異世界に転生したので楽しく過ごすようです
第73話 再開と予選のようです
「あたし次あれ」
「ちょっ、ミルまだ食う気かよ!少しは遠慮っていうのを覚えろ!」
「そんなの今更」
「確かにそうだけども!」
予選の合間にある一時間の休憩時間になり一度女神と合流。それから昼ご飯を食べに、出店が並ぶ通りに戻ってきた。
するとミルはやけ食いなどと言って手当たり次第に買っては食べ買っては食べを繰り返す。
さすがに他の皆はもう食べられないようなんだがな。ミルの食べた者がどこに消えているのか気になる。
「早く買ってきて」
「はいはい分かったよ。ったくもう」
俺はミルにパシられ、仕方なく出店へ向かう。今はすいているようだし、声をかければすぐに買えかるだろう。
俺はそう思い出店の店主に声をかける。
「「すいませーん。一つくださーい」」
「「え?」」
店主の方に声をかけたら隣から全く同じように声をかけた人がいた。俺はあまりにもシンクロしすぎていてびっくりし、その人の方を向く。
するとその人もこっちを向いたので目が合った。
「「あー!」」
隣にいたのはトミーさんだった。トミーさんの後ろには牛若丸のパーティメンバーもいる。
「トミーさんじゃないですか!お久しぶりですね!それと本戦出場おめでとうございます!」
「ほんとに久しぶりだね!でも本戦出場についてはあの少女のおかげだから何も言えないよ」
そういってバツが悪そうに笑うトミーさん。俺的にはそうは思わないんだがなあ。
「……そんなことより君がここに居るってことは武道会に参加してるってことだよね?」
「そうですね。俺も頑張って本戦出場しないとですよ」
「君なら大丈夫さ」
「トミーさーん?次行きますよー」
俺とトミーさんが話していると牛若丸のパーティメンバーにトミーさんが呼ばれた。時間を取らせてしまったようだ。申し訳ない。
「おっと仲間を待たせてしまったようだ。また会おう。それとも一緒に来る?」
「嬉しい誘いですが俺も仲間を待たせているので」
「そうか。ではまた会おう!」
トミーさんは俺に手を振って去っていった。
俺は久しぶりの再開を懐かしみながら、ミルに頼まれて買ったものを届けにみんなの元へ戻る。
戻ってきたはいいがミルの機嫌が明らかに悪い。それはもう今すぐに俺を殺さんと言わんばかりに。
「おそい」
「すまんすまん。知り合いとばったり会って話してたんだ」
「ふん…。それで頼んでたやつは?」
「ここにあるぞ」
そう言って渡すとミルの機嫌がなおる。いやー、扱いやすいなー。
俺は美味しそうに食べるミルを横目に見ながら皆との会話に入る。どうやら六種族について女神に聞いているらしい。
「六種族はそれぞれ特徴があるんです。紫熊族であったら剛腕であるとか赤象族であったら魔法が得意だとかですね」
大体は予想付いてたけどな。やっぱりそうだったか。本戦で戦う時はそれに注意した方がいいだろうな。
「では女神様に質問なのですが、今の帝王はどの種族なのですか?」
レンが女神に質問を投げかけた。俺も帝王が誰かなんて知らないから知っておきたい。
「現帝王は銀狼族ですね。バランスのいい戦いをする種族です。あともう一種族同じ様な戦いするのが金虎族です。この二種族は犬猿の仲といったところですね」
銀狼族と金虎族か。名前からして強そうなんだが。この二種族は確実に本戦に出場しに来るだろうな。
女神はそれから言葉を続ける。
「今年の六種族は例年より強いです。気を抜かないようにしてください」
「女神がそこまで言うんだからしっかり気をつけないとな。な、皆?」
皆は神妙な面持ちで頷く。まあ皆だったら大丈夫だと思うんだがな。
皆の事を考えていたら俺の服が軽く引っ張られる。引っ張ったのはリンだった。
「あ、あの、もうそろそろ一時間経ちます……」
「もうそんな時間か……。リン教えてくれてありがとうな」
俺はリンの頭を撫でた。頭を撫でてやってる時のリンは顔が真っ赤だ。かわいいのぉ。
『のぉなんて言っちゃっておじさんみたいよ?』
『うぉい!いきなり念話とばすなよ!それと思考読むな!心臓が止まるかと思ったぞ!』
『うんうん。その反応が堪らなく好きよ』
