時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

鳴海城を攻略するには。


「今日も天気は優れねぇみゃあ。」「どうにかならんかのぉ・・・。」

今川軍の兵士たちの鳴海城の裏門を守っている兵士たちはそう呟いた。
特にする事も無く、周りでは焚火の近くで居眠りしている奴が殆どだ。
誰も、門を守ろうとはしない。俺も真面目に門番するつもりはない。周りがそんな堕落な雰囲気じゃ仕事する気にもならねぇからな。

「やっほぉ~い。そこの兄さん姉さん方!」

この状況下でも元気な奴が居るのだな、と思いその方向を向いてみると何十人か百姓が此方に向かって来ていた。

「おう?どうしたんじゃい?」

一人、門番の男が女に問いただした。

「いやー。お侍さん方、こんな遅くまでお疲れ様でしょうに。わっちら百姓が、お侍様に少しでも安らいで頂けるよう、御馳走をお持ちしたんですや!食べていただけますと嬉しいですに!」

彼女はそんじょそこらには居ないであろう美女。とても百姓とは言えないくらいの可愛さを誇っている。
集まって来た百姓たちは、酒やら御馳走やらなんやらを城門の前に置いていく。
良い匂いに誘われて、上からも何百人もの兵士たちが裏門に駆け降りて、食べ物や酒などを飲み交わし始める。

「いや~美味いみゃあ!」「別嬪さん方と美味いもんに囲まれて幸せだぜ!」「良いわぁ!」

次第に酔い倒れていく兵士たちが続出し始める。兵士たちは酒と食べ物の取り合いを始めており、気付けば百姓たちはその場から立ち去っていた。

「ふぅ~。まさか突撃作戦じゃなくてこんな作戦で掛かるなんて。よっぽど戦うのが嫌いな男なんやね?兄さん。」

一益は百姓ずらしていた服装を全て脱ぐと、手を仰いで風を吹かせ始める。

「戦いが嫌いなわけじゃないけど・・・。無駄な血を流して欲しくないんだ。これは俺の義なんだ!」

目を輝かせて、一益に語り掛ける俺だったが、隣から新助が横棒を入れてきた。

「それは義ではない。己の欲望だ。誰だって血を流す。この乱世では戦いは必要不可欠なのだ。全ては突撃!戦いこそが突撃の場なのだ!」

「さっきも同じような事言ってなかったっけ!?と言うか、敵にバレるから大声で叫ばないで~!!」

「はは。元気だねぇ~。わっちは暑いったらありゃしないよ~。」

新助はそう大声で話し、手を上に翳すと数分間動かなかった。暑いと言いながら、一益は坂を登っていく。どうしようもないので、俺も先に進んでいく。城門を越えたためもう城内に入っていたが、鳴海城の警備は百姓変装のおかげで穴だらけ。本丸にはすぐにたどり着けた。
確かに、数十分前までは一益の戦法で攻撃を仕掛けるつもりだったが、どうしても戦うのは嫌だったので、無理を前提で一益に提案したところ、一発で許可が下りたのだ。熱田村より、酒や食べ物、衣服などを借りてさっきの場面でその代物を活用。今に至る事が出来た。
本丸前に、滝川軍数百人が立っていた。滝川軍には数十名の忍びが混ざっていて、常に先の様子を確かめており、今回は本丸にも敵は誰も居ないという事でここまで到達することが出来た。警戒しながらも、本丸の門をゆっくりと押して開く。
本丸内に入ると、倉がいくつかあり、その中には槍や弓がそれぞれ大量に積まれていた。

「流石今川やね。装備もバッチリ。」

「本当だな・・・。こんな奴らと戦おうとしてんのか・・・。まぁ、織田もこんな感じだもん尚更か。」

「まぁ、もう時期この城はわっちらの物になるんやけどね。」

倉の目の前に立っていた一益が、突然後ろの方へ引き返す。
何故そのような事を言ったのかと思い、一益を止める為に声を掛ける。

「一益、一体どういうことなんだ?この城は今川の城だろ?」

一益は止まり、此方に振り返って答えを出した。

「そうだに。でも、大将が降伏すればこっちの物や。な?大将さん。」

彼女はそう言うと、右腰に掛けてある銃を取り出し、倉の反対側にある建物の襖目掛けて撃つ。
バァン!と言う音と共に、障子に穴が開く。

「そうですね。確か、貴方は一益さんと言いましたか・・・。お会いできて光栄です。」

襖の向こうから声がする。新助が、坂より駆け足で登ってくると「何事だ!?」と叫んで此方に向かってくる。
やはり、騒がないと駄目な人っぽいです。

「あれ?わっちの事知ってるに?今川家の重臣さんにのお耳にのまで入ってるのは嬉しい事に~。」

一益が嬉しそうにが話すと、銃を右腰にしまう。
あれが今川の重臣さんなのか・・・?結構小さくてロリっ子に見えなくもない子なんだけど・・・。
やっぱり下克上なの?小さい子でも偉くなれるの?あ、もしかして家督相続とか?それなら話は分かりますね。
とは言え、小柄でも重い刀を腰に掛けているんだから凄いと思う。
彼女は部屋から出ると、正座でその場に座る。

