時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

長森での攻防戦。

「美濃に侵攻してきた卑劣な織田を、今こそ討ち取るぞ!! 今川義元を討ち取った等、運が良かっただけのこと!! 天下最強の傭兵部隊と言われるこの美濃兵の相手になどならぬわ!!!」

 斉藤方に居る、体格の良い一人の女の子は織田家と自分の軍の戦いを見物していると、高を括る様に言う。見た目は二十半ばくらいであろうか。
 彼女は、稲葉良通いなばよりみち。通称は一鉄いってつであり、頑固一徹の一徹の由来はこの稲葉一鉄から取られているとされる。豪将であり、斉藤家の重臣であり、美濃三人衆と言われる斉藤家重臣の筆頭格である。

「……く、確かに剛力では尾張兵は到底及ばない。だが、しかし!」

 鞘から刀を抜き、馬上から刀を振るいながら戦場を駆け回っている信長は、一鉄の言葉を聞くと、その場で立ち止まり、自らの陣へ下がっていく。
 信長は自分の陣の近くにまで戻ると、味方の兵士達を信長の後ろにまで下げて斉藤軍と完全に睨み合いの状態になる。

「……怖気着いたのか? 一体何をしようと言うのだ?」

 一鉄は織田軍の様子を伺うが、明らかに様子がおかしいと悟った。何をしようと言うのだろうか。
 すると、今度は何かを担いで信長よりも前に出て、横一列に並んだ。担いでいる物を遠くから確認しようとする。

「……あ、あれは……!! まさか!?」

 織田軍の兵士達が担いでいた物―
 それは、種子島だ。しかも、大量の種子島が持ち込まれていた。ざっと五十丁だろうか?いや、もっとある。確かに、美濃も種子島をいくつか持っているが、五十でもうちでは多い程だ。あれほど高価で、手に入りにくい物を何故織田軍が大量に持っているのか、一鉄は不思議に思って仕方が無かった。

「例えお主等が剛力であろうとも、力では到底叶わない存在であっても……現代法を取り入れていないお主等に、今の織田家に勝ち目はない」

 鬼の様な目で斉藤軍を見つめている信長は、遂に刀を振り向け―

「はなてえええええ!!!!」

 信長の合図と共に、無数の種子島が火を噴いた。戦場が轟音と煙の臭いに包まれた。無数の種子島に気を取られていた斉藤軍は、弾に直撃する数十人の兵士達は即死の状態になっていた。

「……尾張の大うつけは悪魔なのか!? 卑怯すぎる!! 戦は力尽くでやるものなのだ!! その様な南蛮の武器で……戦をするなど言語両断!!」

 相当な数の兵士達に危害が加わり、斉藤軍は混乱していた。その様子を見て、全て想定内でいた信長は再び刀を振り向けて、突撃の合図を下す。織田軍の猛攻撃が始まった。

「稲葉殿! ここは一旦、長森に撤退を! 立ち直さなければ勝機は無い! ここで退くのは癪に障るが……今は態勢を立て直せることが最優先!!」

 一鉄の隣でそう訴える女の子。あまり一鉄とは変わらなそうな歳に見える。彼女も同じく斉藤家の重臣である、氏家直元うじいえなおもと。通称は卜全ぼくぜん。とはいえ、今はまだ直元である。重臣の中でも、一番影響力のある人物であり、諸国にも顔が利く人物であった。

 結局、稲葉一鉄は頭を悩ませていたが、最終的には仕方なく自軍を長森まで撤退することを決意した。

「仕方がない……だが、我々には」

 勿論、織田軍には退く理由が無く、士気を上げながら美濃の奥まで入り込もうとしていた。特に退くと言う抵抗も無く、参謀の長秀と勝家もその気でいたので、進み続けていた。

「しかし、信長様。これ程までに斉藤軍が弱いとは思ってもおりませんでした。もっとこう、何と言いますか……頭の良さ等と言う概念が無く、全面的に突撃を続けてくる軍だと思っておりました」

 馬を進め続ける勝家が、斉藤家に対して思い込んでいた感情を信長に向けて打ち明ける。

「でも……そうであったら退くことなんてしないはず。噂と言うのは怖い物ね。一度戦に負けるだけで、美濃の兵は最強と言われ、それによって攻め入る軍は無駄に攻め方を工夫しようとして、結果的に大敗を記す……良かったわ、無駄な策を作っておかなくて」

