時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

平凡な一時 壱


ー 清洲城の軍義からちょっと先の話。相良家にて。

「が~はぁ····」

ちゃぶ台に手を伸ばして背の筋を伸ばす。

「なんだかなぁ」

「どうしたんです?相良様?」

槍の手入れをしている智慶が俺の言葉を聞いて、心配するように反応した。
しかし、智慶の刃物の研ぎ方はとても上手いものである。
磨けばまた、尖って輝き、まさに人殺しの必需品見たいな...そんな感じにしか見えない(

「何て言うか、暇だな~って。」

背を伸ばした後、肩を回して準備運動的な何をする。ついつい体を動かすことを無意識にやってしまう。

「お、そうなのか。ならば相良殿、お使いに行ってきてはくれぬか?」

俺の暇だと言うことばを聞くと、泰能が家事をしながらそう話す。
これ、暇って言葉聞くとなにかやらしてくるパターンじゃないですか...?

「何買ってくればいい?俺忘れちゃうからすぐメモしないと清洲じゃなくて岐阜行っちゃうからね???」

「岐阜?とは何処だ?···八丁味噌と芋、ネギと人が参る物を。いや、参る人か?」

あぁ、そうか。この時代ってまだ岐阜じゃないんだっけ。確か、稲葉山って言ってたよな。
時代の違いを再び感じながらも、俺は腰を押さえながら立ち上がって玄関にまで赴く。
と言うか、人が参る、参る人が。って簡潔に人参って言えばいいだけの話だろ。

「了解。ツッコミたいけど····ちょっと行ってきますわ。」

この時代で言うところの金を持って戸を開けて外へ一歩進む。
そのまま外に出て、ガラガラガラッと戸を閉める。
ー その瞬間···。カチャッという音と共に、何かを此方に向けてくる者がいる。

「····ですか。」

彼女は顔を下に向けて何か口ずさんだ。
次はもっと良く····。

「何でですか。」

彼女は顔を上げてそう言う。瞳が一瞬うるっと揺らいだのは気のせいか···?

「なんで私を連れていってくれなかったんですか!相良殿!」

「とりあえず、種子島を此方に向けるのだけは止めてくれないか····恵美。」

恵美は言われるがまま、種子島を下ろして左腰にしまった。

「た、確かに····確かに桶狭間には連れていけなかった。ごめん。言う前に一益に強制的に駆り出されて····。」

恵美に頭を下げて謝罪する。本当に申し訳ないです。
彼女は溜め息をついた。嫌味気味ではなく、それはそれは小さな溜め息だった。

「はぁ...。分かりました。ですがその代わり···。」

彼女は途中で言い止めると俺に近づき、唇を人差し指で押さえてこう言った。

「これから相良殿の出る戦全てに私を連れていってくださいね。約束ですよ。」

戸惑いながらも、俺は頷いて承知した。
彼女はそのまま戸を開けて俺の家の中へ入っていく。よく外であんなことできるよな...。
まぁ、此処等は人通りも少ないからいいか。
って、ちょっと待て。俺の家は無法地帯か!?

···そう思いつつも、俺は家を後にする為歩き出す。
向かう先は、八百屋。現代でいう野菜専門店。確か芋とネギ、人参だっけ。

「いらっしゃい。」

八百屋の店主が挨拶をしてくる。

「こんにちは。調子はどうだ?」

なんとなく話を繋げたくなったので、元気かどうか聞いてみる。

「いやー、相良さん。最近良いネギが入ってね。そのお陰でわしの調子も上々だよ。ささ、今日は割安にするから、買っていってくれ!」

流石おやっさん太っ腹。俺は言われた通りの物を選んで、会計を済ます。

「1.2.3で3両か。分かった。ありがとね。」

布に包まれた野菜達を抱えると、俺はそのまま八百屋を後にした。
滞在時間はざっと2分ほど。徒歩3分なのでざっと5分ちょいくらいである。
八百屋を出て真っ直ぐに進み、大通りにある八丁味噌専門店へ赴く。

「お、相良。」

と、前方より俺の名前を呼ぶ声がする。
よく見てみれば、一益の配下である津田秀唱だ。

「おぉ秀唱。どうしたんだ?こんなところで。」

俺は彼女の近くまで寄る。いつものように秀唱は、いつものように煙草をくわえていた。
そこまで煙草の臭いは好きじゃないけど、この時代ってあんまり有毒じゃないって話を聞いたことがある。
勿論、有毒なのは本人も承知で吸っているとは思うが。

「一益様に八丁味噌を配給してもらうよう頼まれてな。今月の請求書を渡しに行くところだ。相良もそうだろう?」

彼女はそう言うと、俺にその請求書を突き立てるように見せた。
一益のような大物になると、配下の数も多いから、それだけ配給を要求できるから良いよね。
配給を要求?え?言いづらい?え?そんなことじゃなくて?なんで配給制度かって?
実はこの八丁味噌、織田家の大好物なのである。
信長は勿論、織田四天王、一問、家臣、兵士ですら好む。尾張にとって味噌はなくてはならない必需品なのだ。
それを利用して、信長はこれを配給制として人数ごとに余りの無いよう、月毎に配給量を識別していた。
勿論、信長でさえ量は制限されている。それを覚悟での配給制だった。

「流石一益。配下が多ければそれだけ配給してもらえるから良いよな。まぁ、俺は味噌汁くらいにしか使わないから一月じゃ使い切れないけど。」

確か、四人一月二キロくらいの量。うちは原則、味噌汁以外のものに八丁味噌は加えないと言うことになっているので、使いきれない場合が出てくる。
他の家じゃ、ご飯にまで味噌を乗せると聞いたんだけど....。まさか...ね?

「ふむ。一益様と私は味噌汁だけだな。後は配下の者が味噌を喰らい尽くす。そのような感じだ。」

味噌を喰らい尽くすってどういうことですかね??
···外は暑いので、中に入ることを決意した。

「滝川一益が家臣、津田秀唱だ。八丁味噌の配給をしていただきたい。」

彼女は建物内に響く声で、そう話した。
すると中から聞き覚えのある声が此方に向かってきた。

「おぉなんじゃ。お主らも味噌を貰いに来たか。」

「おぉ、信長。やっぱり味噌は自分で取りに来るんだな。」

そう、織田信長本人である。彼女は味噌を片手にニコニコしている。
よっぽど味噌を貰うことが嬉しいのだろうか。そんなことはさておく。

「お主らとゆっくり話をしたかったが...。わしも仕事があってな。すまぬがさらばじゃ。」

そう言うと、彼女は靴を履いて外へ出る。
悠々と八丁味噌専門店を後にする信長だった。

「当主が味噌を片手に出歩く、きっと織田だけの話なのだろうな···。」

「いや、絶対ここだけだから。他じゃ有り得ないから。」

彼女は純粋らしい。一益もこういう配下がいるんだから、ぶっ飛ばせ!かっ飛ばせ!的な勝負本能をあからさまにするのは止めた方がいいよぅ。
俺達は靴を揃えて玄関を上がった。

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