時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

川中島の戦い (一) 虎と龍。

「やられたね······流石は軍神」

素直に負けを認めた晴信。今の言葉は決して弱音ではない。

「父を追い、身内である諏訪を斬り、信濃を己の欲の為に手に入れるか。挙げ句の果てにこの様よ。甲斐の虎、その逆賊であるお主にこれ以上の汚名はあるまい」

「くっはっはっは。逆賊?汚名?···笑わせてくれるじゃないか。本当にそうなら、私は今この場に居ない。己の欲の為に戦う武士に道はない。全ては家の為、武田家繁栄の為。景虎、あんただってそうだろう?」

景虎の言葉に大笑いした晴信。それでも言い返し、余裕そうな顔で景虎を見る姿は、まさに狩りをする前の百獣の王、虎。

「全ては義。志とはそう言うものだ。お主に語る事なぞ他にない。いざ、雌雄を決さん!」

ブウゥーブウゥーー。法螺貝の音が八幡原一帯に鳴り響く。
その合図と共に、長尾軍は一斉に駆け出す。地面が揺れ、大地が揺れ動く。まさにこの場に、龍が出現したかの如く。
その様子を伺っていた武田軍は、足を退くものも多く、勢いでは圧倒的に長尾軍が有利に戦が始まった。

「···一体どうして···いつ···いつ読まれた······?何故だ···」

動揺して策の事しか考えられない勘助。その場は騒然としていた。

「······っけ、お蔵入りだね。······恐れるな!退くな!陣を乱すな!ここは戦場だ!!お前たち戦士が、戦場で恐れ於てどうする。顔を上げろ!前を見ろ!敵は誰だ!!」

この状況を打破するために晴信は突然大声を張り上げ、何時もとは全く違う喋り方で兵士達に声を掛けた。
すると、次郎と昌景は顔を見合わせ、良し来たと頷く。

「あと一歩。あと一歩なんだ!ここで長尾軍を叩けば勝てる。まだ負けた訳じゃない!ここで耐え凌げば、必ず妻女山にいる昌信と信房が大軍を連れて戻ってくる。それまで持ちこたえるぞ!!」

晴信が必死に声を掛けた兵士達。次第に恐怖は勇気へと繋がり、その場は一転とする。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

命を晴信に託した兵士達が大声で晴信の言葉に答える。

「姉上。ここは鶴翼の陣を。私と昌景が先陣をきります」

ひょこっと然り気無く登場した次郎が、晴信に進言を行った。
この状況下で、鶴翼の陣と同じことを考えていた晴信は頷いて返事をする。

「···次郎、退ぎわわきまえて」

「···はい」

次郎と昌景はそのまま急いで自分の兵を引き連れ、陣形を形列出来るように駆け回った。
瞬間の判断だったにも関わらず、長尾軍が迫ってくる直前に武田軍は陣を利用した鶴翼を完成させる。

「······もし的が外れても、瞬時に切り替えた判断をすることが大事なのか」

この戦場を夢中で見ていた俺。勘助の必勝の策の的が見事に外れてしまっても、副将と大将の連携によって瞬く間に陣形を復帰させるところ。持つべきものは、有能な家臣!そして太いパイプよりもぶっと絆。戦国時代は汗と涙の青春時代なんだな!

「さて、ここからが始まりです。皆、気合いを入れて待ち構えなさい!今武田の陣形を完全に立ち直せる事が出来るのは我らだけ!時を稼ぐぞ!!」

先手大将として、自ら戦の最前線に立っている次郎信繁。彼女は後世「真の副将」として語り継がれる訳であるが、この咄嗟の判断もその言われであるのかも知れない。

「戦場で重要なのは時。時はとは貴重なものです。その時を稼ぐ我らの役目とは計り知れない程の意味を持つ。誇りを持って立ち上がれ!武田の有志達!今こそ軟弱なる長尾景虎の首を!!いざ!!」

「赤備え、我に続け!!」

戦国最強の騎馬集団の異名を「赤備あかぞなえ」と言う。由来はその甲冑。赤くうるしで塗られた甲冑を着た武田の騎馬兵達が、勇猛果敢に鬼の様に戦う姿からその異名が取られた。これは後の徳川四天王「井伊直政」に継承されるものであり、また戦国最後の戦である大坂の陣で「真田幸村」が率いたのも赤い甲冑を着た集団。元々真田家は武田に長い間仕えていた。繋がりはそこからとされる。後世、徳川家康には「羽柴が築き、山県が守る城」と大阪城の陣を評価したそうだ。何時の時代にも、武田の力はこの様にして継承されて行ったのだと、つくづく思う。少なくとも、滅んだ後の話であり、まだ先の話であるが。

こうして、遅れを取ってしまった武田軍であったが、次郎と昌景の冷静な判断、そして晴信の影響力によって体制は立ち直りつつあった。

しかし、何故か彼女は運命に抗えずに居た。

「御館様」

先程まで動揺し、その場で立ち崩れていた勘助が長い間閉じていた口を開く。
顔色は何分良くなって来ているのか、蒼褪めた顔は消えていた。

「どうしたんだい勘助」

大きな軍配を持って軍を指揮する晴信は、勘助を心配していた。
彼女の策の的が外れた事が無かったからだ。自分に自信を持っていた勘助はこれまで百発百中で策を決めてきた。こんな場所、自分の庭の様な所でだ。ショックがデカいのも無理もない。陽気で爛漫ないつもの勘助は、もうその場には無かった。

すると、勘助は突然立ち上がった。
さっきまで立ち崩れて落ち込んでいたのがまるで無かったかのような復活。これには周りに居た者全員が驚いた。

「…勘助?」

驚いた晴信は、即座に勘助の名前を呼んで気を配る。
すると彼女は、突然晴信の正面へと赴き、その場で立ち膝をした。

「御館様 この勘助、御館様においとまを頂きたく」

彼女は微笑みを浮かべると、晴信の前で別れを言い切った。

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