非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の義妹とゆいのお姉ちゃん

百十四話





【新転勇人】





「……あのぉ……円香さん……?」
「は〜い、どうしました〜?」
「いや……そろそろ借り物だなーと。」
「は〜いありがとうございま〜す」







うん……わかる、わかるよ。
なんでこんなに円香がふわふわしてるのか……でしょ?
うん。
それは……、
「勇人〜この子かわいいわぁ〜」
頬に手を当てうっとりとした表情でそう言うお母さんは空いている方の手で円香のほっぺをつついている。
「勇人もつついてみたら?ほら」
ほらて。
俺の彼女さん、完全に遊ばれてるじゃないですか。
なんか猫みたいに自分から顔擦りつけてるし。
あっ、猫耳とかすごい似合いそう……。

「ほら〜この子猫ちゃんみたいよ〜?」
「ふふっ♪にゃ〜ん♪にゃんちゃって」
ギガントカワユスゥ!!
バッカルコーンしそうになりまんた。
「勇人くんかわいいですか?」
「ギザヤバス」
にゃんともかわいい招き猫のようなポーズで俺を誘惑する円香ねこ。
俺の彼女ってこんなに小悪魔だったっけ。心を鷲掴みにしてくるんだけど。

「で〜、二人はいつ結婚するのぉ?」
「いや気が早すぎるだろボルトもびっくりだよ」
「うふふ、でもぉ、この子はそんなことないみたいよ?」
俺は、お母さんの膝を枕にしている円香へ恐る恐る目線を向ける。

「何が必要でしょうゼ〇シィ?ゼク〇ィは必要ですよねあとは猫ちゃんも飼いたいですねそれとやっぱりゼ〇シィ」
息を吸う暇もないほど早口で、登場したのはたった二人、ゼ〇シィくんと猫くんだ。
しかも猫くん一言だけでクランクアップ。
「勇人くんのお母さん……いえ、お母さん公認ですよどうしましょう花嫁修業しなくては」
言い直して義母であることをはっきり自分に言い聞かせなくていいから!
どうしてそんなに焦ってるの!?最短でもあと二年はかかるよ!?
母の膝枕から飛び起き、わたわたと焦り始めた円香。
「やっぱりゼ〇シィですかね?あ、広〇すずさんにお話聞いてみたいです!」
何言ってるの?大丈夫?
てかホントにそろそろ借り物だけど……。


『続いては借り物です、参加する生徒は至急お集まり下さい』


ほら!!
「円香!行かないと!雑誌の話は後でしてあげるからね?今は体育祭を優先しよ?ね?」
「うぅ、仕方がありません。勇人、結婚については時間がある時話し合いましょう」
そう言って足早にこの場を去っていく円香。
「お、おぅ……」
その背中へ送る言葉はこの言葉以外見つからなかった。





【新天円香】





借り物競走。
【物】と言っていますが【者】も含まれる競走です。
今年は最終レースです。
なぜかズルズルとトリにされてしまいました。
「円香、好きな人出るといいね」
隣の真結がそんなことを言ってくれました。
「はい!見せつけてやるのです!」
「なんか円香ってたまーに怖いときあるよね」
「ふふっ」と愉快は笑いをこぼした真結。
そんな真結へ「頑張りましょ」と告げレースの準備をします。
次のレースが最後。つまり私たちのレースなのです。

周りからは「おい新天さん走るぞ!」「おぉ!まじか!目に焼き付けねぇとな!」「いや……でもアレじゃあ揺れないぜ?」と……よし、最後の人は特定して徹底的に痛めつけましょう。決定です。
「そうだよなぁあれで胸も大きかったら完璧なんだけどなぁ、尻も小さいからなんか土管みたいなシルエットだよな」
あれ、悪口な気がします。
誰が凹凸のない綺麗な土管ですか!
の〇太くんたちの遊び場じゃないんですよ!
「でも、そのすべてを許せてしまうあの美貌。たまらんなぁ、付き合ってくれないかなぁ」
胸が小さくてお尻が小さいことは罪なのですか?
なんだかムカムカしてきました。
…………でも水着とか着ても顔さえ男っぽかったら着なくてもバレないくらいなのは事実なんですよね……遺伝を許したくありません。
「次の方、準備をお願いします」

でも今はこのレースに、この右手にすべての意識を集中させましょう。
好きな人のお題さえ引ければあの人たちも現実と直面するのです!!













