やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

いざ、人間界へ

 ――ヴァムダ門。
 人間界と魔物界の境目に存在するだけあって、この要塞には相当の巨額を投じているようだ。

 まず、その威容さに舌を巻く。
 四方は頑丈そうな鉄柵で囲まれており、一般の魔物では到底破壊できないだろう。しかも見上げんばかりの高度だし、図体のでかい魔物が乗り越えることもたぶん不可能だ。

 いや――
 よしんば乗り越えられたとしても、呆気なく撃退されるか殺されてしまうだろう。

 なぜならば、要塞の各所には高台がいくつも設置されていて、兵士たちが油断ならない目を向けているからだ。

 その全員が、武器という武器を持っていない。
 おそらく遠隔魔法を得意とする兵士たちだと思われる。なにげなく彼らの魔力を探ってみると、魔物のそれより数倍の濃度が感じられた。 

 要塞の最奥部には禍々しい鉄製の建物があった。こちらは入り口が固く閉ざされており、当然僕たちには内部を隠すつもりのようだ。

 そりゃ軍事施設だからね。機密事項ってやつだろう。

「こりゃあ……参ったねぇ……」

 思わず弱気な声を出してしまう。

 もし仮に戦争が起きたとすれば、こちら側の敗北は確実だろう。両者には魔力の差もあるが、文明のレベルにも大きな開きがありそうだ。 

 まさにこれらのことを魔物にアピールしたいがために、ナイゼルは早めに僕たちを招待したんだろう。まったく抜け目のない奴だ。 

 しかしながら、魔物界の将来を背負った男はいまだに冷静沈着だった。ルハネスは要塞の施設について特にコメントをせず、エルモアに目線を投げかける。

「さて、私たちはこの魔法陣に乗ればいいのですかな?」

 そう言って地面のある一点を手差しする。

 そこには巨大な星の紋様が描かれていた。五十体もの魔物が乗っても充分に余りあるほどの大きさである。 

 ルハネスのあまりの冷静っぷりに、エルモアはやや不満そうに口元を歪めたが、すぐに素顔に戻った。 

「ええ。こんな質素な場所で立ち話もあれですから、すぐにでも皆様を首都にお送りしたいと思います。ではどうぞ、魔法陣にお入りください……」

 エルモアの指示に、魔物たちはぞろぞろと魔法陣に足を踏み入れていく。

 数秒後、全員が範囲内に収まると、エルモアは大仰に両手を広げた。
 それが合図とでもいうかのように、魔法陣を囲んでいた人間たちも、同じように両手を広げる。

「――では、ただいまより転移術を開始致します。やや強い光が発生しますので、目の弱い方はご注意くださいませ。それでは……」

 エルモアがそう言い放ったのと同時に。
 僕たち魔物を、翡翠の輝きが包み込んだ。





「あ……」 

 コトネが小さな声を漏らす。
 翡翠の光が薄れ、そして消えたときには、僕たちはまったく別の場所にいた。

 無限に広がる石畳。
 紅の煉瓦れんがを基調としている豪勢な建物たち。

 向かいには、こちらも真紅に彩られた巨大な宮殿。正直に言って、魔王城などとは規模が段違いだ。あの大きさからは、内部の部屋数など測るべくもない。

 また、あちこちに点在している商店なども、魔物界の城下町とは明らかに一線を画していた。

 どれも大規模で、ショーウィンドウに掲示された品物はどれも魔物界のそれより高価なものだとわかる。

 また、建物のところどころに垂れ幕が掛けられており、剣を持った勇ましい男のシルエットが描かれていた。

 これはおそらく、剣帝ドグラス――人間界における英雄だった気がする。その昔、邪悪なる魔物を次々と討伐していくことで、多くの人間を窮地から救った英雄だ。

 むろん、僕たち魔物には、剣帝ドグラスは英雄どころか非情な悪魔として認識されているのだが――

 もはや考えるべくもない。この場所は…… 

「人間界の首都……サクセンドリア……」
「ふふ、聞いていた以上の壮観っぷりですな」

 アルゼイド親子がそれぞれの感想を述べる。

 その他の魔物たちも、みな呆気に取られて周囲を見渡している。テルモに至ってはずっと口を開けっ放しだ。

 僕たちの周囲には仕切りのようなポールが設置されていた。僕たちが人間らのテロリストに襲われないための策だろう。見物人らしき人間は多くいるが、誰もポールより先には近寄ってこない。兵士たちも厳しい目であたりを巡回している。 

「あれが……魔物たち……」
「なんだ、見た目は俺たちとあんま変わらないじゃんか……」 

 人間たちのささやきが嫌でも耳に入ってくる。正直、あまり良い気分にはなれない。

「長らくお待たせ致しました。首都サクセンドリアに到着です」
 そう言ったのは第一魔術師団長のエルモアだった。
「皆様方には、こちらの高層ホテルにご宿泊いただく予定です」

 近くの、見るからに高級そうなホテルを手差しする。

「万全な警備を施してありますので、会議までの二日間はご自由にお過ごしください。ただし安全のため、護衛の兵士を同行させていただきます。ご了承ください」 

 まあ仕方ないだろう。あれだけ険悪だった人間界を堂々と歩けるだけでも勲章くんしょうものだ。 

 僕たちはエルモアに連れられ、それぞれホテルにチェックインしていく。もちろん僕はコトネと同じ部屋だ。これでやっと、人間たちの面倒くさい視線から解放される。 

 ホテルの部屋もまた豪勢だった。
 窓際まどぎわに紅の花が活けられており、なんだか心地良い香りが漂ってくる。その他、ふかふかなベッドや光沢のあるテーブルは、一見しただけでかなり高額であることがわかる。 

 室内の様子を一通り確認したコトネは、コトコトと窓際に歩いていき、
「夢……みたい……」
 と呟いた。 

 窓から地上を見下ろすと、当然、多くの人間がそこかしこを行き交っているのが見える。さすがは首都というだけあり、すべての人間が身なりを綺麗に整えている。

「こんなに近くで……こんなに多くの人間を見ることになるなんて……」

「ま、なにげに歴史の分岐点にきてるかもね」 

 言いながら、僕も窓際に歩いていく。

 たしかに――
 長い歴史にあって、これほど魔物と人間が物理的距離を縮めたことはない。もし仮にあったとしても、それは闘争のときだ。

 人間界のホテルに宿泊するなど、それこそまたとない機会である。 

 だからこそ。
 いましかできないことがある。

「コトネ。チェックインしたばかりで何だけど、ちょっと外に出てみないかい?」 

「え?」

「前、ある人間が言ってたんだ。ギルドという組織が、ニルヴァ市に多くの人間を送り込んだって。良い機会だし、ちょっとギルドってとこを探してみようよ」

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