異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第99話 尋問するようです

 皆が俺の指示に従って、再び勇者の捜索に出ていった。一人は捕まえたんだ。おそらく残りの三人もいるだろう。

 だがとりあえず、勇者をおびき寄せて捕まえるといった作戦は成功したと言ってもいい。

 後は逃げられないようにするくらいだ。これについては皆が残り三人を見つけている間に何か策を講じなければならないだろう。

「いや、その前に捕まえたのが誰かを確認する方が先か」

 俺は回復しつつ体にムチを打てばなんとか歩けるくらいにはなっている。俺はフラフラではあるが倒れている勇者に近づく。

 だがほんとにこの体の再生力は高いな。自分の体なんだがとても人間の体とは思えん。まぁそんな事はとうの昔に分かってはいることなんだがな。

 さてと、そんなことはさておき一度勇者の顔を確認するか。

 俺は勇者の元まで辿り着いたので、気絶して倒れている勇者のフードを取った。

 フードを取った先にはミユキの顔があった。

 今は目を閉じていて分からないが、タクマ達と同じように虚ろな目をしているかもしれない。

 それは目が覚めた時にでも確認すればいいか。

 とりあえずミユキが正体だと言うことは分かった。残りはタクマとアイカ、それとナユタだ。

 この三人もミユキと同じように予選敗退者を求めやってきている、もしくはやってくるだろう。

 その為にもどうにかして逃げられない様にしなければならない。それに伴って俺が一番危険視しているのがタクマの転移だ。

 タクマには一度逃げられているからな。皆に触れた状態で転移されたらもう手も足も出ない。

 それも考慮した上で逃げられないようにしないといけないというのは難しい事だ。

 まあ一つ考えている事はあるがな。

「とりあえずやってるか」

 俺は結界魔法を取得し、勇者の周りに結界を張る。

 これだけだとタクマには逃げられてしまうので、なにか工夫をしなければならない。

 そこで俺は、結界に空間のズレがあればいいんじゃね?とかいう中二病的思考によりそれを実行。

 簡単な話だ。張った結界の周りの空間だけ時空の彼方に飛ばせばいい。

「とりあえずはこれでいいと思うが……。一つ試してみるか」

 俺は結界の中に転移できるかやってみた。

 すると飛ぶことは飛んだが空間をズラしたところで止まり、結界の中には入ることはできなかった。

 実際に触ろうとしても透明な何かによって拒まれるし、成功したってことだろう。

「後は皆が残りの勇者を連れてくるだけか……」

「お前さっきからなに一人でぶつぶつ言ってんの?頭おかしくなったんじゃねぇか?」

「ヒャッフ!」

 不意に後から声をかけられたせいで今まで出したことのない声が出てしまった。

 ったく、誰だよ。声をかける時は肩叩いてからという事をおしえないといかんな。

 俺は話しかけてきた奴にお灸を据えてやろうと振り向いた。

「話しかけるとは肩を……ってレオンかよ。……あれ?フェルトと一緒じゃないのか?」

「は?なんで唐突にフェルトが出てくるんだよ」

 そこにいたのはフェルトの探し人のレオンであった。フェルトは結局見つける事が出来なかったのね。

「それがな、フェルトは俺と試合が終わった後にレオン探してくるって言ってどっか行ったんだよ」

「……マジ?」

「マジだぞ」

「俺はもうあんなのごめんだぞ!」

 レオンはキョロキョロと辺りを見渡し、フェルトが来ないか確認をしている。

 どうやらレオンは、俺の知らない所で苦労をしているようだな。

 日頃俺が感じてる苦労を少しでも知ってもらいたいし、なにより面白そうだからフェルト呼んじゃお。

 俺はどこかにとんずらしようとしていたレオンの腕を掴み、逃げられないようにする。

「……!お、お前何のつもりだ!離せ!離せよ!」

「じゃあ呼ぶか」

「呼ぶって何を呼ぶんだよ!も、もしや……!やめろ!それだけはやめてくれ!いや、やめてください!」

 レオンがなにやらうるさいですがそれに負けないくらいの大声でいきましょう。

 それでは……ゴホン。

「フェルトー!勇者見付けだぞー!早くこーい!」

「あぁあ!!やっぱりフェルトを呼びやがったぁぁ!」

 俺は力一杯叫んだから後はフェルトが俺の声を聞いて駆けつけて来るのを待つだけ。

 なんかア〇パ〇マ〇を呼んでるみたいで楽しい。

 そして、レオンを捕まえて一分弱位した頃。フェルトがこっちにやってきた。

「勇者どこ!見たい!」

「子供かよ!」

「あれ?レオンこんなところにいたの?どおりで見つからないわけだね」

 レオンは、しまった!みたいな顔をしている。

 俺もその気持ちわかるぞ。何故かツッコまないといけない気になるよな。

「さて、レオンに生け贄になってもらったところでフェルトにはレオンに事情の説明をしといてもらえるか?」

