異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第173話 三度目の邂逅のようです

 帝王が遊撃部隊を引き連れて敵部隊に向かっていく。

「王自ら戦いに出ても良いのですか?」

 俺はそんな疑問を問うてみた。

「フェラリオンは今では一国の王だけど、昔は敵無しと言われるくらいには強かったのだ。それはバックスにも言えることでな。フェラリオンは近接戦闘で、バックスは遠距離戦闘で名を馳せていた」

「そういうカームこそ、支援魔法を武器として戦っておったろう?」

「そんな時もあったな」

 昔に思いを馳せる聖王様。その聖王様の変わりに国王様が俺の疑問に答えてくれた。

「そういう訳で、フェラリオンが遊撃部隊を率いている訳じゃ。ちなみに、私が魔術部隊を、カームが補給部隊を率いることになっておる」

「なるほど」

「それに一国の王が部隊を率いれば嫌でも士気が上がる。それは敵にとってみれば嫌な事この上ないのじゃよ」

 よく考えて、王を指揮にしているのか。

「でも、主力部隊の指揮は――」

「お呼びに預かりましたエルシャでございます」

「おぉ、来たか」

 意外な人物の登場で少し驚いた。どうやら国王様に呼ばれているようだ。

「エルシャさん?」

「君か!久しぶりだな!元気にしていたか?」

「お陰様で。それよりエルシャさんはどうしてここへ?」

「それは主力部隊をいつ動かせばいいのかを聞くためだよ。その為に国王様に呼ばれている」

「そうなのじゃよ。エルシャには主力部隊の指揮を執ってもらっておるのじゃ。彼女は指揮能力に優れているからのぉ」

 確かにエルシャさんの指揮は、一度見ただけだが士気を高めていた。

「では、エルシャよ。お主は遊撃部隊が戦闘に入ったらすぐに追撃出来るように、すぐに進軍するのじゃ」

「はっ!」

「それとこの子を連れて行くと良い。先程から向こうに行きたくて仕方が無い様子だったからのぉ。それにこの子は相当な戦力になるじゃろ。恐らくは主力部隊三つ分の戦力はあるからのぉ」

