異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第94話 決勝戦が始まるようです

 決闘という決闘が出来ずに終わった、帝王様との戦いが終わり、帝都に戻ってきた時、人々が慌ただしく道を行き来していた。

 時折怒号のようなものが飛んでいる。一体何があったというのだろうか。

 俺は近くを通った男性に聞いてみることにした。

「あの、すいません。この騒ぎは一体どうしたのですか?」

「あんたさっきの地鳴りを聞かなかったのか?」

 地鳴りとはもしや俺の衝撃波のことではなかろうか?

「ありゃあ、どっかから襲撃を受けてるとしか思えないからな。皆は避難もしくは迎撃の準備で慌ただしいのさ」

「そ、そうですか……。お忙しいところすいません」

「いいってことよ。こういう時はお互い様だ、強く生きろよ!」

 男性はまた忙しそうに走っていった。

 ふむ。どうやら俺のせいでこの騒ぎになっているらしいな。どうしたもんか。

「あーあ、考えなしにあんな衝撃波を放つから皆が勘違いしてるじゃん。これどう収拾つけるの?」

 珍しく女神が正論を突き付けてきた。残念ながら女神の言っている通りなのだ。

「返す言葉もありません……」

「私が帝都への衝撃波を緩和してなかったら、今頃帝都はボロボロになってたんだからね」

「……それマジ?」

「私が意味の無い嘘つくわけないじゃん」

 マジか。俺もうすぐで都市を一つ壊滅させるところだったのかよ。女神がいてくれて良かったわ……。

「それで主様はこの騒動をどうなさるおつもりなのですか?」

「そうだなぁ、今のところは放っておく……かな?」

 俺はレンの問いにそう返した。

 俺の考えでは放っておけば勝手に治まる。理由は今帝都郊外にいる帝王様達が帰ってきて、この騒ぎを知り、地鳴りの正体を教えるから。

 まあそうなればいいなくらいでしか考えていないがな。

「じゃ、俺達は会場に向かおうか。もし、収拾がつかないことがあったらその時はその時考えるとこにする」

 そう言って俺は歩き始めた。その後ろに皆が付いてくる。

「あなた、相当頭のネジ飛んでるわよ」

 ジュリが俺に罵倒の様なものを浴びせてくる。

「心外だな。お前達よりは飛んでない自信がある」

「むっ。それは聞き捨てならない」

 俺の言葉にむくれた様子で反応するミル。少し頬が膨らんでいて可愛い。

「あたしは至って正常。世界があたしについてきてないだけ」

「うん。自分でネジ飛んでる事を証明したな。それもほとんど全部が飛んでることをな。大体、ネジが飛んでない奴はそんなこと言わん」

「むぅ、意地悪」

「俺は事実を言っただけだぞ?何も意地悪してない」

「今日一の意地悪をされた……」

 なんかちょっと落ち込んだ感じのミル。ちょっと言いすぎたか?