不意に好きとか言われるとドキッとする漫画とかあるがそんなことはない。俺は今ジュリの残念さにため息しか出ないからな。
ジュリは俺にニコッと笑ってから皆を引き連れて会場に戻る。
はぁ一体ジュリはなにをしたいのやら。俺はそんな事を思いながらみんなの後ろをついて行った。
◇◆◇◆◇
女神と別れ、控え室に戻ってきた俺達。既に五組目の選手はリング上に上がっているようだ。
「ご来場の皆さん!!時間になりましたのでこれより予選第五組目の試合を開始いたします!!」
「「「わあぁぁぁああ!!」」」
「選手の皆さん用意はいいですか!!では予選第五組目、試合開始です!!」
いつものようにゴングが鳴り、選手達が一斉に動き始める。
五組目に皆は入っていないのでそれほど目立っている人は見かけない。
「さあ始まりました第五組目!!今回はスタートから少女の姿は見えない!!これはチャンスだぞぉ!!この第五組で本戦出場枠を獲得するのは誰なのか期待が高まります!!」
現在、リング上では選手同士で徒党を組み、自分より強い者を排除している者が多い。しかし、そんなことをしている時点で負けは確定している。
戦いというのは自分の力を信じてこそだからな。自分の力を信じて戦えなかったものはその時点で負けということだ。
「よし。準備体操終わり!」
俺が戦いとはなんたるかを考えていたら、俺の聞き耳スキルがリング上からそんな言葉を拾った。
俺は気になったのでどこにいるのかを探してみることにした。リング上を一通り見てみると、丁度角のところに一人の女性が立っていた。
その女性は馬の耳が頭から出ており、また髪の毛は黒色をしている。それに動きからしてしなやかであることも伺える。
「じゃあいくよ!疾風脚!!」
そう言って水平に蹴りを繰り出す。だがその女性の蹴りは空を切っただけ。俺の目にはそう見えた。
しかし、リング上ではその女性の近くにいた人達が軒並み体を上下に真っ二つにされていた。
「あーっと!!ここで試合が動き出したぁ!!一気に脱落者が続出だぁ!!一体どうなっているんだぁ!!」
「あれは黒馬族伝統の疾風脚だ。空中に蹴りを繰り出すことでかまいたちを強制的に起こさせるものと思えば早い」
「その疾風脚という技で選手達がやられているということですね!!」
なるほどな。風魔法でもできなくはないがただの蹴りでそこまでやるとは。さすが六種族、強い。
「私は疾風脚を見るのは二度目だ。一度目の時は胴体に切り傷を加えるくらいの威力しかなかったと記憶している。しかしこの疾風脚……。相当の威力だ」
「えー。この黒馬族の方はスゥというらしいです。これは本戦出場枠が一つ埋まったと考えていいでしょう!!」
それからはほぼスゥの独壇場だった。疾風脚をするだけで選手がへっていく。何とか逃げているやつもいたが、最後の一回転の疾風脚でほとんどやられた。
「試合終了!!第五組目の本戦出場者は黒馬族のスゥと、聖国の冒険者アリフだぁ!!」
アリフという冒険者は運が良かったと言うべきなのか。もしこれが運ではなく実力で来たものだとすると相当強いのではないだろうか?警戒するだけしておこう。なにせデータがないからな。
こうして第五組目の予選が終わり、第六組目が試合開始となる。
「続いて第六組目だぁ!!この組には現帝王の種族銀狼族と、復権を狙う金虎族が介している!!一体どんな戦いを見せてくれるのか!!」
復権を狙うということは前回は金虎族が帝王だったということか。この二種族どんな戦いをするのか見てみなければ。
「では第六組目!!試合開始!!」
ゴングが鳴ると同時にリング上で強い衝撃波が起こった。その衝撃波でリング上の端にいた人は何人かが脱落してしまっている
俺は衝撃波が起きる瞬間をしっかり見ていたので、衝撃波が起こった理由が金虎族と銀狼族の蹴りがぶつかったからだということがわかった。
「けっ!銀狼族はここで脱落でもしてろ!」
「うっさい!金虎族こそ帝王じゃなくなって貧弱になってんじゃないの!」
金虎族の方は金髪で猫耳を生やした男だろう。歳は大体二十歳前後といったところか。程よく筋肉が付いており、言葉遣いは悪いが立ち振る舞いから真面目に戦っているということが分かる。
