デフォが棒読み・無表情の少年は何故旅に出るのか【凍結】

決事

37 誰かの物語

「狼が人を。……噛み殺した」
「噛んだ、としか言っておらん」
「でも彼、死んだんでしょ? 噛まれて」
「……らしいな」
話に出て来た若者が誰かは知らないけれど、狼は間違いなくゴルテだ。
淡々と言葉を紡ぎながら、確かに声が沈んでいた。
しかしあくまでも伝聞形式でいきたいみたい。
優しさ故の、守るための殺しを何度も悔やんだのだろうことを伺わせた。
「魔物たち、喜んでた?」
ゴルテが心を削って助けた彼らは沢山感謝をした筈。
そんな当たり前を否定される。
「いや。そもそも私と奴らは顔を合わせてすらいない。だから謝辞を述べる必要は欠片もないのだ」
「それは駄目だよ。いけない」
「根本からして私の所為だった。先の私の台詞にかけたつもりじゃあないが、合わせる顔がない」
ゴルテの所為?
物騒なものを持っている男がいたから防いだのに、その若者が森を訪れたことさえも彼が元凶だと、そんな言い草ではないか。
「何か不満そうだな」
指摘を受けて顔に手を当てる。
森の魔物にも、ゴルテの対応にも納得がいかない。
それを表情に出しても発言を撤回しないということは、ゴルテが原因である、それが事実……もしくはそう思い込んでしまっているのか。
ともあれ、今は寝る時間だ。
これ以上問い詰めたところで彼は何も答えてはくれない。
「また、聞かせてね、ゴルテのこと」

ーーとある狼の話ならしてやろう。

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