「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第二章 第四十話 開戦
グルルルル……。
ゴブリンロードの低い唸り声が響く。
威嚇しているようにも聞こえるその声は下っ腹にビリビリと響くが、見た目ほど恐怖心や圧迫感というものはなかった。
そう感じたのは俺だけではないようで、見ればモミジとユキも拍子抜けしたような顔でゴブリンロードを見つめている。
しかし、避難させておいた二人――アイルとシーナには効果的だったようで、二人とも気張ってはいるが表情は硬く青ざめていた。
「ゴブリンロード……」
それは、数多く存在するゴブリンの上位種の中でも最も優れていると言われている種のことを指す名称だ。
上位種は、魔物が成長過程で変質を起こすことで生まれるのだが、このゴブリンロードというのは、何回も何回もその変質を繰り返した末の個体であり、その存在はとても希少だ。
それこそ、この世に存在しない時期があるくらいに希少だ。
当然、その戦闘能力は他のゴブリンとは比べ物にならない。
だが、ゴブリンロードの最も優れている点というのは単純な戦闘能力ではない。
それは、統率力。
ゴブリンロードは、通常のゴブリンは勿論、その上位種であるハイゴブリンや、亜種であるソードゴブリン、ゴブリンメイジなども従え、指揮することができる。
普段は群れの頭を担っている個体が付き従う様はまさしく支配者と言ったところだろう。
そして、それらが生み出す連携はそう簡単に崩せるものではない、というかそもそも同じ数の軍隊で真っ向勝負しても勝てないとまで言われている。
実際、俺が読んだ本には一国の軍隊が全滅させられ、どうにかギルド所属の冒険者の力を借りて退けたと書いてあった。
どう考えても、個人で敵うような相手ではない。
それもそうだ、多勢に無勢では不利すぎる。
だが、今対面しているゴブリンロードからは一切恐怖を感じないし、一対一なら負ける気がしない。
鍛えた俺の目はそう言っていた。
最初はゴブリンロードが手負いだからとか、まだ変質したてで本調子ではないとか何かゴブリンロードにとってマイナスに働くようなことが要因になっているのかと思ったが、見れば見るほどそういうことはないと分かる。
単純に俺の方が強いというだけの話だったのだ。
それが分かればやることは一つだ。
ゴブリンロードを狩るしかない。
では、どうやって狩ってやろうか。
それを考えようとしたのだが、その思考は遂に動き出したゴブリンの群れによって遮られてしまう。
その動きを見ていたら、気付いた時にはゴブリンロードの周りに群がっていたゴブリンたちは俺たちのパーティがいる空間を囲むように展開していた。
その数ざっと五百。
一般的な群れのサイズが大きくても三十くらいだというのだからその多さが分かるだろう。
「モミジ! ユキ! 周りのゴブリンは任せた!」
さすがに全部を相手していたらきりがないので、取り巻きは二人に任せて、俺は大将であるゴブリンロードを討ち取りに行くことにした。
「任せて!」
「……ん、任された……」
走りだした後ろから二人の返事が聞こえる、と同時に数体のゴブリンが悲鳴を上げた。
見てはいないが、モミジとユキが既に何体かのゴブリンを屠ったのだろう。
全く、頼れる仲間だ。
そんなことを考えながらも、俺の視線は常にゴブリンロードへと注がれている。
相手もそれが分かっているのか、こちらに向けた目を一切逸らさずに警戒心をむき出しにしている。
武器であろう巨大な棍棒を持つ手には力がこもっていて、腕の血管が浮き上がっていた。
ある程度近付くと、やはり取り巻きゴブリンたちが俺を迎撃しに飛び出してくる。
中にはハイゴブリンやソードゴブリンなんかも紛れているようだ。
「障壁展開!」
壁のようになって迫って来るそいつらをまともに相手にしていてはゴブリンロードのところまでは辿り着けない。
だから、俺は簡単な障壁で流線型を作り、その中心に自分を置いた。
そのまま突き進めば、障壁に当たったゴブリンたちは右へ左へ、そして上へと掻き分けられていく。
その様はまるで、凍った海を突き進む進む砕氷船のようであった。
弾かれているゴブリンの中にはやはり上位種や亜種もいたが、可哀そうなことにその力を一切発揮することなくどこかへと流れて行った。
そんなこんなでゴブリンロードの棍棒がギリギリ届かないところまで距離を詰めた俺は障壁の設定をいじり、ゴブリンロードと俺だけが障壁の中にいられるようにする。
