異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第83話 一方的な試合とリンの本気ようです

 試合が終わり、俺は気絶したミルを救護室に連れて行くことにした。

 救護室に向かっている途中でリンとジュリに会った。とりあえず試合には間に合ったようだ。

「見てたわよ、あなた達の試合。次元の超えた戦いをするものね」

「す、すごかったです……」

 二人揃って同じようなことを言う。

「そうは言うがやろうと思えばお前達もあれくらい出来るだろ?」

「あそこまでは流石の私でもきついわよ」

「そうかぁ?ジュリならいけそうなんだが」

 俺の思考読んだ上で支援魔法でステータスをガン上げして、召喚魔法で隙を付いてくるとか平気でやってくる気がする。

 って言うかジュリの戦闘の基本だしな。これに精霊魔法が加わったらどうなるか……。恐ろしくて考えたくもないわ。

「そういえば話は変わるのだけれど、私達がここに向かっている間に街中で不穏な会話が聞こえてきたわ」

「不穏?」

「ええ。闘技場の予選落ちた人達いるでしょ?その人達が次々に行方不明になっているらしいの」

「は?行方不明?」

 俺が意味が分からんという様な表情をしていたのだろう。リンが補足で説明を加えてくれた。

「あ、あくまでも行方不明になったかもしれないという話です。予選に出たパーティメンバーの何人かがいなくなったという話がちらほら出ているようですから……」

「なるほど……もしかしたらこので何かが起こっているのかもしれない」

 俺巻き込まれ体質らしいし。この街に何か起こっているのなら当然巻き込まれるだろうな。

 だが、行方不明になる事と俺達が巻き込まれる事と繋がることはあるのか?誘拐事件などであったとしても俺達が簡単に捕まるわけがない。


 だとしたら、行方不明者を探し出さなければならない状況になるのか?

