-COStMOSt- 世界変革の物語
第12話:文化祭①
「私服で来て大丈夫?」
「時間がないので……」
静子さんと共に、僕は高校へと向かっていた。赤い枯葉、間違いなく北野根だろう。彼女の下の名前は椛なのだから。
学校を爆破する、なんて脅しにしか思えないが、北野根ならやりかねない。彼女は入学式に体育館を爆破するような危険人物なのだから。
「昨日作った衣装、晴子も着るのよねぇ〜。幸矢くん、惚れ直しちゃうんじゃない?」
「……学校では、訳あって話さないようにしてるんです。たとえ可愛すぎて抱きしめたくなっても、理性で抑えて貶してやりますよ」
「……ほんっと、複雑な関係よねー」
はぁっ、と静子さんはため息を吐く。複雑とはいえ、とても硬い信頼があるから大丈夫だけども……。
2人で学校に入るのは少し気が引けたので、僕は静子さんと別れて昇降口から入って行った。
下駄箱の中、から上履きを取り出すと、同時に手紙が落ちてくる。
手紙を拾い上げ、便箋を開いた。
〈いかがお過ごしかしら?
貴方と私の前で、普通の文化祭なんて退屈だし、少し工夫をしてみたの。私からのプレゼントよ、楽しんでちょうだい。フフ、ちょっとしたゲームだから、強張らなくていいわ。気楽にやってね。
内容なのだけど、貴方には謎を解いてもらい、謎の先には新たな謎がある。そうして謎を解いていき、最終的には私に辿り着く。簡単でしょ?
期限は明日の午後3時、文化祭終了時刻ね。
因みに、クリアできなかった場合には学校を爆破させちゃうから、頑張ってね。
赤い枯葉より〉
「……まったく、嬉しくないプレゼントだ」
紙を裏っ返しながらぼやく。便箋の裏面には「2-3ロ31」と書かれていた。単純に考えるなら、2年3組のロッカー、出席番号31番、かな? これ以上のヒントがない以上、行くしかない。
僕は急いで2年の教室がある3階に向かった。階段も廊下も、生徒や一般客の雑踏で歩きにくく、本当にお祭り騒ぎだった。
2年3組は輪投げや射的なんかを提供している、祭り屋というタイトルで看板が貼られていた。ロッカーは廊下にあるので、そのまま出席番号31のロッカーを開く。
中には135gの入った塩の瓶と、手紙が入っていた。
塩――何故こんなものを用意した? 用途は不明だが、持ってなければいけないのだろう。
僕は塩をズボンのポケットに入れ、手紙を開いた。
〈書き忘れてたけど、クリアする毎に景品があるわ。嬉しいでしょう? 初めのプレゼントは塩よ。頑張ってたくさん集めてね。
さて、次の指示はこれよ。
私はおばあちゃんのお見舞いに来ました。しかし、おばあちゃんは私を食べようとしました。私は今、逃げているの。助けに来て、私の王子様〉
「…………」
随分と脚色された赤ずきんだな、と思った。おばあちゃんが娘食べようとする、それはどう考えても童話の赤ずきんで、きっと赤ずきんが次の指示書を持っているのだろう。
さて――念の為、文化祭のスケジュール自体は頭に叩き込んである。
赤ずきんの居そうなエリアは僕らの1-1のキャラクター探しと、2-3の仮装喫茶。仮装喫茶なら教室に行けばわかるが、キャラクター探しはコスプレをした学生が口内を歩き回り、客に探されるものだったから見つけにくい。
しかし、仮装喫茶に赤ずきんがいるかはわからない。人探しの方は昨日赤ずきんの衣装を作ったからわかっていた。
1-1の教室は、廊下まで行列ができていた。あの人が指揮するクラスだ、それも当然か――なんて思いつつ、30人は居るであろう廊下の列に並ぶ。思ったより長いな、なんて思っていると、服の裾を引っ張られる。
「何をしているのかね、キミは」
凛とした声で睨みつけて来たのは、晴子さんだった。そして、とても都合の良い事に赤ずきんの格好をしている。成る程、この人にお願いすれば必ず僕に渡してくれる。あの指示書の赤ずきんは、晴子さんだろう。
「キミはクラスメイトなのだから、堂々と入ってくれば良い。それとも何かね? 私服で学校に来て客気分かい?」
「ごめん晴子さん、今はそんな事言ってる場合じゃないんだ」
「…………」
僕が彼女の言葉を切り捨てると、ジト目で彼女は睨んでくる。今は演技をしている場合じゃない。この人の力も借りたいが、晴子さんはクラスを抜けられないだろうから手短に用を済ませよう。
