異世界に転生したので楽しく過ごすようです
第75話 決意の夜のようです
「そ、そのいいだろうか。久しぶりにこうやって会えたんだし……」
エルシャさんはもじもじしながら続けてそう言ってきた。
俺は未だに唖然としたままだ。まさかエルシャさんがここに来るとは思わなかったし、ましてやこんなことを言われるとは。俺、結構酷いことしてるような気がするんだがな。
「ダメ……だった?ダメならいいんだ。すまなかった無理を言って……」
エルシャさんは明らかに落ち込んだ様子で俯いてしまった。少し震えている気もするし、返事が遅くなったのがいけなかったようだ。
「い、いえ!いいんです!いいんですが、パーティメンバーに話しておかないといけないので時間もらってもいいですか?」
「そういうことならよろしく頼む!」
エルシャさんは顔を上げたかと思うと、ぱぁっと輝き期待が込められた顔で俺を見つめた。
エルシャさんってこんなに表情豊かだったっけ?俺の記憶には怒った顔と笑った顔あとは無表情しか残ってないんだが。
何がともあれエルシャさんが時間をくれたので皆に趣旨を説明した。
皆は快諾とはいかなかったがとりあえずは了承してくれた。ただし、夜の十二時までには帰ってくる条件付き。俺、そんなに信用されてないのか……。
だがまあ条件付きでも良しとしてくれたのだ。優しいところもあるのか?
そんな事を思いながらも、俺は皆と離れ、エルシャさんの隣についた。
「エルシャさん、皆からオーケー貰えたので行きましょうか」
「は、はい!」
俺はエルシャさんと共に控え室を後にした。
◇◆◇◆◇
エルシャさんと共に来たのは出店が立ち並ぶ通り。今日三度目だ。
しかし、今回は少し違う。空は夕焼けで茜色に染っており、人々も昂った雰囲気から落ち着いた雰囲気に変わっている。
「君がこの大会に参加しているとは思わなかった」
「俺だってエルシャさんが解説者として呼ばれてるなんて知りませんでしたよ」
「予選中に見せてくれたけど、私が贈ったイヤリング付けてくれてたんだね」
「そりゃあエルシャさんがくれたものですし、とてもいいやつだったので付けないわけないですよ」
「そ、そうか!嬉しいな!」
はにかみながら笑うエルシャさんは夕焼けのせいか顔が赤くなっていた。
動悸が早くなる。心臓が高鳴る。
……俺、どうしたんだろう?エルシャさんといるといつもこうなる。病気か?病気だな。うん病気。
「どうした?」
ぼっとしてた俺の顔を覗き込んでくるエルシャさん。……って近い近い!
「な、なんでもないです!そんな事より話ってなんですか!」
「ん?ああそうだった。話っていうのは本戦出場した少女達の事だよ」
マジか。そこを突っ込まれると痛いんだが。
「あの少女達、やっぱり君のパーティメンバーだったんだね。控え室でみたよ」
「え、えっとそれがなんでしょうか」
「みんな可愛い子達ばかりだし、前にあった時より増えてるし、そんなに節操なかった?」
「ちょ!節操とかそんなのじゃないですよ!」
「それとロウリ・コーンって偽名……。本当にロリコンだったの……?だからあんなに幼い子ばっかり」
「ち、違いますって!あれは俺の知らないところでそうなっただけなんですよ!」
まさか俺の事だったとは。少女の話だっていったからあいつらの事を聞かれると思ったんだが。
「ふふっ。ちょっと聞いてみたかっただけだよ」
「からかうのはやめてくださいよ……。心臓に悪いです……」
「それであの少女達は?普通の子じゃないでしょ?」
「うっ」
「やっぱりその反応はそうなんだ」
俺、隠すの下手すぎだろ……。速攻でバレたんだが。
「そんな顔しなくても何も聞かないよ。ただそうなんだろうなと思っただけだから」
「そんなに俺虐めて楽しいですか……」
「いつかの仕返しに、ちょっと困らせたくて」
むぅ。それを言われると俺も弱い。エルシャさんも言うようになったなあ。
そのエルシャさんは今心底楽しそうにしている。まあ楽しそうだしいっか。
