異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第175話 悪魔の軍勢のようです

ーside:サトシー

『えーっと、あの人かな?』

 彼と別れて行動をする事になった僕達は、エルシャと言う人を探していた。

 僕達が張り付いている部隊は、全速力で敵部隊に突撃を仕掛けているところなのだが、誰一人として怯えているものがいない。これも指揮官が優秀だからだろう。

 彼が言うにはエルシャという女性は指揮官との事。大変素晴らしい才能を持っているんだろう。素直に感心した。

 辺りを見回していると部隊の前方に、言われた容姿そのままで、持っている武器が槍の女性が一人いた。多分、この人で間違いないと思う。

 僕はその女性に近付いて、彼に言われて協力に来たことを報告する事にした。

『あなたがエルシャさんですか?』

「いかにも私がエルシャだが。あなたは誰だ?この部隊では見てない顔だが」

『彼から一言預かってます。『戦力を増強してきた』と。その戦力として僕達が送られてきました』

「そうか!彼からの戦力なら申し分ないだろう!名は何と言う?」

『サトシです』

「サ、サトッ!?」

 エルシャという女性は僕が名を名乗ったら、驚愕に満ちた顔をした。そんなに僕の名前がおかしかったんだろうか?

「サトシって言えば、十年以上前にSSランクの精霊使いとして有名だった人の名だ。今では忽然と姿を消した伝説の冒険者として語り継がれていた」

 十年以上前?僕も確かにSSランクの冒険者だったし、周りから精霊使いなんて事を言われてた。だけどそれは三年くらい前で……。

 あ、そう言えば彼が言っていたな。僕達がいた所と、ここでは時間の流れが違うって。こっちの一週間が向こうでは二日程だったっけ?

 だったら辻褄が合う。多分、僕の事だ。姿を消したのは僕がダンジョンマスターになった時からだから、見つかるわけもない。

『エルシャさん、それ僕ですね。色々あって今ここにこうやっているわけなんですが、時間がないので説明は省きます。それで、僕達の戦闘参加認めて貰えますか?』

「あなたがあのサトシさんなら心強い。思う存分やってください」

『了解です。では、僕達は僕達の好きにやらせて貰います。その方が迷惑をかけないと思うので。といっても作戦の範囲内でですから、安心してください』

「分かってます。好きにやって貰っても構いません」

 交戦の許諾は得た。久しぶりの大きな戦いで、僕の仲間達は少々やり過ぎるかも知れないけど、そこは僕がフォローをしよう。

 もうすぐこの部隊は敵部隊と衝突する。味方が近くにいると巻き込んでしまうかもしれないから、僕達は敵部隊の真ん中で暴れようか。

『皆、準備はいいね?』

『『『もちろん』』』

『じゃ、転移するよ』

 僕達は敵部隊の中心、その上空に転移をする。

『イフリート!』

『分かっている!』

 密集した敵部隊の中にそのまま入る気など毛頭ない。僕達が入る空間位は作っておく。

 イフリートはそれを分かっていたようで、転移してすぐに、下方へ、灼熱の拳を投げ付けた。

 それは地に着くと弾け飛び、四方八方で爆発をする。爆風によって敵部隊が飛ばされた事で、僕達の入る空間が出来た。

 この技はまだ冒険者になりたてで、敵に囲まれてしまって逃げ道が無かった時に考え出した技なのだ。爆風で逃げ道をこじ開けてそこから逃げるという、苦肉の策だったけど今ではこうしてよく使っている。