「晴子さん……北野根から預かり物はない?」
「あー……手紙と、試験管を2本預かっておるよ。ホレ」
そう言って、彼女は手提げのバスケットから試験管を2本と手紙を取り出す。試験管……なんだか雲行きが怪しくなって来たな。
「ありがとう、晴子さ――」
物を取ろうとして振った手が、空振りに終わる。晴子さんが手に持った試験管達を、手前に引いたのだ。
「手伝いもせず、用事が済んだらトンズラかい? 少しは手伝って行ったらどうなんだね?」
その言葉には、少しの怒気が含まれていた。しかし、顔色は寂しそうなもので、僕と対立しているような演技をしつつも、一緒にできない事が寂しいと伝えていた。
――ああ、もう。この人はめんどくさい。
ガシャン!
僕は、晴子さんをロッカーに押し付けた。一瞬だが、晴子さんの表情が苦悶に歪む。
「急いでるんだよ、神代……さっさと渡せ」
「あっ……幸矢、く……」
「…………」
悲しむ彼女の表情が僕を見据える。……こんなにも、神代晴子は弱かっただろうか? 僕の知る晴子さんは、こんな状況でも僕を笑顔で諭そうとする人間だ。何か裏があるように見えるが、なんだ……?
「おい黒瀬! テメェ何やってんだ!」
「…………」
ちょうど良く狼少年のようなクラスメイトが駆け寄ってくる。周囲もざわついていた、晴子さんにとっては好都合だろう。
僕は彼女の手から無理やり試験管と手紙を奪って逃げ出す。彼らはクラスから離れられないから、僕は50mも走れば追って来られない。
さて、気を取り直して次の問題だ。僕は赤いハートマークのシールが貼られた手紙を開く。
中に書かれていたのは3つのイラスト。
左から順に、猿、フラミンゴ、狼。
今回は少し厄介そうだなと、僕は頭を掻いた。
◇
幸矢くんが行ってしまい、少し寂しくなりつつも、吸血鬼の仮装をした黒いマントを羽織る生徒に肩を掴まれる。
「大丈夫ですか、晴子さん!」
「ああ、心配ないよ。ありがとう」
私はニコリと笑って男子生徒に礼を言い、彼を強引に押して共に教室に戻る。
「さぁさぁ、今日は忙しいからね。さっきの事は忘れて頑張ろう」
「あ、あぁ……」
男子は不肖そうだったが、パンパンと背中を叩いてやると、元気に接客へ戻って行った。私はその差を見送り、満足げに1つ息を吐いて幸矢くんのことを考える。
彼が顔を歪ませて嫌そうな顔をしていた。とても申し訳ないように思う。だけど、私はあの手紙と試験管を預かった時、北野根くんにこう言われていた。
「できるだけ幸矢くんの事を引き止めてくれるかしら? ああ、殴り合いとかにならないようにはしておいてね」
だから少し引き止めたものの、怒らせてしまった。
(ああ見えて感情の起伏が激しいからなぁ、幸矢くんは……)
クールで知的でカッコいいのに、少年らしく感情の起伏は激しいし、たまーに凄く怒ると怒鳴ったりもする。
後で謝っておけば、きっと許してくれるだろう。
それよりも――試験管か。そして焦燥に駆られた幸矢くんの表情、何かあるのは明白だが、私はここでの仕事がある。
幸矢くん、キミは優秀な私の友人だ。キミならばどんな困難でも解決できると、私は信じているよ――。
昼の休憩時、〈赤ずきん姿可愛かった〉という幸矢からのmessenjerで悶絶するのは、また別の話である。
「時間がないので……」
静子さんと共に、僕は高校へと向かっていた。赤い枯葉、間違いなく北野根だろう。彼女の下の名前は椛なのだから。
学校を爆破する、なんて脅しにしか思えないが、北野根ならやりかねない。彼女は入学式に体育館を爆破するような危険人物なのだから。
「昨日作った衣装、晴子も着るのよねぇ〜。幸矢くん、惚れ直しちゃうんじゃない?」
「……学校では、訳あって話さないようにしてるんです。たとえ可愛すぎて抱きしめたくなっても、理性で抑えて貶してやりますよ」
「……ほんっと、複雑な関係よねー」
はぁっ、と静子さんはため息を吐く。複雑とはいえ、とても硬い信頼があるから大丈夫だけども……。
2人で学校に入るのは少し気が引けたので、僕は静子さんと別れて昇降口から入って行った。
下駄箱の中、から上履きを取り出すと、同時に手紙が落ちてくる。
手紙を拾い上げ、便箋を開いた。
〈いかがお過ごしかしら?