「いや、その、そういうところはミルのいいところだからな、落ち込むことはないぞ?な?」

「……知ってた」

 うわー。落ち込んだ振りてただけだったー。褒め損したわー。

 そんな時、俺達の後方から大きな声が響く。

「しいぃぃずうぅぅまあぁぁれえぇぇいぃぃっ!」

 どうやら帝王様達が帰ってきたようだ。俺が思った通りになれば楽なんだけどな。この騒動に限って言えば俺にはどうする事もできんからな。

「すごい大きな声なのー」

 ゼロはさっきの声に興味津々なようだ。

 まぁ確かにあんな大声出されたら誰でも気になるけどな。現に、さっきまで慌ただしく動いていた人々が動きを止めてるし。

「ここはもう帝王様に任せとけば大丈夫だ。俺達は俺達の仕事をするぞ」

「この状況で会場に集まるかしらね……」

 ジュリはそんな心配を口にして俺を見てくる。

「もし集まってなかったら私達はただの骨折り損になるわね?」

 それは遠回しに、集まってなかったら私達のしたことが無駄になるからその分の見返りを求めるわ、みたいな事言ってるだろ。

 まぁ俺のせいだしな。集まってなかったらそれくらいはしてやろう。

 そうして俺達は会場へとやってきた。そこには観客こそ少なかったが、予選敗退者は多く集まっていた。

 どうやら願いを叶えたいがために集まったらしい。こいつら自分の欲に忠実過ぎるだろ。

「……俺思うんだが、この世界は馬鹿ばかりじゃないのだろうか」

 俺の心の声は漏れ、独り言となる。

「あなたもその馬鹿の一員……いや筆頭よ」

 俺の独り言を聞いていたジュリはその独り言にそう返してきた。

「仮に俺が馬鹿だったとしても、筆頭ではないだろ。な、リンもそう思うだろ?」

「え、あ、その……、そう……ですね?」

 マジかよ。リンが俺が筆頭ではないということに疑問を持ったようだ。ということはだ、リンは俺が馬鹿筆頭だと思ってたということになる。

 リンにまでそう思われてたとは……。俺、立ち直れそうにない……。

「で、でもあるじさまには良いところ沢山ありますから!」

 馬鹿筆頭というところは否定しないか……。俺は悲しいぜ……。

「君達のパーティはいつもこんな感じなのか?」

 ふとエルシャさんが皆に聞いてきた。

「こんな感じとはどんな感じなのか分かりませんが大体こんな雰囲気ですね。偶に違う空気になったりしますが」

「ふむ。中々私好みの雰囲気だ。ぜひともパーティに……」

「おーっと!勇者達が来ないか監視をしないといけないの忘れるところだった!よし、早速始めるぞ!」

 俺はエルシャさんの言葉を遮って、勇者探しへと向かった。

「君がその気なのなら私にも考えがある……!」

 ちょっとやりすぎたかもしれない。エルシャさんは一体何をする気なのだろうか。今から心配だ。

 それからはお昼まで勇者が来ないかの監視に務めた。

 会場周辺から観客席や、控え室など隅々まで目を光らせて監視をしたのだが、この時点では勇者は現れることは無かった。

 勇者達は現れないのだろうか。それともまだ来ていないだけなのだろうか?

 確認する術はない。だが、どちらにせよ気は抜けない。引き続き警戒はすることにした。

 そして、今から俺とフェルトの決勝戦がおこなわれる。

 会場には観客が続々と集まりだし、観客席は所狭しと人で溢れかえっていた。

 これを見る限り、地鳴りの件は帝王様が上手くやったようだ。一安心だ。

「ご来場の皆様、長らくお待たせ致しました!!只今より決勝戦を始めます!!」

 俺は既にリングの上だ。それは俺の対戦相手のフェルトも同様。

「ここで、現帝王であります、フェラリオン・ファン・バンギス様のご登場です」

「「「うおぉぉぉお!!」」」

 そう言えば決勝戦を見守るとか言ってたな。

「私が帝王のフェラリオンだ。今年から四年帝王になる種族は既に決まってしまっていると聞いた。不満がある種族もあるだろう。しかし、それはただ単に実力と運がなかっただけとのこだ。自らを鍛え、運を掴んで、また次の機会のために励んで欲しい。そして、この決勝戦。私は期待をしている。存分にやりあってくれ」

 確かに帝王様の言った通り、もう既に次の帝王になる種族は決まってる。ルールでは一番順位が高いものだったし、勝っても負けてもフェルトの銀狼族が次の帝王になるわけだ。

「フェラリオン様ありがとうございました!では、待ちに待った決勝戦を開始致します!!」

 もうすぐで始まる。この三日の集大成。最後の戦いだ。全力を尽くそう。 

「この試合に勝てば優勝。頂点に立ち、名が知られることになります!果たしてどちらが頂きからの眺めを見る事が出来るのか!決勝戦、ロウリ・コーン選手対フェルト選手の対決です!!」

 俺は対戦相手のフェルトの目を見る。同じくフェルトも俺の目を見る。

 言葉は交わしていないはずなのに相手の思いが分かる気がした。

 昂り疼くこの体。戦いたくて仕方ない衝動。勝ちたいという欲望。それら全てが伝わってくる。

 その気持ちは俺も全く同じだ。戦いたくて仕方ないが、負けたくない。

「それでは決勝戦、始め!!」

 決勝戦の火蓋は切って落とされた。

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