異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第121話 実行するようです

「すごい盛り上がりだな」

「なんてったって王女の結婚ですからね。皆さんも嬉しいのだと思います」

 俺達が控え室から街に出るると、街道の端には既に観客が集まってきていた。フェイとゼロはこの真ん中を通る。

 その上、決められたコースを二時間ほどかけて回るのだからとても疲れるだろう。

 まあ疲れるのはフェイとゼロだけで、俺達観客勢は少しも疲れないがな。現に観客達は盛り上がってるし。

「しかしまあ、こんなに盛り上がってるのに俺の存在って必要?」

「何を今更怖気付いてるのよ」

「別にそういう訳じゃないんだが、盛り上がってるところにちゃちゃを入れるみたいでなんとも」

「まぁそれも結婚式の一部だって事にしとけばいいって!」

「女神は馬鹿だな。俺が今からやる事は世間一般的に見れば誘拐だぞ?結婚式の一部に出来るわけないだろ」

「むぅ……」

 唸ったってこの事実は変えられない。まぁ精一杯やらせてもらいますか。誘拐犯を。

 誘拐する前に俺は一回民衆の前に姿を表さなければならない。出来るなら派手にして、目立った方がいいらしい。……宙にでも浮けばいいのか?

《空中浮遊を獲得しました》

 ……俺、宙に浮くわ。多分それなら余程のことがない限り目立つだろう。

「じゃあ俺達も定位置に着くか。場所的にはどこら辺がいいんだ?」

「どこでも構わないわよ。人々の印象に残ればそれで」

「了解」

 まぁ大体中腹くらいでいいか。凱旋開始から一時間後くらいに俺が登場する。まぁ妥当だろう。

「んじゃ、俺も少し準備する事があるしここで別れるぞ」

「わかったわ。幸運を祈るわね」

「おう、任せとけ」

 そして俺は皆と街道裏の人通りの少ないところへ行く。そこなら俺がタキシード仮面になってもばれにくいからな。

 じゃあこれから俺がやることを整理するか。

 凱旋開始から大体一時間後に、フェイ達は俺達が構えている所まで来る。

 そしたら俺がタキシード仮面として登場し、観客の前に姿を現す。

 すると馬車が一時的に止まり、俺に注目が集まるのでそこでひとつ演出をすればいい。その時に目立つような事をすればいいらしいので、俺は空中浮遊をして観客の目を引くつもりでいる。

 もしかしたら、宙に浮くだけじゃなくてどこか遠くまで飛んで行くこともあるかもな!あはは……

《飛行を獲得しました》

 ……はは……は?

 ま、まさか俺に飛べというのかっ!いいだろう!飛んでやろうじゃないか!

 まあそういう事で、俺は姿を消す時に飛んで行くことに決めた。それなら人々の印象に深く残るだろうしな。

「……わぁぁ!」

 遠くの方で観客の声が上がった。ということは凱旋が始まったのだろう。

 これから一時間後に俺の出番がくる。それまではイメージトレーニングでもして待っていよう。

 そして、イメージトレーニングを開始してから約一時間が過ぎる。俺は登場してから捌けるまでを何度もイメージし、完璧に出来るまでになった。

 あとはそれを実行に移すだけでいい。

「フェイ様ぁ!お幸せに!」

「いい家族になってください!」

「野郎!フェイ様を泣かしたら俺達が許さんぞ!」

 観客の声が近い。もうそこまで来てるみたいだ。

 じゃあそろそろ行くか。タキシード仮面としてな。

 俺はシルクハットを被り、仮面を付ける。俺はもう暴走したりしない!強い精神で耐えてみせる!