それから俺とエルシャさんは日が暮れて、白く輝く月が高く上がるまで、話に花を咲かせた。
俺の話は話せないことがあったりしてその部分は伏せたが、結婚式の時に起きた出来事だったり、帝国に向かう時に起きた厄介事だったりを話した。
エルシャさんはダルダナンの街であった苦労や小さな幸せを話してくれた。
とても楽しい時間だった。しかし、その時間は長くは続かない。俺がもうそろそろ戻らないといけなくなったのだ。
「あのエルシャさん。俺もうそろそろ戻らないと……」
「もうそんな時間……。楽しい時間は早く過ぎるのもだね」
「そうですね。でも辛いことが長く続くよりはいいですよ」
「うん」
「では、また明日」
俺はエルシャさんに別れの挨拶をして、その場から立ち去ろうとした。けれど、俺はそこからすぐに立ち去ることはできなかった。
「待って!!」
こうやってエルシャさんに服の袖を引かれ呼び止められたからだ。
俺は後ろ向き、顔を隠すように下を向いているエルシャさんの前に立つ。そしてエルシャさんは、一言一言言葉を紡いでいく。
「あなたとの出会いはとても印象に残ってる。それはこれからも忘れないと思う。出会ってすぐ、アースドラゴンを一人で倒してしまったあなたには感謝もしたし、尊敬もした。今だってあなたは私のわがままに付き合ってこうやって話を聞いてくれる、あなたのそんな優しさに触れた。ほら、私こういう性格だからあんまり異性からそういう目で見られたことなかったし、それに私もそういう目で見ようとも思わなかった」
「エルシャさん……一体何を……」
「だ、黙って聞いてて!」
エルシャさんは、強く言い放った言葉とは違い、袖を握っている手は力無く、声は震えていた。
「あなたと過ごした一週間は今までの人生で一番って言っていいほど輝いていた。その一週間は、あなたに会う度に胸が高鳴り、あなたからどういう風に見られてるのか気になっていた。こんなこと初めてだった。異性からどう見られてもいいって思ってたのにあなたにだけは、よく思って欲しかった。あなたがダルダナンの街から出ていっても、ずっとあなたのことを考えていた。今何をしているのかとか、元気でやっているのかとか、そんなのばっかり」
そこまで言ってエルシャさんは顔を上げる。少し悲しそうにしていたが、それ以上に決意と覚悟が宿っているように見える。
「私はあなたがいなくなってからこれが恋なんだと気づいた。だから――だから言わせてください」
エルシャさんは一つ深呼吸をしてから言葉を続けた。
「あなたの事が好きです。私と付き合ってもらえませんか」
その時のエルシャさんは月の光と相まって、幻想的でとても美しかった。それと同時に俺はエルシャさんの決意と覚悟をみた。
だから俺も真剣に答えを出さねばならない。
「お、俺はエルシャさんの事、とても尊敬してます」
「うん」
「ギルドマスターで、人望があって、強くて……。そんなエルシャさんが俺を好いてくれるのは嬉しいです」
「うん」
「でも……。でも俺には無理です。エルシャさんが悪いとかそういうことじゃなくて、俺の問題なんです。だから――」
「うん」
「だから、付き合う事は出来ません」
「うん…」
最後のうんの声は濡れていた。
そして、少しの静寂の後、エルシャさんがポツリと話し始める。
「……なんとなく分かってたよ。あなたの周りにあんなに素敵そうな子がいるのに、そういう話を何も聞かなかったから。でも自分の気持ちあなたに知ってもらいたかったから。これで良かったって思うよ」
「そう……ですか……」
「うん。そう」
エルシャさんは俺に向かってぎこちなく笑った。俺が気にしないように頑張って笑ってくれたのだろう。
「ごめんね。引き止めちゃって。また明日ね」
「はい、また明日」
エルシャさんは走ってこの場から立ち去った。残された俺は去り際のエルシャさんの顔が頭から離れなかった。今にも泣いてしまいそうな、けれどそれを下唇を噛んでこらえているそんな顔。
俺は気を落ち着かせるために、少し遠回りして皆が待つ宿に戻った。