「はーい」

 うむ。いい返事だ。

「おい、俺が生け贄とは一体どういう事だ!それについても説明を求める!」

「いいのか本当に言ってしまっても。言ってしまったら全部フェルトに筒抜けになるぞ?」

「ぐっ……!卑怯だ!卑劣だ!極悪だ!お前は人間じゃねぇ!」

「ふははは!どうとでも言え!フェルトに捕まって俺と同じく苦労しろ!……あ」

「ちょ、お前!なに暴露してんだよぉぉ!!死ぬの俺だぞ!勘弁してくれよぉぉ!!」

「レーオーンー?私の話より先にその話を聞かせてもらおうかなー?いいよねー?」

「ひいぃ!!」

 おぉ。なんということか。触れてはいけないものに触れてしまったようだ。

 ここから先は激しい争いか、もしくは一方的な独裁が行われるだろう。人々はそれを見て口を揃えてこういうのだ。

 痴話喧嘩と。

 ちなみにレオンは後者のようだ。しかもされる方で。現在床に正座させられてお説教させられているようだな。

 ……けっ!なんだよ!見せつけやがって!絶対に祝ってやる!幸せになれよ!

「フェルトは早めにレオンに事情説明してくれよー?」

「私といて苦労するってどういう事か説明して」

「あ、いや、あの、その、えっと……言葉の通りといいますか……」

「ふーん。具体的には?」

 あららー。聞こえてないみたいだな。……レオン頑張れよ。女ってのは一度そうなったら気が済むまでその状態だからな。

「マスター!勇者三人連れてきたよー!」

 俺がレオンとフェルトのやり取りを見ていると奥の方から勇者三人を連れて皆が戻ってきた。

「おかえり。勇者三人とも同じように気絶してるのか?」

「そうだよー!全部ミルがやってくれたのー!」

「ふんん」

 ゼロの言葉に胸を張り、鼻を鳴らすミル。

「お、そうか。ありがとなミル」

「ん」

 とりあえずは勇者を受け取って、あの結界の中に入れないとな。

 俺は結界を一時的に消滅させ、そこに勇者を運んだ。

 そして、また結界を張り直す。

「後は起きるのを待つだけだな」

「あ、あの、あるじさま?そこで喧嘩している人達がいますけどいいのですか?」

「こいつらは大丈夫だ。今は痴話喧嘩の途中だが、終わったら俺達を手伝ってくれるさ」

 だからレオンは早めに謝れよ。あと愛してるなんて言ったら全部不問になるかもしれないぞ。

「ところで、勇者の操られている状態をどうにかする術は持ってるの?」

 ジュリが不思議そうに結界に触れながら、そう訪ねてきた。

「いや、持ってないな。というよりは、どんな感じで操られてるのか知らんからどうしようもないって言うのが本音だったりする」

「じゃあどうするのよ?」

「物事が上手くいくっていう創造のスキルに頼るしかないだろうな」

 今まで幾度となく助けてもらった創造のスキル。今回もよろしくお願いします。

「あ、一人起きたみたいだよー」

 女神の緊張感のない声が響く。

 俺は起きたのが誰なのか確認する為に結界の中を見る。

 そこで起きていたのはタクマだった。そして、タクマの目には疲れが見えるが微かな光が灯っていた。

「……!おい、タクマ!聞こえるか!聞こえるなら返事しろ!」

「…………うぅ……だれ…だ……」

 今は誰なのかを気にしてる暇はない。タクマには早急に事情を聞か出さなければならない。

「タクマ!誰に操られているのか教えろ!」

「……あや…つられ……?…おれは……教皇に……やら…れ……て………!ぐっ…ぐわあぁぁあ!!」

「タクマ!どうしたんだタクマ!!」

 タクマが叫んでいる間に目から光が無くなっていき、最後にはかくんっ、と項垂れた。

 そして、次顔を上げた時にはあの操られていた時と同じ様な雰囲気になっていた。

 操られ状態のタクマがおもむろに立ち上がり、拳を握って結界に突きつけた。

 その一回の攻撃で結界は崩れ去り、更には時空魔法によってズラしていた空間までも元に戻した。

「皆!タクマを抑えろ!」

 皆、タクマを抑えようとしたのだがそれは叶わずに、残り三人を連れて転移をしていった。

「くそっ!逃げられた」

「追いますか?」

「いや、感知外に逃げた。追うのは無理だろう」

 勇者達には逃げられたが収穫はあった。

「確実にあいつらは操られているな。それに教皇と言っていた。やはり教皇は全ての元凶なのか?それを確認する為にも教皇には一度会ってみた方がいいかもしれんな」

 次に行く所は聖都で決まりだろう。教皇に会う前にレベルも上げなくては。

 やる事は多い。だが勇者が操られている状態から解放して元の世界に返してやりたいしな。気合を入れるしかないか。

「皆、なんとしても勇者を救うぞ」

 そう言った時の皆の顔は真剣で、救うという意志に満ち溢れていた。

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