私は引いた紙を見て驚愕してしまいました。
普通なら【メガネをかけている人】や【かわいい人】【かっこいい人】そして、【好きな人】とかだと思うのですが、私が引いたカードには、



「い、妹……ですか?」

そう、妹と書かれていたのです。

これ、“私じゃなければ”どうなっていたのでしょう。
一人っ子の方なんて大抵は無理ですよね。

まぁ私は攻略できるのですが。





【新転結花】





「ん、触ってみる?」
「はい」
うわやわらか。
「あ、ついでに勇っちも触ってみる?」
「杏佳さんそれはダメです許しません」
杏佳さんは隣でレースを眺めているにぃへ胸を差し出します。
「それにしても…………円香さん足速くない?」
「ね、一位だよ一位。あ、お題見て止まってる」
「好きな人じゃなかったのかな?」
擁護するつもりないけど、ゆいが同じ立場になったとしても、好きな人のお題引きたいもん、やっぱり悲しいのかな?
「あ、こっち来た」
「え?新天のことだから、勇人くーん行きましょ〜って大声ではしゃぎながら近づいてくると思ってたのに、成長したのね」
杏佳さんが結構失礼なことを言った。
けど、この二人の仲だから言えることなんだろうな。
「あれ、やっぱりこっち来てるよね?」
「うん、だって手振ってるもん」

足が速い円香さんが私たちの目の前に来るのにさほど時間はかからなかった。

さぁ早くにぃを連れてって、周りに見せつけてくださいよ。

「結花ちゃん行こ!!」
「ふぇ?」
予想外すぎて変な声出ちゃった。
「な、なんでにぃじゃないちょはや――」

なんでゆいなの?
にぃじゃないの?
ていうか速すぎ!円香さん速すぎ!!
ついて行くので精いっぱい!


そんなこんなで、ゆいはなんだか分からないままゴールし、なんだか分からないまま一位の旗を渡された。
ゴールに立っている審判みたいな人が苦笑いしてたけどどうしたんだろ。

「やりましたね!!一位ですよ一位!!」
「いや、その前に、なんでゆいなんですか?にぃじゃないんですか!?」
ゆいの必死な問に円香さんはポケットから取り出した綺麗な紙を広げて応答した。

「妹……?」

好きな人の妹ってこと?それとも誰かの妹ってこと?
でもそれなら仲良い友達の妹とかでも――

「私の義妹いもうとです!」

「そりゃ苦笑いするよ!」
「えへへ〜そうですか?でもいいじゃないですか、将来的には妹になるんですし」
……悔しいけどそんな予感がぷんぷんするから突っかかろうにも突っかかれない。
てかほっぺむにむにしないで!

円香さんはにぃの方へピースして一位をとったことをアピールしている。

まぁ、体育祭だし円香さんが楽しいならそれでいっか。

…………でもぉ、ちょっといたずらしてもいいよね。

「良かったねお姉ちゃん」

「おねっ……わふ」
顔真っ赤にして恥ずかしそうにしてる。
よし、これがやり返しだ。
スッキリした。

でも……数年後ホントに「お姉ちゃんって呼んでくださいね!」って言ってきそうだから怖いんだよなぁ。


ゆいは顔真っ赤で座り込んでしまった将来のお姉ちゃんを見ながら、そんな近い将来のことを考えて、少し頬が緩んでいるのを感じるのでした。






お姉ちゃんって響きいいですよね。
全てが噛み合ってて口当たりが段違いでいいです。
「お姉ちゃんポリプロピレンを赤坂サカスに買いに行きました」
とか口当たり良すぎて一生言えるもん。
もしくは、
「お姉ちゃん!?王政復古の大号令出したって本当!?」
口当たりいいですね。
ぜひ近くの女子に言ってみてください。
きっと「きも」と一番傷つく二文字を言われると思うので。

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コメント

  • ノベルバユーザー170248

    「親公認夫婦」
    円香ちゃん可愛い❤️

    1
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