やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~
人間界の威圧
ルハネスは両腕を背中にまわすと、小さく頭を下げた。
「一師団の団長がご案内してくださるとは。恐縮ですな」
「いえ……。こちらこそ、一国の王のご訪問に対し、ナイゼル王がおりませんから」
「それは仕方ないでしょう。あなたがたにも事情があるはずだ。色々と――ね」
台詞の後半部分を意味深に言い放つと、ルハネスはくくくっと笑ってみせる。
そのやり取りを見て、僕は胃が痛くなる思いだった。
もはや、この時点で交渉は始まっている。
左翼系の連中を派遣することで、ナイゼルは表向き歓迎の意を表してきた。
だが、ルハネスが言っていたように――ここに、ナイゼル本人がいない。
魔王ルハネスが、みずから危険を犯してヴァムダ門に身を投じたというのに、一方の国王はその場にいない。
これは遠回しな挑発行為と見ていいだろう。ナイゼルはおそらく、平和条約の締結以前に、僕たち魔物を下に見ている。
「それで、ここからどうやって移動するのです? 馬車で動くにはあまりに人数が多いと思いますが」
そう言ったのはルイス・アルゼイドだった。ルハネスの隣に立つ彼は、学園で見せたときと変わらぬ風格を放っている。
「おや……」
エルモアが目を丸くする。
「これはまたお若い……。もしかすると、あなたは……」
「ルイス・アルゼイド。魔王ルハネスの子息です」
「そ、そうでしたか。これは失礼致しました」
団長エルモアはこほんと咳払いをすると、続けて言った。
「馬車は使用致しません。ご指摘のように人数が多いですし、ここから首都まではかなりの距離がございます」
「では、どうするのです?」
「大規模な転移術を行うのです。――あちらをご覧くださいませ」
エルモアの手差しした方向に、一同は目を向けた。
魔法陣。
一見してそうとわかる紋様が、地面に大きく描かれていた。魔法陣を取り囲む形で、五人の兵士が立っている。
「な、なんと……」
ルイスは大きく息をついた。
「これだけの人数を、たった五人で転移するのですか?」
「正確には、私を含めた六人ですけどね。先ほど申し上げたように、私たちは第一魔術団に属しております。日々鍛錬を行っておりますから、万一にも失敗することはありません。ご安心くださいませ」
お偉方の会話を聞きながら、僕は魔物界の騎士たちのことを思い浮かべていた。
魔王城を巡回する騎士。
そして警備隊に属する魔物たち。
いま思い返しても、やはり魔物界の連中は弱い。
たった六人で五十体もの生命体を転移させることなど、おそらく魔物界の騎士たちには不可能だ。もちろん僕を除いて、だが。
それほどの難行を、万一にも失敗しないとエルモアは言い放ったのだ。案内に見せかけて、これもまた《牽制》のひとつである。
人間界の王、ナイゼル……やはり侮れない。
いつも傲岸不遜なルイスも、やや不安そうに黙りこくっている。周囲の貴族たちも同様だ。さすがに毒気に当てられてしまったか。
「ふふ」
しかし魔王ルハネスだけは貫禄が違った。余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)たる笑みを浮かべると、変わらぬ渋い声で言った。
「それは頼もしい。ではお言葉に甘えて、転移術のお力を拝見させていただきましょう」
「ええ。では皆様、こちらへおいでくださいませ――」
「一師団の団長がご案内してくださるとは。恐縮ですな」
「いえ……。こちらこそ、一国の王のご訪問に対し、ナイゼル王がおりませんから」
「それは仕方ないでしょう。あなたがたにも事情があるはずだ。色々と――ね」
台詞の後半部分を意味深に言い放つと、ルハネスはくくくっと笑ってみせる。
そのやり取りを見て、僕は胃が痛くなる思いだった。
もはや、この時点で交渉は始まっている。
左翼系の連中を派遣することで、ナイゼルは表向き歓迎の意を表してきた。
だが、ルハネスが言っていたように――ここに、ナイゼル本人がいない。
魔王ルハネスが、みずから危険を犯してヴァムダ門に身を投じたというのに、一方の国王はその場にいない。
これは遠回しな挑発行為と見ていいだろう。ナイゼルはおそらく、平和条約の締結以前に、僕たち魔物を下に見ている。
「それで、ここからどうやって移動するのです? 馬車で動くにはあまりに人数が多いと思いますが」
そう言ったのはルイス・アルゼイドだった。ルハネスの隣に立つ彼は、学園で見せたときと変わらぬ風格を放っている。
「おや……」
エルモアが目を丸くする。
「これはまたお若い……。もしかすると、あなたは……」
「ルイス・アルゼイド。魔王ルハネスの子息です」
「そ、そうでしたか。これは失礼致しました」
団長エルモアはこほんと咳払いをすると、続けて言った。
「馬車は使用致しません。ご指摘のように人数が多いですし、ここから首都まではかなりの距離がございます」
「では、どうするのです?」
「大規模な転移術を行うのです。――あちらをご覧くださいませ」
エルモアの手差しした方向に、一同は目を向けた。
魔法陣。
一見してそうとわかる紋様が、地面に大きく描かれていた。魔法陣を取り囲む形で、五人の兵士が立っている。
「な、なんと……」
ルイスは大きく息をついた。
「これだけの人数を、たった五人で転移するのですか?」
「正確には、私を含めた六人ですけどね。先ほど申し上げたように、私たちは第一魔術団に属しております。日々鍛錬を行っておりますから、万一にも失敗することはありません。ご安心くださいませ」
お偉方の会話を聞きながら、僕は魔物界の騎士たちのことを思い浮かべていた。
魔王城を巡回する騎士。
そして警備隊に属する魔物たち。
いま思い返しても、やはり魔物界の連中は弱い。
たった六人で五十体もの生命体を転移させることなど、おそらく魔物界の騎士たちには不可能だ。もちろん僕を除いて、だが。
それほどの難行を、万一にも失敗しないとエルモアは言い放ったのだ。案内に見せかけて、これもまた《牽制》のひとつである。
人間界の王、ナイゼル……やはり侮れない。
いつも傲岸不遜なルイスも、やや不安そうに黙りこくっている。周囲の貴族たちも同様だ。さすがに毒気に当てられてしまったか。
「ふふ」
しかし魔王ルハネスだけは貫禄が違った。余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)たる笑みを浮かべると、変わらぬ渋い声で言った。
「それは頼もしい。ではお言葉に甘えて、転移術のお力を拝見させていただきましょう」
「ええ。では皆様、こちらへおいでくださいませ――」
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