やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

相手がうざかったので、神の魔法を使ってみた

「ふう。まったく不服だねえ」
 僕と相対したルイスは、気障きざに前髪を掻き上げて言った。
「将来は魔王様の右腕となるこの俺が……まさか! おまえのような! トンマ男と戦わねばならないなんて!」

「……そんなに戦いたくないのかい?」

「当然だ! 馬鹿が移っては困るからな!」

「あっそう」

 そこまで言うならご希望に答えてあげるとしよう。僕は優しいんだ。

 そんなやり取りをしていると、試験官はコホンと咳払いをし、僕に目を向けて言った。

「これより模擬戦を行う。受験者エル。希望の武器はなんだ」

「……武器? いらないよ。邪魔になることが多いからね、僕の場合」

「なんだと? では魔法タイプか? ならば杖を――」

「いらないってば。素手でいいよ」

「す、素手……、だと……」

 瞬間。
「「ぎゃははははは!」」
 またしても周囲で大きな笑い声が弾けた。

 さっきまでのクスクス笑いとは違う。今度はみな、遠慮せずに笑い声をあげていた。

「あはっ、ははっ、す、素手とは、こ、この大馬鹿者め!」
 ルイスは腹を抱え、げらげらと下品な声をあげた。
「ま、魔物はなっ、力が弱いんだよ! だからなにがしかの武器を使う。基本だろう。こんなこともわからんのか!」

「へぇ。いまはそんな時代なんだね。勉強になったよ」

「おうおう、そうだな。これでひとつ、お利口ちゃんになったじゃないか。――教師様、私には木刀を頼みます」

「おう、剣士タイプだな。相手は素手だ。くれぐれも怪我をさせないでくれよ」

「大丈夫ですよ。こんな奴、相手になりませんから」

 そう言って、ルイスは試験官から木刀を受け取り、改めて僕に向き直る。

 その目がさっきより明らかに《軽蔑》のいろを浮かべているのは気のせいではなかろう。

 僕たちの脇で、試験官が試合開始の声をあげた。

 ルイスは変わらずニヤニヤ笑いを浮かべながら、僕に向けて片手をふりふり振った。

「ハンデだ。最初の一撃は君にあげるよ。さあ、どこからでもかかってきたまえ」

「そうかい? じゃ、遠慮なく」

 僕は相手に向けて微笑を浮かべると。
 ――神級しんきゅう魔法を発動した。

なんじは知るだろう。我が奏で放つ、重苦じゅうくにしてうごめく深淵なるいかずちを!」

 ちなみに魔法には五段階ある。


 初級魔法……誰でも使える初歩的な魔法。
 中級魔法……そこそこ強力な魔法。魔法の鍛錬を四十年続けた者が使用可能。
 上級魔法……一般人の限界。魔法の鍛錬を一生かけて続けた者が使用可能。
 最上位魔法……魔王や勇者など、特別な才能を有する者が使用可能。
 神級魔法……魔王や勇者をも超えた神が使用できる魔法。


 つまり僕が使用した魔法は、魔王ですら使えない超高度な魔法――ということになる。

 だって仕方ないよね。相手が戦いたくないとか言ったんだし。

 まあ僕も鬼じゃない。極限まで力を抑えてあげるから、殺しまではしない。

「な……なんだ、これはッ!」

 受験生たちが悲鳴にも似た声を発する。

 それも当然。
 僕の魔力に反応して、天候すら変動し始めたからだ。
 さっきまで快晴だった空は、突如にして暗雲に包まれる。周囲一体が暗黒の瘴気しょうきに覆われ、受験生たちが寒そうに身を震わせる。

「おい……な、なんだこれは!」
 試験官が青白い顔で両腕を抱える。
「エル! 説明しろ! これはいったいどんな魔法だ!」

「さあ、なんだろう。大丈夫だよ殺しはしないから」

「殺しはしないって……」

 いまだガクガク震えている試験官を放っておいて、僕は正面のルイスを見下ろした。

 さっきまで不遜な態度をとり続けていた彼は、無惨にも尻餅をつき――あろうことか、股間から異臭のする液体をこぼしていた。

 ああ、こんな光景を僕は何度も見たことがある。
 不運にも神殿に入り込んだ《迷い人》を殺したときも、相手はこんな顔をしていた。

「じゃ、さよーなら」

 僕が軽く右手を振り下ろすと。
 上空から、凡人には捉えきれぬ速度で暗黒の雷が落下し。
 見事に、ルイスの足の指先だけをかすめていった。

 たったそれだけでも、未熟者たるルイスには充分な威力になりえる。

 ルイスはぶるっと身を震わせると、こくんと気を失った。

「……ま、五分もしたら目が覚めるよ。僕の模擬戦はこんなもんでいいかな?」

 言いながら、僕は校舎のほうへ目を向けた。

 ――この気配。
 どうやらワイズ魔王がいまの魔法に気づいたようだ。

 凡人にはいまの魔法の強さを捉えきれないだろうけど、魔王には伝わったはず。

「震えて待つがいいよ。魔王ちゃん」

 誰にも聞こえない声量で、僕はひとり呟いた。



 
 

コメント

  • よしまふらー

    スカッとした!

    6
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