やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

魔神なら回復もお手のもの

「う……」

 呻き声とともに倒れる男を、僕は無感動で見下ろした。

 ――たった一撃。 

 あれほど魔物に畏怖され、強すぎるとまで言われた人間が、僕の前に、たった一撃で倒れた。

 そのことに対して、オークやカノーネはまさに驚きを隠せないようだ。
 あんぐりと口を開け、僕と死んだ人間とを交互に見つめている。

 さて。

 僕は生き残りの人間たちに目を移した。
 その数、約九十と言ったところか。   

 古代竜の登場と、代表格をたった一撃で死亡させた僕に、かなり戦意を消失しているようだ。人間たちはあちらこちらでたたらを踏んでいる。

 このまま人間たちを壊滅させるくらいわけはない。

 だが……
 僕は大きく息を吐くと、警備員たちの方向へ歩き出した。

 そして、現在の最強戦士――オークに、うっすらと微笑みかける。 

「悪いんだけどさ。急な用事ができてね。この場は任せてもいいかな」

「な、なぬ……!」 

 オークが大きな眼をぎょろりと剥く。

「心配いらないよ。リュザークもしばらくここにいてもらう。君たちだけでも勝てるだろう?」

「し、しかし、俺には、足が……」

 悲痛な表情で自身の足を指差すオーク。

 なるほど。
 いくらリュザークがいるとはいえ、警備員たちでは人間ひとりにすら勝てるかどうか怪しい。

 もしかしたら隙を突かれて殺されるかもわからない。

 仕方ないか。

「治してあげるよ。……ほら」

 僕は治癒魔法を発動し、片手をオークの足にかざした。
 純白の輝きがほのかに輝き、そして薄れていく。

「どうだい。もう動けるだろう」

「なにを馬鹿いって……あ」 

 オークは大きく目を見開いた。そのまま数歩歩いてみせる。

「い、痛くない……どういうことだ……」

「ただの治癒魔法だよ」 

「お、おまえ……何者なんだ……回復魔法使いでもすぐには治らないと言っていたのに」

 魔物の弱体化。それは戦闘面だけじゃなかった。
 たいしたことのないオークの怪我さえ、いまの医師たちはすぐに治せない。

 ……このぶんだと、鍛冶や生産面、あらゆる面で魔物が弱体化している可能性がある。

 僕はふっと苦笑いを浮かべると、片手をひらひら振って歩き出した。

「なんでもいいじゃん。じゃ、僕はこれで」

「お、おい……!」

 オークの制止も聞かず、僕はひとり、ニルヴァ市へ走り出した。




 最初から違和感があった。

 街を襲撃しにきた人間は、約二百人。

 その気配は、ニルヴァ市の正面からだけではなかった。

 僕の感知が正しければ、《もうひとり》いる。

 しかも、気配の消し方が他の人間より格段にうまい。大魔神たる僕を欺くことはできなくても、そこそこ腕が立つ戦士でさえ、この気配には気づけないだろう。

 だから、二百人の襲撃は陽動ようどうだと思っていた。
 二百人が魔物と戦っている間に、残りの部隊が街の中枢を叩く。
 そんな作戦だろうと思っていた。

 なのに。

 代表格の男はなにも知らされていなかった。

 あいつらは、はじめから人形にすぎなかった。

 何者かがいる。
 みずからの手を汚さず、ニルヴァ市を壊滅させようとしている何者かが。

 そいつはいま、街中を素早く移動している。
 住民の多くが屋内に避難している現在、かなり動きやすいことだろう。

 瞬間。

「うっ……!」

 頭部に形容できない激痛を感じ、僕は立ち止まった。頭を抱え、そのままうずくまる。

 脳に多くの情報が押し込まれてくるかのような、そんな重い痛みだった。

 ――ハヤク、キテ――

 ふいに可愛らしい女の声が脳裏に響きわたり、僕ははっとした。

 慌てて周囲を見渡すも、もちろん誰もいない。
 気づけば頭痛も綺麗さっぱり収まっていた。

 ――なんだったんだ、いまのは……

 僕はかつて、いまの少女の声を聞いたことがある気がした。だがいくら記憶を手繰り寄せようとしても、なにも浮かんでこない。かなり入念に記憶を封印されているようだ。

 この先になにが待ち受けているのか。

 それはわからない。

 けれど、うまくいけばきっと、僕の過去が明らかになる……
 それを原動力に、僕は再び走り出した。

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