エルシャさんはもじもじしながら続けてそう言ってきた。
俺は未だに唖然としたままだ。まさかエルシャさんがここに来るとは思わなかったし、ましてやこんなことを言われるとは。俺、結構酷いことしてるような気がするんだがな。
「ダメ……だった?ダメならいいんだ。すまなかった無理を言って……」
エルシャさんは明らかに落ち込んだ様子で俯いてしまった。少し震えている気もするし、返事が遅くなったのがいけなかったようだ。
「い、いえ!いいんです!いいんですが、パーティメンバーに話しておかないといけないので時間もらってもいいですか?」
「そういうことならよろしく頼む!」
エルシャさんは顔を上げたかと思うと、ぱぁっと輝き期待が込められた顔で俺を見つめた。
エルシャさんってこんなに表情豊かだったっけ?俺の記憶には怒った顔と笑った顔あとは無表情しか残ってないんだが。
何がともあれエルシャさんが時間をくれたので皆に趣旨を説明した。
皆は快諾とはいかなかったがとりあえずは了承してくれた。ただし、夜の十二時までには帰ってくる条件付き。俺、そんなに信用されてないのか……。
だがまあ条件付きでも良しとしてくれたのだ。優しいところもあるのか?
そんな事を思いながらも、俺は皆と離れ、エルシャさんの隣についた。
「エルシャさん、皆からオーケー貰えたので行きましょうか」
「は、はい!」
俺はエルシャさんと共に控え室を後にした。
◇◆◇◆◇
エルシャさんと共に来たのは出店が立ち並ぶ通り。今日三度目だ。
しかし、今回は少し違う。空は夕焼けで茜色に染っており、人々も昂った雰囲気から落ち着いた雰囲気に変わっている。
「君がこの大会に参加しているとは思わなかった」
「俺だってエルシャさんが解説者として呼ばれてるなんて知りませんでしたよ」
「予選中に見せてくれたけど、私が贈ったイヤリング付けてくれてたんだね」
「そりゃあエルシャさんがくれたものですし、とてもいいやつだったので付けないわけないですよ」
「そ、そうか!嬉しいな!」
はにかみながら笑うエルシャさんは夕焼けのせいか顔が赤くなっていた。
動悸が早くなる。心臓が高鳴る。
……俺、どうしたんだろう?エルシャさんといるといつもこうなる。病気か?病気だな。うん病気。
「どうした?」
ぼっとしてた俺の顔を覗き込んでくるエルシャさん。……って近い近い!
「な、なんでもないです!そんな事より話ってなんですか!」
「ん?ああそうだった。話っていうのは本戦出場した少女達の事だよ」
マジか。そこを突っ込まれると痛いんだが。
「あの少女達、やっぱり君のパーティメンバーだったんだね。控え室でみたよ」
「え、えっとそれがなんでしょうか」
「みんな可愛い子達ばかりだし、前にあった時より増えてるし、そんなに節操なかった?」
「ちょ!節操とかそんなのじゃないですよ!」
「それとロウリ・コーンって偽名……。本当にロリコンだったの……?だからあんなに幼い子ばっかり」
「ち、違いますって!あれは俺の知らないところでそうなっただけなんですよ!」
まさか俺の事だったとは。少女の話だっていったからあいつらの事を聞かれると思ったんだが。
「ふふっ。ちょっと聞いてみたかっただけだよ」
「からかうのはやめてくださいよ……。心臓に悪いです……」
「それであの少女達は?普通の子じゃないでしょ?」
「うっ」
「やっぱりその反応はそうなんだ」
俺、隠すの下手すぎだろ……。速攻でバレたんだが。
「そんな顔しなくても何も聞かないよ。ただそうなんだろうなと思っただけだから」
「そんなに俺虐めて楽しいですか……」
「いつかの仕返しに、ちょっと困らせたくて」
むぅ。それを言われると俺も弱い。エルシャさんも言うようになったなあ。
そのエルシャさんは今心底楽しそうにしている。まあ楽しそうだしいっか。
それから俺とエルシャさんは日が暮れて、白く輝く月が高く上がるまで、話に花を咲かせた。
