異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第97話 取り合うようです

「さぁ!始まりましたこのミニゲーム!史上初となる試みです!今までこんな事はあったでありましょうか!予選で落ち苦渋を舐めた者達が今まさに全身全霊を掛けて、ただ一つの箱を求める!そういった姿が私には見受けられます!願いを叶える権利を手にするのは一体誰なのか!目が離せません!」

 ミニゲームなのに本戦よりも熱く語る司会者が言ったように、たった今予選敗退者によるミニゲームが始まった。

 というか司会者の人、本戦よりこのミニゲームの時の方が活き活きしてない?俺の勘違いだといいんだけど。

「さて、ここで一度ルールのおさらいです。バトルフィールドとなるのはこの会場全域。参加者の皆様にはリング上にある箱を取り合って頂きます。制限時間は一時間。勝つにはゲーム終了時に箱を持っていなければなりません。そして、勝者は願い事を叶えてもらえることになっております!果たしてこのゲームの勝者は誰になるのか!このゲーム波乱が巻き起こる、そんな予感がしています!」

 まぁ司会者が言ったことがすべてだな。要するにこのミニゲームは箱を取り合って最後に持ってれば勝ちという事だ。

 約三百人という人が一つの箱を求め会場中を駆け回る……。考えただけで面倒くさそうだというのがわかる。

 まぁ見てる分には面白いからいいんだけどね。

「おっとー!ここでリングに集団が押し寄せてきたぁ!最初に箱を手にするのは誰だ!」

 うわぁ、なにあの人混み。リングにぎっしり人が詰まってるんだけど。

 すると聞き耳スキルが発動し、リング上の声を拾う。以下俺が聞き耳スキルで無造作に拾った言葉の羅列です。

「よっしゃー!箱を取ったぜー!後はこれを守れば……!」

「それいっただきぃ!」

「あぁ!俺の箱がぁ!」

「そいつをよこせぇ!!」

「おめぇは引っ込んでろ!」

「あぁっ?やんのかゴラァ!!」

「やってやんよ!」

「きゃ!どこ触ってのスケベ!」

「お、俺じゃねぶべらっ!」

「箱どこ行った!」

「あっちだあっち!」

「よし、ここは一旦協力して取りに行くぞ!」

「了解!」

「ふははは!この私の力にひれ伏すが……あ、ちょ、いいところだから押さな、ぐほっ!」

「ん?なんか今踏んだ気がする……。まぁいっか!箱は俺のもんだ!よこせぇ!!」

「きゃ!また変なとこ触られた!この変態っ!」

「お主いいケツしとぐはっ!」

「ああ!箱が落ちてしもた!どこや!どこ落ちた!」

「わしが先に頂くけんの!……誰じゃ今箱を蹴飛ばしたんは!」

「おっ、ラッキーこんな所に箱が落ちそてんじゃん」

「わ、私にその箱を恵んでください!私には妻と子供が六人いてお金が必要なんです!」

「そうはいうがこれは真剣な勝負あっ、ちょい横取りはやめろよ!」

「あんな無防備に箱出すのがわりぃぐへっ!」

「すまんすまんよそ見してたらぶつかってもーた。おっ、お前箱もってんじゃん。貰ってくで」

「お主、その箱は私が頂く。秘技!すり替え!」

「な、なにぃ!いつの間にか箱が豆腐になっとるがな!」

「その豆腐貰ったぁ!……あっ間違えたぁ!貰うのは豆腐じゃなくて箱だったぁ!」

「私にかかればあんな小物を呼び出すことなぞ造作もない。……ほらこの通り、ね」

「よっと。いやー僕にくれるなんてなんて優しい人なんだ!ありがとう!」

「ふん。感謝されるここでもない……じゃなくて!それを返しなさい!あれは一回しか出来ないんですよ!」

「今箱持ってるのはあいつだ!囲め囲め!」

「ひぃ!は、箱ならあげますんで命だけは!」

「おいこら!変なとこに投げんじゃねぇよ!見失っただろうが!」

「すみませんすみません!」

「……いでっ。んあ?こら箱かぁ?おおっ!ついにおいらにも運が回ってきてんだな!」

「そなたの持っている箱とこの1000Gを交換して頂けませんか?」

「んあ?1000G?そんな大金いいんか!喜んで交換すんぞ!」

「……ふははは!これでこの世は私のものに!」

「そんな掲げてたら取られるぞ。俺みたいなやつにな」

「ああ!私の夢がぁ!!」

「ちょろいもんだぜ」

「あんちゃん、今すぐそれ渡さんかい。さもなければ、あんちゃんの首と胴体離れてしまうかもしれへんよ」