一方、銀狼族の方は銀髪で犬耳を生やした女性だな。こちらも歳は二十歳前後だろう。訓練や修練を多くこなしてきた事が分かるほどの体の使い方をしている。
「金虎族一の鬼才レオンと銀狼族一の神童フェルトか。さすがとしか言いようがない」
エルシャさんも言葉が出ないほどだ。
それからというものこの二人のがぶつかり合うだけで衝撃波が起き、周りを巻き込んでどんどん脱落者が出ていく。
この戦いを見て諦めたものも多く、自分から場外に出る者も少なくなかった。
そして、最後にはレオンとフェルトしか残らなかった。
「予選第六組目の本戦出場者はやはり金虎族のレオンと銀狼族のフェルトだったぁ!!」
こうして無事に第六組目も終わり、次は俺の第七組目だ。
俺は皆に見送られながらリングに向かう。するとそこに行くまでの通路を塞いでいる人がいた。
「ちっ。ここで落とせなかったか」
「あんた如きに私がやられるわけないでしょ」
「んだと?」
「なによ?」
金虎族と銀狼族の二人か。今にも戦いを始めそうな雰囲気なんですけど。次俺の番何でそこどいてくれませんかね……。
「す、すいません。そこどいてもらってもいいですか?俺次なんで……」
「おっと道を塞いじまってたか、すまねえ」
「私としたことが他人に迷惑を……」
おや?意外にいい人達じゃないの。ただこの二人の仲が悪いだけだったりするのかな。いやなんだかんだ言って一緒にいるし嫌いというわけでもなさそう。
喧嘩か?男と女の喧嘩って言ったら痴話喧嘩だろう。え?なにこの二人付き合ってんの?
「あの、間違ってたら間違ってるって言ってくれていいんですけど、お二人は付き合っているんでしょうか?」
「なっはぁ!?お前バカか!!誰がこんな狼と!!」
「それはこっちのセリフよ!!誰があんたみたいな虎と!」
「いやー。仲良いなぁ。……あ」
やべ!心の声が口から出てしまったぜ!俺の完全感知には敵対反応二ってなってるんだ……。これやばくね。予選前に死ぬんじゃね?
「いっぺん死んでこいやー!!」
「死ねぇぇ!!」
俺が真ん中にいる状態で二人は同時に蹴りを繰り出してきた。速さと力の強さからして試合開始の時と同じかそれ以上のが飛んできている。ちなみに今俺は思考加速を使って対応しようとしている。
これって俺が避けたら衝撃波が凄いことになるんじゃなかろうか。で、避けなかったら避けなかったで受け止めないといけないし、それに受け止め方も衝撃波が発生しないようにしないといけない。
なんて面倒なことになったんだ。誰のせいだ?俺か。俺だったわ。なんであそこで口を滑らせたかなあ。
ってそんなことはどうでもいいんだよ!それじゃ被害が出ないように頑張りますか。
俺は思考加速によってゆっくりに見える二人の蹴りを手で掴み、重量操作で軽くする。あとは衝撃を吸収できたらいいんだが。あ、スキルを作ればいいのか。
《衝撃吸収を獲得しました》
よし。これであとは思考加速を解くだけ。
俺は思考加速を解いた。すると蹴りはその場で止まり、衝撃波も起きなかった。
ふぅ。一大事は避けることが出来たか……。いやーしかしこいつらめっちゃ強いな。ここまでやらないといけないとは。
「ちょっとお二人、突然蹴ってくるのやめて下さいよ。俺、死ぬところだったじゃないですか。あ、時間ないんで俺もう行きますね」
俺はそう言って二人の足を離してリングに向かった。ちなみに俺の服の中でシロが眠ってるシロに次は頑張ってもらおうと思ってるぞ。
そして、俺が出場する予選第七組目が開始する。
◇◆◇◆◇
ある通路に唖然とした顔で立っている男女がいた。一人は金虎族で鬼才と呼ばれているレオン。もう一人は銀狼族で神童と呼ばれているフェルトだ。
「あのさフェルト、お前今本気で蹴ってたよな?」
「うん。でもレオンだって本気だったでしょ?」
「ああ」
二人は互いに仲が悪いのも忘れ、ある一人の男の事を考えていた。
「あの男、俺達の蹴りを受けて平然としてたな」
「私あんた以降はじめてかもしれない。蹴りを食らわせても平然としていられる人」
「ああ、俺もだ。お前以降はじめてだ」
二人は自分達の蹴りを受け止めた男が向かった先を見つめ、少し笑ったあと通路の奥へと消えていった。
