異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第71話 予選の一組目と二組目のようです

 これから予選が始まる。俺は七組目で後半の方だ。

 ちなみに、一組目がリン。二組目がジュリ。三組目がゼロ。四組目がミル。八組目がレンだ。

 組がバラバラになっているのは恐らく登録順だからなのではないかと思う。

 初めに入れたのはあの女神が出した俺の登録書だ。だから俺の七組スタートで組が回っていったのだろう。

 まあそのお陰で全員が本戦に出れる可能性が高くなったわけだ。

 予選第一組目はリンだ。そのリンは今緊張でカチカチに固まっている。

「おいリン」

「は、はわわぁ!」

 リンは身体をビクつかせ返事にならない返事を俺に返す。

「緊張するのはいいがしすぎはいかんぞ。ベストな状態は程よい緊張がある事だ」

「そ、そんなの私には難しいです……」

「……あ!だったらなんか嬉しかった事とか幸せだった事とか思い出したらいいんじゃ?」

「嬉しかった……?幸せ……?……………えへへっ」

 えっ。なになに。急に笑い出したんですけど!なに思い出してるのか気になる!

「えへ、えへへへ。うふふふっ」

 あー。もうダメだなこりゃ。完全に自分の世界に入ってしまった。まぁ緊張は解けたようだしいいか。

「一組目の方はリングに上がって準備をしてくださーい!」

 おっ。もう始まるのか。リンを元の世界に戻してやらねば。

「うふふふふ。もっとおねがいしますぅ」

「おいリン!そんなこと言ってないで、早くリングに上がってこい!もう始めるらしいぞ!」

「……はっ!こ、こんなことしてる場合じゃなかった……。で、ではあるじさま!いってきます!」

「おう!頑張ってこい!」

 リンは先程までとは違い少しやる気がみえる。この調子で頑張って欲しいところだ。

 リンがリングに上がってすぐ、司会が声を上げた。

「観客の皆さん!!お待たせしました!!これより予選第一組目のバトルロワイヤルを開始します!!」

「「「うおぉぉぉおお!!!」」」

「選手の皆さん、準備は出来てますね?では第一組目、試合開始!!!」

 司会者の開始の掛け声と同時に開始のコングがなる。その瞬間、数多くの選手達が一斉に武器を取り、優勝するのは俺だと言わんばかりに激しく戦い始める。

 しかしだ、そんな中リンは試合開始直後からあわあわしている。大丈夫なのだろうか?

「さて始まりました、予選第一組目!!初戦から白熱した戦い!!数多くの猛者達が自分の強さを見せつけていく!!おーっと、ここで早くも脱落者が数名出た模様!!脱落者を出したのは一体誰だぁ!!」

「あれは紫熊族のグリーズだ。やはり最初から目立ってくるな」

 エルシャさんの解説に出てきた紫熊族っていうのが女神の言っていた六種族の内の一つだな。

 グリーズは大柄の少し若い男だ。髪の色は紫熊の何もあるように薄い紫色。顔は強面で、筋肉で体が覆われている様は実に肉戦車と言っても過言ではないと思う。

「紫熊族のグリーズと言えば荒くれ者で手に負えないという噂がありますが……」

「その噂はほとんど事実だ。しかし、グリーズは紫熊族の中で一番戦闘に特化している。この武道会においては紫熊族最強と言ってもいいだろうな。是非一度手合わせしてみたいものだ」

 エルシャさん、本音漏れてますよ。

「おっと!!そのグリーズは一撃で敵を沈めていく!!次、また次と薙ぎ倒す!!誰か止めれるものはいないのか!!」

 グリーズの巨体を目の前にした選手達は、グリーズの発する圧に気圧され戦う前から戦意喪失してしまっている。これはグリーズが予選突破だな。

 一方リンはというと……。

「てぃ!やぁ!とぉ!」

 などと可愛い声を発しながら、自分よりも大きい選手を次々に場外へと投げていた。

 んー。武器を買った意味ってあったのか?いや本戦に行けばまだ使うかもしれないのか。折角の武器を使わずに終わるなんてことが無いようにしてもらいたいな。

「む?なんだあの少女。あんな小さな体にあれほどの力があるだと?あの少女の名前を教えてくれ。……リンか。末恐ろしいものだ」

 あ、エルシャさんにリンが見つかった。だがまぁエルシャさんに末恐ろしいなんて言わせたんだ。誇ってもいいだろう。

「ほぃ!それ!」

 まあ当の本人は何も知らずに向かってくる敵をずっと場外へと投げているんだがな。

 それからはグリーズがちぎっては投げ、リンが軽く場外へと敵を投げていくだけの試合だった。たまに二人がかち合いそうになることもあったが、リンが逃げ回ってたように見えた。

