「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第二章 第四十九話 今後
ゴブリンロードを倒したことで多額の報酬を手に入れられた俺たちは、さっそくその金を使って食事をしていた。
場所は変わらずギルド内に併設された食堂である。
さすがに昼真っ盛りというだけあってそれなりに席が埋まっているが、こうやって騒がしい場所で何かを食べるというのも冒険者の醍醐味の一つだろう。
静かな場所が良いなら有り余る金を持って高級料理店か何かに行けば良いだけの話だしな。
まぁ、そんなことをしようものならすぐに恥をかくだろうことはみんな分かっているから、そうしようなんて意見は出なかったのだが。
「おいスマル、これからどうすんだ? それだけの金があれば冒険者なんて危ないことしなくても適当に働いてりゃ一生生活には困らないぜ」
それでもいつかは金持ちが行くような場所に行ってみたいなんてことを考えていると、アイルがそんなことを言い出した。
いかにも羨ましいというような口ぶりである。
「へぇ……これだけあれば一生暮らせるのか」
「まさか冒険者辞めるとか言い出さないわよね?」
「……もっと稼いで、豪遊、する」
危険なら辞めてしまっても良いのではと、ほんの一瞬だけ考えてしまったところ、それを感じ取ったのか、モミジとユキから釘を刺された。
ユキの要望に関しては現時点でも達成できそうにも聞こえるが、恐らく彼女の言うもっと稼ぐは今回の報酬の十倍以上のことを言っているのだろう。
今回のように幸運に恵まれない限りそう簡単に稼ぐことはできそうにないが、それぐらい稼ぐ意気込みで、という解釈で妥協しておく。
「これだけ稼いでも、まだ足りないなんて……。いつか私にもそんなことを言える日が来るでしょうか」
シーナが若干引きながらも、いつか自分もと憧れと不安の混じった視線をユキに向けていた。
目標にする人物を間違えてるような気もするが、憧れは人それぞれ。俺は色々思うことを喉の奥に押し込んだ。
そしてアイルに向き直り、質問の返答をする。
「……こんな感じだ。まだ冒険者も始めたばっかりだしな、これからって時に辞めるなんてことはしないさ」
「そうか……、冒険者は続けるとして、ここに留まってるわけじゃないんだろ? どこに行くとか決まってるのか?」
俺の返答に何を思ったのか、アイルはどことなく寂しげな雰囲気を纏って質問を重ねた。
どこに行こうというのはまだ決まっていないが、ここから行くとしたら、帝国の中心地――首都セオルドが有力候補だろう。
長距離移動をして他の国に行っても良いのだが、まだ旅に慣れていない俺たちが長距離移動を試みるのは無謀というものだ。
森で迷った前例もあるし、移動するなら帝国内でほぼ決まりだ。
一応、モミジとユキにも目配せをするが、二人とも行先についてはあまり関心がないのか特に意見を言うわけでも異議を唱えるわけでもなく、ただ俺が何を言うのかを待っていた。
こうなっては俺が決めるしかない。
「今のところ第一候補は帝国の首都セオルドだ。抜かう道中で変更するかもしれないが、何もなければしばらくはそこで冒険者やってるよ」
「そうか……ここを出るのはいつぐらいの予定だ?」
「早ければ三日後、遅くても五日後には移動を始めるつもりだ」
俺の返事を聞き、アイルは思いつめた表情で考え込んでしまった。
何かを言いたいが、躊躇っているようにも見える。
俺としては言いたいことがあるならさっさと言ってもらった方が気が楽で良いのだが、言う当人にとってはそんなに簡単なことではないのだろう。
実はもっと報酬が欲しかったとかなら喜んで渡すのだが……あまりにも時間がかかるようだったら、こちらからそれを提案してみるか。
それから数分間、アイルは時々口を開きかけてはまた引っ込め、何か言うのかと思ったら口を閉じ、を延々繰り返していた。
シーナが話題を振って場を持たせてはいるが、それがなかったらとっくに俺から報酬の話を切り出していただろう。
「あ、そうそう! 今、丁度勇者のパーティが帝国の首都に来ているらしくて、もしかしたら会えるかもしれませんね」