「ちょっ、ミルまだ食う気かよ!少しは遠慮っていうのを覚えろ!」
「そんなの今更」
「確かにそうだけども!」
予選の合間にある一時間の休憩時間になり一度女神と合流。それから昼ご飯を食べに、出店が並ぶ通りに戻ってきた。
するとミルはやけ食いなどと言って手当たり次第に買っては食べ買っては食べを繰り返す。
さすがに他の皆はもう食べられないようなんだがな。ミルの食べた者がどこに消えているのか気になる。
「早く買ってきて」
「はいはい分かったよ。ったくもう」
俺はミルにパシられ、仕方なく出店へ向かう。今はすいているようだし、声をかければすぐに買えかるだろう。
俺はそう思い出店の店主に声をかける。
「「すいませーん。一つくださーい」」
「「え?」」
店主の方に声をかけたら隣から全く同じように声をかけた人がいた。俺はあまりにもシンクロしすぎていてびっくりし、その人の方を向く。
するとその人もこっちを向いたので目が合った。
「「あー!」」
隣にいたのはトミーさんだった。トミーさんの後ろには牛若丸のパーティメンバーもいる。
「トミーさんじゃないですか!お久しぶりですね!それと本戦出場おめでとうございます!」
「ほんとに久しぶりだね!でも本戦出場についてはあの少女のおかげだから何も言えないよ」
そういってバツが悪そうに笑うトミーさん。俺的にはそうは思わないんだがなあ。
「……そんなことより君がここに居るってことは武道会に参加してるってことだよね?」
「そうですね。俺も頑張って本戦出場しないとですよ」
「君なら大丈夫さ」
「トミーさーん?次行きますよー」
俺とトミーさんが話していると牛若丸のパーティメンバーにトミーさんが呼ばれた。時間を取らせてしまったようだ。申し訳ない。
「おっと仲間を待たせてしまったようだ。また会おう。それとも一緒に来る?」
「嬉しい誘いですが俺も仲間を待たせているので」
「そうか。ではまた会おう!」
トミーさんは俺に手を振って去っていった。
俺は久しぶりの再開を懐かしみながら、ミルに頼まれて買ったものを届けにみんなの元へ戻る。
戻ってきたはいいがミルの機嫌が明らかに悪い。それはもう今すぐに俺を殺さんと言わんばかりに。
「おそい」
「すまんすまん。知り合いとばったり会って話してたんだ」
「ふん…。それで頼んでたやつは?」
「ここにあるぞ」
そう言って渡すとミルの機嫌がなおる。いやー、扱いやすいなー。
俺は美味しそうに食べるミルを横目に見ながら皆との会話に入る。どうやら六種族について女神に聞いているらしい。
「六種族はそれぞれ特徴があるんです。紫熊族であったら剛腕であるとか赤象族であったら魔法が得意だとかですね」
大体は予想付いてたけどな。やっぱりそうだったか。本戦で戦う時はそれに注意した方がいいだろうな。
「では女神様に質問なのですが、今の帝王はどの種族なのですか?」
レンが女神に質問を投げかけた。俺も帝王が誰かなんて知らないから知っておきたい。
「現帝王は銀狼族ですね。バランスのいい戦いをする種族です。あともう一種族同じ様な戦いするのが金虎族です。この二種族は犬猿の仲といったところですね」
銀狼族と金虎族か。名前からして強そうなんだが。この二種族は確実に本戦に出場しに来るだろうな。
女神はそれから言葉を続ける。
「今年の六種族は例年より強いです。気を抜かないようにしてください」
「女神がそこまで言うんだからしっかり気をつけないとな。な、皆?」
皆は神妙な面持ちで頷く。まあ皆だったら大丈夫だと思うんだがな。
皆の事を考えていたら俺の服が軽く引っ張られる。引っ張ったのはリンだった。
「あ、あの、もうそろそろ一時間経ちます……」
「もうそんな時間か……。リン教えてくれてありがとうな」
俺はリンの頭を撫でた。頭を撫でてやってる時のリンは顔が真っ赤だ。かわいいのぉ。
『のぉなんて言っちゃっておじさんみたいよ?』
『うぉい!いきなり念話とばすなよ!それと思考読むな!心臓が止まるかと思ったぞ!』
『うんうん。その反応が堪らなく好きよ』
不意に好きとか言われるとドキッとする漫画とかあるがそんなことはない。俺は今ジュリの残念さにため息しか出ないからな。
