時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

人間五十年。

ー清洲城
今川軍が攻めて来たという情報が入って約半日が経つ。
佐久間、丹羽、柴田の三人が、容体の優れていない信長の代わりを務めている状態だった。
現状としてはこう。
佐久間信盛が事実上大将として立ち、丹羽長秀が作戦参謀として、柴田勝家が戦の準備等を行っていた。
また、滝川一益が独断ではあるが、鳴海城を落城させたり、今川軍と応戦して優勢に立っているという情報も受け、功績を上げていた。
もう一度言おう、独断であるが。
平手政秀が城の巡回を行い、見廻り役として活躍。織田信勝が未森城にて今川軍と応戦している等と、状況は様々で朗報ばかりだと思うが、織田も決して優勢だった訳ではない。むしろ窮地に陥っている。
そんな中、一人の女は行動を起こしていた。

「信長様~!」

彼女は信長の部屋の前で腰を下ろし、月を背にして正座すると信長の名前を呼ぶ。

「・・・猿か。」

と、信長は猿と言って目を開くと「入れ。」と猿を部屋の中へ入れる。

「信長様、容体はどうですか。」

猿は部屋の中に入ると、信長のそばに寄り添うと信長の容体について問いた。
信長は上半身を起き上がらせようとする。流石に、安静にしていた方が良いのは猿も分かっており、信長様の腰を支えながらなんとか上半身だけ起き上がらせるのを手伝った。

「熱は引いた。少し目眩がする。それだけの事だ、案ずるな。」

猿の顔を見ると、いつもよりも深刻そうな顔をしていたので信長は笑った。
藤吉郎はホッとため息をつくと肩に掛かっていた力が抜けたのか、肩を下に落とす。

「くかか、そうか。猿も深刻そうな顔をするのだな。」

「それはそうですよ!皆様、信長様が居なくなっただけでも回らなくなってしまうのですから!」

信長の発言に対して、怒り立てる藤吉郎だったが信長の痛恨のチョップが頭に直撃する。
こういった場合、真っ先に信長から発せられる言葉が・・・。

「馬鹿者!うつけと歌われる儂が居なくなるだけで回らなくなるとは何事じゃ!それでもお主等はうつけの家臣達か!」

と、信長は怒鳴った。その通り、当主がうつけと呼ばれている織田家だが、信長が機能しなくなっただけでもここまで士気が下がるのはあってはならない事態だ。信長が居なくなっただけで悲しくなる、やる気が無くなると言うのは些か可笑しい。当主が居ない時だからこそ、本気を見せるものなのではないだろうか。
藤吉郎はそう思った。
気遣いで、藤吉郎側の襖近くにある桶の中の水を、信長の近くに寄せると、信長の茶碗を取り出して、桶に入っている水桶から水を汲み、茶碗に入れる。
信長に手渡しすると、それを受け取ってゆっくりと一杯飲み干す。
そのまま茶碗を藤吉郎に渡すと、信長は話を始める。

「さて、状況はどうじゃ?」

藤吉郎は受け取った茶碗を左脇に置くと、正座し直した。

「聞かない方が良い所もございますが、宜しいですかな?」

「焦らすな。話せ。」

「今川軍は着々とと清州に進行中、丸根砦を落とした様です。現在、佐久間様が代理大将として家中を取り纏めており、丹羽様が作戦参謀としての補佐をしている状況です。柴田殿は戦支度を、平手殿は城の巡回見廻りを、信勝様は居城での応戦で活躍しているそうでございます。」

信長様の機嫌を伺いながらも、藤吉郎はそう話した。

「ふむ。義元もそろそろ出て来る頃じゃろうな。」

そう言うと、さっきまでは何も無かった様に立ち上がると右に置いてある信長の刀を二本取ると、腰に掛ける。

「の、信長様!?」

「猿よ、市を呼べ。」

信長はそう言うと、藤吉郎が入って来た方向の襖を開けると外へ出て行った。
信長様にお市様を呼べと言われ、藤吉郎は走り出して信長の部屋を後にする。

ー再び信長の部屋

「あ、姉上!大丈夫なのですか!?」

と、市は心配した顔で信長に尋ねた。

「うむ。もう大丈夫じゃ。うつけは風邪を引かぬと言うからな。」

ツッコミ役が居ないのが悲しいのだが、うつけが風邪を引かぬと言うのなら猿は心配すらしないのではないだろうか。

「・・・。所で信長様。お市様をお呼びして一体何を行うのですか?」

ここで藤吉郎が疑問視していた点について投げかける。
襖全開の部屋に、涼しい風が入って来ると、追い打ちを掛けるように信長が言葉を放った。

「市よ、鼓を持て。」

信長はそう言うと、立ち上がって部屋の中央に進み、扇子を左の服の裾から取り出す。
何事かと、一瞬市は考えたが信長の事なのでそのまま部屋に置いてある鼓を持つ。

「・・・。人間五十年~」

信長は、敦盛を歌い始めると同じように踊り始めた。
市は、間になる事に鼓を叩いた。

下天げてんの内を比ぶ(べ)れば~」

藤吉郎は、部屋の隅っこによると信長の踊る姿をじっと見つめる。

夢幻ゆめまぼろしの如くなり~」

少しずつ、踊りが大きくなっていく。

一度ひとたび生を享け(うけ)」

花を吹かせる様に舞う信長の姿は本当に美しいものであった。まるで、大名の器では納まりきらないほど。

「滅せぬ(めっせぬ)もののあるべきか・・・。」

市の鼓を叩く音を最後に、敦盛が終わる。それと共に、信長は扇子を宙に投げる。
扇子は、大きく開きながら床に落ちると、信長はこう言う。

「猿、出陣するぞ」

先程の熱が嘘だったように治まると、突然舞を踊りだしては出陣すると言い出す彼女。
きっと彼女は夢の中でずっと魘されていたのかも知れない。どうしたら勝てるのか。どうしたら天下を取ることが出来るのか。
今の舞は、天に誓った舞だったのかもしれない・・・。
そう考えつつも、藤吉郎はその場で跪き

「はいっ!」

夜空にまで響く声で言うと、信長の方へ向かった。



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