異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第171話 協力体制のようです

「今回のこの同盟には、各国の友好関係を良くするという目的がある事は分かってもらえただろう?」

「はい。お互いがお互いを助け合う関係になったのですよね」

「うむ。その関係が築けた事で目下問題となっている戦争について、様々な問題が解決する」

 問題?一体なんのことなのだろうか?

「君は政治というものをよく知らないのだろう?」

「はい。そういうものに触れる事が少なかったので」

「いい機会だ。知っておくといい」

 そうして聖王様が俺に何故、問題が解決していくのかを説明してくれる。

「今、この世界で最も問題となるのは、教皇が起こそうとしている戦争である。普通ならば、これは聖国内の問題として、聖国が解決しなければならない問題である。それは理解出来るな?」

「えーっと、要するに、身内な起こした落とし前は身内で、と?」

「その例えで間違えておらぬ。この内乱とも呼べる状況を、鎮圧が出来た時と出来なかった時で考えてみるぞ。まず、鎮圧で来た場合だが、元々三カ国を相手取る軍勢を用意していただろう教皇を止めたということになる。しかし、そんな軍勢を相手にして、どれだけの犠牲が出るかなど想像にかたくない」

 確かにそうだ。三カ国を相手取れるほどの軍勢を一カ国の軍勢で止めるのだ。もし、それが出来た場合、犠牲は多くなるだろう。

「しかし、その犠牲を払って得たものは何も無いのだ。ただ、無為に人が死に、大地が荒れ、しばしば生活が苦しくなるだろう。そのせいでまた多くの犠牲が出るやもしれん」

「仰る通りです」

「では、止めることが出来なかった場合どうなるのかだが、こちらの犠牲が多い事は変わらん。しかし止める事が出来なかった事で、王国と帝国に攻め入る事になる。その場合は聖国と、王国、帝国との戦争になる。当然、戦争になればどちらにも犠牲は出るであろう」

 やはり犠牲なしにはいかないか。それに、各国まで広がるとなるとまた話が変わってくる。それは直感で分かった。

「この時の戦争に勝てなかった場合は世界が終わる。何も考えなくてよい。しかし勝った場合であるが、王国、帝国の両国から賠償を請求されることになる。戦争での賠償は国政を揺るがすものだ。それが二カ国同時に来た場合どうなるか。君は想像つくかな?」

「国政を揺るがすものが同時に二つ起きた場合。最悪、国政が働かなくなり、国としての機能がなくなる?」

「そういう事だ。事実上の聖国消滅になるであろう。聖国の領地は他国に蹂躙され、元聖国の民が苦しむ。また、領土を求めての争いが起きないとも限らない。戦乱の時代がくる」

 なんかすごくやばい話になってるのだが……。俺ははそこまで考えが及んでなかった。

「細かく言えばまだあるがここでは割愛する。しかし、それでもこの戦争がもたらす世界への影響がどういうものか分かってもらえたと思う。だからここで同盟が出てくるのだ」

「同盟はその影響を減らす為のものであると言うことになるのですけね?」

「うむ。理解が早くて助かる。再三言っているが、この同盟はお互いを助け合うという盟約がある。それがどう言う事か。一般的にいえば、技術提供や貿易を盛んにする、という事になる。それも間違いではないが、内乱が起こった場合に他国の力を借りる事が出来るようになる」

「なるほど。同盟を組んだ事で、三カ国同時に対抗できるようになるのですね。それならば兵力も多くなり、各国の犠牲が多少なりとも減ると」

「それだけではない。聖国は協力してくれた他国に賠償はないが、謝金もしくはそれに準ずる物を進呈しなければ釣り合いが合わないだろう。しかし、同盟を組んでいることから、国が無くなるほどのものを要求される事はないだろう」

 そうか。聖国が無くならないことでその後に起こったはずの争いも無くなるのか。

「でも、それって王国と帝国は不利じゃないですか?」

「王国としては、他国との交流が盛んになる事で、足りていない物資の物流が出来ることが大きなメリットになるのじゃ。また、人の行き来が多くなれば、国も豊かになるからのぉ。それに戦争で犠牲になる国民が減るならそれが一番じゃて」

