異世界に転生したので楽しく過ごすようです
第166話 足りない物のようです
聖王様に頼まれた事を全て終え、聖都に戻ってきた俺と女神。
だが、俺の心の中は複雑であった。
国王様から言われた俺の思い通りには決してならないという、忠告。
帝王様が言い放った、過去は変えられぬという事実。
そして俺がやっているのは、子供のやる我儘だと。
そんな事は誰に言われなくても自分がよく分かっている。自分の気持ちだけで仲間を置いていき、自分の思いだけで事を成そうとしている。
でも、それがどれだけ馬鹿な事で、周りからみて愚かだとしても、俺にはそうするしかないと思った。
確かに俺の選択は間違っていたのかもしれない。でも、一度やってしまったなら、その道を突き進むだけだ。
俺はもう迷わない。たとえ、間違えだらけの道であろうとも進む。
「大丈夫?」
「……俺は大丈夫だ。それより聖王様に会いに行こう」
「うん」
俺達は王城まで向かい、昨日の門番に中に入れてもらった。門番と別れる前に聖王様の居場所を聞いてみた。
「聖王様は今どこにいるか分かるか?」
「いえ、私には……」
「そうか。している人に検討は?」
「大臣様か、執事長ではないかと思います」
「分かった。感謝する」
俺は門番に礼を言って、足早に中を進んでいく。
大臣や執事長が今どこにいるかなど俺には分からない。だから、俺は感知で聖王様がどこにいるのか探すことにした。
謁見の間にはいくつかの反応があったが、玉座には誰かが座っているという反応はない。
ならばと寝室を調べると、反応が二つあった。一つはベッドがあった位置にあるので、恐らくは聖王様だろう。
もう一つは、誰か分からないが聖王様の部屋に入っても大丈夫な者など限られているので、簡単に絞ることは出来る。
「寝室に行くぞ」
「分かった」
俺は女神を連れて、聖王様の寝室に向かった。その間に感知の反応が誰なのか分かると便利なのだがと思ったら、判別のスキルを手に入れた。
そのスキルを使い、さっきの反応が誰であるのかを調べると、"クリスティ・フォン・ファルクス"という名前が出てきた。名にファルクスとある事から王族である事は分かるが、どんな人なのかまでは分からない。
と、そうこうしているうちに聖王様の寝室の前まで来た。
俺は、ドアを三回ノックした。
「聖王様。頼まれていた事を済ませて来ました」
「入れ」
「失礼します」
俺は聖王様に従って部屋の中に入る。
中には聖王様とは別に、女性がベッドの横に座っていた。
俺はその女性に一礼をして、聖王様に向く。
「聖王様。国王様からはこれを預かってきました。帝王様からは言伝で、『受けよう』」と言えと言われました」
「うむ。まずは国王からの密書を読んでみる。それまで少し待たれよ」
「はっ」
俺は国王様から預かった密書を聖王様に渡した。
聖王様が密書を読んでいる間に、座っていた女性が話しかけてきた。
「あなたでしょう?カームを救い出して下さったのは」
カームという呼び名が誰か分からなかった俺は少し反応が遅れた。それを見た女性はクスッと笑い、俺が言葉を発するより先に口を開いた。
「カームというのは、この人の事よ」
女性は聖王様を指し示した。
確かに聖王様はカームマインという名だ。しかし、ここまで親しく名を呼ぶという事は王妃か何かなのだろう。
「クリスティ様。俺は救うなどという誇れる事はしていません。たまたま、俺の目的に聖王様を助けるという事が含まれていただけですから……」
「あら、正直なのですね。不敬罪を適用されても仕方がない言い方ですけど?」
「クリスティ様に嘘は通じないでしょう?」
「まぁそんな事まで分かってしまうなんて。あなたは少し危険だわ……」
俺はクリスティ様がクスッと笑った事が不思議であった。
何故、俺がカームが誰なのか分からないという事をすぐに察する事が出来たのか。俺はそう思い至ったのだ。
俺は反応が遅れただけで、しっかり言葉を返そうとした。それよりも早くに、そこまで考えて笑うことなど、思考を読まなければ出来ない。
思考を読まれる事に関して、俺はプロだ。だてにジュリから思考を読まれていない。
今のやり取りから、クリスティ様には危険視されてしまったが、仕方がない。駆け引きとはそういうものだ。
「俺は何もしませんよ。少なくとも善人には」
「あなたは私が善人でないと言いたいの?」
「いえ、俺に何かされるようにならないで欲しいと思いまして。クリスティ様が亡くなられると悲しむ方も多いでしょう」
「本気で言っている事がまた恐ろしいわね」
「クリス。この者は私達と目的が同じ同志だ。やり方が違うことこそすれ、やろうとしている事は同じだ」
「……そのようね」
「クリスティ様。今見た俺の思考は誰にも話さないでください」
「いいわ。私も死にたくはないし。それにあなたの可哀想な心なんて誰に話したところで理解は得られないでしょうから」
「きついですね……」
すると、聖王様が突然笑いだした。
「はっはっはっ。クリスは駆け引きで負けていじけているだけだ。クリスが負けるところなど久しく見ておらぬかったわ!」
