非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の威圧と俺の元カノ

百六話






【花咲莉子】






「早くしてくれなぁい?」
「あっしたちこのあと予定あるんよねぇ」
「そそ、だからはやく、ね?」
あたしはいつものように体育館裏でお金を取られていた。
いつものように騒がず、周りへ感づかれないように。

そう。
あくまでも“いつものように”。

「今日、ない……」

ただいつもと違うのは、時間を稼いでるというとこ。
「ふ〜ん。じゃあバラされてもいいのね?」
三人はあたしを脅すようにいつもの言葉を吐く。
「あたしやってないし……」
あたしもいつものように軽い反論を返す。
「うん。だから?嘘だとしてもあたし達とあんた、どっちが信用してもらえるかなぁ?」
これも決まり文句だ。
いつもならここであたしが折れ、渋々財布を開くんだけど。
ザザっと。
あたし達の声しか響いていなかった体育館裏に数人の足音が新たに響いた。
「誰ッ!?」
三人は音のした方へ瞬時に目を向ける。


「“あーぁ、今日はこれしか持ってないの”」
「“ま、これで金が手に入るってならうまいもんっしょ”」
「“いやぁ、それにしても脅したときのあいつの顔ったら無いわ”」

「「「“嘘なのにね”」」」






【新転勇人】






「嘘なのにね、だってさ」
胸糞悪いギャルの音声を流した左道さんは、その音声が途切れると同時に言った。
「で、こればらまいていい?」
軽く持ったレコーダーを見せつけながら、左道さんが尋ねる。
まるで返答が分かってるかのように。
「あ、あんたら誰だ!それはばらまくんじゃねえ!」
「そ、そうだよ!それがあたしらだって決まったわけじゃないし」
「それな」
ギャルのたちがそう言った瞬間、左道さんの頬が不気味に歪んだ気がした。
もう何が起こるかは容易く想像出来た。
左道さんコワイ……。
「えぇ!?なんでぇ!?なんでばら撒いちゃダメなのぉ?もしこの音声が嘘だとしてもぉ、こ〜んなに似てる声なら信じちゃう人もいるかもねぇ。音声証拠とあなた達の言い訳……どっちが信用してもらえるかなぁ?」
水を得た魚だよぅ……。
明らかに煽ってる調子の言葉運びで、これでもかと証拠、情報の暴力を繰り出している。
「クソッ…………」
「こいつ調子乗って……」
「……音声……?…………あっ!」
左道さんの猛攻の中、一人のギャルが反撃を可能とする手口を見つけた。
「こーゆーの盗聴ってゆーじゃん!!犯罪じゃね?通報してやろうよ!」
ギャルのそんな一撃。
左道さんは、その“あまりにも軽い”一撃へ、
「そっかー、じゃああなた達がやってる“それ”はどうなの?恐喝、金銭強要。おー!立派な犯罪じゃないですかぁ!」
ギャルたちにとって“あまりにも重い”カウンターをお見舞した。
…………ご愁傷様。

「そ、そしたら一緒に捕まればいいじゃん、あたしたちだけなんて、ふこーへだし!」
バカなのかこの子は。
不公平ってなんだよ。
意味がわからない。
誰かこの子に常識を教えてあげて!


「なにやってるの?」
俺たちの後ろからなにやら聞いたことがあるような声がした。
「私今からお祈りを捧げたいの。だからここから去ってくれません?霊気に干渉してしまったらいけないので」
俺の横を通った時に見えた顔で理解した。

この喋り方でこの結構可愛い顔。

忘れるわけがない。
過去に一度だけ会ったことのある衝撃的すぎた属性の持ち主……。

「もしかしてラファさん?」
なんか全部言うの恥ずかしいから思わず略してしまった。
「あら、ドキドキ男じゃない。ていうかラファさんって言うのやめて料理したり日本刀買ったりしないから。」
ドキドキ男ってなんだよ!どんな覚え方!?
顔が見えた瞬間話しかけてしまったものだから距離がすごく近い。
これに関しては俺が全面的に悪いけどこのままだときっと……
「……勇人くん?この方は?黒髪ツインテとは二次元チックですね?」
やっぱりすんごい目してる!
もう顔に嫉妬って書いてあるもん!
なんか嬉しいなおい!
ちなみに二次元チックって多分この子喜んじゃうよ?
「え!?やはり二次元のように美しさだけを追求しているのね!」みたいに。
「二次元!?ということは聖書とかに出てくる存在と同じ……!?フッ、あなた分かってるわね。」
ベクトルが違ったぁー!
斜め上を行かれた気がする!
「んー、勇人くん?楽しそうなのはいいんだけど、先にこっちを片付けちゃおうよ」
「あ、そうだね」
「ちょっと!私のお祈りの時間なの!!」
ガシッと腕を鷲掴みにされ訴えるように俺の腕を振り回す。
仕方ない……これは使いたくなかったんだがな。
「ラファさん?そこに大きなお山が見えるでしょう?あれに祈っておけばラファさんもあそこまで成長しますよきっと」
俺は金霧先輩へ視線を向けながら言った。
我ながら相当棒読みだった気がするが……大丈夫かな。
「こ、これは……凄いですね…………私もここまで……」
両手を合わせ先輩の乳へお祈りを捧げ始めたラファさん。
ちょろいな天使!
先輩は先輩で胸張って格上アピールしなくていいですから!!
ほら!浅見くんもお祈りを捧げそうになってますよ!
「……あ、どうせならこの証拠を聴いてもらおうよ。」
「ラファさんに?」
「うんラファさんに。」
必死に乳へお祈りを捧げてるラファさんへ俺は恐る恐る声をかけた。
「ラファさん……?ちょっと聴いてもらいたいことがあるんです。」
「なに?お告げ?」
お告げて……。
「ま、まぁそんなものです」
「聞く」
ラファさんちょろすぎ問題。