ジュリは俺にニコッと笑ってから皆を引き連れて会場に戻る。
はぁ一体ジュリはなにをしたいのやら。俺はそんな事を思いながらみんなの後ろをついて行った。
◇◆◇◆◇
女神と別れ、控え室に戻ってきた俺達。既に五組目の選手はリング上に上がっているようだ。
「ご来場の皆さん!!時間になりましたのでこれより予選第五組目の試合を開始いたします!!」
「「「わあぁぁぁああ!!」」」
「選手の皆さん用意はいいですか!!では予選第五組目、試合開始です!!」
いつものようにゴングが鳴り、選手達が一斉に動き始める。
五組目に皆は入っていないのでそれほど目立っている人は見かけない。
「さあ始まりました第五組目!!今回はスタートから少女の姿は見えない!!これはチャンスだぞぉ!!この第五組で本戦出場枠を獲得するのは誰なのか期待が高まります!!」
現在、リング上では選手同士で徒党を組み、自分より強い者を排除している者が多い。しかし、そんなことをしている時点で負けは確定している。
戦いというのは自分の力を信じてこそだからな。自分の力を信じて戦えなかったものはその時点で負けということだ。
「よし。準備体操終わり!」
俺が戦いとはなんたるかを考えていたら、俺の聞き耳スキルがリング上からそんな言葉を拾った。
俺は気になったのでどこにいるのかを探してみることにした。リング上を一通り見てみると、丁度角のところに一人の女性が立っていた。
その女性は馬の耳が頭から出ており、また髪の毛は黒色をしている。それに動きからしてしなやかであることも伺える。
「じゃあいくよ!疾風脚!!」
そう言って水平に蹴りを繰り出す。だがその女性の蹴りは空を切っただけ。俺の目にはそう見えた。
しかし、リング上ではその女性の近くにいた人達が軒並み体を上下に真っ二つにされていた。
「あーっと!!ここで試合が動き出したぁ!!一気に脱落者が続出だぁ!!一体どうなっているんだぁ!!」
「あれは黒馬族伝統の疾風脚だ。空中に蹴りを繰り出すことでかまいたちを強制的に起こさせるものと思えば早い」
「その疾風脚という技で選手達がやられているということですね!!」
なるほどな。風魔法でもできなくはないがただの蹴りでそこまでやるとは。さすが六種族、強い。
「私は疾風脚を見るのは二度目だ。一度目の時は胴体に切り傷を加えるくらいの威力しかなかったと記憶している。しかしこの疾風脚……。相当の威力だ」
「えー。この黒馬族の方はスゥというらしいです。これは本戦出場枠が一つ埋まったと考えていいでしょう!!」
それからはほぼスゥの独壇場だった。疾風脚をするだけで選手がへっていく。何とか逃げているやつもいたが、最後の一回転の疾風脚でほとんどやられた。
「試合終了!!第五組目の本戦出場者は黒馬族のスゥと、聖国の冒険者アリフだぁ!!」
アリフという冒険者は運が良かったと言うべきなのか。もしこれが運ではなく実力で来たものだとすると相当強いのではないだろうか?警戒するだけしておこう。なにせデータがないからな。
こうして第五組目の予選が終わり、第六組目が試合開始となる。
「続いて第六組目だぁ!!この組には現帝王の種族銀狼族と、復権を狙う金虎族が介している!!一体どんな戦いを見せてくれるのか!!」
復権を狙うということは前回は金虎族が帝王だったということか。この二種族どんな戦いをするのか見てみなければ。
「では第六組目!!試合開始!!」
ゴングが鳴ると同時にリング上で強い衝撃波が起こった。その衝撃波でリング上の端にいた人は何人かが脱落してしまっている
俺は衝撃波が起きる瞬間をしっかり見ていたので、衝撃波が起こった理由が金虎族と銀狼族の蹴りがぶつかったからだということがわかった。
「けっ!銀狼族はここで脱落でもしてろ!」
「うっさい!金虎族こそ帝王じゃなくなって貧弱になってんじゃないの!」
金虎族の方は金髪で猫耳を生やした男だろう。歳は大体二十歳前後といったところか。程よく筋肉が付いており、言葉遣いは悪いが立ち振る舞いから真面目に戦っているということが分かる。
一方、銀狼族の方は銀髪で犬耳を生やした女性だな。こちらも歳は二十歳前後だろう。訓練や修練を多くこなしてきた事が分かるほどの体の使い方をしている。