 まぁあんな巨体に迫られたら誰でも逃げるよな。

「予選第一組目の本戦出場者は紫熊族のグリーズと、突如現れた謎の少女リンだぁ!!!」

 予選第一組目が終わり、俺達の元に戻ってくるリン。どこか満足気だ。

「みんな!わ、わたし本戦でれるって!」

「リンおつかれ。結構目立ってたぞ?な、皆」

「そうね。あんなに場外に投げてて目立たないわけないわよね」

 ジュリの言葉に皆が激しく頷く。俺もあんなの初めて見た。

「わ、わたしそんなに目立ってたの……?恥しい……」

「まあいいじゃない。本戦だともっと目立ことになるのよ?」

「そ、そうなの!?わたし大丈夫かな……」

 リンは戦いになれば大抵は大丈夫だろう。見てた感じ、戦いに集中しすぎて戦いしか見えなくなるタイプだろうし。

「第二組目の方はリングの方へお願いします」

「あ、私ね。ちょっと行ってくるわ」

 二組目のジュリがリングの方へ歩き始める。俺はジュリに一言声をかけることにした。

「頑張れよ」

「言われなくても頑張るわよ。本戦出場取ってくるから待ってなさい」

 全く。ジュリの意地っ張りめ。……だが、ジュリが取ってくるって言ったんだし、まず間違いなく本戦出場はするだろうな。

「続いては予選第二組目の戦いだ!!第一組目は謎の少女が本戦出場という波乱の展開!!この第二組目も何か起こってしまうのか!!」

 それを聞いたジュリが悪い事を考えてる時の顔をした。一体何するつもりなんだ?怖いんだが……。

「では予選第二組目、試合開始!!」

 開始の合図のゴングがなると同時にジュリが動き出す。いきなり動き始めたジュリに周りの選手が戸惑っている。

 ジュリが近くにいた選手の背後に回ったかと思うと、選手が崩れ落ちた。そしてまたその近くにいた選手もジュリが背後に回った途端崩れ落ちる。

「おーっと!!開始直後から脱落者が続出!!それをなしているのはまたしても少女!!あの少女は一体誰なのだ!!」

「あの方はジュリエット様!!」

 あ、今ジュリがピクって反応した。そんなに嫌かジュリエットって名前。

「ジュリエット様と言えば王国の王女で最近結婚なされた方ですか。どうしてここにいるのでしょうか!いや、今ここで戦い、脱落者を出していることこそが全て!!細かい事気にするな!!」

 この司会者出来る。サラっと重要な事を流すスキルが高い。俺にもください。

「解説のエルシャさんに聞きたいのですが、ジュリエット様は何をしているのでしょうか?」

「あれは首トンだ。首の後ろを手刀で叩き気を失わせている。ジュリエット様がこんな事が出来るとは……」

 なんだって!?首トンだと!?俺も首トンやってみたいぞ!

「なるほど首トンですか。ジュリエット様はその首トンでどんどん敵を減らしていきます!!」

 その時だった。リング上にかなり強い突風が吹いた。踏ん張ってないと飛ばされてしまうようで、首トンで倒れていた奴、咄嗟に踏ん張ることができなかった奴が軒並み場外に飛ばされてしまった。

 ジュリはというと、咄嗟に土魔法で風を防いでいた。

「なんだなんだぁ!!いきなり何が起こったんだぁ!!」

「あれは赤象族のスキル突風だ。風魔法や暴風魔法とは違い殺傷能力はないが、それ故に速さを重視した風を起こすことができるようになっているのだ」

 赤象族か。これも六種族の内の一つだろう。

「この突風を発生させたのは赤象族のフェレトだ。奴は頭がきれる。今回に限って言えば簡単に処理をしたかったから突風を発生させたのだろう」

 フェレトと言われた赤象族の男は、髪は真っ赤というよりオレンジ交じりの色で、頭脳明晰と言った雰囲気を出している。体格は象と言うだけあり大きいがグリーズのように圧を感じることはない。

「この突風でステージに残ったのはフェレトとジュリエット様を含め四人!!さてここからどう動くかぁ!!」

 まず動き始めたのがジュリだ。フェレトでは無い敵に狙いを定めたようだった。ジュリはどうしても首トンで決めたいらしく、必ず背後に回ろうとしている。

 そこに漁夫の利を狙ったもう一人の選手が襲いかかってくる。しかし、それは叶わなかった。

 漁夫の利は襲いかかってくることに必死になり二度目の突風をまともに食らってそのまま場外に飛んだ。

 もう一人の方はジュリが首トンで沈めていた。

「予選第二組目を勝ち残ったのは、ジュリエット様とフェレトだぁ!!二人は本戦出場への権利を獲得したぞ!!」

 ジュリは勝ったというのに浮かない顔をして戻ってきた。なにか不満でもあるのだろうか?

「ジュリお疲れ。お前どうかしたのか?」

「あんな所でジュリエットなんて連呼言われたら恥ずかしくて死にたくなるわ」

 お前そんな事のためだけに気分が落ちるのか……。

「だがまぁ本戦出場おめでとうな」

「当然のことよ。それに言ったじゃない取ってくるって」

「お、おう。そうだったな」

「ねえねえジュリー!リング上どんな感じだったー?」

「楽しかったわよー。ゼロ次でしょ?ゼロも楽しんでらっしゃい」

「うん!ありがとー!」

 そっか次はゼロか。少し心配だ。何をしでかすか分かったもんじゃないからな。

「予選第三組目の方はリング上に上がってくださーい」

 そして、次は予選第三組目が始まる。

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