一応の終止符が打たれた事で気が楽になっているのだろうか。さっきまでの気の張りがなくなっている。

「おーい! マモルくーん!」

「お前何したんだよ!?」

「魔王様とタクマか。もしかして皆にも俺の記憶が見えてたりした感じだったりする?」

「そうだね。壮絶だったよ。特に詩織ちゃんが死んだ時なんてもうこっちまで苦しくなるくらいだったよ」

「今はもう大丈夫ですけどね。詩織は俺のすぐ側にいますし」

「俺はお前の記憶を見て、分かった事が一つだけあった。お前が最後に助けた男の子は恐らく俺だ。俺も子供の時に誰かに助けられた覚えがあってな。だが、俺はお前みたいに一つも気に病む事はなかった。心配するな」

「そうか……。ただ疑問があるんだが」

「うん? なんだ?」

「俺、この世界に来て数ヶ月なんだがお前はどうして高校生になってんだ? ジュリは今十八で、死んだ時から数えると辻褄が合うのに、タクマは合わん」

「それは憶測でしかないのですが私が説明してもいいですしょうか?」

 ミユキが皆の前に出て来て、そう言った。こんな短時間で憶測を立てられる事がすごいと思う。

「よろしく頼む」

「さっきも言ったようにこれは憶測です。それを踏まえて聞いて下さい。私達勇者はジュリさんやマモルさんと違って転移でこの世界へやって来ました。もし転移陣にちょっとした不備、もしくはそういうのは仕組みがあった場合、地球から呼び出す時間がランダムになるんじゃないでしょうか。そして、転生者であるマモルさんに触れた事があるタクマさんが一番力を発揮出来る時期に転移者として選ばれて、それに私達が巻き込まれたというものです」

「……要するに転移に時間は関係ないんじゃないかと?」

「ざっくり言えばその通りです」

「……はっ! その仕組みだとするなら私の研究中の転移陣は一つ先にいける! 君達を元の世界に戻す事が出来るかもしれない!」

 魔王様が先程の説明から何かインスピレーションを受けたようだ。魔法陣の研究を先に進める事が出来るようになったようだ。

 これが成功すればタクマ達は元の世界に戻る事が出来る。タクマ達の悲願でもあったことだ。

「いやー君達も壮絶な人生歩んでるんだねぇ。僕の時は戦時中だったから人が死ぬのは当然みたいな時代だったよ。でもマモル君の記憶しているを見ると人の命って尊いものだって事が良く分かるよ」

「サトシさんは戦争を一度体験してたんですね。じゃあ今回の戦争は戦争って言えないかもしれませんね」

「いやいや。どっちかって言うとこっちの方が戦争ぽかったよ。何せ相手が人じゃなかったからね」

 サトシさんはそうやって言うと笑った。地球じゃ戦争は人と人が行うものだが、この世界ではそうとは限らない。サトシさんにとっては人同士じゃなかった方が戦争だという実感が湧くのだろう。

「貴様はよくやってくれた。正直、女神が堕ちた時は死を覚悟したぞ」

「おぬしのあのこだわりも過去の産物だと思えば納得出来るのじゃ。酷い事言ってすまんかったのぉ」

「やっぱり君をこの戦争に起用して良かったよ。君のその人を想う力がこの世界を救ったんだ」

「ちょっとやめて下さいよ御三方。王様に褒められることなんて一切してないんですから。俺は徹頭徹尾我儘を貫いただけです」

「それでも、君がこの世界を救ったという事実は変わらないだろう? 君はこの世界の英雄になったんだ」

「……英雄なんてそんな器じゃないですよ」

「では、君はあの叫びを無駄にするのかね?」

 そうやって聖王様が指を指した先には、後退していたはずの軍隊が雄叫びを上げながらこっちに向かって来ていた。

「皆、君やその仲間に助けられた者達だ。そもそも、この戦力ですら君がいなかったら集まっていないんだ。君がいなかったらこの戦争に負けていただろうね」

「……そこまで言われたら否定も出来ませんよ」

「それが狙いだからね。……ところで一番の功労者である君に提案なんだが、シャールと結婚しないかね? 他の国の女王とも結婚しているのだろう? 君にならシャールを任せられるんだが……」

「それは……その……シャール様次第では? 俺はただの平民ですし、シャール様が良しと言えば拒否権なんてないようなものですし。俺ももうやけくそみたいなところがありますが」