そして、その範囲を広げ、一対一の邪魔されない空間を作り上げた。
グルルルル……。
相変わらず低い唸り声が響く。
さすがにゴブリンロードは賢く、既に障壁の性質が分かっているようで無駄に外に出ようともがいたりはしない。
それどころか、邪魔が入らないのなら、と棍棒を構えて臨戦状態だ。
やる気満々のゴブリンロードを見て、俺も戦闘態勢になる。
「エネルギーソード展開!」
詠唱とも言えない技名に合わせて、俺の周りに光の短剣が十本浮かぶ。
これはヴォルムに教わったエネルギーを直接具現化して武器にする手法で生み出した短剣を操って戦う戦闘スタイルなのだが、俺が使っているエネルギーは魔力ではない。
俺が使っているのは、魔術や他のエネルギーと比べて変換作業を挟まないために直接操作した時に他よりも早く、正確に操ることができるという源力である。
これには属性などの概念はないが、身体強化や物理に干渉する時には一番適しているとのことで採用している。
ヴォルム曰く未発見のエネルギーだそうで、確かに魔術や呪術に慣れ親しんだ人には見つけづらそうだし、現に俺も確実に感知して操れるようになるにはそれなりの時間がかかった。
それに加えてすぐに何かに変質しそうになるのでこれのまま操るのは至難の業で、今こうして短剣の形に保っておくのにも実は結構な集中力を要している。
だからこその障壁なのだ。
実践では初めて使う技に若干の不安を抱えながらもゴブリンロードに正対すると、ゴブリンロードは足を撓めて重心を前に移動させた。
グルゥ……ガァ!
そして、地面を抉れるほどに強く蹴り俺の目の前まで接近すると、その手に持った大きな棍棒でぶん殴ってきた。
その速度は巨体からは考えられないほどに早く、攻撃は見た目通りに重たいのだが、俺は小さく防御障壁を張ることでそれを防ぐ。
その拍子に互いの視線が交錯し、戦いが始まったことを遅れざまに意識させられた。
今週忙しく、戦闘シーンに時間がかかりそうだったためつなぎのために伸ばしたような形になってしまいました。すみません。
来週も忙しいため、次回更新は再来週にさせていただきます。
ゴブリンロードの低い唸り声が響く。
威嚇しているようにも聞こえるその声は下っ腹にビリビリと響くが、見た目ほど恐怖心や圧迫感というものはなかった。
そう感じたのは俺だけではないようで、見ればモミジとユキも拍子抜けしたような顔でゴブリンロードを見つめている。
しかし、避難させておいた二人――アイルとシーナには効果的だったようで、二人とも気張ってはいるが表情は硬く青ざめていた。
「ゴブリンロード……」
それは、数多く存在するゴブリンの上位種の中でも最も優れていると言われている種のことを指す名称だ。
上位種は、魔物が成長過程で変質を起こすことで生まれるのだが、このゴブリンロードというのは、何回も何回もその変質を繰り返した末の個体であり、その存在はとても希少だ。
それこそ、この世に存在しない時期があるくらいに希少だ。
当然、その戦闘能力は他のゴブリンとは比べ物にならない。
だが、ゴブリンロードの最も優れている点というのは単純な戦闘能力ではない。
それは、統率力。
ゴブリンロードは、通常のゴブリンは勿論、その上位種であるハイゴブリンや、亜種であるソードゴブリン、ゴブリンメイジなども従え、指揮することができる。
普段は群れの頭を担っている個体が付き従う様はまさしく支配者と言ったところだろう。
そして、それらが生み出す連携はそう簡単に崩せるものではない、というかそもそも同じ数の軍隊で真っ向勝負しても勝てないとまで言われている。
実際、俺が読んだ本には一国の軍隊が全滅させられ、どうにかギルド所属の冒険者の力を借りて退けたと書いてあった。
どう考えても、個人で敵うような相手ではない。
それもそうだ、多勢に無勢では不利すぎる。
だが、今対面しているゴブリンロードからは一切恐怖を感じないし、一対一なら負ける気がしない。
鍛えた俺の目はそう言っていた。
最初はゴブリンロードが手負いだからとか、まだ変質したてで本調子ではないとか何かゴブリンロードにとってマイナスに働くようなことが要因になっているのかと思ったが、見れば見るほどそういうことはないと分かる。
単純に俺の方が強いというだけの話だったのだ。
それが分かればやることは一つだ。
ゴブリンロードを狩るしかない。