『さすがイフリート。感覚は前のままだね』

『当然だ』

『そういうところも前のままだね』

『我は変わらぬからな』

 イフリートといつもと変わらない会話をしながら地に降り立つ。

『サトシ!』『サトシ!』『『コイツら変!』』

『うん?』

 僕はポルクスとカストルが指を指す敵を見て驚く。

 彼の記憶を追体験したイフリートの追体験をしたから、敵が悪魔を使ってくる事は分かっていた。だけど、ここまで人間のままの姿とは思わなかった。

『酷い事をするのぉ……』

『この人達にも愛する人がいただろうに。ホントやるせないね』

『そんな事を言っていても何も変わらん。今は敵だ。情はかけるなよ』

『あんたに言われなくても分かってるよ』

『こんな事』『した奴』『『絶対に許さない!』』

『そうですね。こんな非道な行いをした人は罰しなければなりません』

 仲間達が僕の心を全て代弁してくれた。こんな事は許されない行為だ。これをした奴には制裁を加えなければならない。

『皆、心苦しいだろうけど、手加減したら駄目だよ』

『『『了解』』』

 既にエルシャさんが率いる部隊が戦闘を開始しているし、その前から左右に展開して牽制している部隊もある。

 僕達もやらなければならないだろう。

『行くよ……!』

 僕の掛け声で皆が一斉に動く。

 イフリートは自分の持つ熱を最大引き出して僕から見て後ろ側に突撃する。

 雪女は氷柱を大量に作り、右側の敵を狙う。

 ポルクスとカストルは二人で左側を蹴散らしていく。

 デザートスコーピオンは地面にもぐり、下から尻尾を突き上げて皆のフォローに回っている。

 フレイヤは僕の隣で、皆に支援魔法や傷ついた体を回復する。

 僕は精霊魔法を使って、シルフを呼び出して目の前の敵を空高く舞いあげて、地面に向かって自由落下させる。

 それぞれが一騎当千の力を持つ僕の仲間達。フレイヤは、支援に回っているけど全員同時にフォローをする事が可能だ。

 僕達はその気になれば、国家との戦争も勝てるくらいには強い。だからこそ、僕達の力の使い方には慎重になっている。少なくとも人を悪魔にする奴よりは、良い使い方をしていると思っている。

 でも、人を殺すのはいつでも慣れることはない。今だって、悪魔だと分かっていても、人の姿をしている事で罪悪感を感じている。

 それは皆も同じはずだ。何も悪事を働いていない善良だったはずの人だって事は皆も分かっているだろうから。

 そう思っていた時だった。僕の目の前で死んだはずの悪魔から呻き声が聞こえてきた。

「うぅあぁ……」

『生き返った……!?そんなありえない……』

『サトシ!』『サトシ!』『『コイツらすごく変!』』

『皆さん!人体の方は既に機能を停止しています!殺す殺さないではなく、浄化もしくは退魔させないといけません!最悪の場合、消滅でも構いませんがあまりお勧めはしたくないです』

『そうなのか……。それに関してら僕じゃ役に立てそうにない。でもここで足止めするくらいなら出来る』

 僕達には浄化魔法が使える者がフレイヤしかいない。だから、僕達は今は足止めをするくらいしか出来ない。

 他の部隊でも同じようにジリ貧な状態になっている。

 それもそうだ。絶対に死なない悪魔相手に、死んだらそこで終わりの僕達人間が戦っているんだから。

『父さん!?その姿は俺の父さんだろ!?返事してくれよ!!』

 不意に戦場に響く切羽詰まったような声。

 人を悪魔にしているからこうなる可能性はあった。むしろ今まで出なかったのが不思議なくらいだ。

『お、おれ、俺の娘が!!だ、誰かっ!娘を!娘を助けてくれ!助けてください!』

『母さん……。いなくなったと思ったらこんな所にいたのかよ』

『ライラス。まさかあなたがこんな事になってるなんて……。気付かなくてゴメンなさい……』

 最終の声から波紋が広がる様に戦場を徐々に埋めつくす、負の感情。最悪の状態になりつつある。

 今戦っているのが、隣にいる誰かの知り合いかもしれない。友達の親かもしれない。そう思うと手出しが出来なくなってきている。

 人は何とも弱い。どれだけ強くあろうとしても、なにかの切っ掛けですぐに崩れ去ってしまう。

 今の状態もそうだ。最初の声が切っ掛けで、皆の心にヒビが入った。あとは両親や友、恋人が悪魔にされたと知った衝撃でそこから崩れていく。

 一度崩れてしまったら治すことは難しい。

 どうしたらいいんだ……。そう思った時だった。

「神の光にて浄化せよ!神光レイ!」

 戦場に一本の光の柱が現れる。その光の柱は激しくも優しく輝く。

 やがて光が治まると、周りから大きな声が上がる。

「戻った……!父さんが元に戻った!!ありがとうっ!!本当にありがとうっ!!」

「い、いえ!」

 さっきの光の柱を出したのは少女だったということが分かった。その少女の元にエルシャさんが近付いていく。

「今のは君がやったのか?」

「は、はい!私には浄化に特化した能力があるみたいなので……」

 言葉が尻すぼみになっていく少女。もう少し自信を持ってもいいと思う。彼女は誰にも出来ないことをしたのだから。

「君の名前は?」

「ニーナ……です。ニーナ・ベリック。教皇の娘です。父を止めに来ました」

 教皇の娘と言ったニーナという少女。彼女のお陰で戦況は一気に変わる。

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