「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第一章 第二十二話 成長
体調を崩してしまい、少し遅れてしまいました。すみません。
フィオとイチョウが旅立った日から、俺はモミジとユキの二人といることが多くなった。
それはイチョウがいなくなったからだと考えるのが妥当ではあるのだが、なんと言うか距離が近い。
嫌ではないのだが慣れないことであるために戸惑ってしまうのだ。
すぐに後ろから抱き着いてくるし、その時に生まれた隙を突いて前から跳びかかってくることもある。
一日一サンド以上することが彼女らの日課になっているのかもしれない。
五、六歳というこの時期は、まだ男女の区別がはっきりとしていないような時期である。
ましてやここにいる人間はみな家族だ。
俺に姉や妹がいたことはないが、きっと家族ならこれくらいが普通なのだろう。
というか普通であってくれ。
そんな距離感のまま、今は三人でヴォルムの授業――もとい戦闘訓練を受けている。
俺は穏やかに暮らすために防御系や回復系の術を重点的に鍛え、モミジとユキは特異技能を生かした戦闘をするための訓練をしていた。
彼女らのユニークスキル《モミジ》と《ユキ》は、とても似通った技能だ。
もっと言えばイチョウの使っていた妖術とも似ている。
それは、基本属性と呼ばれる「火」「氷」「雷」「風」「水」「土」の六つの属性の中から、モミジは「火」「雷」を、ユキは「火」「氷」をそれぞれ紅葉の葉や舞う雪の形にして具現化できるという能力だ。
イチョウがやっていたように使うことが基本的な動きなのだが、大きさの調節や属性の切り替えの使い勝手が良く、よりトリッキーな戦闘ができると見込まれている。
また双子であるために連携が上手く、二人がかりでこれを使われたら熟練の戦士でもなかなか厳しいのではないだろうか。
正直なところ、現段階で俺は防ぎきれそうにない。
とは言え、まだ攻撃力や速度に問題があるらしく、実際に使えるかと言われたら主力にはできないというのが現状であった。
頑張る後輩に負けないように、俺も頑張らなくてはな。
そう思っていると、ヴォルムが話しかけてきた。
「スマル、お前に教えているのは今のところ全て魔術だ。それも残すところは超級だけ。だが超級を教える前に他の術も理解しておかないと後々面倒だ。次からは呪術と妖術、それからマイナーな術を教えるからな」
いつもは俺の意見を窺ってから方針を決定するヴォルムが、今回は決定事項だというような、有無を言わせないような空気でそう伝えてきた。
そこまでしないと習得できない超級魔術とは、一体どんな魔術なのだろうか。
気になるところである。
俺は超級魔術に思いを馳せながら特訓を続けた。
一方で、モミジとユキはあーだこーだと議論を始めていた。
離れた場所にいる俺にはその内容を聞くことはできないが、きっと拙い言葉遣いで技能の運用について言い合っているのだろう。
それはフィオ姉とイチョウもしていたことである。
俺はそんな二人の成長に期待して、一緒に旅に出れたら楽だろうな、と怠けたことを思うのであった。
===============
時は流れ、俺は十四歳に、モミジとユキは十三歳になった。
俺がここに来た時にいた面子はもうおらず、今では俺が最年長者だ。
ヴォルムからは未だにいろいろと教えてもらっているが、そろそろ数が増えすぎて使いきれなくなりそうだ。
そうなったら無理に使わず、自分が得意、または使いたいものだけを上達させれば良いとヴォルムは言うが、だったら教える必要もないのではないだろうか。
直接それを言ってみたこともあるが、ヴォルムはいつか使うかもしれないと聞く耳を持たない。
確かに、いつ使うんだってくらい使える場面が限定されているような術でも、その場面になる可能性が全くないわけではない以上、覚えておいて損にはならないだろう。
だがどうしても、そんな限定的なものを覚えるくらいなら日頃から使える術を磨きたいと思ってしまう。
いつかの授業で「自分が使わなくても構造を理解していれば、受ける側になった時に対処がし易いだろ」と言われ、俺もそれに納得したが、さすがに基礎が理解できた辺りから未知の術でもなんとなく構造が分かるようになった。
まだそれについては話していないが、今度変な術を教えられそうになったらもう必要ないと言ってみよう。
段々とヴォルムが鬱陶しくなってきた俺だが、孤児院での暮らしはそんなマイナスな面だけではない。
最近も嬉しいことがあった。
モミジとユキに、一緒に旅に出ようと誘われたのだ。