 これまでの状況を振り返って、長秀はそう述べる。

「うむ……」

 何か籠った様な返事で、信長は受け答えた。信長の声を聞いて、勝家は気が付いたのか心配するように声を掛ける。

「……信長様? どうされましたか?」

「確かに、ここまでの道中何度か斉藤軍が襲い掛かって来たが、悉く撃ち払った。だが、何処か先程とは勢いが違う」

「勢い……ですか?」

「うむ。先程は本気で勝負に出ていたはずの斉藤軍が、今度は此方を誘うように叩いては退くような作戦を取っている……いや、考えすぎであるか?」

 流石にそんなはずはあるまいな、勝家の言う通り斉藤家は無能に間違いないな。と信長はそう言って一笑する。先程までの考えが無かったように笑っていた。

 現在、織田軍は美濃国の長森にまで近づいて来ていた。美濃の中枢地である稲葉山までの道はそう遠くなかった。だが辺りは霧で見え辛く、用心して進むのはとても難しかった。よし、ここで一休憩しようか、と言ったとしてもこんなところで霧が止むまで休憩等と言っても、気が気じゃなくて休憩することができないであろうし、いつ襲われるか分からない場所でなどもってのほかだった。

「……うむ、こんなところで伏兵に襲われたら一たまりも無いのぅ……どうする?」

 信長は、辺りを警戒しながら進む長秀に問い掛けた。

「そうね……こんな霧じゃ、休息を取って襲われたら一たまりも無いものね。でも、何故かしら。さっきまで空はお日様で照っていたのに……一体、突然なんでこんなことに」

 確かに、さっきまで空は青空が広がり、真夏の太陽が人間の体力を奪うように照っていたのに、今では目の前を警戒しながら進んでいかなければならない霧が漂っていた。

「……まさか、幽霊……とか出たりしませんよねぇ!?」

 キョロキョロと辺りを見渡しながら進んでいる勝家が、低い声で言った。

「くかか! まさか勝家、化けたものが怖いと言うのか? 猛将であるお主がそれでは、家臣達に笑われてしまうぞ! はっはっはっは」

「わ、笑わないで下さい! こ、怖くありませんから!」

 信長にせせら笑いをされると、勝家は赤面して幽霊が怖い事を否定する。

「……そろそろ開けた所に出るわね」

 目を細くさせて前を見つめる長秀は話した。
 長秀の言う通り、少し進むと開けた平地に辿り着いた。草が生い茂っている。ここも、霧が深く、あまり前方の様子が伺えるような所では無かった。

「うむ……どうしたものか。このまま……」

「………ッ! 信長様、もしかするとこれは!!」

 辺りを見渡した勝家が、先程とは違って冷静な声で信長に声を掛けた。
 聞いた事のある音が前方からした。この音は……

「矢じゃ! 皆、避けろ!!」

 弓矢が上空から織田軍を襲う。槍の先の様にやぎりに尖った矢は次々に落ちてきた。
 危ないと思った信長は、そのまま急いで兵士達を走らせて前に進む。

「伏兵、かかれ!」

 と、何処からか声が聞こえた。その瞬間に、茂みに隠れていた伏兵たちが側面を襲ってくる。倒しても倒しても、伏兵は次々に現れて、これではキリが無い。

「智慶、大丈夫!?」

 鉄砲を巧みに操り、近くに寄ってくる斉藤軍の伏兵を次々に撃ち抜いていた恵美が、智慶を気にして声を掛けた。

「……大丈夫。泰能は」

「私は大丈夫! 気にしなくて良いぞ!」

 この三人もまた、裕太の居ない織田家で立派に戦っていた。

「勝家殿!! これは貴方の判断違いよ!! 貴方が斉藤家を無能の集団だと言い張ったから!!」

「言い張ってはござらん!! それに、丹羽殿もその話に乗っていたではないか!! 今頃話を変える様に言われても困りますぞ!!」

 勝家は、馬から下りると信長に襲い掛かろうとする斉藤軍の伏兵たちを次々に貫き、長秀は刀を抜いて勝家の背後を狙おうとする伏兵たちを、不意打ちで襲い、二人とも信長を守ろうと翻弄としていた。

「二人とも、今は言い争いをしている場合ではない!! どうにかしてこの展開を打破しなければ、総崩れとなるぞ!?」

 喧嘩している二人に、歯止めを掛けるように信長は言った。

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