 俺が向こうに行きたくて仕方が無かった事はバレていたようだ。

 でも仕方がないだろう。俺の目的は勇者を殺し蘇生させて正気に戻すことと、教皇を消滅させることだ。言ってしまえば、戦争など俺にとってはどうでも良いことなのだ。

 ただ、戦争が俺の目的を達する過程の中に含まれていただけの事だ。

「では、そのように。君は私が連れて行く」

「エルシャよ宜しく頼んだぞ。そしてお主、あまり死に急ぐではないぞ。では、行け!」

「「はっ!」」

 俺とエルシャさんは主力部隊に足を運ぶ。

 エルシャさんが率いる主力部隊は、さらに細かく六つの部隊に分かれている。

 フェルト率いる第一部隊。レオン率いる第二部隊。スゥ率いる第三部隊。ラビ率いる第四部隊。レイファン率いる第五部隊。そして、グリーズ率いる第六部隊だ。

 この部隊を率いている者達はいわゆる六種族だ。それぞれが王になる為の素質はある。適任だろう。

 エルシャさんはその六つの部隊を率いる総指揮官とも言うべき立場だ。この立場はエルシャさん以外に適任はいないだろうな。

「君には色々聞きたい事がある。だが、今聞かずにおこう。でも後でちゃんと聞かせてもらうからね!」

「分かりました」

 エルシャさんのいつも通りすぎる対応に毒気を抜かれて、少し笑みが零れる。

 しかし、エルシャさんはそれ以降は一切素を出す事は無く、人の命を預かる責任を背負うだけの人であると再確認させられるほどの気迫があった。

「済まないが君には出せるだけの戦力を出して欲しい。君程の戦力があれば、犠牲者も減るだろう。そうすれば、悲しむ者や恨む者が相対的に減るのだ。どうだ、頼めるか?」

「勿論です」

「その答えが聞けて嬉しいよ」

「ですが、準備に少し時間がかかります。先に行っておいてください」

「分かった。だが、後でしっかり追いつくのだよ?」

「了解です」

 エルシャさんはそのまま主力部隊の方へ行き、命令を伝達する。

 俺は主力部隊の後方で、戦力の増強をはかるために準備をする。

「いでよ、イフリート!」

 すると地面に魔法陣が浮かび上がり、そこからイフリートが現れる。

「呼び出してすぐで済まないが、今がどんな状況なのかを説明する。手を出してくれ」

『よかろう』

 俺はイフリートが出した手を掴み、追体験によって今がどんな状況にあるのかを見せた。それと同時に、追体験のスキルも渡しておいた。

『なるほどな。世界が終わるのはサトシも望むところではないだろう。協力を仰げば良いのだな?』

「あぁ。イフリートにはさっき俺がやった事と同じ事ができる様に追体験のスキルを渡しておいた。有効活用してくれ」

『了解した』

 イフリートはそう言って戻っていった。

 そんな時、主力部隊から雄叫びが上がり、敵部隊に向けて進軍を始めた。士気が高まっている。エルシャさんの手腕によるものだろう。

 本来なら、サトシさんに協力を仰ぐのは俺の仕事だろう。だが、俺が向こうに行っている間に何かが起こり、何も出来ないでは話にならない。

 そんな事を想いながら五分が経つ。主力部隊はもう半分まで進軍している。

 ここでじっとしているのはもどかしいが、しょうがない事だ。ここと向こうでは時間の進みが違うのだから。しかも向こうの方が遅い。できるだけ急いでも、こちらでは少し遅くなるのだ。

 と俺の前に突如転移門が現れる。

 俺は咄嗟に戦闘態勢に入ったが、中から出てきたのはサトシさんをはじめとした、イフリート、雪女、フレイヤ、デザートスコーピオン、ポルクス、カストルのサトシさん御一行だった。

『やあ。世界が終わるって聞いて急いで準備してきたよ』

「サトシさん。ありがとうございます」

『いや、僕もこの世界が終わるのは頂けないからね。できるだけ尽力させてもらうよ。それに久しぶりに大暴れできるって知ってみんなやる気満々だしね。どうして僕のパーティはこんなに脳筋なんだろうね?』

「俺も同じ事を考えたことありますよ。でもそれが――」

『「いい!」』

 俺とサトシさんは互いに笑い合った。久しぶりに仲間の事で笑ったかもしれない。少し気が楽になった。

『ねぇねぇ』『僕達は』『『何すればいいの?』』

「サトシさん達には、主力部隊に混ざって敵の殲滅をしてもらいたいです。主力部隊の総指揮官は人間の若くて槍を使っている手練の女性なのですぐに分かると思います」

『若い女性で、槍の手練ね。分かったよ』

「彼女の名前はエルシャと言うので分からなかったら誰かに聞いてください。あと、彼女にあったら一言、戦力を増強してきたと添えてくれるとありがたいです」

『なんかこういうのテンション上がるよね。戦争で不謹慎かもしれないけど』

 サトシさんは久しぶりに体を動かせる事に喜びを感じているのか、遠足前の子供のようにウキウキしている。

「では、転移して主力部隊の所まで送ります。女神」

「うん。皆私に捕まってください」

『あなた、もしかして――』

「先輩それ以上は……」

『そう。あなたの選んだ道なら仕方ないわね』

「何の話だ?」

「ううん。何でもないの。じゃあ転移します!」

 女神は俺の質問を流して、転移をした。

 場所は主力部隊の真後ろだ。いい位置に転移してくれた。

「サトシさん!あとは任せました!」

『君は?』

「俺にはやる事がやりますから。エルシャさんに俺がどうしてるのか聞かれたら、そう言ってください」

『分かった。じゃあ僕はそのエルシャって女性に会いに行くよ』

「宜しく御願いします」

『行くよ皆!』

『『『了解!』』』

 サトシさん達一行は主力部隊の先頭に向かっていった。

 あと二分もすれば戦闘に入るだろう。既に遊撃部隊は二手に分かれて左右から攻撃を加えている。

 挟み撃ちとは考えたものだ。そして、その間に溜まった敵部隊を主力部隊で殲滅という作戦なのだろうな。

 だが、俺には関係無い。既に俺の感知には四人組で動いている人影を捉えている。場所は敵部隊の後方の少し離れたところだ。

 教皇の姿はまだ見えていない。これは好都合だ。

「女神、勇者達の所へ頼む」

「ねぇ、本当に一人でやるの?皆を――」

「皆はもういない。俺が決めた事だ。これだけは絶対に曲げない」

「そう……。でも危なくなったら逃げてよ?」

「逃げれたらな。さあ早く送ってくれ」

「分かった」

 女神は渋々と言った感じで、転移をする。

 そして俺達は完全に孤立した状態になり、四人組の前に立ちはだかる。

「こうやって、お前達の前に立って命をかけるのは三回目だ。今まで負けてきた分、今日は勝たせてもらう。覚悟しろよ、勇者達」

「…………」

 相変らず目は虚ろ。精気のない顔。ただただ操られて、人を殺す為に動かされている勇者。

 すぐに楽にしてやると、俺は決める。

「女神は下がっていてくれ。一人でどうにかする」

「うん。でも、絶対に死なないでよ……?」

「死ぬ気なんで毛頭ない。今回は勝たせてもらう」

「絶対だからね」

 女神はここから遠い所へ転移をした。

 勇者達は俺を見て戦闘態勢に入っている。

「タクマ。まずはお前からだ。ここで決着を付けてやる」

 そうして、三度目の命を懸けた戦いが始まる。

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