貴方と私の前で、普通の文化祭なんて退屈だし、少し工夫をしてみたの。私からのプレゼントよ、楽しんでちょうだい。フフ、ちょっとしたゲームだから、強張らなくていいわ。気楽にやってね。
内容なのだけど、貴方には謎を解いてもらい、謎の先には新たな謎がある。そうして謎を解いていき、最終的には私に辿り着く。簡単でしょ?
期限は明日の午後3時、文化祭終了時刻ね。
因みに、クリアできなかった場合には学校を爆破させちゃうから、頑張ってね。
赤い枯葉より〉
「……まったく、嬉しくないプレゼントだ」
紙を裏っ返しながらぼやく。便箋の裏面には「2-3ロ31」と書かれていた。単純に考えるなら、2年3組のロッカー、出席番号31番、かな? これ以上のヒントがない以上、行くしかない。
僕は急いで2年の教室がある3階に向かった。階段も廊下も、生徒や一般客の雑踏で歩きにくく、本当にお祭り騒ぎだった。
2年3組は輪投げや射的なんかを提供している、祭り屋というタイトルで看板が貼られていた。ロッカーは廊下にあるので、そのまま出席番号31のロッカーを開く。
中には135gの入った塩の瓶と、手紙が入っていた。
塩――何故こんなものを用意した? 用途は不明だが、持ってなければいけないのだろう。
僕は塩をズボンのポケットに入れ、手紙を開いた。
〈書き忘れてたけど、クリアする毎に景品があるわ。嬉しいでしょう? 初めのプレゼントは塩よ。頑張ってたくさん集めてね。
さて、次の指示はこれよ。
私はおばあちゃんのお見舞いに来ました。しかし、おばあちゃんは私を食べようとしました。私は今、逃げているの。助けに来て、私の王子様〉
「…………」
随分と脚色された赤ずきんだな、と思った。おばあちゃんが娘食べようとする、それはどう考えても童話の赤ずきんで、きっと赤ずきんが次の指示書を持っているのだろう。
さて――念の為、文化祭のスケジュール自体は頭に叩き込んである。
赤ずきんの居そうなエリアは僕らの1-1のキャラクター探しと、2-3の仮装喫茶。仮装喫茶なら教室に行けばわかるが、キャラクター探しはコスプレをした学生が口内を歩き回り、客に探されるものだったから見つけにくい。
しかし、仮装喫茶に赤ずきんがいるかはわからない。人探しの方は昨日赤ずきんの衣装を作ったからわかっていた。
1-1の教室は、廊下まで行列ができていた。あの人が指揮するクラスだ、それも当然か――なんて思いつつ、30人は居るであろう廊下の列に並ぶ。思ったより長いな、なんて思っていると、服の裾を引っ張られる。
「何をしているのかね、キミは」
凛とした声で睨みつけて来たのは、晴子さんだった。そして、とても都合の良い事に赤ずきんの格好をしている。成る程、この人にお願いすれば必ず僕に渡してくれる。あの指示書の赤ずきんは、晴子さんだろう。
「キミはクラスメイトなのだから、堂々と入ってくれば良い。それとも何かね? 私服で学校に来て客気分かい?」
「ごめん晴子さん、今はそんな事言ってる場合じゃないんだ」
「…………」
僕が彼女の言葉を切り捨てると、ジト目で彼女は睨んでくる。今は演技をしている場合じゃない。この人の力も借りたいが、晴子さんはクラスを抜けられないだろうから手短に用を済ませよう。
「晴子さん……北野根から預かり物はない?」
「あー……手紙と、試験管を2本預かっておるよ。ホレ」