「金虎族一の鬼才レオンと銀狼族一の神童フェルトか。さすがとしか言いようがない」
エルシャさんも言葉が出ないほどだ。
それからというものこの二人のがぶつかり合うだけで衝撃波が起き、周りを巻き込んでどんどん脱落者が出ていく。
この戦いを見て諦めたものも多く、自分から場外に出る者も少なくなかった。
そして、最後にはレオンとフェルトしか残らなかった。
「予選第六組目の本戦出場者はやはり金虎族のレオンと銀狼族のフェルトだったぁ!!」
こうして無事に第六組目も終わり、次は俺の第七組目だ。
俺は皆に見送られながらリングに向かう。するとそこに行くまでの通路を塞いでいる人がいた。
「ちっ。ここで落とせなかったか」
「あんた如きに私がやられるわけないでしょ」
「んだと?」
「なによ?」
金虎族と銀狼族の二人か。今にも戦いを始めそうな雰囲気なんですけど。次俺の番何でそこどいてくれませんかね……。
「す、すいません。そこどいてもらってもいいですか?俺次なんで……」
「おっと道を塞いじまってたか、すまねえ」
「私としたことが他人に迷惑を……」
おや?意外にいい人達じゃないの。ただこの二人の仲が悪いだけだったりするのかな。いやなんだかんだ言って一緒にいるし嫌いというわけでもなさそう。
喧嘩か?男と女の喧嘩って言ったら痴話喧嘩だろう。え?なにこの二人付き合ってんの?
「あの、間違ってたら間違ってるって言ってくれていいんですけど、お二人は付き合っているんでしょうか?」
「なっはぁ!?お前バカか!!誰がこんな狼と!!」
「それはこっちのセリフよ!!誰があんたみたいな虎と!」
「いやー。仲良いなぁ。……あ」
やべ!心の声が口から出てしまったぜ!俺の完全感知には敵対反応二ってなってるんだ……。これやばくね。予選前に死ぬんじゃね?
「いっぺん死んでこいやー!!」
「死ねぇぇ!!」
俺が真ん中にいる状態で二人は同時に蹴りを繰り出してきた。速さと力の強さからして試合開始の時と同じかそれ以上のが飛んできている。ちなみに今俺は思考加速を使って対応しようとしている。
これって俺が避けたら衝撃波が凄いことになるんじゃなかろうか。で、避けなかったら避けなかったで受け止めないといけないし、それに受け止め方も衝撃波が発生しないようにしないといけない。
なんて面倒なことになったんだ。誰のせいだ?俺か。俺だったわ。なんであそこで口を滑らせたかなあ。
ってそんなことはどうでもいいんだよ!それじゃ被害が出ないように頑張りますか。
俺は思考加速によってゆっくりに見える二人の蹴りを手で掴み、重量操作で軽くする。あとは衝撃を吸収できたらいいんだが。あ、スキルを作ればいいのか。
《衝撃吸収を獲得しました》
よし。これであとは思考加速を解くだけ。
俺は思考加速を解いた。すると蹴りはその場で止まり、衝撃波も起きなかった。
ふぅ。一大事は避けることが出来たか……。いやーしかしこいつらめっちゃ強いな。ここまでやらないといけないとは。
「ちょっとお二人、突然蹴ってくるのやめて下さいよ。俺、死ぬところだったじゃないですか。あ、時間ないんで俺もう行きますね」
俺はそう言って二人の足を離してリングに向かった。ちなみに俺の服の中でシロが眠ってるシロに次は頑張ってもらおうと思ってるぞ。
そして、俺が出場する予選第七組目が開始する。
◇◆◇◆◇
ある通路に唖然とした顔で立っている男女がいた。一人は金虎族で鬼才と呼ばれているレオン。もう一人は銀狼族で神童と呼ばれているフェルトだ。
「あのさフェルト、お前今本気で蹴ってたよな?」
「うん。でもレオンだって本気だったでしょ?」
「ああ」
二人は互いに仲が悪いのも忘れ、ある一人の男の事を考えていた。
「あの男、俺達の蹴りを受けて平然としてたな」
「私あんた以降はじめてかもしれない。蹴りを食らわせても平然としていられる人」
「ああ、俺もだ。お前以降はじめてだ」
二人は自分達の蹴りを受け止めた男が向かった先を見つめ、少し笑ったあと通路の奥へと消えていった。
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