では、どうやって狩ってやろうか。
それを考えようとしたのだが、その思考は遂に動き出したゴブリンの群れによって遮られてしまう。
その動きを見ていたら、気付いた時にはゴブリンロードの周りに群がっていたゴブリンたちは俺たちのパーティがいる空間を囲むように展開していた。
その数ざっと五百。
一般的な群れのサイズが大きくても三十くらいだというのだからその多さが分かるだろう。
「モミジ! ユキ! 周りのゴブリンは任せた!」
さすがに全部を相手していたらきりがないので、取り巻きは二人に任せて、俺は大将であるゴブリンロードを討ち取りに行くことにした。
「任せて!」
「……ん、任された……」
走りだした後ろから二人の返事が聞こえる、と同時に数体のゴブリンが悲鳴を上げた。
見てはいないが、モミジとユキが既に何体かのゴブリンを屠ったのだろう。
全く、頼れる仲間だ。
そんなことを考えながらも、俺の視線は常にゴブリンロードへと注がれている。
相手もそれが分かっているのか、こちらに向けた目を一切逸らさずに警戒心をむき出しにしている。
武器であろう巨大な棍棒を持つ手には力がこもっていて、腕の血管が浮き上がっていた。
ある程度近付くと、やはり取り巻きゴブリンたちが俺を迎撃しに飛び出してくる。
中にはハイゴブリンやソードゴブリンなんかも紛れているようだ。
「障壁展開!」
壁のようになって迫って来るそいつらをまともに相手にしていてはゴブリンロードのところまでは辿り着けない。
だから、俺は簡単な障壁で流線型を作り、その中心に自分を置いた。
そのまま突き進めば、障壁に当たったゴブリンたちは右へ左へ、そして上へと掻き分けられていく。
その様はまるで、凍った海を突き進む進む砕氷船のようであった。
弾かれているゴブリンの中にはやはり上位種や亜種もいたが、可哀そうなことにその力を一切発揮することなくどこかへと流れて行った。
そんなこんなでゴブリンロードの棍棒がギリギリ届かないところまで距離を詰めた俺は障壁の設定をいじり、ゴブリンロードと俺だけが障壁の中にいられるようにする。
そして、その範囲を広げ、一対一の邪魔されない空間を作り上げた。
グルルルル……。
相変わらず低い唸り声が響く。
さすがにゴブリンロードは賢く、既に障壁の性質が分かっているようで無駄に外に出ようともがいたりはしない。
それどころか、邪魔が入らないのなら、と棍棒を構えて臨戦状態だ。
やる気満々のゴブリンロードを見て、俺も戦闘態勢になる。
「エネルギーソード展開!」
詠唱とも言えない技名に合わせて、俺の周りに光の短剣が十本浮かぶ。
これはヴォルムに教わったエネルギーを直接具現化して武器にする手法で生み出した短剣を操って戦う戦闘スタイルなのだが、俺が使っているエネルギーは魔力ではない。
俺が使っているのは、魔術や他のエネルギーと比べて変換作業を挟まないために直接操作した時に他よりも早く、正確に操ることができるという源力である。
これには属性などの概念はないが、身体強化や物理に干渉する時には一番適しているとのことで採用している。
ヴォルム曰く未発見のエネルギーだそうで、確かに魔術や呪術に慣れ親しんだ人には見つけづらそうだし、現に俺も確実に感知して操れるようになるにはそれなりの時間がかかった。
それに加えてすぐに何かに変質しそうになるのでこれのまま操るのは至難の業で、今こうして短剣の形に保っておくのにも実は結構な集中力を要している。
だからこその障壁なのだ。
実践では初めて使う技に若干の不安を抱えながらもゴブリンロードに正対すると、ゴブリンロードは足を撓めて重心を前に移動させた。
グルゥ……ガァ!
そして、地面を抉れるほどに強く蹴り俺の目の前まで接近すると、その手に持った大きな棍棒でぶん殴ってきた。
その速度は巨体からは考えられないほどに早く、攻撃は見た目通りに重たいのだが、俺は小さく防御障壁を張ることでそれを防ぐ。
その拍子に互いの視線が交錯し、戦いが始まったことを遅れざまに意識させられた。
今週忙しく、戦闘シーンに時間がかかりそうだったためつなぎのために伸ばしたような形になってしまいました。すみません。
来週も忙しいため、次回更新は再来週にさせていただきます。
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牙羅守
腕の欠陥ではなく血管ではないですか?