異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第137話 救済するようです

ーside:ジュリー

『黒炎』

「散開!」

 私とレンの間に黒い炎が通る。そして、その先にあった大きな岩が燃え始める。

 なんという常識破りな炎。こんなの当たったら蘇生どころじゃない。どうすれば……。 

 私とレンは終始、邪神相手に押されっぱなしだった。当然と言えば当然なのだが、看板に会った"救う"という単語が何を意味しているの分からなかった事がいちばん大きい。

 簡単に言えばどうすれば救えるの?という事だ。

『極氷』

 レンの方に向けて飛ばされたのは細いビームのようなもの。

 レンはそれを空中に飛んで回避したが、ビームは当たったもの全てを凍らせてしまった。

「ほんとに、神様相手とか馬鹿じゃないのかしら」

「普通こう言うのは主様のお仕事なのでは?」

「そうよね。なんであの人は肝心な時にいないのかしら」

「まぁそれが主様ですし」

「はぁ。ほんとにどうすれば」

 私の予想なのだけど、恐らくはあの邪神を神に戻せばいいのだと思う。とは言ってもどう戻すのか分からない事にはどうしようもない。

『天罰』

 邪神がそう唱えた。なんかやばそうな雰囲気の技だったけど何も起こる気配が無かった。

 ……厳密に言えば私達には起こる気配は無かった。

『があぁぁっ、がぁぁぁ!!!!』

「な、なにっ?どうかしたの?」

「わ、私にもよく……」

『……聞きなさい、慈悲深き者達』

 邪神がのたうち回っていると私達の頭の中に声が入り込んできた。

『私は豊穣の神フレイヤです。……今はある人間の手によって邪神にされましたが』

『フレイヤ様っ。ご無事なのですか!?』

『いえ、あまり無事とは言い難い状態です。このままでは、この私の意識も邪神の方に持っていかれるでしょう。そうなるともう手遅れになります』

『だったら話は早いわね。邪神を今すぐにどうにかすればいいだけ』

『はい。そういう事です。ですがあなた方は邪神の倒し方を知らないものとお見受けします?』

 恐らくさっきまでの戦いを見ていたのだろう。それから予測が付いたのかもしれない。

『ですので邪神の倒し方を、お教えします。邪神を倒す方法。それは浄化魔法をかけることです』

『……それだけなのですか?』

『そうなの……です。後は……任せ……ましたよ。……もう時間……がない……み…………た…………』

 それっきりフレイヤ様の声は聞こえなくなった。それと時を同じくして、邪神の方も元通りの状態に戻った。

「レンも聞いていたわね?」

「浄化魔法ですね?」

「そういう事。じゃあ二人でいくわよ」

「はい」

「「浄化っ!」」

 私とレンは二人で邪神に向けて浄化魔法を使った。

『ぐっがぁ……!あがっ……!』

 邪神は少し苦しみ出して、体から黒い靄のようなものが放出され始める。

「これって……」

「恐らく邪神が出てきた時にみた黒い煙で間違いないかと」

「やっぱり……。フレイヤが邪神になったのはあれのせいって事ね」

 でも少し時間がかかるかもしれないわね……。その間に暴れでもしたら……。

『黒炎!黒炎!黒炎!!』

 言ってるそばからこれだものね……。先が思いやられる……。

『うがぁぁぁ!!!!滅殺滅殺滅殺!!!』

「レン隠れて!」

「はい!」

『排除排除排除おぉぉぉ!!』

 もうなりふり構わず当たり散らしているだけに感じる。

 私とレンは邪神の攻撃を受けないように、物陰からひたすらに浄化魔法を打ち続ける。

 そんな事が数分続いた頃、邪神の肌の色が黒から白っぽくなっていた。その辺からはだいぶ落ち着いているようだった。

『殺す殺す殺す殺す……ダメです!殺しては!……うるさいうるさいうるさい!……っ!早く体を返しなさい!……消えろきえろキエロ!!!』

「もう少しみたいね。フレイヤの主人格が表に出てきてるみたいだし」

「フレイヤ様も頑張っておられるのですね。ならば私達もあと少し頑張りましょう」

「そうね。少し希望が見えてきたわ」

 浄化魔法を使い始めてから十分を越え、次第に邪神の力が弱まっていく。今までは黒炎や極氷が連続打ちが出来ないほど。

『あなた達頑張ってください。もう少しです。もう少しで体を取り返せます。……うごぉぉ!消す消す
けすけすケスケスケスっ!!!……あの者達には触れさせません!……がぁぁぁ!!!!』