「渡すかアホ。逃げきればいいだけの話だろ」

「秘技!すり替え!ふっ。箱は私の手の中に」

「なっ!箱が豆腐に……!」

 …………もうここら辺にしておくか。これ以上聞くと俺の脳が溶ける。

 それにしても、皆このミニゲームを楽しんでるみたいだな。まぁ一部ガチっぽいやつもいるけど、基本的には楽しんでいるのだろう。

 ちなみに俺の一番推しはすり替えするやつ。箱を豆腐と入れ替えるという発想がすき。

 多分だが、あれ絹豆腐だな。木綿豆腐だとすぐ崩れるし、より箱に近い形っていったら、やっぱり絹豆腐。

 ってそんなことはどうでもいいんだよ。俺達には他にしないといけないことがあるんだから。

 俺は今救護室に仲間の皆といるので、皆に指示をだす。

「皆聞いてくれ」

 俺が呼び掛けると皆の顔が引き締まる。

「俺達の目的は勇者を発見し捕らえることだ。皆には会場内に散らばってもらい、勇者を見つけてもらいたい」

 俺が皆にそう要求すると、レンが質問をしてきた。

「見つけた場合どうすればいいのですか?」

「俺が現場に行きたいのだが残念なことに立てる状況ではない。だから、念話で皆に呼び掛けてくれ」

「了解しました」

 これでとりあえずは、いいだろう。

「ではよろしく頼んだぞ!」

 そして皆は勇者を捕縛する為に、救護室から去った。ただ一人を除いて。

「さらっと念話でとか言われても私には無理なのだが……」

 救護室に残ったのはエルシャさんだった。まぁしょうがないだろう。何せエルシャさんは念話使えないんだし。

「それよりも、私には君達全員が念話が使えることに驚きだよ」

「なぜです?念話くらいなら俺の周りの人はほとんど使えますよ?」

「それは君の周りがおかしいだけだよ……」

 えっ、そうなの?念話って誰でも使えるもんじゃないのか。俺も一般常識からずれてんなぁ。

「とりあえず、私は念話が出来ない。だから見つけても報告はできないがいいか?」

「ちょっと待ってください」

 多分だが、エルシャさんが念話を覚えることが出来るの。正確には念話のスキルが手に入る、だけどな。

 その方法は簡単だ。スキル継承のスキルを作ってしまえばいい。魔法継承のスキルがあるんだ、スキル継承のスキルも作れるだろ。

 じゃ試して見るか。スキル継承を制作……と。

《スキル継承を制作しました》

 よし、予想通りだ。えーっと?どうやって使うんだ?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〔スキル継承〕
 渡したい相手に触れながら、渡したいスキル名を唱えると、スキルを継承できる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 この感じ久しぶりだ。どうやら創造は知らない時でも常に働いているみたいだな。ほんとご苦労様です。

 じゃあスキル継承の仕方も分かったし、エルシャさんに念話のスキルを渡すか。

「エルシャさん手を出してください」

「ん?手を?まあいいだろう」

 俺はエルシャさんの手を握った。

「き、君はいきなり何を!こういうのは順序というのがあるのだろ……?」

「何を言ってるんですか。とりあえず、念話」

 俺が念話と唱えるとエルシャさんの胸辺りが軽く光った。

『エルシャさん、聞こえますか?』

「な、なんだ急に!君の声が直接脳内から聞こえるぞ……!」

『えっと、これが念話なんですが、多分エルシャさんもできるようになってるんで、一回やってみて下さい』

「そ、そうなのか?じゃあ試しに」

『念話する時は伝えたい事を考えて、送り主を思えばいいだけなので簡単ですよ』

『こ、こうか?』

『おぉ、聞こえてますよ。これでバッチリですね』

 エルシャさんも念話が使えるようになったし、これでオッケーだな。

「本当、君には驚かされてばかりだよ。私が念話が使えるようになるとは思わなかった。この念話をくれたお礼に意地でも勇者を見つけてくる」

「期待してます」

「じゃ、行ってくる」

 こうしてエルシャさんも救護室から出ていった。

 これで準備は万端。さあこい勇者。お前達を正気に戻して、教皇を止めに行ってやる。

 そんな俺をよそにミニゲームはつつがなく進んでいく。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品