異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第180話 少女達の二週間、その四のようです

 タクマとアイカという前衛を失った勇者達には明らかに分が悪い戦いになっていた。

 一方、少女達は一気に捲し立てるかのように猛攻を加えていく。

 この戦いは誰が見ても、少女達の勝利で終わるだろう。

 ――勇者が真の力をださなければ。

 少女達はナユタとミユキのユニークスキルを警戒していた。あれを発動させてしまったら、勝つ事が難しくなるからだ。

 そこで一役買ったのが、ゼロだった。

 彼女は自分の分体をトリモチのようにし、勇者達の口を塞いだのだ。

 勇者達は塞がれた口をどうにか開こうとする。少女達からすれば、ユニークスキルを唱える為だということは明白だった。

 また、少女達はこの隙を見逃す事もなかった。ナユタが両手で口を開こうとした瞬間を狙ったのだ。

 一斉にナユタの方に攻撃の矛先が向く。ナユタがそれに気付いた時はもう遅かった。

 ゼロの分体が山のように襲いかかってくる。咄嗟のことで背後に跳ぼうとしたナユタだったが、足が地面と固定されてしまっていた。

 動けなくなったナユタは身動ぎをして何とか脱出しようとしていた。

 そんなナユタの胸から心臓を切り裂き鋭い爪が飛び出る。

 血飛沫が舞い、赤くなった霧のように風に流されて行く。

 フェイはナユタの背後から刺した自らの爪を引き抜く。

 ナユタの胸から先程の日ではないくらいの血が舞う。胸から流れる血は腹を流れ足を伝い、地面に血溜まりを作った。

 ナユタは前のめりに倒れる。地面にぶつかる寸前に、ゼロの分体がクッションの役割をこなす。そしてそのままタクマ達の所へ転移する。

 勇者はあと一人。少女達は更に気を高めていく――。


◇◆◇◆◇


ーside:ジュリー

 あれから一週間が過ぎた。そろそろ、魔王が情報を集め終わる頃だ。

 この一週間何もしなかった訳じゃない。皆で集まり、勇者達の対策を練っていた。

 勇者戦で一番厄介なのがユニークスキルだ。

 どうやってユニークスキルに対抗するか、どう対処するかの議論をしていた。ただ、ニーナだけは戦いに慣れてないとの事で話を聞くだけになっていた。

「タクマのユニークスキルはよく分からないけど、他の三人なら分かるわね」

「アイカは、なんか槍がいっぱいあったよー!」

「そうね。アイカは槍を四本複製して、それらを個別に扱ってる感じよ。それと、複製された槍には自動防御機能が備わっていて、死角からの攻撃もあまり意味をなさないわ」

「ナユタの場合は、一定範囲内に入ると身体が重くなり、身動きが取りずらくなります。その原理までは分かりませんが……」

「それは多分重力を強くしているのよ。だからナユタのユニークスキルは広範囲の重力を操作出来るってところかしら?」

「なるほど、重力を……。厄介ですね」

「ミユキは変だった。自分に魔法を放ったかと思えばあたしが攻撃を受けて、ミユキは無傷だった」

「避ける事は出来たの?」

「うん。確か避けた後に、あたしがいた場所に氷の槍があった」

「……なら、座標設定かなにかをしているのだと思うのだけど、ミユキのユニークスキルは少し難しいわね。座標設定した所にどうやって魔法を出現させてるのか分からないわ」

 それでも一応は、勇者のユニークスキルがどんなものなのか分かった。後は対処法を考えなければならない。

「こ、こんなのに対処できるんですか?」

「えぇ、例えばアイカの場合は自動防御される手数以上の攻撃を加えればいいわ。ただ、あの槍はグングニルの槍だから、投げられると必ず当たるわ。その点は注意しておいて」

「ぐんぐにるのやり?」

 フェイは初めて聞いた言葉のようだった。いいや、フェイだけでなく、他の皆も知らないようだった。

「私の転生する前の世界では、グングニルの槍って言ったら、必中の槍って言われてたの。色んなところで確率操作とか避けられないほど早いとかそんな感じの能力を持ってたわ。アイカのグングニルの槍の場合は何かに刺さるまで追尾してくるって感じよ」

「凶悪な武器ですね……」

「そうね。投擲されないようにするしかないわ」

 一番簡単に防ぐ方法は、休む暇もなく攻撃を加える事だ。その点はゼロのユニークスキルがあるし、魔法でやっても問題はない。

「次、ナユタだけどこれはそもそも対処の使用がないわ。ユニークスキルに対応出来るのはユニークスキルだけだし、重力を操作出来るなんて物理現象を凌駕してるわ。流石にどうにも出来ない」

 唯一の対策として、発動させないというものがあるが、今のところ厳しい。

「最後にミユキ。これは座標設定されているなら、動き続けていれば基本当たらないはず。先読みされると厳しいかもしれないけど動いていれば大して問題は無いと思うわ」

「ねぇねぇジュリ、そもそもユニークスキルを発動させない事は出来ないのー?」

「そうね……。今の所その手段はないわ」

「手段がないと言うだけで方法はあるのですか?」

「まぁね。ユニークスキルは声に出して決まったフレーズを口に出さないと発動できないのは皆も分かっているわね?」

 それに皆が頷く。当然と言えば当然だ。皆もユニークスキルを持っているのだから。

「要は口を塞いでしまえばいいのよ。物理的にね」

「なるほど。でも、その手段がないと……」

「そう言うことよ」

「ねぇねぇジュリ、こんなのじゃダメ?」

 そう言ってゼロが見せたのは、スライム特有の性質と、トリモチのように引っ付く能力だった。

 今までに何度か足を止めている所を見てきたが、こんな事をやっていたのかと感心した。

 それと同時に、これなら口を塞ぐ事ができるとも思った。

「いえ、ゼロのそれは役に立つわ。相手の口に張り付けば声が出せなくなるもの」

「ほんと!?わたし頑張るー!」

 ゼロのやる気が満ちる。

 もう少し早くに気付けてれば、あの時負けずに済んだのかもしれないが、過去を悔やんでも仕方がない。

「取り敢えず対策は練れたわね。後は更に強くなって、勇者との差を埋めるくらいかしら」

 するとそこで今まで固く口を閉ざしていたニーナが口を開いてこう言った。

「私にも出来る事はありますか……?」

 不安そうにそう尋ねるニーナだったが、目はしっかりとこっちを見つめていた。

「ちょっと待ってくれるかしら」

 私は彼女の意を汲みたくて、ステータスの確認をする事にした。

 レベルや使える魔法、特殊なスキルによっては戦える可能性が十分にあったからだ。

 しかし、ステータス画面を開いてすぐに出てくるレベルには『10』と表記されていた。こんなのは殆ど初心者と同じだ。

 ニーナは戦闘には参加させることは出来ない。

 そう思い、彼女にその事を打ち明けようとした時、ふとした違和感を覚えたのだ。

 彼女のステータス画面には、誰でも使えるはずの初期魔法が一つもなく、スキルと称号が一つだけ。

 それを確認した瞬間、私は驚きに満ちていたと思う。周りから見れば何事かと思うだろう。

 しかしそれも仕方の無いことだ。

 何せ、彼女の称号は『巫女』。スキルには『神力』とあったのだから。

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