「カーム?後で私とお話をしましょうね?」
「私は病人だそ?その話は軽めを要求する」
「えぇ、軽いお話をしてあげますからね?」
これ絶対軽くないやつだな。俺には分かる。同じ思考を読む者として、考えている事が手に取るように分かるからな。
「とりあえず、国王からの密書を読ませてもらった。大方帝王と同じであった。三日後に、お主にはもう一度、帝王と国王の元に行ってほしいのだが、頼まれてくれるか?」
「はい」
「では、三日後に私の元に来てくれ。要件を伝える。それまではゆっくりしておいてくれ」
「分かりました」
俺は一礼をして、部屋から出ようとした。その時に、クリスティ様が俺を引き止めた。
「シャールがあなたに会いたがっていたわ。本当は会わせたくはないけど、シャールの願いだから一応伝えておくわ」
一言多いが、聖王様を見ると微笑ましそうにしているから、未だにいじけていて、俺に強く当たっているだけだろう。
「分かりました。シャール様からのお願いなら聞くしかありませんね。後で会いに行きます。では、失礼します」
俺は部屋から出て、戸を閉めた。すると中からクリスティ様の大きな声が聞こえてくる。
『もう!なんなのあの子!私のスキルを一発で看破するし、私の嫌味にも反応しないのよ!人じゃないわ!』
酷い言われようだ。俺はまだギリギリ人だ。俺の仲間だった者達は本当の化け物みたいになったがな。
『そう言ってやるな。クリスも見たろあの者の目を。あれは相当酷な事があった目であるぞ。それも数回だ』
『…………』
俺の目ってそんなに分かりやすいのか?
俺は女神をチラッと見てみた。すると女神は大きく頷いた。
「前は分からなかったけど、今は良く分かるよ」
「そうか……。気を付けないとな」
《偽装を獲得しました》
さすが創造。俺はすかさず偽装を使う。
「どうだ?」
「うん。前とほぼ一緒だね」
ほぼでもやらないよりはマシだろう。今はこれでいこう。
「それで、三日後まで暇になったけどどうするの?」
「スキルを獲得する作業に入る」
「スキルを?」
「俺はスキルを獲得する事でステータスに補正が掛かるからな。勇者達を殺すだけの力を獲得する為の近道だ」
実際、どうなるかなんてものは分からない。超越した者にスキルだけで対抗出来るのかすらも怪しい。
だが、今の俺に足りない物は力だ。護りたいものを護るだけの力が足りない。それを得るためなら、いくらでもスキルを獲得しよう。
「まぁその前にシャールに会いにいこう。少しは気晴らしになるかもしれん」
「うん!」
こうして、俺達はシャールの元に向かうことにした。
だが、俺の心の中は複雑であった。
国王様から言われた俺の思い通りには決してならないという、忠告。
帝王様が言い放った、過去は変えられぬという事実。
そして俺がやっているのは、子供のやる我儘だと。
そんな事は誰に言われなくても自分がよく分かっている。自分の気持ちだけで仲間を置いていき、自分の思いだけで事を成そうとしている。
でも、それがどれだけ馬鹿な事で、周りからみて愚かだとしても、俺にはそうするしかないと思った。
確かに俺の選択は間違っていたのかもしれない。でも、一度やってしまったなら、その道を突き進むだけだ。
俺はもう迷わない。たとえ、間違えだらけの道であろうとも進む。
「大丈夫?」
「……俺は大丈夫だ。それより聖王様に会いに行こう」
「うん」
俺達は王城まで向かい、昨日の門番に中に入れてもらった。門番と別れる前に聖王様の居場所を聞いてみた。
「聖王様は今どこにいるか分かるか?」
「いえ、私には……」
「そうか。している人に検討は?」
「大臣様か、執事長ではないかと思います」
「分かった。感謝する」
俺は門番に礼を言って、足早に中を進んでいく。
大臣や執事長が今どこにいるかなど俺には分からない。だから、俺は感知で聖王様がどこにいるのか探すことにした。
謁見の間にはいくつかの反応があったが、玉座には誰かが座っているという反応はない。
ならばと寝室を調べると、反応が二つあった。一つはベッドがあった位置にあるので、恐らくは聖王様だろう。
もう一つは、誰か分からないが聖王様の部屋に入っても大丈夫な者など限られているので、簡単に絞ることは出来る。
「寝室に行くぞ」
「分かった」
俺は女神を連れて、聖王様の寝室に向かった。その間に感知の反応が誰なのか分かると便利なのだがと思ったら、判別のスキルを手に入れた。
そのスキルを使い、さっきの反応が誰であるのかを調べると、"クリスティ・フォン・ファルクス"という名前が出てきた。名にファルクスとある事から王族である事は分かるが、どんな人なのかまでは分からない。
と、そうこうしているうちに聖王様の寝室の前まで来た。
俺は、ドアを三回ノックした。
「聖王様。頼まれていた事を済ませて来ました」
「入れ」
「失礼します」
俺は聖王様に従って部屋の中に入る。
中には聖王様とは別に、女性がベッドの横に座っていた。
俺はその女性に一礼をして、聖王様に向く。