「そうか! 良かったよ! シャールに言われてたんだ。あの人と縁談を組んでくださいってね。もう少しでシャールの怒りを受けるところだったよ……」

「それは嫌ですね……」

 なんだかんだ言って俺の周りには変な人が集まるのだ。まともに見えても何処かに人間味を帯びたところがある。

 それは当然な事で、そんな人間の事が俺は嫌いじゃない。

「ちょっとその話、私も乗せて下さい! 私もその人と結婚したいんです!」

 ほらな。

 これはエルシャさんだ。こんな状況になっても、エルシャさんは一つも変わらない。だが、それが彼女のいい所でもあると思っている。

「エルシャさん、何言ってるんですか」

「だって、だって! 君には本当に好きな人がいて、その人とずっと近くに居れるなんて私の入る隙がなくなっちゃう! だったら既成事実作るしかないじゃない!」

「ちょっと落ち着いて下さい」

「落ち着いたからこんな事言ってるの! 私、結婚してくれないなら死ぬから!」

 エルシャさんは自前の槍の先を自分の喉元に向けた。

 愛が重い……。これはヤンデレというのかそれともまた別の何かなのか。

「はぁ……。なんでこんな事になってんだろうなぁ。……分かりましたよ。死なれたら悲しいですし」

「ほ、ほんとに!?」

「えぇ。でも皆に確認取ってからにしてくださいよ?」

「任せて!」

 そうやってエルシャさんが皆の所へ走って行った。それと入れ替わりのように、レオンとフェルトが俺の方に来た。

「よぉ」

「やほー」

「お前達も無事だったか」

「フェルトを置いて死ねないからな」

「や、やだっ! レオンったら!」

「マモルの記憶を見た後だ。大切な人を失う悲しみがどれくらいのものなのか、ほんの少しでも分かった」

「ふん、面白くない。レオンはもう少し苦労すればいいんだ。浮気がバレろ!」

「ちょ! お前!」

「レーオーンー? 浮気ってどういう事なのかな?」

「そ、それはあいつが嘘を……」

「六種族のスゥだってよ。いい体してるって言ってたな」

「レオン? お仕置きの時間だからこっちに来ようね?」

「マモルッ! やっぱりお前は許さねぇ! 後で一発殴らせろ!」

 フェルトに引き摺られながら捨て台詞を吐いていくレオン。

 悪い事したが、面白いから良しとしよう。後は死なない事を祈るだけだ。

「ねぇ、護琉」

 詩織が俺の手を誰からも見えないように握ってきた。俺はそれに答えるように詩織の手を握り返す。

「今、楽しい?」

「それは愚問だな。楽しくないわけがない」

「良かった。私心配だったんだ。護琉が楽しんでくれてるか」

「見てみろよ。ここにいる皆が俺の信頼している人達だ。ここに居ないだけで他にもいっぱいいるぞ。こんな人達がいるのに楽しくないわけないだろう?」

「そっか。そうだよね」

「ニャ!」

「シロ? お前どこに居たんだよ」

『遠くで隠れてたよ?』

「――!? シロの言ってる事が聞こえるぞ!」

「何を今更言ってるの? 今までずっと話せてたじゃん。ね、シロ?」

『うんうん』

「いやいや。そんな訳――」

 その時、シロの体が白く輝き始めた。

 これはあれだ。ゼロとかレンとかリンに何回かあった現象だな。いつぶりだろうか進化を見るのは。

『ん? なんか目線が高くなった』

「そりゃあマウスネコからビャッコに進化したらなぁ。ウチのペットはいつの間にか進化を遂げちゃったよ」

『じゃあ人化出来るんだ!』

 シロは人化を始める。

 姿形はシロのお母さんが子供の時はこんなだろうなという感じ。所謂ロリっ子だ。

 何故、人化でロリになる必要性があるのか。俺にはよく分からない。

「やった! これで皆と一緒に遊べる!」

 シロは人化をしてもペットはペット見たいだ。皆と遊ぶ事を目的として人化をしたらしい。今度からシロも入れて遊ぼう。

「ふふふっ。護琉の周りっておかしな人達ばっかりだね」

「ほんとだよ。唯一まともなのは、王都のジールさんくらいだ」

 皆が皆、濃い性格をしてる。でも、そのおかげで今の俺がある。そう考えると、濃い性格で良かったのかもしれない。

「俺、こんな幸せ日がいつまでも続けばいいなって思うよ」

「そうだね。今の護琉ならこの日々を護っていけるんじゃないかな」

「そうだといいな。……いや、そうするよ」

 俺と詩織は繋いでる手に一層の力を込めて、この日が続くようにとそう強く願った。

 そしてこっちに向かって来ていた軍隊がようやくここまで辿り着いた。

 戦争に勝って終結出来る事が嬉しいのだろう。各地で握手や抱擁、ハイタッチなどが見受けられる。

 こうして見ると種族間での蟠りなんてないように見える。世界全体がこうやって分かり合えたら人間同士での戦争はなくなるだろう。俺はそう思った。

「諸君らに吉報だ!」

 騒がしかった所に帝王様の大声が響く。

 その声は掻き消されること無く皆の耳に入り、辺りが静かになる。

「たった今、ここにいるカンザキマモルの活躍により、敵の頭をとった!」

 その音頭に熱さを増していく。

「これにより、この戦争は我々の勝利だ! 我々は世界を護ったのだ!!」

「「「うおぉぉおお!!!!」」」

 先程までの騒がしさが静かなものだったと思えるほどの熱狂。勝利を収めたという喜び。それが辺り一面に広がった。

 良かった。この世界を護る事が出来て本当に良かった。これからはこの世界がいつまでも美しくあれるように護っていこう。

 そして今日この瞬間、世界の命運をかけた戦争が終戦した。

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