前から慕われているとは思っていたが、この誘いは何とも嬉しいものだ。
二人は十三歳――あと十日ほどで十四歳――だが、この世界での一年が四百日であることを考えると、元の世界では確実に十五歳を超えていることになり、つまるところ中学を卒業していてもおかしくない年頃なのだ。
実際の誕生日にヴォルムから着物が何着か贈られ、イチョウと同じく着物に身を包むことが多くなった二人は、まだ幼さが残っているとはいえ、ほぼ完全に女性の体つきになっている。
しかも美人だ。
妹のように思っているが、血は繋がっていない。試練の多い旅になりそうだ。
ちなみに二人の戦闘スタイルは固まっていて、二人とも鉄扇を主力武器としている。
教えたヴォルムが意外なことに民族だとか生まれだとかを気にする質だったようで、鉄扇の他には妖術を使うことができる。
もちろん特異技能も健在で、見た目以上に攻撃的に仕上がっている。
そんな二人と組む俺はというと、回復系の魔術、妖術、呪術を網羅し、マイナーな術も何個か使えるようになった。
何より大きいのは「源力」と「魂力」をエネルギーとした複合技――死者蘇生だ。
これは死んでから一定期間内なら、使用するエネルギーに応じて使者を蘇生できるという術だ。
これでもしものことがあっても大抵のことは大丈夫だろう。
防御系でも有名どころは網羅し、属性を付与した結界や、魔力障壁の熟練度は一国家の防御力にも匹敵すると評価された。
とりあえず怪我をすることはそうそうないだろう。
攻撃系は心もとない感じではあるが、ヴォルムが術よりもその質が大事だと言っていたので、日々鍛錬して行こうと思う。
そして、武器についてだが、俺は武器を持たないことにした。
一応、剣や槍など棒状の得物なら人並み以上に扱えるのだが、どうしても魔術を主力とするには邪魔になってしまう。
格闘術なら小回りが利いて両手が自由になるため、この形に落ち着いた。
それから三人で連携の練習をして、すぐにでも試験を受けに行こうということに決まり、俺たちは何日も特訓をした。
――三人での連携が、これから受ける試験において全く役に立たないとも知らずに。
来週、再来週はまた更新が不安定になりそうです。
極力更新できるようにしますが、基本的にどちらかはないものだと思ってください。
追記11/28:ルビが上手くふれていなかったので修正いたしました。
フィオとイチョウが旅立った日から、俺はモミジとユキの二人といることが多くなった。
それはイチョウがいなくなったからだと考えるのが妥当ではあるのだが、なんと言うか距離が近い。
嫌ではないのだが慣れないことであるために戸惑ってしまうのだ。
すぐに後ろから抱き着いてくるし、その時に生まれた隙を突いて前から跳びかかってくることもある。
一日一サンド以上することが彼女らの日課になっているのかもしれない。
五、六歳というこの時期は、まだ男女の区別がはっきりとしていないような時期である。
ましてやここにいる人間はみな家族だ。
俺に姉や妹がいたことはないが、きっと家族ならこれくらいが普通なのだろう。
というか普通であってくれ。
そんな距離感のまま、今は三人でヴォルムの授業――もとい戦闘訓練を受けている。
俺は穏やかに暮らすために防御系や回復系の術を重点的に鍛え、モミジとユキは特異技能を生かした戦闘をするための訓練をしていた。
彼女らのユニークスキル《モミジ》と《ユキ》は、とても似通った技能だ。
もっと言えばイチョウの使っていた妖術とも似ている。
それは、基本属性と呼ばれる「火」「氷」「雷」「風」「水」「土」の六つの属性の中から、モミジは「火」「雷」を、ユキは「火」「氷」をそれぞれ紅葉の葉や舞う雪の形にして具現化できるという能力だ。
イチョウがやっていたように使うことが基本的な動きなのだが、大きさの調節や属性の切り替えの使い勝手が良く、よりトリッキーな戦闘ができると見込まれている。
また双子であるために連携が上手く、二人がかりでこれを使われたら熟練の戦士でもなかなか厳しいのではないだろうか。
正直なところ、現段階で俺は防ぎきれそうにない。
とは言え、まだ攻撃力や速度に問題があるらしく、実際に使えるかと言われたら主力にはできないというのが現状であった。
頑張る後輩に負けないように、俺も頑張らなくてはな。
そう思っていると、ヴォルムが話しかけてきた。
「スマル、お前に教えているのは今のところ全て魔術だ。それも残すところは超級だけ。だが超級を教える前に他の術も理解しておかないと後々面倒だ。次からは呪術と妖術、それからマイナーな術を教えるからな」