 ……今は考えても分からんか。

 そうしている間に救護室まできた。俺は抱えているミルをそっとベッドに寝かせて、布団をかけてやる。

 すると司会者の大きな声がここまで響いてきた。

「準々決勝、第二回戦!!ラビ選手対レオン選手!!」

 もう始まるのか!この試合だけは見ておかねば。次の対戦相手が決定する大事な試合だからな。

 俺達は急ぎ、試合が観戦できる場所へ移動した。

「はたして第一回戦の胸が熱くなるようなバトルを見せてくれるのか……!!第二回戦、試合開始!!」

 ゴングがなり、試合が始まった。しかし両者共に動かない。……いや、もう片方は動こうとしても動けないのだろう。

 レオンからは修羅の様な異様な空気が漂っている。

 観戦している俺達が感じるそれを、直に受けているラビは蛇睨みにあったかのようになっている。

 ラビをよく見ると、足は震え、肩は上下し、呼吸が荒く、冷や汗をかいている。顔色も悪く、一戦交える前から勝負が見えている。

 一方、レオンから漂う異様な空気はさらに拡大していく。修羅からさらにその上のもっと恐ろしい何かへと。

「あんな戦いに魅せられて体が疼いて仕方がねぇ。やはりあいつは俺と戦うに相応しい。あいつと戦いてぇ」

 レオンはずっとそんな事を呟いている。

 そして、遂に顔を挙げた時、その目に純粋に戦いだけを求める狂気じみた赤い閃光が走った。

 その眼光に当てられたラビは息ができていないのを忘れるほどに恐怖していた。

「こんな試合すぐに終らせて早くあいつと戦いてえ!」

 レオンは叫んだ。そして、その場から消える。

 気付いた時にはもうラビの前に移動しており、ラビの頬を殴りそのまま地面に叩きつける。

 その衝撃でリングにヒビが入る。こんな攻撃を受けてラビが無事なはずがない。

 だが、レオンはそんなのお構い無しにラビを前に蹴る。

 ラビが飛んでいく先に、先回りして今度は上に殴りあげる。

 レオンはそこから上に飛び上がり、空中を飛び回りながらラビに攻撃を加えていく。

 その攻撃はラビに当たる度に空気が振動していて、一撃一撃がどれだけ重いかが分かる。

 そしてレオンは自分の両手を頭の上で繋ぎ、ラビをハンマーで叩くかのように腕を振り下ろした。

 そのまま、何も出来ずにリングに叩き付けられたラビは見るも無惨な姿になっていた。

 腕や足は曲がる筈のない方向に曲がり、首は折れ、至る所から血が大量に出ている。

「ちっとやりすぎちまった」

 レオンはラビを見てそう呟いた。

 その様子を見ていた会場にいた者は息を飲み、気分の悪い静寂が訪れる。

 その静寂を破ったのは司会者の勝利宣言だった。

「だ、第二回戦はレオン選手の勝利です」

「鬼才、か……」

 だが、その司会者も呆気に取られていつもの覇気はなく、敬語にまでなってしまっていた。エルシャさんもそれだけ言って後は何も言わなかった。

 レオンか……。あいつは流石にやばいかもしれない。たしか鬼才だったか?

 あの異様な雰囲気がなければただの天才だったかもしれない。だが、今の戦い、修羅のようでで戦いを求める姿、それらは確かに鬼と呼ぶにふさわしいだろう。

 俺は次の戦い苦戦は必須だろうと確信した。


◇◆◇◆◇


ーside:リンー

 わたしは怖かった。さっきの戦いが試合とは到底思えなかったから。

 私が次に戦うのはこの人と張り合っていた人だ。怖くて怖くて仕方がない。

「リンお前怖いんだろ?体が震えてるぞ」

「あ、あるじさま……。大丈夫です、戦います……!」

 そうだ、リンちゃんやゼロちゃんはこの人達と戦った。なら、わたしも諦める訳にはいかない!