俺の話は話せないことがあったりしてその部分は伏せたが、結婚式の時に起きた出来事だったり、帝国に向かう時に起きた厄介事だったりを話した。
エルシャさんはダルダナンの街であった苦労や小さな幸せを話してくれた。
とても楽しい時間だった。しかし、その時間は長くは続かない。俺がもうそろそろ戻らないといけなくなったのだ。
「あのエルシャさん。俺もうそろそろ戻らないと……」
「もうそんな時間……。楽しい時間は早く過ぎるのもだね」
「そうですね。でも辛いことが長く続くよりはいいですよ」
「うん」
「では、また明日」
俺はエルシャさんに別れの挨拶をして、その場から立ち去ろうとした。けれど、俺はそこからすぐに立ち去ることはできなかった。
「待って!!」
こうやってエルシャさんに服の袖を引かれ呼び止められたからだ。
俺は後ろ向き、顔を隠すように下を向いているエルシャさんの前に立つ。そしてエルシャさんは、一言一言言葉を紡いでいく。
「あなたとの出会いはとても印象に残ってる。それはこれからも忘れないと思う。出会ってすぐ、アースドラゴンを一人で倒してしまったあなたには感謝もしたし、尊敬もした。今だってあなたは私のわがままに付き合ってこうやって話を聞いてくれる、あなたのそんな優しさに触れた。ほら、私こういう性格だからあんまり異性からそういう目で見られたことなかったし、それに私もそういう目で見ようとも思わなかった」
「エルシャさん……一体何を……」
「だ、黙って聞いてて!」
エルシャさんは、強く言い放った言葉とは違い、袖を握っている手は力無く、声は震えていた。
「あなたと過ごした一週間は今までの人生で一番って言っていいほど輝いていた。その一週間は、あなたに会う度に胸が高鳴り、あなたからどういう風に見られてるのか気になっていた。こんなこと初めてだった。異性からどう見られてもいいって思ってたのにあなたにだけは、よく思って欲しかった。あなたがダルダナンの街から出ていっても、ずっとあなたのことを考えていた。今何をしているのかとか、元気でやっているのかとか、そんなのばっかり」
そこまで言ってエルシャさんは顔を上げる。少し悲しそうにしていたが、それ以上に決意と覚悟が宿っているように見える。
「私はあなたがいなくなってからこれが恋なんだと気づいた。だから――だから言わせてください」
エルシャさんは一つ深呼吸をしてから言葉を続けた。
「あなたの事が好きです。私と付き合ってもらえませんか」
その時のエルシャさんは月の光と相まって、幻想的でとても美しかった。それと同時に俺はエルシャさんの決意と覚悟をみた。
だから俺も真剣に答えを出さねばならない。
「お、俺はエルシャさんの事、とても尊敬してます」
「うん」
「ギルドマスターで、人望があって、強くて……。そんなエルシャさんが俺を好いてくれるのは嬉しいです」
「うん」
「でも……。でも俺には無理です。エルシャさんが悪いとかそういうことじゃなくて、俺の問題なんです。だから――」
「うん」
「だから、付き合う事は出来ません」
「うん…」
最後のうんの声は濡れていた。
そして、少しの静寂の後、エルシャさんがポツリと話し始める。
「……なんとなく分かってたよ。あなたの周りにあんなに素敵そうな子がいるのに、そういう話を何も聞かなかったから。でも自分の気持ちあなたに知ってもらいたかったから。これで良かったって思うよ」
「そう……ですか……」
「うん。そう」
エルシャさんは俺に向かってぎこちなく笑った。俺が気にしないように頑張って笑ってくれたのだろう。
「ごめんね。引き止めちゃって。また明日ね」
「はい、また明日」
エルシャさんは走ってこの場から立ち去った。残された俺は去り際のエルシャさんの顔が頭から離れなかった。今にも泣いてしまいそうな、けれどそれを下唇を噛んでこらえているそんな顔。
俺は気を落ち着かせるために、少し遠回りして皆が待つ宿に戻った。
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