そんな健気なシーナの言うことの中に、一際俺の意識を引くものがあった。
それは「勇者」という存在。
それが職業なのか称号なのか、はたまたただの自称なのか。それを現段階で判断することはできないが、少なからずこの世界には「勇者」と呼ばれる存在がいるのだという。
そんなものがいるということは、同時に人類の敵である「魔王」なんてものもどこかに存在しているということに直結する。
物騒な話であるし、被害に遭った人からしたら不謹慎だと言われるかもしれないが、俺はその情報に心躍らせていた。
一つ懸念があるとするなら、俺が知っている創作物の中に出てくる勇者にはヘタレだったり周りが見えていなかったり、何か欠陥のある人物がいたことだ。
作者の趣味なのか完全に人格が破綻している勇者もいたし、この世界の勇者がそんな使えない人間でないことを祈る。
そんな話には興味がないのか、モミジとユキはつまらないといった風に聞き流すだけであった。
俺がその様子を見て楽しみだとは言い出せず密かに期待の念を抱いていると、ようやくアイルが心を決めた。
「お、お前らは、俺ら二人とまたパーティを組もうと思うか……?」
色々と迷った上での発言だということが分かる、この質問。
もう既にいくつか質問はされているが、一番聞きたかったのはきっとこれなのだろう。
たまたま組んだパーティの相手と大きな実力差があったのだ。
アイルの言わんとすることもなんとなくだが、分かるような気がする。
俺はその意図を酌んで、真面目に答えることにした。
「それについては考えてなかったが、元々ゴブリン討伐の依頼の間だけの予定だったんだ。行先も行先だしな。あんまり長く組んでるつもりはないね」
連れて行こうと思えば連れて行けないこともないのだが、俺たちがいるせいで二人には経験値があまり入らない。
俺としてはそれはどうでも良いと思うこともあるのだが、さすがに俺たちとアイルたちでは差があり過ぎる。
バランスの取れていないパーティはいつか潰れる。
俺がさらなる説明をしようとした時、アイルは残念そうに無理をした笑みを浮かべていた。
いくつか誤字の報告があったので、直しておきます。
場所は変わらずギルド内に併設された食堂である。
さすがに昼真っ盛りというだけあってそれなりに席が埋まっているが、こうやって騒がしい場所で何かを食べるというのも冒険者の醍醐味の一つだろう。
静かな場所が良いなら有り余る金を持って高級料理店か何かに行けば良いだけの話だしな。
まぁ、そんなことをしようものならすぐに恥をかくだろうことはみんな分かっているから、そうしようなんて意見は出なかったのだが。
「おいスマル、これからどうすんだ? それだけの金があれば冒険者なんて危ないことしなくても適当に働いてりゃ一生生活には困らないぜ」
それでもいつかは金持ちが行くような場所に行ってみたいなんてことを考えていると、アイルがそんなことを言い出した。
いかにも羨ましいというような口ぶりである。
「へぇ……これだけあれば一生暮らせるのか」
「まさか冒険者辞めるとか言い出さないわよね?」
「……もっと稼いで、豪遊、する」
危険なら辞めてしまっても良いのではと、ほんの一瞬だけ考えてしまったところ、それを感じ取ったのか、モミジとユキから釘を刺された。
ユキの要望に関しては現時点でも達成できそうにも聞こえるが、恐らく彼女の言うもっと稼ぐは今回の報酬の十倍以上のことを言っているのだろう。
今回のように幸運に恵まれない限りそう簡単に稼ぐことはできそうにないが、それぐらい稼ぐ意気込みで、という解釈で妥協しておく。
「これだけ稼いでも、まだ足りないなんて……。いつか私にもそんなことを言える日が来るでしょうか」
シーナが若干引きながらも、いつか自分もと憧れと不安の混じった視線をユキに向けていた。
目標にする人物を間違えてるような気もするが、憧れは人それぞれ。俺は色々思うことを喉の奥に押し込んだ。
そしてアイルに向き直り、質問の返答をする。
「……こんな感じだ。まだ冒険者も始めたばっかりだしな、これからって時に辞めるなんてことはしないさ」
