時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

地獄絵図の練兵週刊。

 信長は、颯爽(さっそう)と市を連れ、近江へ向かう。それは、浅井家の当主、長政より婚礼奨励の手紙が届いてすぐであった。
 きっと、向こうでも準備に忙しいではあろうが、浅井側が「直ちに式を上げましょう! そうしましょう!」と言い切った。だから信長と市、その御一行は急いで近江へと向かった。約五日間で向かうと決めた信長は、その道中で一つ寄りたい所があった。
 それは……

「のののののの!? 信長様あああ!? なななな、んなんでこんなところに居るのですかぁ!? 近江へと向かったのでは!?」

 藤吉郎は、信長の出現に腰を抜かしてその場に倒れ込んでしまった。

「何を言うか、猿! お前が立派に作戦をやり切ったと聞いて、遥々(はるばる)飛んできてやったのだぞ!? それなのに、こんなところにいるのか、等と! お主はわしを愚弄しているのか!」

 藤吉郎の驚き方に、愛想を尽かせた信長が、ムキになって怒る。

「い、いえ! そういうわけでは……」

 藤吉郎は、首を振り、手を振って否定すると、信長を必死に収めようとする。だがしかし、信長も本気で怒っている訳では無い。

「まぁよい。猿、お前は命令通り、しっかりと墨俣に城を築けた。しかも、斉藤方に気付かれずに。画期的な建築法と、素早い建築術によって、我らは墨俣を無事に手に入れることが出来た!」

 信長は、大儀であったぞ! と公で言い張り、藤吉郎を褒め称えた。藤吉郎が生涯、生きてきた中でこれほど嬉しいことは無い、と思った。感謝感服の余り、藤吉郎は信長の言葉に感謝を述べると、そのまま大粒の涙を流して泣いた。
「おぉ! 凄い、信長様が姉上をお褒めになっている……」
 藤吉郎の弟、第一の出世頭の木下秀長は、信長と藤吉郎の姿を見て、絵になるな~と逆に芸術的な観点で強く評価をした。秀長は意外にも、絵の才能がある。

「良かった、本当に良かった……」

 その隣でホッと溜め息を吐いている毛利新助こと、毛利良勝は笑っていた。この笑いは、無事に築城を達成できたことと、藤吉郎が信長に褒められて、安心したところから込み上げてきたものだ。

「さて、ではこの城は、猿に任せる。精進して、墨俣を死守するのだ!」

「……え!?」

 さっきまで大泣きしていた藤吉郎が、信長の言葉を聞いた途端、息を吹き返して、いつのも状態に戻る。

「それはまさか、私にこの城の城代を務めろと言うことですか……!?」

 信長は頷いた。

「勿論じゃ。作ったからにはしっかりと守るのじゃぞ! お主の力なら、なんとなかるじゃろう」

 信長は、再び藤吉郎に命令を下した。その命令の内容は、墨俣を死守しろとの事。

「は、はい! 全身全霊で最後まで! 絶対に守り、絶対に勝ちます!」

 藤吉郎は、信長の期待に応えようと必死である。だからこそ、信長との友情関係、主従関係が明確。ハッキリとしている。信長は、藤吉郎のその部分を高く評価していた。お人好しな彼女は、他人から好かれやすい。

「そ、それと! お市様! 婚礼おめでたき! どうか、御幸せに……」

 お市の顔を見るや否や、藤吉郎は言った。織田家の皆は、本当にお市様の事が大好きだ。信長と同じくらいに。

「藤吉郎さんも、しっかりとお役目を御果たし下さい。私も応援しております!」

 ここから、藤吉郎とお市が再び顔を見合わせて話をするのは、大分先の事となる。こうして、信長とお市は無事に墨俣を抜け、美濃を抜け、なんとか近江へと到着することとなる。



