時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

斬撃と衝撃の甲州越え。 (三)

―甲州 甲斐国 躑躅ヶ埼
畑々、多田が広がるこの地に、一つ大きな城が建っている。しかし、これまでに見た事のない形の城だった。もしや、これが山城っていう奴なのか・・・?その周りには、見るからに栄えている城下町と幸せそうに生活している人々。

「・・・やっとか」

「うん。やっとだね~」

汗を垂らしながら、苦しそうで今にも死にそうな顔をしている勝三郎。途中から信勝が俺から降りて勝三郎に飛び乗ってたから、それで走ってたみたいだけど、俺より辛そう。なにせ負ぶっていたわけである。実生に共感したくなった。それでも怒らない勝三郎も凄いと思うが。

「はぁ~着いた着いたっと。私の大切なお馬さん。本当にありがとう~」

これまで見た事のない笑顔で勝三郎が嬉しそうに感謝する姿が見えた。

「はははははははははいいいいいい!!!!!!信勝様の為なら、火の中水の中です!!どうぞ、これからも私をお使いください~!!」

あ~、これもうダメだわ。重症なやつだ。信勝を愛して止まない勝三郎。ちょっと信勝と勝三郎の仲が分かった気がする。そう言う関係でも成り立ってるんだから凄いよね~。と思いつつ、草むらの方へ逃げ歩いていく俺。先で座り込み、体を休めた。心地良い風が辺りを吹き通していった。

「死ぬ気でこっちに来りゃあ、なんとかなるもんだな」

その後を、完全復活した勝三郎がゆっくり追いかけていた。

「色々無理を言ってしまい、申し訳ござりませんでした相良殿」

彼女は深々と頭を下げては、城をジッと見つめている俺に謝っていた。

「気にすんなよ。俺もお前も織田家第一主義。言うなれば信長ファースト。同士だろ?お家の為ならどんなに辛くても耐え乗り越える。信長がそう教えてくれたからな」

「流石は軍師殿。目に一点の雲すらないご様子。ふふ、これからも御家繁栄の為、共に参りましょうぞ!」

そう言った彼女に、俺は右手の小指を差し向ける。彼女は何のことか?と言う顔で此方を見つめていたので、どういうことか説明した。

「これは指切りと言うんだ。大事な約束を交わし合う時に、俺の生まれ故郷ではこうやって約束を固く結び合うのにやるんだよ」

と言って再び小指を彼女の前に差し向ける。不思議な顔をしていた勝三郎だったが、なんとなく約束を交わす為に彼女も小指を向けた。
指切り。遊女たちによって約束を交わす時によく使っていたという。私から見たら、遊女は「女」と言う文字が付く事からしてもそうであるが、女として見ている。昔の人々からしたらどうだろうか?ただ欲に溺れて信用すらも得られない孤独の猛獣。彼女達は約束をしても信用されない、だから誠意を示す為に、代わりに指を切り落としていたそうだ。怖い、見たくない。だったら信用する。約束を交わす「指切りげんまん」。それは後に庶民へと広まっていくこととなったそうだ。特に、子供が約束を交わす時に。読者の方々も一度はやったことがあるのではないだろうか。大切な約束を守るのは大事。だが、そうやってもっと固く約束を結ぶ事も、友達関係で行っても悪く無いのかもしれない―

「ひひ、指切り・・・」

「指切り拳万嘘ついたら針千本飲ます」

彼女の言った言葉に流石に驚いた。指切りを知らないだと?でもなぜその言葉を知っている・・・?不思議に思った俺は、彼女に何故なのか問いかけてみた。

「な、なんでその言葉を知って・・・」

彼女は「うん?」と言って、何か変な事を言ったのかと首を傾げたが、少し考えて分かったのだろう。自分で何と言ったのか、と。険しい顔をして此方を見ている。

「何故と言われれば・・・確かに。むー?あ!」

突然大声を出したかと思うと、どうやら何か思い出した様だった。

「昔、刀を習っていた恩師に言われた言葉でした!」

「恩師だって・・・!?な、名前は?」

誰なのか気になったので、多少芝居をして名前を尋ねてみる。

「・・・上泉信綱かみいずみのぶつな様です。その方に、上野で剣術を習っておりました」

俺もなんだかんだ言って、剣術習いたいなぁ・・・。人並ではなく、人以上に使いこなせているのかすら微妙だし…自分的に不安な面があった」

「現在、最強の剣豪と言われている方は、足利将軍家に仕える細川藤孝ほそかわふじたか様、北畠家御当主であり、伊勢の大名北畠具教きたばたけとものり様、先ほど言いました上泉信綱様、そして第十四代将軍で剣豪である足利義輝あしかがよしてる公です。とりあえずはですが、全員と面識があります」

この時、俺は大事な事に気付いていなかった。どれだけ全員が影響力のある奴等であるのか、と言うことを・・・。

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