「そうか……、冒険者は続けるとして、ここに留まってるわけじゃないんだろ? どこに行くとか決まってるのか?」
俺の返答に何を思ったのか、アイルはどことなく寂しげな雰囲気を纏って質問を重ねた。
どこに行こうというのはまだ決まっていないが、ここから行くとしたら、帝国の中心地――首都セオルドが有力候補だろう。
長距離移動をして他の国に行っても良いのだが、まだ旅に慣れていない俺たちが長距離移動を試みるのは無謀というものだ。
森で迷った前例もあるし、移動するなら帝国内でほぼ決まりだ。
一応、モミジとユキにも目配せをするが、二人とも行先についてはあまり関心がないのか特に意見を言うわけでも異議を唱えるわけでもなく、ただ俺が何を言うのかを待っていた。
こうなっては俺が決めるしかない。
「今のところ第一候補は帝国の首都セオルドだ。抜かう道中で変更するかもしれないが、何もなければしばらくはそこで冒険者やってるよ」
「そうか……ここを出るのはいつぐらいの予定だ?」
「早ければ三日後、遅くても五日後には移動を始めるつもりだ」
俺の返事を聞き、アイルは思いつめた表情で考え込んでしまった。
何かを言いたいが、躊躇っているようにも見える。
俺としては言いたいことがあるならさっさと言ってもらった方が気が楽で良いのだが、言う当人にとってはそんなに簡単なことではないのだろう。
実はもっと報酬が欲しかったとかなら喜んで渡すのだが……あまりにも時間がかかるようだったら、こちらからそれを提案してみるか。
それから数分間、アイルは時々口を開きかけてはまた引っ込め、何か言うのかと思ったら口を閉じ、を延々繰り返していた。
シーナが話題を振って場を持たせてはいるが、それがなかったらとっくに俺から報酬の話を切り出していただろう。
「あ、そうそう! 今、丁度勇者のパーティが帝国の首都に来ているらしくて、もしかしたら会えるかもしれませんね」
そんな健気なシーナの言うことの中に、一際俺の意識を引くものがあった。
それは「勇者」という存在。
それが職業なのか称号なのか、はたまたただの自称なのか。それを現段階で判断することはできないが、少なからずこの世界には「勇者」と呼ばれる存在がいるのだという。
そんなものがいるということは、同時に人類の敵である「魔王」なんてものもどこかに存在しているということに直結する。
物騒な話であるし、被害に遭った人からしたら不謹慎だと言われるかもしれないが、俺はその情報に心躍らせていた。
一つ懸念があるとするなら、俺が知っている創作物の中に出てくる勇者にはヘタレだったり周りが見えていなかったり、何か欠陥のある人物がいたことだ。
作者の趣味なのか完全に人格が破綻している勇者もいたし、この世界の勇者がそんな使えない人間でないことを祈る。
そんな話には興味がないのか、モミジとユキはつまらないといった風に聞き流すだけであった。
俺がその様子を見て楽しみだとは言い出せず密かに期待の念を抱いていると、ようやくアイルが心を決めた。
「お、お前らは、俺ら二人とまたパーティを組もうと思うか……?」
色々と迷った上での発言だということが分かる、この質問。
もう既にいくつか質問はされているが、一番聞きたかったのはきっとこれなのだろう。
たまたま組んだパーティの相手と大きな実力差があったのだ。
アイルの言わんとすることもなんとなくだが、分かるような気がする。
俺はその意図を酌んで、真面目に答えることにした。
「それについては考えてなかったが、元々ゴブリン討伐の依頼の間だけの予定だったんだ。行先も行先だしな。あんまり長く組んでるつもりはないね」
連れて行こうと思えば連れて行けないこともないのだが、俺たちがいるせいで二人には経験値があまり入らない。
俺としてはそれはどうでも良いと思うこともあるのだが、さすがに俺たちとアイルたちでは差があり過ぎる。
バランスの取れていないパーティはいつか潰れる。
俺がさらなる説明をしようとした時、アイルは残念そうに無理をした笑みを浮かべていた。
いくつか誤字の報告があったので、直しておきます。
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