異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第153話 聖都の現状のようです

 聖都の引き込まれるような、美しい景観に見とれて早三分。未だにその気分が抜けない。

 今は観光が目的で気分が楽だというのもあるのだろう。

「で、どこに行く?」

「取り敢えず、噴水の所まで行きましょう。あそこ人多そうだから、もしかしたら話なんか聞けるかもしれないわ」

「それもそうだな」

 俺達は今一番目立っている噴水の所まで移動した。

「なんていうか、元気が湧いてくるな!」

「子供達が元気に走り回ってるからかしらね?」

 走り回ってるのは小学校の四、五年生くらいの子達だろう。恐らくやってるのは鬼ごっこだ。『タッチー!』『バリアしてるから効きませーん』のやり取りをしてるのを見た。どこの世界もこれは変わらんのだな。

 すると一人の女の子がこちらにやってきた。ここは紳士っぽく優しく声をかけてあげよう。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん?」

「えっとね……。一緒に遊ばせて貰えませんか……?」

 俺は少し寂しさを感じた。

 なんだろう。遊ばせて貰えませんか、に俺を含めてと遊ぶという選択肢はなかったように思える。

 少し辺りを見回すと、心配そうにこちらを見つめる夫婦のような人達がいた。

「あーなるほど。そういう事か」

「ダメ……ですか……?」

「いやいや!そんなことないよ。お嬢ちゃんが頑張って誘いに来たんし、断る理由もない。一緒に遊ぶといいよ」

「ほんとに……?」

「うん。ほんとだよ。さぁ、皆仲良くこの子と遊んであげて」

「「「了解」」」

 ちょ、何が『了解』だよ。そこは子供らしく『はーい!』とかでいいだろ!

「あ、いつもの癖で」

「はぁ……。まあいいから遊んであげて。勇気をだして誘ってくれたんだ。そこは乗ってあげるのが礼儀ってものよ」

 皆も大体分かっていたのだろう。誘ってきてくれた女の子と遊びに行った。

 ここに残ったのは、俺、女神、シロの、一人と一柱と一匹。思うんだが、最近女神と二人になりすぎじゃね?

 いや、それが悪いと言ってるわけじゃないんだが、なんかこう不自然というかなんというか?気のせいだろうか?気のせいか。気のせいにしとこ。

「ささ、シロおいで!私が完全なるナデナデをお見舞いしてあげる!」

「ニャン!」

 シロは女神の腕の中に収まってグルグル言ってる。大変気持ちよさそうだ。

 しかしなぜだ。俺が撫でるとそんなグルグル言わないし、気持ち良さそうにもしないぞ!