「レン、魔力はあとどれくらい残っているの?」

「三分一といったところです。ジュリ様は?」

「私も同じくらいよ。ここで魔力を一気に解放した浄化魔法をかけたいのだけど、やってみる?」

「そんな事が出来るのですか?」

「分からないわ。でも気合で何とかするのが私達よ。それにもう疲れちゃったわ」

「そうですね……。やりましょう、魔力解放した浄化魔法を」

「そう来なくてわね。じゃあ合図をしたら行くわよ」

「はい!」

 私とレンは魔力を解放する為に集中力を高める。

 当然今まで魔力の解放なんてことをしたことは無い。今回が始めて。だが、始めっから出来ないと思っていてはいけない。何事もチャレンジだ。

 私は、体内にある魔力の動きを感じ取り、それを手のひらの方に全て誘導する。そして、一点に集めた魔力を全て浄化魔法に注ぎ込むイメージをする。

「……行くわよ!」

「……はいっ!」

「「魔力解放!浄化!」」

『ぐああぁぁぁぁっ!!!』

 魔力解放は成功し、今までにないほどの力を発揮した。それにより、邪神の体からから出ていた黒い靄は今までの比ではない程に出てきた。

 これで邪神を浄化しきったはず……。じゃなければもう私達は死んだわね……。

 そこまでで魔力を使い切った私とレンは気絶をした……。

『……ありがとう』

 気絶する前にそんな声を聞いた気がした。


◇◆◇◆◇


「んんっ……」

『起きられましたか。体の方は無事のようですね』

 気絶して起きたと思ったら何やら美しい女性が目の前に。

「えっと……どちら様かしら?」

『……記憶喪失ですか?私は豊穣の神フレイヤです覚えていませんか?』

「えっ?あなたが?」

『ええ、私が』

「えぇーっ!」

 フレイヤは邪神の時とはまた違った姿をしていた。これを初見で分かったらその人は凄いと思うわ。

「ジュリ様が私と全く同じ反応なので安心しました。やはり驚かないわけないですよね」

「レンの言う通りよ。まぁでも元に戻れたようで良かったわ」

『その事なのですが、元に戻れたわけでないのです』

「……と言うと?」

『私達神というものは、一度堕ちてしまった場合すぐに神に戻ることはできません。長い年月をかけて再び神になる努力をしなければならないのです』

「じゃあ今のフレイヤは神じゃなくて人間なのかしら?」

『いえ、どちらかと言えば半人半神といったところです』

 んー。よく分からないけど神要素は少し残ったみたいね。でも今まで通り神様にはなれないから人間要素も含まれた見たいな感じかしら?

「どちらにせよ、フレイヤが元に戻ってよかったわ」

『はい。あなた方のおかげです。ありがとうございます』

「いえ、フレイヤ様がご無事でなりよりです」

「レンの言うとおりよ。一番きつかったのはフレイヤの方なのでしょうし」

『そう言って頂けると幸いです。……ところでお礼なんですが……』

「お礼なんて要らないわよ」

「そうです。私達は当然のことをしただけなのですから」

『しかし、恩人にお礼をしなければ神への道が一歩遠のいてしまいます』

「なら時々力を貸してちょうだい。神様でなくなった今ならいつでも戦えるでしょう?」

 あの女神とは違ってこのフレイヤは今は人間に近くなってる。なら自分の裁量で善悪を決めて戦えるはず。

『その通りですが、以前に神に会ったことがあるような口ぶりは一体?』

「それはおいおい分かるわ。とりあえず力を貸してくれる?貸してくれない?」

『もちろん貸します。しかし、私は自分が正義だと思ったことしかしません。それでもよろしいですか?』

「もちろん。レンもいいでしょ?」

「はい。フレイヤ様が力を貸してくれるだけで私は嬉しいです」

『ならば心配はいりませんね』

「これからよろしくお願いするわ」

「お願いします」

《使い魔にフレイヤが追加されました》

 こうして、フレイヤ様を救う戦いは終わった。

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