「帝国も王国とほとんど変わらん。だが、それに追加して、今回の同盟で他種族への理解が進めば良いとも思っている。そうすれば、帝国内だけでなく、他国での生活も出来るようになる。要するに民の自由が増えるのだ。これ程嬉しい事はない」

「と、言う事だ。この同盟は互いに良い関係を築くと共に、戦争を有利に進めること、今後の世界の在り方を決める重要な出来事だったのだよ」

 よく考えられている。俺には到底考えもつかないものだ。純粋に王は凄いと思った。

「ここまで良い事しか言ってないけど、悪い事だってある」

「悪い事?」

「この同盟はここにいる者達しか知らぬ。告知も無しに同盟を組んだと知れば、少なからず混乱は起こる。もしかするとその間に戦争と言うこともある。そうなってはこちらは総崩れで、ほぼ負け確定となる。それこそ神でも降りて来ない事には」

「では、一体どうするのですか?」

「一時的な協力体制と偽る。世界の命運が掛かっているのだから、民達も納得がいくはずだ。それから戦争が終われば大々的に同盟を組んだと言えば良い」

「嘘ついても大丈夫なんですか?」

「世界の為じゃ、神も許してくれるじゃろ」

 俺は女神を見てみた。こいつは何気にこの世界の唯一神である。世界の命運を担う同盟の話をリアルタイムで聞いてどう感じたのだろうか。

『悪い嘘はダメだけど、良い嘘はいくらでもついていいと思うよ?』

『じゃあ今回のこの同盟についての嘘はオッケーなんだな?』

『うん。むしろ私としては世界が一つになっていくことが嬉しい』

『そうか。まあお前は神だもんな。幸せになれる人が増えればそれでいいもんな』

『うん。私はその世界に住む人がそれぞれの幸せを見付けてくれればいいなって思ってる。だから教皇は少し可哀想だって思う』

 女神はどこまでいっても女神のようだ。全ての人の幸福を願うのは悪い事ではない。むしろ誇っても良い事だ。それが現実的かどうかは置いての話だが。

 女神が言うには、この同盟の方が幸せになれる人が多く誕生するようだ。それがいつになるのかは分からないが、そうなればこの世界も豊かになるだろう。

「君には、各国の架け橋となる人物になってほしいと考えてる。これはここにいる国を預かる王の総意だ。ただ、帝王個人は君が気に食わないようだが」

「ふん。まだ私と出会った時の方が好感が持てたわ!」

「フェラリオンよ。この子はまだ若いのじゃ。長い目で見てやった方がいいと思うのじゃが?」

「いつになるかも分からぬ事をするつもりはない。矯正できる時にしておかなければ後悔することもある。私はこやつの生きる事を諦めた様な目が気に食わん!長い目で見ていて死んだらどうするのだ!」

「なんと、フェラリオンがそこまでこの子を気にかけるとは。余程気に入っておったのじゃな?」

「こんな腑抜けを気に入った覚えはないがな」

「厳しいのぉ……」

「私にとって、命の恩人であるからな。私は全幅の信頼を置いている。少なくとも悪い人ではないからな」

「初めて合った時に思ったのじゃが、正義感が強いんじゃ。まさにヒーローよのぉ」

「命を大切にする本当の意味を知っている数少ない人だな」

「こやつがか?己の命など捨てるつもりでいるのにか?」

「言ってたじゃろ、仲間を死なせたと。正義感が強いあの子のことじゃ、色々考えたのじゃろうて」

「だからといって命を捨てるのは感心せん」

「まあそこは若さ故というのがあるのだろう。だから君は、自分の命を大切にするんだよ?さっき言ったように、君には各国を繋ぐ架け橋になって欲しいんだから」

「は、はぁ」

 何故か俺の前で俺について色々意見が飛んでた。恥ずかしいんだが。

「じゃあ君に任せるよ!」

「取り敢えずは分かりました。そのお役目しっかり果たさせて頂きます」

 架け橋って何するんだろうか……?全く分からんのだが。

 俺はそんな事を考えながら、未だに俺の性格や人格の意見を言い合う王達を見つめていた。

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