やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

コトネのために④

 僕は一旦いったん洞窟を出ると、今度はコトネを伴って魔女リトナの元へ来た。 

 魔王ワイズほどではないにせよ、リトナもかなりの強者だ。
 仮に僕とリトナが戦うことになったら、一般人たるコトネの身が危ない。そのために一応コトネを洞窟の外で待機させていたわけだ。

「で、その子が例のコトネっていう魔物かい?」

 魔女リトナは親切にも、姿を消す魔法を解除したようだ。長い鷲鼻わしばなにぎょろりとした両目、やたら大きな顔面は、たしかに魔女という名称がぴたりと当てはまる。

 コトネはやや緊張したようにぺこりと頭を下げた。

「はい。そ、その、お願いします」

「ふん。あんまり気が乗らないが、神様の頼みとあっちゃ仕方ないね。ほらあんた、こっちへ来な」

「は、はいっ……!」

 コトネは震えながらも魔女に歩み寄っていく。そのまま至近距離にまで近寄ると、魔女リトナにがっしりと両腕を掴まれた。

「じっとおし。いまからとびきりの魔力をくれてやるから」

「あ、ありがとうございます……」

 礼を言いながらも、不安そうに僕を振り返るコトネ。

 僕はひょいと肩を持ち上げた。

「大丈夫だよ。僕がいるだろ」

「う、うん……」

 口調はやや荒っぽいが、魔女リトナからは悪意が感じられない。こうして見張っていれば、とりあえず心配はないだろう。

「……しかし、驚きましたな」
 魔女リトナが、目線だけを僕に向けてくる。
「大魔神様は神殿から出ないと聞いたことがあります。まさかこの目で……ご本人様にお会いできるとは」

「ま、僕も出たくて出たわけじゃないけどね」

 魔王ワイズに神殿をぶっ壊されてるし、帰るところがないだけである。

「それから……あなた様とはまた別に、強大な魔力を感じますな。こちらは創造神様ですか」

「うん。よくわかるね」

「まあ、伊達に長生きしておりませんからな」

 と言ってウィンクしてくる老女に、僕はちょっとぞっとしてしまった。

「……しかし、ということは、《暗黒神様》や《太陽神様》もお見えになっているのでしょうか?」

「いや。その二人はいまのところ気配を感じないね」

「そうですか……」

 サクセンドリア大陸には、神があと二人存在する。

 すなわち、暗黒神と太陽神。
 暗黒神は生物に絶望を、太陽神は希望を与える神とされている。両者の働きかけによって、世界は均衡を保っているわけだ。

 補足すると、僕たち神々は仲がよろしくない。
 そもそもが対立する概念の上に存在しているのだ。決して近寄ることなく、距離を置いて世界を守る――それが神の役割である。

 僕がストレイムの正体に最後まで気づけなかったのはそのためだ。不仲であるため、相手の顔がわからないのである。

「よし、できたぞい」
 魔女リトナが満足そうにコトネの両肩を叩いた。
「特別サービスじゃ。特大の魔力をプレゼントしておいたから、これから胸を張って生きるがよい」

「え……特大って……」

 コトネが戸惑ったように目をぱちくりさせる。

 ――たしかに。
 彼女から発せられる魔力は、数秒前のそれとはまるで比較にならない。

 僕はさっき、魔王ワイズと同じくらい強くなれると言ったが、魔力の使い方によってはワイズすら上回るかもしれない。さすがは古より生きる魔女、といったところか。

「で、でも私、なにも感じない……」

 なおも当惑した表情を浮かべるコトネに、僕は微笑を浮かべてみせた。

「なら、いまから試しにいこうか。リトナ、世話になったね」

「ええ。魔神様もお健やかに」

 深くお辞儀をするリトナに頷きかけると、僕とコトネは洞窟を後にした。

 ★

「いやぁぁぁぁぁぁあ!」
 コトネの大絶叫が響きわたる。
「ちょっとエルくん、やめてよ! 勝てるわけないじゃない!」

「……いけるってば。試しに戦ってみてよ」

「やだよぉ!」

 リトナ山脈、中間地点。

 僕たちの目の前で、巨大猿――グリーモアが、自身の胸板を両腕で叩き、猛烈な咆哮ほうこうをあげている。全身が白い体毛で覆われており、口から覗く二本牙、紅の大目玉がなんとも凶悪だ。

 その大目玉が、ぎょろりとコトネを捉えた。
 妙に好戦的である。おそらく、何体もの魔物を殺し、味をしめてきたと思われる。

「ううっ……」

 びくついたようにコトネが数歩下がる。ちなみに僕は彼女から数メートル離れたところで見守っていた。

「大丈夫だってば。なにかあったら僕が出るから、とりあえず魔法を使ってみてよ」

 コトネは元より魔法タイプの子だ。
 基礎の基礎はできているはずである。

「か、帰ったら、ロウニー・ミュウスの特製プリン、一個だよ」

「はいはい。いいから魔法を使いなさいよ。ここが戦場だったら四の五の言わないで攻撃されてるんだよ」

「ううう……」

 やっと観念したらしい。コトネは決意のこもった瞳で巨大猿に向き直ると、右手を突き出した。

 瞬間。
 とめどない魔の奔流ほんりゅうが、彼女のつま先から右腕にかけて溢れ出す。その尋常じんじょうならざるパワーに、僕は思わずひゅうと口を鳴らした。

「えいやぁ!」

 彼女の右腕から、極太の火炎放射が放たれた。それは大滝の勢いで巨大猿を容赦なく呑み込んでいく。ゴゴゴゴゴ……という轟音が山脈に響きわたる。

 ――数秒後。
 跡地には、真っ黒に焦げ、動かなくなった巨大猿の姿があった。

「え……」
 コトネが目を見開かせ、自身の手と、巨大猿とを交互に見つめる。
「うそ……私、勝ったの……?」

「うん。しかも一撃だね」

「し、信じられない……」

 いまだに興奮さめやらぬ様子のコトネの頭を、僕はそろりと撫でてみせた。

「これで君も貴重な戦力だ。足手まといなんてありえないよ」

「あ……」
 コトネは若干潤んだ瞳で僕を見上げた。
「……ありがとう」

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