「聖王様。国王様からはこれを預かってきました。帝王様からは言伝で、『受けよう』」と言えと言われました」
「うむ。まずは国王からの密書を読んでみる。それまで少し待たれよ」
「はっ」
俺は国王様から預かった密書を聖王様に渡した。
聖王様が密書を読んでいる間に、座っていた女性が話しかけてきた。
「あなたでしょう?カームを救い出して下さったのは」
カームという呼び名が誰か分からなかった俺は少し反応が遅れた。それを見た女性はクスッと笑い、俺が言葉を発するより先に口を開いた。
「カームというのは、この人の事よ」
女性は聖王様を指し示した。
確かに聖王様はカームマインという名だ。しかし、ここまで親しく名を呼ぶという事は王妃か何かなのだろう。
「クリスティ様。俺は救うなどという誇れる事はしていません。たまたま、俺の目的に聖王様を助けるという事が含まれていただけですから……」
「あら、正直なのですね。不敬罪を適用されても仕方がない言い方ですけど?」
「クリスティ様に嘘は通じないでしょう?」
「まぁそんな事まで分かってしまうなんて。あなたは少し危険だわ……」
俺はクリスティ様がクスッと笑った事が不思議であった。
何故、俺がカームが誰なのか分からないという事をすぐに察する事が出来たのか。俺はそう思い至ったのだ。
俺は反応が遅れただけで、しっかり言葉を返そうとした。それよりも早くに、そこまで考えて笑うことなど、思考を読まなければ出来ない。
思考を読まれる事に関して、俺はプロだ。だてにジュリから思考を読まれていない。
今のやり取りから、クリスティ様には危険視されてしまったが、仕方がない。駆け引きとはそういうものだ。
「俺は何もしませんよ。少なくとも善人には」
「あなたは私が善人でないと言いたいの?」
「いえ、俺に何かされるようにならないで欲しいと思いまして。クリスティ様が亡くなられると悲しむ方も多いでしょう」
「本気で言っている事がまた恐ろしいわね」
「クリス。この者は私達と目的が同じ同志だ。やり方が違うことこそすれ、やろうとしている事は同じだ」
「……そのようね」
「クリスティ様。今見た俺の思考は誰にも話さないでください」
「いいわ。私も死にたくはないし。それにあなたの可哀想な心なんて誰に話したところで理解は得られないでしょうから」
「きついですね……」
すると、聖王様が突然笑いだした。
「はっはっはっ。クリスは駆け引きで負けていじけているだけだ。クリスが負けるところなど久しく見ておらぬかったわ!」
「カーム?後で私とお話をしましょうね?」
「私は病人だそ?その話は軽めを要求する」
「えぇ、軽いお話をしてあげますからね?」
これ絶対軽くないやつだな。俺には分かる。同じ思考を読む者として、考えている事が手に取るように分かるからな。
「とりあえず、国王からの密書を読ませてもらった。大方帝王と同じであった。三日後に、お主にはもう一度、帝王と国王の元に行ってほしいのだが、頼まれてくれるか?」
「はい」
「では、三日後に私の元に来てくれ。要件を伝える。それまではゆっくりしておいてくれ」
「分かりました」
俺は一礼をして、部屋から出ようとした。その時に、クリスティ様が俺を引き止めた。
「シャールがあなたに会いたがっていたわ。本当は会わせたくはないけど、シャールの願いだから一応伝えておくわ」
一言多いが、聖王様を見ると微笑ましそうにしているから、未だにいじけていて、俺に強く当たっているだけだろう。
「分かりました。シャール様からのお願いなら聞くしかありませんね。後で会いに行きます。では、失礼します」
俺は部屋から出て、戸を閉めた。すると中からクリスティ様の大きな声が聞こえてくる。
『もう!なんなのあの子!私のスキルを一発で看破するし、私の嫌味にも反応しないのよ!人じゃないわ!』
酷い言われようだ。俺はまだギリギリ人だ。俺の仲間だった者達は本当の化け物みたいになったがな。
『そう言ってやるな。クリスも見たろあの者の目を。あれは相当酷な事があった目であるぞ。それも数回だ』
『…………』
俺の目ってそんなに分かりやすいのか?
俺は女神をチラッと見てみた。すると女神は大きく頷いた。
「前は分からなかったけど、今は良く分かるよ」
「そうか……。気を付けないとな」
《偽装を獲得しました》
さすが創造。俺はすかさず偽装を使う。
「どうだ?」
「うん。前とほぼ一緒だね」
ほぼでもやらないよりはマシだろう。今はこれでいこう。
「それで、三日後まで暇になったけどどうするの?」
「スキルを獲得する作業に入る」
「スキルを?」
「俺はスキルを獲得する事でステータスに補正が掛かるからな。勇者達を殺すだけの力を獲得する為の近道だ」
実際、どうなるかなんてものは分からない。超越した者にスキルだけで対抗出来るのかすらも怪しい。
だが、今の俺に足りない物は力だ。護りたいものを護るだけの力が足りない。それを得るためなら、いくらでもスキルを獲得しよう。
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