「さて、私の首が欲しいのだろう?兵士たちの欲望すら抑えきれない私に、今川家の重臣の看板など片腹痛い。首が欲しいのなら斬っても構わない。人質にしたいのなら連れていけ。」

「え?こんなにあっさりしてていいの?」

「良い訳あるか。こういうものこそ、罠ってものの可能性が高いに。ただ、その背丈の年齢でその度胸は・・・。分かった。ここは話に乗るに。城の無血開城、今川家重臣朝比奈泰能あさひなやすよしは貰い受けるで。」

そう言うと、彼女は俺の後ろに立ち、けして強くないが押して前に出させる。

「え?」

キョトンとした顔で一益を見つめると「早く行くに。お主に泰能の手柄はやる。この策を打ち出したのはお主やて。」と話し、縄を投げる。これは縛れと言っているのですか?
・・・一益、お前自分でやれよ!ただ罠にはまりたくないだけだろ!?頼む、俺を物として扱わないで~
と、心の中の花園で大声を出しながら、泰能という女の子に近づく。

「・・・。お主、名前は?」

泰能は此方の顔を見ると、一瞬止まったかのように俺を見つめていたが、ハっという顔を少しだけ見せると俺の名前を聞いてきた。

「俺?俺は相良裕太だよ。」

「相良・・・裕太・・・分かった。」

彼女は目を閉じると、体を下に向けて手首をくっつける。
補充術。俺は昔、祖母の家で習った。体の方からクロスするように巻き、最後に手首を一周させて結ぶやり方だ。結び終えると、彼女を立ち上がらせる。
あれ・・・?一益と新助とその他何人かの姿が見えないんだけど・・・。

「あれ?一益と新助は・・・。」

辺りを見回すと、2人の姿は何処にもない。ただ、家臣達が坂の下に集まっていることは確認できので、多分、勝手に降りて行ったのだろう、当に好き勝手だな・・・、と思い、坂の方まで行ってみる。

ただし、そこには・・・。

「なんや・・・あれ・・・。」

一益と新助が立ち尽くしている姿が見えた。少し離れた場所で、大火災が起きていた。
カラス達が付きの方へ向かって、飛んで行っている。

「あれって・・・。まさか清洲城じゃ・・・。」

「いや、それはないに・・・。多分丸根砦か鷲津砦のどちらかや。間に合わなかったか・・・。」

一益が悔しそうに、拳を握り締めていた。裏門の兵士達も、酔い更けていた状態から一変。驚いた顔で燃えている方を見ている。俺も火事はテレビの中継でしか見た事が無い。リアルでこう見ると、迫力とスケールが全く違う。此方にまでも熱気が伝わってくる。

・・・約30分が過ぎた頃。俺のポケットの中から腕時計が出て来た。どうやら、運よく腕時計を入れっぱなしにしていたらしい。唯一の家宝!電池式じゃないから半永久的に使える!時間を見てみると、惜しくも20:09で止まっている。あらら、いつ止まったんだろ。
などと一人でやっていると、一益が鳴海城の兵士達を集めて事の次第の説明を行っている途中だった。

「とりあえず、ここの兵士達は人質としてこの城を守ってもらうに。一時的に、新助にここの防衛を頼むで!あらかじめ、戦況報告は城に送っておいたから、すぐに入城しに来る部隊が居るに。それまで、頼んだで!」

兵士達も納得し、泰能を見て涙ぐんでいる者が多かった。それだけ信頼が厚い人は兵士達が命懸けで守ってくれる!
兵士達に一益はそう説明をして話が終わると、坂の方へ向かった。清洲より、それを見た数百人の一益軍は、一益に続いて歩いていく。

「御意!援軍を!」

俺を走りだそうとする前に後ろを向くと、新助は手を振っている姿が伺えた。
鳴海城、攻略する事は成功した。朝比奈泰能の命によって、酔い更けていた兵士達も酔いが覚め、一時的に織田の配下となった。
その泰能も、今は俺の背中にいる。縛った責任かこれは。一益が、急ぎ走り出すのでそれについて行かなければならなかったからだ。考えたくないが、彼女の体温が服越しからでも感じられた。

「・・・。」

とにかく、彼女に負担がかからないように夜道を駆けていく。


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