そう言って、彼女は手提げのバスケットから試験管を2本と手紙を取り出す。試験管……なんだか雲行きが怪しくなって来たな。
「ありがとう、晴子さ――」
物を取ろうとして振った手が、空振りに終わる。晴子さんが手に持った試験管達を、手前に引いたのだ。
「手伝いもせず、用事が済んだらトンズラかい? 少しは手伝って行ったらどうなんだね?」
その言葉には、少しの怒気が含まれていた。しかし、顔色は寂しそうなもので、僕と対立しているような演技をしつつも、一緒にできない事が寂しいと伝えていた。
――ああ、もう。この人はめんどくさい。
ガシャン!
僕は、晴子さんをロッカーに押し付けた。一瞬だが、晴子さんの表情が苦悶に歪む。
「急いでるんだよ、神代……さっさと渡せ」
「あっ……幸矢、く……」
「…………」
悲しむ彼女の表情が僕を見据える。……こんなにも、神代晴子は弱かっただろうか? 僕の知る晴子さんは、こんな状況でも僕を笑顔で諭そうとする人間だ。何か裏があるように見えるが、なんだ……?
「おい黒瀬! テメェ何やってんだ!」
「…………」
ちょうど良く狼少年のようなクラスメイトが駆け寄ってくる。周囲もざわついていた、晴子さんにとっては好都合だろう。
僕は彼女の手から無理やり試験管と手紙を奪って逃げ出す。彼らはクラスから離れられないから、僕は50mも走れば追って来られない。
さて、気を取り直して次の問題だ。僕は赤いハートマークのシールが貼られた手紙を開く。
中に書かれていたのは3つのイラスト。
左から順に、猿、フラミンゴ、狼。
今回は少し厄介そうだなと、僕は頭を掻いた。
◇
幸矢くんが行ってしまい、少し寂しくなりつつも、吸血鬼の仮装をした黒いマントを羽織る生徒に肩を掴まれる。
「大丈夫ですか、晴子さん!」
「ああ、心配ないよ。ありがとう」
私はニコリと笑って男子生徒に礼を言い、彼を強引に押して共に教室に戻る。
「さぁさぁ、今日は忙しいからね。さっきの事は忘れて頑張ろう」
「あ、あぁ……」
男子は不肖そうだったが、パンパンと背中を叩いてやると、元気に接客へ戻って行った。私はその差を見送り、満足げに1つ息を吐いて幸矢くんのことを考える。
彼が顔を歪ませて嫌そうな顔をしていた。とても申し訳ないように思う。だけど、私はあの手紙と試験管を預かった時、北野根くんにこう言われていた。
「できるだけ幸矢くんの事を引き止めてくれるかしら? ああ、殴り合いとかにならないようにはしておいてね」
だから少し引き止めたものの、怒らせてしまった。
(ああ見えて感情の起伏が激しいからなぁ、幸矢くんは……)
クールで知的でカッコいいのに、少年らしく感情の起伏は激しいし、たまーに凄く怒ると怒鳴ったりもする。
後で謝っておけば、きっと許してくれるだろう。
それよりも――試験管か。そして焦燥に駆られた幸矢くんの表情、何かあるのは明白だが、私はここでの仕事がある。
幸矢くん、キミは優秀な私の友人だ。キミならばどんな困難でも解決できると、私は信じているよ――。
昼の休憩時、〈赤ずきん姿可愛かった〉という幸矢からのmessenjerで悶絶するのは、また別の話である。
「現代ドラマ」の人気作品
書籍化作品
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