いつもは俺の意見を窺ってから方針を決定するヴォルムが、今回は決定事項だというような、有無を言わせないような空気でそう伝えてきた。
そこまでしないと習得できない超級魔術とは、一体どんな魔術なのだろうか。
気になるところである。
俺は超級魔術に思いを馳せながら特訓を続けた。
一方で、モミジとユキはあーだこーだと議論を始めていた。
離れた場所にいる俺にはその内容を聞くことはできないが、きっと拙い言葉遣いで技能の運用について言い合っているのだろう。
それはフィオ姉とイチョウもしていたことである。
俺はそんな二人の成長に期待して、一緒に旅に出れたら楽だろうな、と怠けたことを思うのであった。
===============
時は流れ、俺は十四歳に、モミジとユキは十三歳になった。
俺がここに来た時にいた面子はもうおらず、今では俺が最年長者だ。
ヴォルムからは未だにいろいろと教えてもらっているが、そろそろ数が増えすぎて使いきれなくなりそうだ。
そうなったら無理に使わず、自分が得意、または使いたいものだけを上達させれば良いとヴォルムは言うが、だったら教える必要もないのではないだろうか。
直接それを言ってみたこともあるが、ヴォルムはいつか使うかもしれないと聞く耳を持たない。
確かに、いつ使うんだってくらい使える場面が限定されているような術でも、その場面になる可能性が全くないわけではない以上、覚えておいて損にはならないだろう。
だがどうしても、そんな限定的なものを覚えるくらいなら日頃から使える術を磨きたいと思ってしまう。
いつかの授業で「自分が使わなくても構造を理解していれば、受ける側になった時に対処がし易いだろ」と言われ、俺もそれに納得したが、さすがに基礎が理解できた辺りから未知の術でもなんとなく構造が分かるようになった。
まだそれについては話していないが、今度変な術を教えられそうになったらもう必要ないと言ってみよう。
段々とヴォルムが鬱陶しくなってきた俺だが、孤児院での暮らしはそんなマイナスな面だけではない。
最近も嬉しいことがあった。
モミジとユキに、一緒に旅に出ようと誘われたのだ。
前から慕われているとは思っていたが、この誘いは何とも嬉しいものだ。
二人は十三歳――あと十日ほどで十四歳――だが、この世界での一年が四百日であることを考えると、元の世界では確実に十五歳を超えていることになり、つまるところ中学を卒業していてもおかしくない年頃なのだ。
実際の誕生日にヴォルムから着物が何着か贈られ、イチョウと同じく着物に身を包むことが多くなった二人は、まだ幼さが残っているとはいえ、ほぼ完全に女性の体つきになっている。
しかも美人だ。
妹のように思っているが、血は繋がっていない。試練の多い旅になりそうだ。
ちなみに二人の戦闘スタイルは固まっていて、二人とも鉄扇を主力武器としている。
教えたヴォルムが意外なことに民族だとか生まれだとかを気にする質だったようで、鉄扇の他には妖術を使うことができる。
もちろん特異技能も健在で、見た目以上に攻撃的に仕上がっている。
そんな二人と組む俺はというと、回復系の魔術、妖術、呪術を網羅し、マイナーな術も何個か使えるようになった。
何より大きいのは「源力」と「魂力」をエネルギーとした複合技――死者蘇生だ。
これは死んでから一定期間内なら、使用するエネルギーに応じて使者を蘇生できるという術だ。
これでもしものことがあっても大抵のことは大丈夫だろう。
防御系でも有名どころは網羅し、属性を付与した結界や、魔力障壁の熟練度は一国家の防御力にも匹敵すると評価された。
とりあえず怪我をすることはそうそうないだろう。
攻撃系は心もとない感じではあるが、ヴォルムが術よりもその質が大事だと言っていたので、日々鍛錬して行こうと思う。
そして、武器についてだが、俺は武器を持たないことにした。
一応、剣や槍など棒状の得物なら人並み以上に扱えるのだが、どうしても魔術を主力とするには邪魔になってしまう。
格闘術なら小回りが利いて両手が自由になるため、この形に落ち着いた。
それから三人で連携の練習をして、すぐにでも試験を受けに行こうということに決まり、俺たちは何日も特訓をした。
――三人での連携が、これから受ける試験において全く役に立たないとも知らずに。
来週、再来週はまた更新が不安定になりそうです。
極力更新できるようにしますが、基本的にどちらかはないものだと思ってください。
追記11/28:ルビが上手くふれていなかったので修正いたしました。
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