「えーっと……ラファさん?ちょっとこれ聴いてくれるかな?」
そう言って左道さんはさっきも流した音声を再度再生した。

最後まで聞き終えたラファさんは顔を上げ、怒ったような表情で一言。


「これそこの人たちですよね!?お告げでもなんでもないじゃないですか!!」
「もう帰ります!!ぷんぷん!」と、怒ってしまったラファさんはぷんぷん!と言いながらこの場から離脱した。


「ん〜まぁ色々あったけどぉ……あの子は信じたよ?この証拠。」
「花咲、本当にやってないんだよね?」
再度確認。
ここだけははっきりさせておかないといけないのだ。
この証拠がある今、このギャルたちの前で。
「うん……やってない」
答えは予想通りのもの。
俺はギャル達へ視線を戻す。
「な、なんだよ……」
「左道さんどうする?俺的には花咲にもう何もしないって言うなら証拠は消して墓まで持ってくつもりだけど」
「なっ――」
俺の提案に目を見開くギャル。
「そうだね、私もそのつもり。この子にもう何もしないって誓うならね。」
どうする?と言わんばかり目配せを行うギャル。

そのうち一人が呟いた。
「証拠出したらどうなる?」
「んー、わかんないなぁ…………恐ろしすぎて考えたくもない」
ちょっとしたジョークのつもりなのだろう。
ぶるるっと身を震わせて左道さんは言った。
「……………………分かったよ、もう何もしない。今まで悪かった」
「「悪かった」」

「う、うん……」
こいつらが謝ったところで、実害が無くなったというだけで当分クラスからは今まで通りにハブられてぼっち生活を送ることになるだろう。

あ、ラファさんなんてどうだ?学年知らないけどいい友達に慣れそうじゃん。
「決まりだね。」
そう言って真結はボイスレコーダーを地面に落とすと思いっきり踏みつけた。
出ちゃいけない音がレコーダーの破損を告げていた。

「んじゃあそれだけだから。じゃあね。“また”がない事を祈ってるよー」
……左道さんかっけぇ。
俺もかっこつけたい。
円香の前でかっこつけたい……。

「ちょっと待って。なんでそこまでして花咲を?」

来たッ!!
願ってもないチャンス!
今回は何もせず最後の最後でラファさんを先輩の乳に誘導しただけだったからな!
ここはきちっとかっこよくして……、

「嫌な過去とはいえど一度好きになった人だからね。ほっとけなかったんだ」


かっくいいぃぃぃぃぃぃぃ!!
「勇人くん素敵です!もっと好きになりました!」



「は、はぁ…………」



「はーいバカップルー帰るよー」
「むぅ!バカップルって言わないでくださいよ!ばかっまゆ!」
「ばかっまゆってなによ!」
俺たちは笑いながら体育館裏をあとにする。
まさか左道さんがここまでの情報能力を持ってるとは盲点だった。
そういえば……。

「あのレコーダー壊しちゃってよかったの?」

もう証拠残ってないんじゃ万が一の時が怖くない?

と、続けようとしたが――

「あ、パソコンにバックアップ取ってあるから平気だよ」

と、聞く必要のない答えが飛んできた。
なるほど、あんなこと言ってたけどレコーダーだけで潰す気だったんじゃん。
こわ。





「――なに!?」

俺の背筋に突如走った悪寒。
キョロキョロと周りを見てみる。


「あ」


「さっきの女性はどこで知り合ってどんな関係でどんな間柄なんですか?」

円香ぁ……こわいよぉ……。
ヤンデレ的な怖さに加えて、既に関係って聞いてるのに、間柄も聞いちゃうところとかもこわいよぉ。



「ま、まぁ友達だよ友達!」
友達だよな……?あれは。
「へ〜、じゃあ私は?」

「ん?あー…………彼女?」
「妻」
「へ?」
「妻」
「……妻」
「よろしい」
うん!よろしくない!!
まだ早い!!
「二人とも早くー!帰ったら散々いちゃついていいから!」
「「はーい!」」










ぐへぇ。
暖房つけっぱなしで寝たら全身が砂漠化してました。
25℃風量強で付けてたので室温が30℃超えてました死んじゃう死んじゃう。

あ、ばぶばぶについては触れませんから。
強いて言うなら、心配されるのが一番キツいっす。
え?本当に頭大丈夫ばぶか?
作者さんって前からおかしいとは思ってたけどついにここまでおかしく……ばぶ。
と思われるのは構わないんですけどねばぶ。

コメント

  • Karavisu

    紅月、そういうことじゃないと思うよ!

    0
  • 紅月

    どっかの国は40度超えてるとこあるから大丈夫!

    3
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