 そんな決意を胸に、俺は空から馬車の前に降り立った。

 当然観客は騒然とし、馬車の護衛の騎士が俺を近づけまいと、俺を取り囲む。

「なんだお前は!」

「フェイ様には指一本触れさせないっ!」

「お前はここでぇ!」

 そんな声が、騎士達からあがる。

「君達はちゃんと仕事をしているようだな。感心するよ。果たして君達……。その者達は本当に守るに値する者なのか?」

「なにっ!」

 すると観客の方からこんな声が上がる。

「タキシード姿にシルクハット、それに仮面を付けているものなんて一人しかいないわ!……その人はタキシード仮面よっ!」

 この声はジュリのものだな。裏の仕事とはこういうことか。

 ジュリのおかげで観客達はタキシード仮面のことを話し始める。

「タキシード仮面って、今まで私腹を肥やしてきた貴族を捕まえているやつだろ?」

「正義を執行する事を目的として動いているらしいが、何故ここに?」

 そんな観客の声を聞いた騎士は俺に一層の警戒をする。

「そう言えばまだ名乗っていなかったな。……私はタキシード仮面!正義を行い、悪を成敗する者だ!」

「タキシード仮面だと!ふざけた名前をして何が正義だ!」

「私は正しいことしかしない。故に正義。お前達は何も知らずに悪事に加担しているだけだ」

「なにっ!?何のことを言っているんだ!」

「では教えてやろう!フェイリス女王様は無理矢理結婚をさせられているのだ!そのような茶番に正義など微塵も感じる事はない!」

 俺の言葉に観客、それに騎士達までもが騒然とし始める。

「よって私はこの式からフェイリス様をお救いし、自由の身にして差し上げようというわけだ」

「そんな……!そんなことって……!」

「静まりなさいっ」

 不意にフェイの声が辺りに響く。その声によって騒然としていた者達は落ち着きを取り戻し、フェイがこれからしようとすることを見ようとする。

 フェイは一旦馬車から降り、騎士に囲まれている俺の前まで歩いてくる。

「フェイリス様!こやつは危険でございます!」

「いいのです。少し話をさせてもらいたいだけですので」

「……かしこまりました」

 そうしてフェイは俺の前で足を止める。

「あなたがタキシード仮面ですね?」

「いかにも。私がタキシード仮面なる者です」

 俺はフェイに跪き、敬意を払う。

「あなたは自分の正義の心を信じて疑っていないのですか?」

「疑いを持ってしまうようなことがそれは正義とは言えません」

「そうですか……。でしたらあなたは意地でも私を救おうとするのですね」

「はい。この命に変えてでも」

「……いいでしょう。あなたの言う正義を成してください。しかしここは引いてもらえないでしょうか。……次は式場でお会いしたいものです」

「はっ!必ずやフェイリス様に会いに行きましょう」

 俺は立ち上がり、一歩下がって礼をする。そして、ゆっくりと浮遊を始める。

「タキシード仮面が浮いてる……!」

 ん?今のはミルか?なんかそんな感じの声が……。まぁいっか。後で聞けばいいし。

「では、また後でお会いしましょう。……さらば!」

 そして、俺は人目のつかないところまで飛んでいった。

 ふぅ。思ったより緊張したな。そして何よりフェイのアドリブが怖かった……。

 あそこでフェイが来る事なんて台本に無かったし、マジ焦った。でもまあ割と上手く一旦じゃないだろうか?

 後は式場で攫うだけの簡単なお仕事。……本当に簡単ならいいんだけどね。俺の勘が簡単にはいかないと警鐘を鳴らしているんだよなぁ。

 ただまぁ仕事はきっちりこなすんでな。やらない訳にはいかないさ。フェイリス女王とも約束したしな。次は会場でってな。

 俺は少しの不安を感じながら皆と合流する事に決めた。


◇◆◇◆◇


ーsaid:フェイー

 私なにしちゃってるのぉ!恥ずかしいっ!恥ずかしいよぉ!

 何が式場で会いたいものです、よ!バカバカバカっ!

「フェイリス様、よろしかったのですか?」

「え、ええ、これでいいのです。あの人は自分の正義を信じて疑っていないのですから」

「自分の正義……。私の正義はフェイリス様を守ることにあります!次、タキシード仮面なる者にあった時は容赦は致しません!」

「ふふっ。あなたも自分の正義を信じるのですね」

 あああああっ!何が正義よっ!何が信じるよっ!恥ずかし恥ずかしぃぃ!!

「フェイリス様は優しいお方だ!」

「フェイリス様万歳!」

「「「フェイリス様万歳!」」」

 やめてぇぇ!!それ以上したら私が羞恥で死んじゃうぅ!!

『ふふふ。あなた相当慕われているわね?同じ王女として羨ましいわ』

『こんなに恥ずかしいなんて……!前に出なければよかったぁ!!』

『今更悔いても遅いわ。さて、私もこの状況を楽しみましょうかね』

『いやぁぁ!!』

 ジュリは私を見捨てて、助けてくれなかった!てことは他の皆も私を見捨ててる!

 味方がいないよぉ!この羞恥の中であと一時間も凱旋しないといけないなんて拷問だよぉ!!

「あの、不敬を承知で申したいのですが、タキシード仮面が言っていた事は事実なのですか?」

「……ほとんど事実です。ですから、あの人の言っている事も間違いではないのですよ」

「……私はなんとしてもフェイリス様をお守り致します。騎士としてそれは譲れないものですから」

 なんかちょっと変なことになってきたような……?まぁいいや!私の事じゃないし!

 それから私は一時間の間、恥ずかしさに悶えながら街中を凱旋することとなった。

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