 たいてい『ニャーン』とか言ってへこたれるんだ。

「お、俺にも撫でさせて……」

「ダメ!あなたが撫でたら整体師のスキルのせいでシロがいっちゃうじゃん!」

「いっちゃうってどこにだよ……」

「そりゃあ、夢の世界に決まってるでしょ?」

「そうか……じゃあ我慢するか……」

 どうやらシロがへこたれるのは、整体師のスキルのせいらしい。この時ばかりはこのスキルを恨んだ。それはもう、すごく。語彙力が無くなるくらいには。

 とまぁ、こんなことをしていると、またしてもこちらに向かってくる人影が。

「どうも、うちの娘がお世話になっております」

 さっきの女の子の両親だ。父親の方は割と気さくな人だが、母親は少し恥ずかしがり屋なようだ。さっきの女の子は母親似だし、性格もある程度引き継いでるみたいだな。

「いえいえ。こちらこそ一緒に遊んで貰える子が出来て嬉しく思っていますよ」

 まぁ、言ってしまえばお世辞だ。社交辞令なのだから多少の嘘は仕方がない。

「そう言ってくれると助かります」

 女の子の両親はとても人柄が良さそうだった。あの子はいい子に育つというのが良く分かる。

「あの子、いい子ですね。あなた方が愛情をどれだけ注いでいるのか分かります」

「ははは、それほどでもありませんよ。あなた方"夫婦"の方が尊敬します。なんせあれだけのお子さんをちゃんとしつけられているのですから」

「……夫婦?」

「あなたとそこの女性のことですが……」

「ははは!夫婦と言われ慣れてないものでつい!」

 咄嗟に誤魔化しはしたが、夫婦だとよ。俺と女神が。

 確かにゼロを初めとした、旅の中で仲間になった奴らは全員ロリなのだが、女神は違うもんな。第一、仲間じゃない。

 だってこいつ、俺を監視しするとかいう名目で天界の仕事投げてるだけだし。でも一緒に行動してるから、なんか仲間っぽい感じになってるだけ。

 でもまあ天界の話とか聞くと面白いから、女神は放置してる。

「そうなんですか?だったらいつもはなんて?」

「一番多いのは恋人ですかね。見た目が若いのであまり夫婦とは見られなくて。こんなご時世ですから、自分の子を残していかなければ、と言うことで結婚したんですよ」

「そうですよね……。この国も先日、聖王様が逝去されてからだいぶ落ち着きましたが、まだまだ慌ただしいですもんね」

 ほう?民衆には聖王は死んだってことになってるのか。どこの誰が言ったのかは知らんが、国の上の者達はもう助からないと思っているのだろう。

 自分の国の王を見捨てるなど馬鹿な話もあったものだ。

「いやー、そうですよね。現在は聖王様の代わりに教皇様がこの国を明るくしてくれてるんでしたよね?」

「はい!教皇様がいてくれたお陰で、聖王様が逝去された事で起こった混乱がこんなにも早く静まったのです!いやー、私もあのような人になりたいですよ」

 この国では教皇は英雄か。全くもって話にならんな。自演、マッチポンプ、そんなところだ。

「最近は教皇様を見かけなくなったけどどこで何をしているんだろうなぁ。早く会って、私も協会の一員にして欲しいですよ」

 教皇はそんなことまでしているのか。もしかするとそれは勇者みたいに、思いのままに操るだけなのかもしれない。

 いや、ちょっと待て。この男なんて言った?私"も"?ということは既に教会の一員になっている一般人がいると言う事を表す。

 だと言うのに教皇は戦争を……。まさか、一般人までも戦争に駆り出そうというのかっ!

 教皇を信じ、人の為になりたいと願った者を利用し、あまつさえ、その願いと真逆の事を操ってやらせる。

 ふざけるな!人の思いはそんな簡単に踏みにじっていいものではない!

 俺は歯噛み、手に力が入る。

「ちょ!ここで力解放したらダメだって!軽く周囲百メートルが吹っ飛ぶから!」

 女神の声のお陰で、自分が暴走しそうになっていたのを止めることができた。

 ただ、さっきまで話していた夫婦は俺の異変に気付いて怯えてしまった。何とか誤魔化そう。

「済まない。御二方。唐突に私の右腕に封印されし邪龍が暴れだしてな……くっ!し、静まれっ!」

「「あぁ……」」

 俺を見る目が怖いものから可哀想なものを見る目に変わったが、まぁいいだろう。本来の目的は達成したからな!……グスッ……か、悲しくなんてないやい!

「邪龍の存在を知ったお前達に一つ忠告だ。決して教皇に近付くな。あいつは諸悪の根源である。死にたくなければあいつに関わらないことだ」

「「…………」」

 そういう設定だと思われても仕方がないだろう。しかしこれが、この人達の命を救うことに繋がると信じて。

「ではさらばだ……。……あなた方との会話は有意義ものでした。ありがとう……」

「……あっ」

「では、次に行くぞ我が娘達よ!」

 既に念話で事情を説明し、話に乗れと言ってある。女の子が少し可哀想だが、生きていればまた会う機会もあるだろう。その時はまた一緒に遊ぼう。

「「「了解!」」」

「み、みんな……。またね……!」

 女の子はその日一番の笑顔を見せたという。

 男達はその笑顔を守る為、その子の未来を守る為、先に進んで行く。いざ行け男達!負けるな男達!その足を未来に向けて!

 ……ふむ。なかなか良いんじゃないか?俺にしては上出来な終わり方だと思う。

「あなたねぇ。そんなくだらない事を考えてる暇があったら、ちゃんと私達に何があったか報告してくれるかしら?あなたがいきなり怒った理由知りたいのだけど」

「す、すまん」

 やっぱり、締まらないのが俺って男か……。

 そうして俺は皆に何があったかの説明をした。

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