「そうか。ならもうなにも言わない。頑張れよ」

「はい!」

 わたしはあるじさまに見送られながら、リングへと向かう。

 わたしがリング上に登ってすぐ、対戦相手がリングへ上がってきた。

「お!昨日の彼女といいあなたといい可愛いね!」

 フェルトはそんな風に調子外れなことを言ってきた。

「わ、わたし、全力でいきますから!」

 わたしがそう宣言した途端に相手の空気が変わった気がした。

「へぇ。ちょうど良かった。……私もあいつ同様、衝動を抑え切れそうにないんだよね」

 フェルトは冷たい笑みを浮かべ、わたしを睨む。

 身の毛がよだったが、気圧される事はなかった。

「じゅ、準々決勝、第三回戦!!リン選手対フェルト選手!!第二回戦の衝撃は未だに忘れられないが、今回はどんな記憶に残る戦いをしてくれるのだろうか!!」

 もう試合開始の合図がでる。その時フェルトが私にこう呟いた。

「私を楽しませてよ?」

 わたしは、フェルトの目に狂気じみた赤い閃光を見た。

「では、試合開始!!」

 私は槍を取り出す。そして、足を取るために樹木魔法で木の根をフェルトの足に絡める。

 完全に足を固定したら、フェルトの所へ転移する。そして、胸を狙って槍を突き刺す。

 わたしは刺さったと思った。だが実際はフェルトが槍を手で掴んで刺さる前に止めていた。

「それだけ?」

 フェルトはそう言うと足に絡まっていた木の根を強引に引きちぎる。

「そんなんじゃつまらないよ?」

 フェルトは目の前にいるわたしに挑発するように告げる。

 ならばとわたしは魔力転化をする。

「魔力転化!ベース光」

 わたしは速度を重視した、光に転化する事にした。そして槍を離してリング上を光速で走り回る。

 フェルトはリングの真ん中にただ立っているだけだ。

 チャンスだと思い、手を硬化し手刀の形にして、フェルトの背後から走り抜きざまに首を跳ねた。

 勝ったと思ったわたしは、自分の後にいるフェルトの方を向いた。そして、そこで見たものに驚きを隠せなかった。

 フェルトの飛ばしたと思った頭はくっついたのだ。そして、フェルトの手に握られている一本の腕。

 それはわたしの腕だった。

 すれ違いざまにフェルトの頭を飛ばそうとした腕を掴まれてそのまま引きちぎれてしまった。

 今になって、ちぎれたところに激痛が走る。

「く、くぅっ……!」

「光って掴めるか心配だったけど攻撃を加える瞬間は実態に戻るんだね。おかげて対処しやすかったよ」

 ああ。また腕をもがれてしまった。それもいとも簡単に。

 これじゃあの時から何も変わってないのと同じことだ。そう、勇者と戦った時から。

 あの時は必死だった。大好きなレンちゃんを逃がしたかったから。片腕がもがれたとしてもそれを代償に出来るだけのものがあった。

 だけど今回は必死になる理由も、代償にして守りたいものもない。

 そのせいで自分の非力さ、無力さ、無能さが浮き彫りになる。

 また、やられるだけやられて何も出来ずに終わってしまう。

 そんなのはもう嫌だ。非力でも、無力でも、無能でも、何か出来ることがあると証明したい。

 だからその為の強さが欲しい!私でも出来ることがあると証明する為の強さが!

 その時、身体と心が暖かいものに包まれた気がした。

「何も出来ないなんてそんなのはもう嫌だ!」

「ん?この子のこの感じ……昨日の彼女と同じ……?だとしたら少しは楽しめるかな?」

 わたしは空中にありとあらゆる攻撃魔法を発動させる。

 多重魔法によって全ての魔法が混ざりあった混沌とする魔法。業火に焼かれ、絶対零度に襲われ、地に潰され、風に裂かれる。光と闇の相反するものが混ざり合いかつてない重量を生じる。

 そして、何もかもを引き付け自らの力としていく魔法。この魔法は、ただ一つの魔法として完成した。

 辺りはこの魔法に空気が引き付けられる為に風が起こり、光とも闇とも言えない何かがあたりに漏れだし、相当な重力を備えた魔法によってあらゆるものが歪んでいく。

「カオスホール」

 そう呟かれた魔法はフェルトを目指し進み始める。

「なにこの魔法は……!未だかつてない程に痺れる……!これよこれを待ってたのよ!」

 フェルトは気持ちを昂らせていく。そして、助走をつけ、自らカオスホールへと突っ込んでいく。

 フェルトがそのカオスホールに入った途端、膨張し始め、そして爆発をした。

「かっ……た……?」

 わたしは魔力を使い切ったことで、意識を失いそうになるが勝負が確定するまで耐える。

 しばらくして爆発による煙で見えなかった、中が見えてくる。

 煙が払われるとそこにはフェルトが、全身から血を流し、片腕をもがれ、足が変な方向に曲がった状態で立っていた。

「これよ……!この……ギリギリの…戦い!こう…いうのを……ずっと…求めてた……!」

 途切れ途切れながらもしっかりとした意識で独り言のように呟くフェルト。

 全力を出したのに倒せなかった……。

 そこでわたしはなんとか持ちこたえていた意識を手放した。


◇◆◇◆◇


ーside:主人公ー

「リン選手の戦闘不能によりフェルト選手の勝利だぁ!!」

 司会者がフェルトの勝利を告げた。

「ねぇ、さっきのあの子は私達の誰よりも強かったわよね……?」

 俺の隣にいたジュリがそう俺に話しかけてきた。

「ああ、リンは確かに誰よりも強かった」

 リンの強さの源は心の強さだ。いつもは自信なさげだが、人一倍誰かの役にたとうとするその強さだ。

「負けたのは残念だったが、俺はこの試合で得たものがあればそれでいいと思う」

「そうね」

 こうして、リンの戦いは終わった。

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