非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の貧乳浴衣事件と俺の思いはしみじみと

六十三話






【新天円香】






「ふふっ♪さりげなくお祭りの約束をしてしまいました」
私は胸を弾ませながら家路を行きます。
物理的には弾んでませんけどね、弾むものがないんですけどね!!

「お祭りっお祭りっ♪」
私が嬉しさのあまりスキップを始めたときでした。
「おまつ――ん?」
勇人くんの家に行く時は全然気づきませんでしたけど、こんな所に着物屋さん?
あっ、
「――浴衣!!」
私はなんてことを忘れていたのでしょう。
夏祭りといえば浴衣ではありませんか!!
某夏祭る歌でも「浴衣姿がまぶしすぎて〜」なんていうフレーズありますしね。
「……よし、入ってみますか」
私は着物屋【めっちゃ雅】に入っていきました。







「ぜろがたくさん…………」
綺麗な青に白い紫陽花があしらわれた浴衣や鮮やかな緑に波のように白色があしらわれた浴衣など、種類が豊富で選びがいがあると思ったのも束の間。
ぜろが四つ以上あるのが普通の世界なんですね……。
「お決まりになりましたか?」
「い、いえ……こんな立派なものはまだ早いかなぁ……なんて」
綺麗なお店の方に声をかけられ、少し動揺してしまいます。
まず一つに、「ガキがこんなところ来やがって」と思われてしまうんじゃないかという心配。
そして、こんな上品で綺麗な方が【めっちゃ雅】なんて店名をつけたという驚き。
この二つが混ざりあって動揺しています。
「お客様お綺麗ですからきっとお似合いになりますよ」
お綺麗でお似合いになろうが金額的に厳しいんですよ。
でもこんな綺麗で雰囲気のいい方が高校生から擦り取ろうなんて思うわけないですよね。
「お客様、お着付け致しますのでそこの上がりにお上がり下さいお」
「下さいお?」
聞き間違いですかね……。
「あ、お申し訳ございません。今後お気をつけます。」
この人おかしい。
やっぱり【めっちゃ雅】なんて名前つける人はおかしかったです。
「新調しようと思ってたんですけど、また来年来ますね」
「お客様!お待ちくださいお!!」


来年このお店残ってますかね……。

「お客様おー!!」


ないですね。







「お母さーん」
「あらどうしたの?巨乳になりたいの?」
「どうしましょうキレそうです」
なんでそんな胸を強調した服を着てるんですか何歳ですかあなたは!
「ごめんごめん…………で、どうしたの?」
「…………浴衣って持ってますか?」
「うん、あるけど……あ!明日のお祭りのため!?」
「そうです」
あとお母さん。
はしゃいだり、上下の動きをするのやめてもらえますかね。乳が凄いんです乳が。
「そっか。お母さん全部もってるよ。下駄もサラシも……あっ、サラシは要らないか♪」
お母さんが揺るぎない娘いじめを行ってきます。
お母さんが使ってたとかいうサラシ口に突っ込みますよ、えぇ!!
「…………明日貸してください」
「いーよー」
もうお母さんは私へ貧乳イジリするって割り切りましょう。
そうすればきっと、
「あ、サラシは?」
「これからはおばさんと呼ぶことにします」
「あぁやめてぇ!母から他人へ格下げしないでぇ〜!」







【新転勇人】







「円香、浴衣でくるのかなあ……楽しみすぎるなぁ」
俺は数日ぶりにゲームへ興じながら片手間にお祭りのことを考える。
「お、レア……って!来たァッ!!」
俺は喜びのあまり携帯をベッドへ叩きつけてしまった。
「やっとだぁ……これでリベンジできるぞ」
俺が今手に入れたのはレア泥中のレア泥!簡単に言うと【おれがかんがえたさいきょうのよろい】みたいな感じでべらぼうに強い装備だ。
「と、とりあえず先輩へ報告を……」

勇『ついに出ましたよ!!』

先輩がオンラインかどうかを確認するのを忘れて個人チャットをとばしたけど、案の定オンラインだったようで、すぐに返事がとんできた。


銀杏『おぉやったじゃん。じゃあ早速新転誘ってリベンジといきますか?』
勇『もちろん!!』


パーティー招待も飛んできて俺たちはまたあのボスへリベンジへ行くことになった。








円『倒せましたーー(≧▽≦)』
勇『乙』
銀杏『乙』


画面に【レイドクリア!!】と表示され、エンドコンテンツをクリアしたことが告げられる。

前よりレベルが上がっているせいもあり、多少つまづきはしたが攻略することが出来た。
「この鎧様々だな……」

円『あれ?ふたりともあんまり嬉しくないんですか?』

【円】こと円香からあわあわと慌てるようなエモートと共にそんなチャットが飛んできた。
「そっか。エンドコンテンツクリアするの初めての人はそんなもんか……」

勇『もちろん嬉しいけど、何より、ボス倒したらクリアってわけじゃないクエストとかもあって』
銀杏『そうそう。ボスだと思ってたやつを倒した後に開幕即死打ってくる真ボスが出てきたレイドもあったから』
円『ひえぇ〜』

ただでさえ強いボスの後に開幕即死のボスなんてトラウマ以外の何物でもないからね。
「はぁ〜…………円香かわい」
画面内で踊りのエモートを行っている円香を見ながら呟いた。
実際円香が画面の前でこんな感じになってると思うとなんかもうすげぇ尊い。
「にーぃ!お腹減ったあ」
「おっけー」
今「にーぃ!」って言ってたけどもしかして今なにかしてる?
……まぁなにしててもいいんだけどさぁ。
気をつけた方がいいと思うぞ妹よ。
「あ、兄貴ー!お腹減ったあ」
あ、気づいて言い直した。

勇『おちまーす。おつかれ〜』
円『またやりましょ!』
銀杏『おつありー』


ゲームを落とし、携帯を充電器に繋いでベッドの上に置いておく。
「今行くー」

さて、俺のかわいいかわいい妹にさっき「にぃ」って呼んだことをさりげなく聞いてみますかね。

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