 信長が近江へ向かったその日、二人は清州から離れた新築の練兵場に居た。そこには、鉄砲から長槍から、弓から刀から……戦で使われる殆どの道具が揃っている。それに加え、山奥なので見つかりにくい。万が一、尾張が攻められた場合、伏兵部隊としてこの場から出陣することも、またここを隠れ家とする事も出来る。第一ここには兵糧も積まれている。
 そんな練兵場に、兵士達は集められた。兵士達の数、それは数え切れない。千はいる。もしかすると、二千もいるかもしれない。それだけの兵数が、ここに集まると言うことは、一体これから何が行われると言うのか。

「さて、全員集まったね」

「全員かどうかは判断できないに。正直、数を集めただけだによ」

「それでも良いですよ、一益様。これだけの兵士を一気に練兵すれば、織田家の戦力は今の三倍以上に跳ね上がります。信長様に任されたくらいですから、それだけの期待には応えなくてはいけませんから」

 いつもは敬語を使わず、日々のうのうと生活している城郷恵美が、滝川一益を慕う。というよりも、織田家家臣を慕っている。

「ふふははは、そりゃ傑作だに! 信長様の期待には応え、兄さんの期待には応えないだなんて!」

 一益は大笑いして、恵美に言葉を返した。恵美は、無性に立場が悪すぎる事に、イラ立ちを見せていた。恵美は言うまでもなく、織田家の家臣の相良裕太の家臣であるからだ。自分から仕官した訳ではあるが、そう言われると少し腹が立つ。裕太は紛れもない、優将だからだ。

「にひひ、まぁこれ以上言うと、恵美ちゃんも怒っちゃうから、言わないだに。でもに、それくらい言われる覚悟がなきゃ、わっちもこんな怖がられることはしたくないんだによ。そこだけは分かって欲しいだに」

「勿論です、私は分かっているつもりです。ですから、思う存分やらさせて頂きます」

 一益は悟った。恵美ちゃんのストレスは、全部この練兵達にぶつけられるに。これ、絶対死人出るだにね。
 突然、爆発音が辺りに響いた。兵士達はどよめき、いつしか腰を抜かしていた。驚くもの、恐怖にたかれるもの、慣れているもの、中には沢山の感情を持った者が蠢(うごめいて)いているが、二人にはその感情は読めなかった。だからこそ、やる。
 爆発音と煙の先には、二人の影が次第に見え始めた。そのまま煙は空高く消えていくと、二人の少女が現れる。何事か、と兵士達は声を上げた。
 少女たちは、どちらも種子島を所持している。黒く輝いた巣口(すこう)は今にも自分達を討ち抜こうと飢えている、と兵士達は実感していた。

「さてと、始めようか……」

 ある人は、ある人の帰りを待っていた。

「ひ、さてと、地獄の始まりだに……」

 ある人は、この状況を純粋に楽しんでいた。
 そうして二人は、鉄砲を構え、兵士達が居座っているその殺風景な練兵場に、火縄銃を構え、引き金を引いていく。目では追えない速さの弾が、兵士達の地面へと突き刺さった。
 兵士達は、恐怖を実感した。

「私は城郷恵美! 貴様らの練兵するよう、殿から命令を受けた一人であり、この作戦の副大将的立ち位置! 七日間で、貴様らを半人前から立派な一人前として一人で立ち上がれる、最弱の汚名とは程遠い、最強の兵士へと作り変える!!」

「世に知る滝川一益、この作戦は、人望を掛けた戦いだに! 立てぬ者は撃ち殺し、立った者は、出世する。お宅さんらは、信長様を救う。わっちらも救う。その為には力が必要に! どんな強敵にも負けない、強大な力を! 今こそ立ち上がり、そして最強の用兵集団として天下に名を馳せるだによ!!」

 驚いて、腰を抜かしていた者も、恐怖に躍り出ていた者も。全てが纏まって、立ち上がり、声を上げて武器を持った。今日から、今宵から。今宵から、地獄ともいえる七日間の地獄絵図が始まった―

……この地獄絵図の練兵週刊は、後に織田家を支える勇将や後の戦国史に残る名将が居たりしたりするのだが、それはまた先の話。

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